3、模型の本 1-6
家にお邪魔するんかい。怖いよ。
「あの、」
「大丈夫、何もせん、とったり食ったりなんて思わんから居間までおいで」
言われるがまま、僕は靴を脱いで手に持ちながら居間まで案内される、畳の上に炬燵と座布団が置かれており何となく僕は座布団の上へ正座をして座る。靴はリュックの中にひっそりと隠した。
「今、菓子出すから待っとってな」
台所の方から籠った声が聞こえてきた、ガサガサと物音に負けないように僕は答える。
「えっと、お構いなく」
「良いの良いの。生い先短い婆さんの願いやでな、聞いておくれ。」
そう言い終えると菓子鉢とお茶の乗った盆を手に持ったおばあちゃんがニコニコしながら居間に来た、そして僕とは向かいの座布団に座り僕の汚れた形りを確認しまじまじと見ているようだ。
「あんたなかなかに汚れとるが大丈夫かいな?どうやってここまで来よった見当たる乗りもんは無いやし」
「大丈夫です、汚れてるのは慣れてますから。足で歩いてきましたよかなり草臥れましたけど」
「人。」
”人”と一言だけをおばあちゃん口にした。何のことかピンとこず、鸚鵡返しのように「人?」と首を傾げながらに聞いてしまった。
「誰もいなかったでしょ」
「いなかったです、誰もいないんですか?まさか一人で住んでいるんですか?」
「良いや?しっかりいるよ、あんたがくる前まで。家の隙間、木々の合間、車の中でなしっかりあんたのことを見られちょるぞ」
あぁ違和感の正体はそれだったのか。僕が来てからずっと見られていたのか。え?見られていたのかずっと、監視されての?マジか。
「何で、隠れて見てるんです?」
「この村はねぇ、異聞の子を極端に嫌がってる人がいっぱいいるのさ、だからね深く観察して、自分たちに危険があれば追い出すってことをしてるのさ、そのおかげで今は本のわずかしか人がおりやせんけどね」
「そうなんですね、えっと。なんてお呼びしたらいいんですかね、」
「私は多江でいいよ」
「多江、多江さんは、僕のこと怖いとか思わないんですか。よその人間なのにこんな普通に接してもらって。追い返してしまってもいいですよ?」
「怖いも何も子供じゃないかいな、大人は子を助けるのが伝手なのね、それにボロボロでないか。訳ありなのでしょう追い返したりなんてしないさね」
そう言うと多江さんはキョロキョロと辺りを見渡し耳が強張るほどの怒鳴り声を上げた。
何か気に触るような事は仕出かしたのか、いや何もしていない筈。物にだって触ってないしタメ口だって使ってない、無意識のうちにやらかしたか。謝るべきか。いいや、何をしたかわからないのに謝ることが一番の無礼だ。
「こら!いつまで見ているの!そんなに怖がって子供じゃないのでしょうが!!いい歳して少しぐらい仲良くしぃ!」
僕にじゃない怒鳴りの矛先は僕に向けられたものじゃなかった。そして理解しほっとして僕は姿勢を正して元に戻る。
「僕まだ、見られてたんですね」
「ほんと、臆病なポンコツしかいないのさ、ごめんよ、急に大きな声を出してしもうて」
「いえ、家にあげてもらっているんです、何も言えないですよ。みんなが怖がるもの当然だと思いますし、他所者を嫌がるのは本能ですから」
「良い子やね」
お香の匂いがする。線香かな。心地のいい匂いが鼻に入ってくる。畳の感触を手のひらで触る。カサカサしてる随分使い古されて踏まれ家を支えてきたのだなとわかる。
「少し、待っとってや」
多江さんは立ち上がって台所の方へ行ってしまった。
待つ。待つ。何しよう、何もすることがない。何か手伝えることはあるだろうか。いや、やめておこう。少なからず多江さんも僕のことを警戒しているだろう、余所者だ僕は。まだ誰かが覗いて監視しているかもしれないと思うと鳥肌がじわっと溢れてチクチクとした視線が未だ続いているとプラシーボのように感じてしまう。




