5、飛騨夜。1-3
「ねぇ、香。私だって。本当に。あんただけじゃないよ、ちゃんと分かってる。私もそう。
好きだよ。香」
目を見開いた。僕は今どこを見ている?。雪の顔を見ようとした時。ドカンっと大きな轟音と光が空で鳴った。
花火が上がった。実物のこの光と音を初めて肌で感じた。でも、それよりも。それよりも。
「えっ?」
僕の声はきっと、空にかき消されてるだろう。
花火の光で周囲は明るく照らされていて雪の姿がまじまじと見ることができた、その顔は赤を施されていて耳も少々赤かった、首筋の汗に花火が反射してる。そして何より。僕は見惚れていた。彼女の姿に。
言葉では言い表せないほどの感情が押し押せてきた。バレちゃうな。
僕が泣いてるの。バレちゃうや。
最悪だ。多分人生で一番泣いたかもしれない。
人生で一番幸せかもしれない。
「僕も好き」
雪は肩の荷が降りたのか、僕の涙に当てられたのか。雪も盛大に涙を流した。初めて見た。雪が泣いているの。わんわん泣いて雪は僕を勢いよく抱きしめる。
「よかったぁー、嫌がられちゃったら、私。どうしようって、、思って、怖くって、、、、よかったぁ」
痛いぐらい全力に抱き締めてくるものなので僕もそれをやり返す。あったかい。これが欲しかったんだ。花火の爆発の中、僕らは抱きしめあっていた。二人で泣いた。一つになって、ずっと同じ気持ちだったなんて、知らなかった。生きててよかったとそう思える日が来るなんて。悩んでた僕がバカみたいじゃないか。バカではあるか。
「嫌いなんていう訳ないじゃんか、僕はずっと。君が好きだったんだ。愛してたんだ。これからもこの先もずっと絶対変わんない。だから」
「付き合ってほしい。」
言った。言ってしまった。この際もういい。雪を見つめてる。覚悟はもう決まってる。
笑った、雪。が目に映る。映画みたいだ。やっぱり綺麗だ。花みたいに可憐で、すぐにでも散ってしまいそうな程に美しい。どうして。目を背けて居たんだろう。
「喜んで」
この日が。僕にとっての一番の幸せだったと思う。
薄暗い世界を花火が彩り、限界に敷き詰められた好意が放たれ、僕という。君という存在がこの世に初めて浸り落ち生まれた。そんな気がした。上出来だ、人生は。今なら自信を持って言える。
君と出会えたこと。愛を伝えられたこと。共に過ごせたこと。何より。
生きたいと。思わせてくれたこと。
其れが。嬉しかった。美しいとそう感じた。
「終わっちゃったねー花火、香は初めて見たんだっけ花火」
「うん。音自体は家から聞こえてたけど、こうなんて言うんだろ、目の当たりにしたのは初めて、すごい綺麗だった」
「綺麗だったねぇ、」
何か言いたげだ、少し。モジモジしている。僕は気になって聞いてみる。
「どうかした?」
「その、さ。、、、、また来ようね」
今更何を恥ずかしがっているんだろうか。もう僕らは形だけじゃなく真実として付き合った身なのに。どこまで行ってもまだ子供であることをどこかで感じ、それと同時に理解した。その恥ずかしさを。
「また。一緒にこよう、雪」
それだけ言って僕は立ち上がる。時間はわからないが、花火の終わる時間は確か二十時半だったはず。つまり今は体感五分が過ぎたと思うから、恐らく時間は二十時五分かそこらだろう。そろそろ帰らないと何か言われてしまうかもしれない。そんなこともないだろうけど。
「時間も時間だし、解散しますか」
きっぱりと解散を口にだす。寂しいけれど。また明日が来れば会える事には変わりないから。出会いが来る。つまり別れも何処かで迎えるということ、こればかりはどうしようもない。これ以上一緒にいたらもっと寂しさを別れを惜しんでしまう。だからここで言う。
それでも雪は心細さを抱えてしまっているのか、立ちあがろうとしない。
「帰りたくない」




