3、模型の本 1-2
久梨原香、現在。図書館
「暇ですね」
「暇だね」
今日も井上さんと過ごしていた。まさか休日までも一緒にいることになるなんて。気になる本がこの図書館あるという情報を手に入れたのでそれを探しに来た。がしかし一向に見つからない、見落とさぬ様指で一個一個タイトルをなぞり確かめてるが時間を浪費してしまうだけ。どうしたものか。
「てか、なんの本探してるんでしたっけ、一向に見つかんないし、手分けでもした方がいい気がする」
「それもそうですね、「煙草」って本なんですけど」
「煙草?香くんってそう言うのに興味あったんだ」
僕はタイトルを指でなぞるのを止めず顔色変えずにただ否定する。
「そう言うわけじゃないです、僕の好きな作家さんが書いたやつで買うにも見つからなくって探してたんですけど。調べたらここに置いてあるみたいで、井上さんは?」
「何?」
主語がなかったからか、わかっていない様子で首を傾げて僕の横顔をずっと見てる。
「煙草とか、お酒とか、二十歳になったら飲んだり吸ったりするのかなって」
「あーどうだろ、あんまり良い印象ないからなぁ、お酒はまだしも煙草って匂いが着きそうで私は吸わないかな、遠慮って感じ、あ!でもあれは好き、ドラマとかでイケメンが煙草吸ってるのまじメロいって感じであれはマジ好き。尊い。もういっそ煙草になりたいまである」
「何言ってんすか」と僕ははにかんで手を止めて井上さんの方へ顔を向けて言う。
「それじゃあお願いします、「煙草」です。間違えたのは持ってこないでくださいね」
冗談まじりにそんなことを言う、井上さんは「はいはい」と探し始める。何気にずっといる気がするな、最近、大学でも。履修こそ違うがそれ以外はラインでやり取りをして待ち合わせをして空き時間は過ごしている。僕としてはかなりありがたい。一人が嫌いなわけじゃないけど、話し相手がいた方が、気が紛れるから。
井上さんは必死に探している、「これじゃない」「これも違う」「んー、違う」そんなに一生懸命にならなくても良いのに、本当、良い人なんだな。僕はそんな彼女を可愛いなと思った。ただひたすらに僕はそれを眺めていたら、それに気がついた井上さんが僕に指を指して声のトーンを上げながら茶化す様に言った。
「あ!サボってる!!」
「人に指を向けない、あと、図書館では静かに」
「え。理不尽だぁ、私探してあげてたのにぃ」
不満げに「んえぇ」と漏らし僕はそれを鼻で笑って僕も探す作業に戻る。すると井上さんが僕の肩をトントンっと叩いた。「なんですか?』と振り向いたらとてつもなくニコニコしている、何か企んでる顔だ。
「ねぇねぇ、コウく〜ん?ありがとうは?」
僕は何対してありがとうを言えば良いのかわからず、もう一度、「なんですか?」と聞いてみる。
すると、「じゃーん」っと背中に隠していた一冊の本を僕にデカデカと見せた、僕は思わず大きな声で「おぉ!!」と歓喜の声を上げてしまった。
「館内ではお静かに」
井上さんは僕の口元に一本指を立てて、シーっと先のやり返しをしてきた。僕はとりあえずその指を力強く噛んだ。
「痛った!!噛んだぁ!生意気な後輩だな!許さんぞ」
「んへへ」
おふざけいっぱいに井上さんの人差し指、第一関節の犬が遊ぶ時甘噛みするように、かと言って甘噛みでもないけれど、跡がつかない程度に力を入れて噛む。
「私ペット飼ってないんですけどー!凶暴すぎるがて」
「いやいや、ペットじゃないですよ。ありがとうだなーって、あとお腹空いてたんで」
「確実に遊んでるじゃん私でーせっかく探してきたのに」
「お手柄です。ほんと感謝してます」
納得行っていないような「うぇ」に息を混ぜた声に可笑しくなって僕は笑って、井上さんも釣られて二人談笑しあっていると、奥の方から館長らしいおばあちゃんが「うるさいよあんたら!」。どかどかとコチラに歩いてきて怒号が飛んできた。
肩がビクッと震えて咄嗟に出した僕らの声はハモった。
「すいません!」
僕らはホールのテーブルの方へ逃げるように親に叱られた子供みたく歩いていくと井上さんがニコニコと僕に耳打ちする。
「一番うるさいのはあのおばちゃん説」
「まぁうるさくしちゃったのは僕らだし、しょうがないですよ」
椅子を手で側まで持ってきて座る。井上さんがら本を受け取り大事に表紙を撫でる、撫でる、撫でて摩って凹凸を感じる、懐かしい感覚がビリビリと鳥肌止まり身体を震わせる。あの本、また読みたいな。メメントモリ、あれから一度も見ていないな。無意識に本を撫で続ける。我が子さながらに撫で続ける。心地がいい。楽しい。嬉しい。感激をも覚えてしまう。
本を撫でているのをじっと眺めて井上さんが突拍子もない事を言う。
「なんか、昔の親友ちゃんみたい」




