1、願いの園、群風と銀華。1-5
パリンッと甲高い激しい皿の割れる音がリビング全体に響いてから僕は、人生で最もでかい声で言い放った。割れる音で背を向けていた母がどうしたと言わんばかりに音の方へと心配そうな顔でドッと振り向いた。その顔が尚更に僕の怒りを逆撫でして、もう。
___爆発した。
「今更わかった気になってんじゃねーよ、今まで助けてくれなかったのはお前じゃんか!、何度も何度も助けてって嘆いても、忙しいから無理だ、勘弁してくれって、私も忙しいんだから我慢しろって?ふざけんじゃねーよ、こっちだって同じ気持ちなんだよ、助け合えたじゃん!
それなのにアンタは僕に我慢しろってさ!!僕ばかりに我慢ばっかさせてなんなんだよ!、一緒に居たくないならそう言ってくれれば良いじゃん!!!。それで今やっと僕の気持ちに気がついたから助けようって?バカ言ってんじゃねーよ!、父さんが死んだ時、母さんすげー辛そうだった、僕だっておんなじで悲しいから、何か助けにならないかなってアンタのこと沢山知ろうとしたんだよ!。
アンタは目の前しか目先のもしか、それだけだけ見てなんかないでさ。僕のことなんか一切視界に入って居なくってさ、それで何?
今度は助け合おう?もう遅いの!手遅れなの!、俺はもう大嫌いなんだよ!!!何が家族だ!家族は父さんだけだ!、今更……、もう、遅いんだよ。今更、どうしろってんだよ、雪が死んで、父さんが死んで、夢も希望も全部失って。… いつ言えばよかったの?いつ言ったら、否定せずに僕を受け止めてくれたの?
自分勝手だよ、そんなの……」
自分勝手。僕も同じだ。みんな。それが人間だ。本性だ、本来あるべき姿そのものでしかない、エゴだ。救いようのないエゴでしかない。認めたくない、僕の言葉だと。言ってしまった全てをなかったことにして、ごめんなさいして。仲良くご飯食べれればよかったじゃん。帰り道にあるファミレスの窓から見えた、家族団欒で笑顔でご飯を食べる様子、求めてたはずだった。今日の出来事、明日の予定。それを話せりゃそれでよかった。
なんて、なんて自分勝手なんだ。
床に落ちた残飯となった夕ご飯だけを写し見てた、手から力が抜けていく、扁桃腺がヒリヒリと腫れ始めている。
寂しかった、抱きしめて欲しかった。欲しかった、欲しかった。欲しかった………。カサカサした手で頭を撫でて。拭い切れない、消してしまいたい、スイッチ一つで画面を真っ黒に消して欲しい。
「自分勝手だ」
僕はそのまま家を出て行く。それが最善だと思ったから。一体、母さんはあの時どんな顔をしていたのだろう。何にもわかんなかった。涙ダラダラで鼻水も啜り出て、過呼吸で全力で全部吐き出した、もう何もわかんない。
バタンッと地に響くほどの音で思いっきり玄関の扉を閉め外へ走り出す。
当てなんてない。求めてやしない、どっかできっと野垂れ死ぬのが目的なんだ。怖いけど。家には居たくない、辛いから、咄嗟に出てきたもので、荷物とか、服とか。数少ないお金とか。何にも持ち出して来ておらず、言って仕舞えば無一文、ただただひたすらいつも通りの街を走った。
夜のこの街を身体で感じるのは、あの花火大会以来、何にも嬉しくない、何にも楽しくない。暗い太陽の沈んだ街並みはそれでもどこか活気が溢れていて、明かりは絶えず光り輝いている。
絶えず頭の中で響いて鳴り止まない。今まで与えられた僕への言葉、そして言葉の数々の中で最も鮮明で最も最悪が焼き付いて離れない。
「まだ。帰りたくない。一緒がいい、ずっと、家に。帰りたくない。香、逃げたい
「帰りたくない。
「家に、帰りたくない。
「香、逃げたい」」」」
・・・・逃げよう?………。
雪のあの言葉が降り注ぐ。
あの時ただ無心で逃げていたら、僕ら二人で知らないところ逃げていたら、結果は変わったじゃないか?、未来なんかかなぐり捨てて雪と二人で逃げたかった。あの時、僕も逃げてしまいたかった。でも、雪には家族がいるって待ってくれてる家族がいるんだって、僕はそそくさと逃げてもいいと思った。雪には微かな幸せがまだあると思って居たから。
だけど全く違うじゃんか、幸せなんて何一つなかった。僕と同じだったのに、最終手段として僕に「逃げる」を提示してきたのにも関わらず、僕は明らかにそれを無視した。
「っざけんな!」
もう自分への怒りなんだか、言ってくれなかった怒りなのか、この現状に対しての怒りなのか、どれに対しての憤りなんだか全くわからなくなってしまった。不細工な顔をして泣きグシャリながら、横腹を抑えつつ走る。
「もう学校も、家も、世界も。
全部いらない!!!!、全部いらない!!!!」
走って、走って、走って走った。
もはや帰り道なんてわからないほど走った。気持ちの悪いあの状況から逃げ出すよう。僕だけ爪弾きにされたこの世界から、端に追いやられて追い詰められるんだ。
あの本。メメントモリみたいだ。
「私の世界だけを探すために、誰もいない私だけの人生を歩むために」
たった一人の、たった一人のための。確実を作るために。あの子もこうだったんだ、臨場感、感覚。色覚、五感全ての感触を得て、あやふやだった脳でも大概理解した。まるで主人公だ。
でも。あれは本だ。これは。紛れもない現実で、映画とかドラマとか、漫画とか。アニメとか。絵本とか。童話とか。
「そんなんじゃないから、」
僕は主人公じゃない、特別でもなんでもない、ただの。一人の人間、誰かいないと何もできない。
幸せなんてきっとこの先ない、もう家にも帰れない。後先がないんだよ。
立ち止まって空をスッと見上げて思う。
「どうすんだよ、最高じゃんか。」




