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花盗人  作者: 楠ゆう
3章 小心物

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4。裕福獣1-7

 そして海斗は右手に何かを隠しながら僕の方へ戻ってきた。


 「香、見てろよ」

 「え、なに?」


 海斗は顔色変えず、父親の方へ向かい話しかける。


 僕は驚愕していた。背中に回して隠していた右手には”包丁”があったから。最悪な情景が目に浮かんでしまった、いや家族だ。家族にそんなことするはずがない。だが剰え状況が物語っている。偶然と考えついた考えが少しずつ必然に変わりつつある。


 そして空想は現実になる。


 「父ちゃん」

 「あぁ?」

 「おやすみ」


 音もなく喉に包丁が刺さった。


 息ができないのだろう、コポコポと気泡の漏れる声だけが聞こえ精一杯藻搔いてる。さながら羽を潰されたトンボのようにも見えてしまう、筋肉がグラグラと凝りを求め沸騰している。


 わからなかった。目の前の現状が。

 わからなかった。どうして人が死ぬのか。

 わからなかった。殺意と愛情の違いと相違が。


 ただ一つ分かることがあった。海斗は殺意で殺したんじゃないってことだ。その立ち姿は哀しみの塊のようで。


 「香、風呂がどうとか嘘ついてごめん。ほんとはさ、こうしたかったんだ、父ちゃん可哀想だったから。母ちゃんを殺した時、俺思ったんだ。楽しいって思っちゃってさ、それで。すげー笑ってたら父ちゃんにブチギレられて追い出された」


 どうして僕が殺意で殺していないかわかったのか。

 答えはたった一つ。

 笑ってたんだ。僕の方を見て海斗はとてつもなく笑ってた。昨日見た能面のような笑顔とそのまんま。気色の悪いほどの笑顔。怖くてたまらなくて。逃げたくてたまらなくて。


 「だから、殺したの?」


 「怒りとかそんなんじゃないよ、母ちゃんは多分、一人で寂しいだろうし、父ちゃんも一人で寂しそうだから、んーん。違げーな、嘘ついてるな 

  俺。。。。

      香……

俺は殺したかったから、ただ。殺したかったから。殺した。今も。すごく殺したい、どうせなら。お前も殺したい、だけどそんなことしないよ。香はすげー今が楽しそうだから」


 僕は考えることなく、身体が動いていた。

 __こいつは、生かしていたらもっと人を殺す。


 僕が、殺しておかないと。


 そっと、ゆっくりと、海斗の方へと歩み寄る、なーんにも考えない様に不快の一手も表さない様に。


 海斗は近寄る僕を警戒することなく、安心したように振る舞っている、当然だろう、彼にとって僕は親友だから。


 捨てられた動物へそっと手を差し伸べるみたく、美しく綺麗なデザートを食べるためにフォークへ手を伸ばす仕草を想い描きながら。


 僕は、海斗の顔面を思いっきり拳でぶん殴る。


 海斗は何事かと蹲り、僕はそれを思い切り蹴り倒す、馬乗りになり顔を力いっぱいぶん殴る。手の皮膚がギチッと変な音を立てながら裂けていくのを少し感じるが不思議と痛くはない、血は出ているのだろう。だけどそれは僕の血なのか海斗の血なのか分からない。


 殴る合間、海斗の怯んだ声が聞こえた気がする。鼓膜が破れてしまってもいい、叫んでくれ、突き飛ばしてくれ。蔑んでくれ。殴ってくれ。


 「僕を人殺しにしないでくれ」

 「うっうぅ……。やっ…」


 息を忘れ、頭に酸素が行き渡っていなくクラクラとしていた。必死に必死に全体重を乗っけて彼をぶん殴った。



 「僕のせいじゃないよ、君が。人をもう殺さないように。殺せないように。君はもう、、僕の中では良い人であって欲しいから、僕は。僕は。僕は。」 

 僕は、僕は、僕は、僕は僕は僕は。


 「人殺し?」


 きっと、捕まる。彼も。僕も。このままだったら。だから、そうなる前に。


 目の前の情景は血生臭い世界だけが色濃く根強く蔓延っている。冷静になってしまった。脳に酸素が行き届視界がクリアになっていく。


 そして、やっと理解した。


 「僕はもう、戻れないんだ」

 殴る手をやめて馬乗りになっていた体を起こし、無様に倒れたこいつの顔を見る。後悔はない、罪悪感もない。ただひたすらに幸福にやってやったと自分を誉める言葉が溢れ続ける。


 涙は出なかった、枯れたのだろうか。もう人じゃなくなってしまったのだろうか。大人になったからなのだろうか。


 台所へ向かい、包丁を探す、あぁそうか、海斗の父さんに刺さってんだ。ソファに倒れて首に刺さっている包丁を抜き取る。血は微かに流れる。


 再び倒れた海斗の前へ馬乗りになり今度は心臓のあるであろう箇所に包丁を思いっきり刺す、肋骨が邪魔で少し力が必要だったがそれも一瞬のことだった。もう心臓は止まってた。だから血はそれ以上出てこなかった。暖かい血液が傷から微かに滲んで、手にべっとりとくっつく。あったかい。少しとろみがあって悪寒がゾワっと迫り上がる。


 七回刺した、その度に、僕のせいじゃないと叫んでた。


 窓から太陽の光が、ポカポカとした青陽のような陽光に当てられ、僕は何をしてしまったのか。しでかしてしまったのか。ようやっと脳に帰着してきた。


 このままこの家を出たら、この真っ赤な姿を見れられでもしたら。


 「夜になるまで待とっかな」


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