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花盗人  作者: 楠ゆう
2章 流星の燈

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5、飛騨夜。1-1

        久梨原香。八月十九日。柳桜公園。花火大会、当日。


 僕は雪を待っている。服装は普段通り、小さなバックを片手に灰色のTシャツを着てる、不恰好かもしれないがこれしか着る物がないんだ。何なら制服でいい気もした。でも、流石に目立つのはごめんだ。


 「おーまたー」と雪が手振ってこちらに歩いてくる。紫陽花柄のピンクか紫かの色に包まれた浴衣を身に纏い、嬉しそうにこちら側へと駆け寄ってくる。僕はそれを観て慶喜(きょうき)の笑みを浮かべ、無意識に声を漏らす。


 一瞬の時間が長く感じられる。ガヤガヤした周りの声が籠ってすら聞こえた。感動?見惚れていた。


 「綺麗だ。」


 身の丈にあった華麗で美しい姿に妙な妖艶さも兼ね備えている雪はクシャッと笑顔になりそれにまた見惚れてしまう。


 「お、お目が高い、いいでしょーこの浴衣ー」


 見せつけるように、全身を見せつけるように一周ぐるっと回って嬉しそうな雪を見る。


 「実はねー着付けしてもらったんだー、お母さんとかにはどうにも頼めないから、私の親友ちゃんにお願いしたらすっごい可愛く着付けてくれて。もう私とんでもなく満足!」


 夏草の匂いがする。ヒラヒラと浴衣の袖が生きている。空は茜色に染まって夜の時間を知らせている。


 「それじゃ!行こっか」

 「うん」


 大量の屋台と大量の人間。微妙に鬱陶しい。


 たこ焼きの匂いや焼きそばの匂い、甘いチョコバナナの匂いがする。みんなうまそうなものばかりで目移りしてしまう。生ぬるい温度としぶとい熱気があまつさえも増えていく。


 もう夜だな。


 「どこでみよっか」

 「どこでもいいけど、どうせなら静かな場所がいいな。学校の子達がいたら気まずいし。心から楽しめないかもだし」


 「お!、二人っきりがいい頂きましたー!。」

 「茶化さないで、本当のことだからね」


 「わかってるってば、私もそれに同感。私も、二人がいい。」


 そして僕らは花火が上がるまでの時間、いい場所を探すために移動を進める。でもどこもかしこで人で賑わっている。屋台の匂いと人の香水の匂い、夏特有のあの匂いが周囲に満ち満ちている。


 みんな笑顔だ。幸せようだ。いいな。


 家族で祭りを回っている子を横目に見かけた。金魚掬いをしてる。笑顔の男の子にお父親らしき人が「おぉ!すごいなぁ」なんて男の子の背中を押している。少し寂しいような、羨ましいような、でも微笑ましい男の子の笑顔を見ると、どうでも良くなってしまった。こんな思い、誰にもしてほしくないな。できれば、僕で最後にしてほしい。


 「結局ここになっちゃったねー」

 「まぁ、最初から決まってたようなもんだしね」


 僕らは公園から少し離れてサイクリングロードの川辺、河川敷にひっそりと座っている。あたりに数人ブルーシートを敷いて座っている。僕らの周りにはあんまり人はいないけど。なんせ、入っちゃいけない所に座ってんだから。


 体温に近い温度の風が僕らを掠める。


 雪は屋台で買ったたこ焼きを笑顔で食べている。


 「んまぁ、たこ焼き初めて食べたけどこんな美味しいんだ。もっと早くから知っておけばよかった。香食べてみる?超美味しいよ」


 「僕はいいや。たくさん食べな」


 すると雪は僕のバックの中にある本を見つけたようで、一つ言う。


 「お父さん、今日も一緒だね、」


 「うん。一緒に見たかったから、家族で見てみたかったな」

 「そっか」と言って雪は僕の肩に顔を乗っける。雪の髪の匂いが鼻を掠める。いい匂いがした。甘い香りだった。


 「香、なんか元気ないね」


 「そんなことないよ、僕は元気だよ。ただ浸ってるだけ」


 「変なの」

 「変でいいよ」


 やっぱり、いい風が吹いている。汗ばんだ体を冷やしてくれる。茜色だった空は段々と色が藍色に飲み込まれて新しく生まれ変わっていく。街頭に灯りがつき始め次第に夜の街特有の雰囲気がどこからかこちらへ向かってきた。


 「雪。ありがとう、」


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― 新着の感想 ―
たこ焼きは、中に入ってるのが、たこじゃないなら好きです まだ付き合いそうにないですねー 着ないって分かりきってますけど、やっぱりそこは香くんも浴衣着ましょう! 
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