4。裕福獣1-2
久梨原香、逃避行、
二〇二〇年、八月二十一日
「お前のせいだ、僕のせいじゃない、お前が悪いんだ、お前が、お前が。…お前が」
手が痛い、手の甲から血が溢れ出て、鉄の匂いが充満してる。痛い、痛い、痛い。怖い、辛い。汚い。死ね死ね。死ね。
ただ殴り続けた。この顔面を、死ぬまで、死んでも中身が飛び出てくるまで、途中で骨らしきものが突き刺さって更に血が出てきた。
「なんで、僕なんだ!何で、何でだよ」
バクバクと脈打つ心臓が「生き」を伝えてくる。ふざけんな、ふざけんな。
今日、初めて人を殺した。
__僕は久梨原香は、、、、
「僕はもう」
殴る手をやめて馬乗りになっていた体を起こ、無様に倒れたこいつの顔を見る。後悔はない、罪悪感もない。ただひたすらに幸福にやってやったと自分を誉める言葉が溢れ続ける。
江野海斗、殺した奴の名前だ。
涙は出なかった、枯れたのだろうか。もう人じゃなくなってしまったのだろうか。大人になったからなのだろうか。
台所へ向かい、包丁を探す、あぁそうか、海斗の父さんに刺さってんだ。ソファに倒れて首に刺さっている包丁を抜き取る。血は微かに流れる。
再び倒れた海斗の前へ馬乗りになり今度は心臓のあるであろう箇所に包丁を思いっきり刺す、肋骨が邪魔で少し力が必要だったがそれも一瞬のことだった。もう心臓は止まってた。だから血はそれ以上出てこなかった。暖かい血液が傷から微かに滲んで、手にべっとりとくっつく。あったかい。少しとろみがあって悪寒がゾワっと迫り上がる。
七回刺した、その度に、僕のせいじゃないと叫んでた。
遡ること一日前。
「これ食べれそうかな」
「いいんじゃない?もうそろ」
僕らは飛蝗や蟋蟀、ゲジゲジなどの虫を取っては焼いて食べての生活をしる、最初こそ抵抗があったものの空腹には勝てず恐る恐る食べてみた、そしたらとんでもなく美味しかったんだ、出来立てで殺してすぐに焼いて食ったからか鮮度も良くて、とんでない絶品で開いた口が塞がらなかった。
それを知れたのは海斗のおかげだ。
暗い森林の中、川のそばで焚き火をして時間を潰してる。
「ありがとう」
「何急に、怖いわ」
「なんでもない」




