4。勿忘 #1-5
久梨原香。中学、帰宅、夜。
今日のことを深く後悔している。どうして言ってしまったんだろうか。気の迷いだとしてもあんな重たいような話を、ましてや雪に話してしまった。
疲れ切ってしまい、帰ってきてからそのまま布団の中にダイレクトにダイブした、明日起きたらお風呂にでも入れば良い、そう思い至りそのまま寝転び天井を見上げて一言と思いを溢す。
「最悪だぁ…」
両目を手で抑え、恥ずかしさに顔を沈める。
今日あった出来事と共に母の事を思い出す。帰ってきてから母の姿を見ていない、自室にいるんだろうか。どう顔向けしたらどう話しかけたらまたいつも通りに話せるようになるだろうか。あんな怒鳴られるのは滅多になかったから、大分……嫌。心底疲弊してしまった。
自分のせいで母を怒らせてしまった、自分の勝手な我儘で唯一の家族を怒らせてしまったと自責の念が身体を澱めてる。
寝てるのかな。
「母さん。どこ行っちゃったんだろう」
家の中にいるのかも知れない、でも、もしかしたら居ないかも知れない。どこか遠くへ僕を置いて行ってしまったのかも知れないとそんな事ないと分かっていても、分かっているのに心に風が当たる。ボロボロの古びた空き家のような汚い心に心配が突き刺さってしまう。弱虫なのだろうか、僕は。そうに違いない。
うまく取り繕った所で、決して強くはなれない。当然のことながら。その事実が忌々しく苛立ちを覚えてしまう。情緒がまごう事なく熟れている。
手を勢いよく頭から腰の方にやる、何気なく手を動かす。水泳の授業をしている時みたく、布団の冷たい場所を探してる、無意識に乱雑に手を動かし続ける。何だかこれ、楽しいな。赤子に戻った気分。
もう外には雲が陰り星も月すらも見えない。あれほども情景が嘘のように感じてしまう、映画のようなドラマのようなアニメの如く、綺麗な星空こそどこか遠くに行ってしまったみたいだ。一体何処へ吹き飛んでしまったのだ。
はぁと息を吐いてそっと目を閉じる、良い夢が見たい。夢。見させてくれるだろうか。いっそ、ずっと夢の中にいれたらいいのに。
今日の雪の姿。顔。匂い。感触が流れ出る。
浅い息を繰り返し吐いて全てを落ち着かせる。数少ない幸せを帰着させてゆく。
僕はまた。一人で泣いていた……。頬に跡が残るぐらい。
目が覚めたら朝になってた。外では鳥が高らかに囀って皆の背中を押している。その声で起きた。
情けない欠伸をして、硬くなった体をほぐす。
ベタベタする、身体が。
残念な事に夢は見れなかった、感覚的には瞬きと一緒。一瞬にして朝になっている、僕以外の時間が速度を上げたようにも感じた。僕は「ふぅっ」と息をすんなり吐いてから布団から立ち上がる。妙に体が気だるいのが分かる、疲れが取れていないのか、単に自分が重たいだけなのか。
「お腹すいた」
時刻は早朝六時四十七分。
学校までの時間は少々余っている、自室から出て階段を降りながら考える。
「冷蔵庫になんかあるかな。」
冷蔵庫を目標に決め進む。重たい瞼を擦り必死に開けて空っぽな脳みそに喝を入れる。冷蔵庫の前まで来て扉をこじ開ける。「はぁっ」またため息だ。
案の定分かっていた、中身は空っぽ空きだらけ。ただの冷気が身体にまとまり付くだけ。そっと冷蔵庫を閉めて僕は天井を見上げる。何の変哲のない、いつも通りどこにでもあるただの天井だった。そりゃあそうだ。
やっぱり母さんの姿はない、物音一つしない。もう仕事に出かけてしまったのだろうか。僕も準備しよう。
あっそうだ、風呂。入らないと。だるいな。けど、入らなかったのは自分だしな。
大きく息を吸ってその吸った空気を吐く。なんてことのない通常の呼吸、誰だってする普通の息だ。
お腹空いたな………。
雪は美味しいご飯食べているんだろうか、食べているとして何を食べているのだろう、朝だし。パンかな、目玉焼きかな。ジャムを塗ってウインナーを焼いてご飯を主食で食べてるのかも。いいなぁ。僕も食べたい。美味しい暖かいご飯。最近じゃあ冷たい弁当だけだし給食もろくに食べれてないし。
ふと手をお腹に当ててさすってみる、痩せたかもしれないと思った、肉が少々減ったような気がする。それに気がついて尚更お腹が空いてしまった。
台所からコップを手に取り水道から水を濯ぐ。その水を勢いよく飲み干す、冷たい水が内臓を刺激する。勢いよく飲み干したおかげで少々こぼしてしまった。
そして僕は思う。お風呂入らなきゃ。




