1、願いの園、群風と銀華。1-1
久梨原香。一月四日。
「雪?」
息が浅い。
___呼吸が
できない_____。
息が吸い込めない。吐けば吐くほどに肺から空気が抜けていく。悴んだ指先と凍るような冷気に温癖がましく食べられている。冷凍庫にぶち込まれた感じだ。
僕は、訳も分からず一点だけを見つめてる。肌には生気を感じない。白い。異様に白い、普段こそかなり箔肌の如くの透けてしまいそうな肌であったが、生き物としての生物としての心地がしない。触れていないのに冷たさを感じてしまう。
「おかしいだろ。」
つい先日まであんなに元気に喋っていたのに。
「この前まで。元気に、元気で。はぁ…ぁ、、はぁ…」
前から前兆はあっただろ。顔色が異様に悪い時が度々あったんだ。それに時々護るような仕草だってしてた。僕が頭をポンっと手を乗せようとした時、明らかに自分を護る、受け身を取る形を見せた。
気のせいだって思ってた。気のせいじゃなかった。暗示を自分に懸けていたのだ。見て見ぬふりをしてた。僕の想像と似たようなことは現実では起きないと思ってたから、そんなこと万が一にも信じてなかった。
……僕は。バカだ。
目の前には座ったままの亡骸に伏せた雪がいる。
この日、僕らはお昼頃に待ち合わせをして遊ぶ予定で、けれど僕は最悪なことに遅刻をしてしまったんだ。理由は簡単で簡潔に。単なる寝坊だ。寒い中雪一人で待たせるわけには行かないと寝ぼけ眼のまま全力で走った。寝癖を直したかどうかも定かじゃない、雪に会える嬉しさから口角を吊り上げ進んだ。大好きな彼女に会えるのだから。
どれだけの遅刻をしてしまったのだろう。起きた時の時間は十二時十七分。待ち合わせ時間が十二時丁度。そして準備のタイムを合わせるとおそらく三十分は超えている。
何で、夜更かしなんかしてしまったんだよこんな時に限って。
いつもそうだ。大切な人がいなくなる時、僕は大抵その場にいない。
僕の視界から離れたとところで身知らないところでみんなが死んでくんだ。
………その日は大雪が降っていた。地面には積もった雪。沈む靴と凍える手。
息を切らしながらに走った。冷たい外気に似合わぬ身体に火照りを灯しながら。針や刃を飲み込んでから腹で殴られているようで。無様は僕は我を忘れようとしていた。雪に会える。その一心で走る。
そしていざ着いたら。
椅子に座ったままの、眠ったように死んだ雪が目の前で微動だにしないで目を瞑っていた。
触れる、冷たかった。今の気温よりも随分と冷たかった。訳も分からず抱きしめる。ただ眠っているだけだと思った。心臓の音を確かめたい。少し温めれば起きてくれると思った。
けれどもどれだけ僕の心を命を分けてもその瞑った目は開けてはくれない。僕はひたすらに首を振る。
「嘘だ、違う、冗談はやめてよ、雪?なんの冗談だよ、違うだろ、いつもみたいに揶揄ってるんなら怒るよ、僕だって怒るんだよ。」
突きつけてくる現実が。
遠のいてく君が。
僕の希望が。
未来が。
世界が。
ピタッと止まった。
「起きてよ…。」




