1、願いの園、群風と銀華。1-4
久梨原香、自宅。夜、数日後。
今日も自宅で部屋の椅子にもたれかかって月を見ている、ザラメに散りばめられ光灯った星に心底綺麗だなと感じる、けれどそれ以上でもそれ以下でもない、「綺麗」とは言ったものの一眼にでも収めておきたいとは思えない。
果たして彼女はあの星たちの一部にでもなったのだろうか、するなら。どんな形でどんな光で何処にあるんだ、見つけられるなら手で触れられるなら、手に入れられるなら。それなら心音は少しぐらいは安らいでくれるであろうな。
散々読んだ本も気がついたら読まなくなって僕はもうすることが面目すらもなかった、学校から貰った教材を課題を確認する持ち用もなく、ただ
椅子に座るだけ。
何にもすることがない、いや。あるけど、やりたくないんだ。することを終わらせて仕舞えば、考えることがなくなってしまうのがとてつもない恐怖で仕方ないんだ。
僕が「僕」である意味があの時に消えてしまったような気がした、愚か者だったんだ。縋るものもない、理解もされない。生きていたとて意味が見出せない、もう無理だ。あぁ、。
それでも明日も学校だ、普通の日々には然程も僕への同情が見受けられない。はっきり言ってゴミ以下だ。
奥歯を食い凌いで、怒り喪失感傷、悲しさ、虚しさ、涙がずっと僕を見張り続けている。
今日も普通がただ普通に通過して行った。誰も僕の心なんてものを知らないで、普通に生活してる。笑って金を使って、人をいじめて。命を落としてる。
なんの変わりもなく滞ることもなくひたすらに季節が明けていく。
「香、降りてらっしゃい」
母の声が聞こえた。リビングから僕を呼んでいる、行こうか行かないか悩んでいる。応答するのがだる重い。いつも通りの母の声に、僕はリビングへと向かった。
そこには台所で料理の準備をしている母がいた。懐かしい料理の匂い、甘い匂い父の大好物だった鯖の味噌漬けの甘い香りが僕のお腹を空腹を奮い立たせる。
「おいで」
暖かい空気感に吸い寄せられるように、僕は母のそばまで歩み寄る。
「暖かいうちに食べて、久しぶりで手が鈍ってるかもだけど、美味しいから食べな」
母の笑顔、これもまた久しぶりに見た気がする、僕は一口、湯気の上がる鯖を口に入れる、するとどうだ、美味しい?。どうだろう、懐かしい味?それもどうだろうか。味がしなかったのだ、パサついた発泡スチロールを噛んでるような皮はまるでゴムのようだ。嬉しかったはずなのに、何にも感じない。喜べないんだ。
鼻息が荒く鋭い、奥歯で噛み締めていたものが一気に決壊し全てが流れ出る、涙は溢れて怒りも何もかも全部が溢れて洪水になっていく。走馬灯に落ちてしまったみたいだ、連なった日々の数々がテレビのエンドロールに見えなくもない描写で描かれる。
僕にとってのここ最近での後悔は二つある、雪を看取れなかった後悔と、この今だ。この選択が、僕にとっての最悪で、母の顔を。もう二度と見れなくなってしまったんだ。
そして僕は久しぶりに声を出した、思い切り出した。心底漏れた。
テーブルの上に丁寧に置かれ皿の上に完美に敷かれた鯖の味噌漬けを僕は床へ放り投げた、なんでこんなことをしたのか、どうしてあんなことを考えてしまったのか。全てがもう、どうでも良くなって投げ捨てようと思ったんだ。こんな世界もこの日常も、変わらない世界を。恨んでどうしようもなかったのだ。
パリンッと甲高い激しい皿の割れる音がリビング全体に響いてから僕は、人生で最もでかい声で言い放った。割れる音で背を向けていた母がどうしたと言わんばかりに音の方へと心配そうな顔でドッと振り向いた。その顔が尚更に僕の怒りを逆撫でして、もう。
___爆発した。




