2、小人ノ指揮者 1-3
「元気だった?香」
「元気だったよ。雪は?」
「私もほれ、元気百倍!」
「そっか、うん。よかった」
言いたいことが山ほどある、どれから話そうと躍起になればなるほど言葉に詰まりが発生する、タジタジと口が詰まる。
「また。会えたね」
待っていてくれたんだ。雪も。僕を。
胸に手を置いて一呼吸をそっと吐き出し、気持ちを一線に整えてから雪の顔を見て答える。
「会えたね、久しぶり。あの時、否定して。。。でも結局逃げちゃった。一人で、自分勝手だよね、我儘だよね」
「いいじゃん、我儘で。」
「ぁえ?」とボロクソに言われるだろうと気を張っていたのに、まさかの肯定されて滅入ってしまった。腑に落ちない。どうしてだろう。
「あの言葉だって私の我儘だし。全然いいと思うよ、少しぐらい我儘の方が可愛げあるし、てかもっとあんたは我儘でいいの。
感情出せって、だから馬鹿だって言ってんの。大体気にし過ぎで私がどうとか、香のお母さんがどうとか、そんなんどうでもいいじゃん。あんたの人生なんだからさ、気にしてたら人生あがったりだよ香くんや。
あんたのせいじゃない、私が死んだのは。気に病まないで。そんなん、呪いみたいじゃん、ずっと心に私がいるってのはちょっと嬉しいけどさ、それで香が苦しみ続けるのは違う、だからさ。
生きて。香」
笑った顔、こんなにも、、、こんなにも美しくて、可愛くて。綺麗。語彙が欲しい。これ以上の言葉を、「愛してる」そう言いたい。言いたいのに言いたくない。言ってしまったらそれで終わってしまう。
彼女の顔はずっと笑顔を変わらない。絶えずずっと笑ってる。僕を不安にさせないようにと気を配ってるんだ。
「雪、」
「なーに」
「すぐにいくよ」
「くんな。馬鹿野郎」
暫し眼を見つめ合い僕らは二人で笑った。歯茎を剥き出しにして全力で腹から声を出した、いつの間には涙は止まってて騒めいていた心は嘘の様に静かになった。それに凍えるほどに冷たかった空気が暖かい。
「行ってらっしゃい」
「まだ、まだ。話していたい。待って」
雪は霧に紛れて一部になったみたいに、ふとどこかへ消えていった。呆気なさすぎる。彼女のいた場所はもう何の居場所でもない。ただ一つの空間だ。無機質で。何でもない。
「置いてかないで、まだ!まだ話したいこと沢山あるんだよ!、待って!!」
動き出そうと足を出そうとするが面白いぐらいに動かない、磁石に引っ張られてくっ付いている感じ。必死に力を込めてもびくともしない、自分の体なのに言うことを聞かない、噛み締めて力を込めてもどれだけしても動かない。
「雪、!!!!」
下に落下した。そうか。終わりなんだ。
___あ。
目を覚ますと僕は地面にベタッと横たわっていた。瞼が妙に重たいと感じてしまう、居心地の問題だろうか。
太陽の日差しで目を覚ますことができた。痛くない。そっと腹を摩る、喰われたであろう部位が残っているか一応の確認。
体をL字に起こす。夢だった。寝てたんだいつの間に、こんな森の中で地べたで眠っていたなんて。頬を掻く、するの少々ザラザラするのがすぐにでもわかった、涙の後だ。まぁ当然泣くよな。
「久しぶり。雪」
いないはずの彼女のに会えた。なんと言うのだろう、不思議な感覚で首を傾げて考える、正体。この感覚と気持ち、なんだろう。有り余ったスカスカな脳でどうにかして種に水をやる、けれども一向に芽が出ない。思いが発芽しない、あれは彼女じゃない、僕の作った幻想に過ぎないのだ、本物とは遠い存在だと理解してる。
「醒めなちゃ良かったんにな」
公園のベンチではなく地面で爆睡し呆けてしまっていた。しかも夢なんてものを呑気にも観て寝ていたんだ。
きっと昨日の僕なりに何かしら考えがあってこそ地面で寝そべっていたんだろう。もしベンチで寝ているのが人が通ったら何か言われそうとか思ったんだろうな。ここで寝てても言われるし思われるだろうけど。
どこか良い光と空気で体が軽くて心地がいい。欠伸と共に立ち上がるとふと足や背中を見て気がつく、とんでもないほど土まみれだ、「まじか、きったね」と雑に笑みと福正が漏れてく。
見た夢を思い出す。良い夢?嫌な夢?どんな夢だっけ。
正直あまり覚えていないけど、痛かったり。苦しかったり。寂しかったり。嬉しかったり。喜怒哀楽が支離滅裂に行き来していたのはどうにも身に染みている。
昨日を辿りながらに進む、ここはどこなのか。僕はどこまで行ってしまったのか。舗装された公園の道を踏む、踏めば押し戻されるこの感覚、……夢じゃない。やっぱり。




