4。裕福獣1-4
「美味いね」
「美味いだろ」
サクサクに焼けた飛蝗を一口で頬張る。外はカリっとしていて中はクリーミーで、昆虫なんて上手くないと思っていたが大きな間違いだった、キモいのは見た目だけ、慣れれば可愛げすらも覚えてくる。第一に「食い物」という印象がなかったから嫌なだけであって美味いと分かればさぞ美味そうに見えてくる。鬼畜だな、人間って。多分食べ物だと思えなければ、エビやカニ、貝類だってキモく思えるかも知れない。
そんなことを考え焚き木を眺めていると
「なんで誰も食わないんだろうな、美味いもんがゴロゴロしてんのに、身勝手だよなぁ、牛や豚は簡単に殺して食ってんのに、こういう時になると不快感ばっかを覚えて」
「面目ないです」
「お前のこと言ってねーよ」
僕も少し前までは虫なんて食えたもんじゃないと思ってたから心にグッとダメージを受けてしまう。
「海斗は将来何したいとかあるの?」
「あー、嫌いそういう会話、けど。んー、、何になりたいんだろうな、俺ってとんでもなく出来損ないだからさ、なりてーもんにもなれねーし、夢とかずっと前に諦めたや」
「その夢って?」
「それ聞くか?」
「気になる」
海斗は普段からいじっぱりで、強がりで。僕とは違う、だから気になる、どんな夢があったのか、どんなのになりたいのか。気になる。
「俺は、警察になりたかった」
「え、マジ?、海斗が?」
「そう」
「まじか、それはまたどうして?」
「じいちゃんと父ちゃんがさ警察やっててさ、馬鹿みたいにかっこよくってさ。なりてーって思ってたんだ。だけどさ、忙しそうで家に帰ってこねーし、ほったらかして仕事ばっかで記念日も忘れる始末でさ、それでもさ、夢だからなりてーじゃん。でも頭悪くて、容量が本当になくてさ、段々嫌になってきて。父ちゃんが帰ってきたら喧嘩して、母ちゃんは仲裁に入ってくれるけど、口出しすんなって色々逆ギレしてさ、どうにでもなっちまえって、、何にも悪くない母ちゃんをハサミで思いきっし刺しちまって。それで」
刺した?刺したって言ったのか?殺したのか。親を?ありえるのかそんなこと。
「そっか」
「死んじまったよ、母ちゃん。俺のせいで、俺のせいで」
僕は驚愕した。俯いて話を聞いていたから最初は泣きそうにでもなっているのかと思って顔を上げると、海斗は笑ってた。歯茎を剥き出しにして、眉毛を八の字の形にして、その顔の口角を上げて、まるで能面の様だった。不気味で、辺りの暗さからより一層不気味さがヒートアップして行ってる風にも思てしまう。
「辛い?」
「辛いっていうか、わかんねー、いなくなっても悲しいなって思えなくってスッキリしたってか、気が楽なったんだよな、そりゃ刺しちまった時はやべーっと思ったけどさ、俺はまだ未成年で、前科としては立件されなくて。でも父ちゃんは有無を言わさずに俺を追い出した。悪いのは俺なんだけどさ。わかってる。それは、でも安心してくれや、死んで欲しかったわけじゃなくて。もう、あんなん懲り懲りだよ」
取った獲物を食いながらそんなことを言う、よく食えるな、食欲どっか行っちゃったよ。頭を掻く、そういや風呂も長らく入ってないな。頭皮ヤバいんだろうな。
ちょっと水でも取りに行って脳みそフラットにしよ。
「僕ちょっと水汲んでくる、海斗は?水いる?」
「あー俺はいいや、行ってきな」
「わかった」
水を撮りにいくために立ち上がりその場を離れる。家族を、人を殺すか。どんな感じなんだろう、決して考えてはいけないのだろう。だけど好奇心が抱きついてくる、少々クラクラする、季節の変わり目だしな、仕方ないか。
砂利だらけの川辺を歩いて水を一度手で掬う。
「冷てぇ」
持ってきたペットボトルに水を入れて、焚き火の炎でオレンジかかった水面をじっと何も考えずに観察してる。うっすらと僕の姿が投影されて霞のような揺らぎで蜃気楼を食い入るように見ている。
足元に無数に散らばった小石を拾って川へと投げる、ポチャンっと可愛らしい音と共に水面に凪る。
戻ろう。




