4。勿忘 #1-4
久梨原香。………午後十一時半。
「どうしますか」
僕が井上さんの顔を見ないで街のネオンまみれの風景に委ねながら言い放つ。
「どうしたの?」
何も分かっていないのかポカンと一人僕の横顔を見る。
「時間ですよ。もう夜遅いですし、終電も、もうそろそろですし。解散そろそろしますか」
「そうだねぇ」と井上さんは歩きながら背伸びをしている、その華奢な体からは考えられない唸り声を出しながら。
「楽しかった?」
暗い空は街に色美やかに彩られて僕らもそれに当てられて綺麗にライトアップされているようだった。そんな中で井上さんは少し不安そうに言葉を吐露した。その目はどこか迷いのような愁のような哀愁を持っているようで、黒曜石のような黒い目に辺りの光が反射してた。
「楽しかったですよ。普段こんなことあまりできないですから、すごい新鮮で、なんていうか。ちゃんと生きてるなってしっかりと日を謳歌してるなって思いました、井上さんとは今日会ったばかりですけど、そんな事ないんじゃ無いかって実はもっと前から会っててずっと友達だったんじゃないかってそう感じたんです。変な話ですけど、雪の事とか僕のこととかいろんなことを殆どを話せたのが初めてですごく嬉しくて。ほんとに楽しかったです。本当です。嘘なんか何一つない紛れもない真実です。井上さん、ありがとう」
井上さんは未だポカンとしていた。口を開けたまま、それに気がついていないみたいに暫しの時間がそっと流れ辺りでも人が流れてく。そして言われたことにハッとして僕にびっくりとした様子で焦っている。
「いや、いや!そんなに言ってくると思わなくてめちゃくちゃビックリしたんだけど、えーと。こちらこそありがとうって感じなのにさ今日一日で大分心境が変わった気がするんよ、大概、自分以外は全部悪人だって考えてたんだけどね、案外それでもないみたいだし、香さんがそれを証明してくれたみたいな。何言ってんだろ、でも。……あぁでも言わせちゃうのは野暮なのかな」
そう言って井上さんは俯いた。何か言いたげそうにしてる。モジモジして落ち着かない様子だ、忘れ物をして先生に詰められている時の生徒みたいで懐かしさを覚える。
「その。また一緒に出かけてくれます?私大学だけしか行かないから良いかなっておめかしして来なくて、だから今度は。しっかりとおめかししてもっと可愛くしてくるから。その…また出かけてくれますか」
手が少々震えてるのがわかる。それほどまでに勇気を出して言ってくれたんだろう。恐怖からの震え方じゃなかったからそれぐらいわかる。
「良いですよ。僕こそまた遊びたいって思いましたから、時間があればでも大学の空き時間にでも一緒に出かけたりまたご飯でも食べに行きましょう。」
そう返すと井上さんは嬉しそうにパッと雰囲気が変わった。それが何処となく幼い子供のように映ったものだから。母や父と遊んでいた頃の僕をそっと朧げに思い出した。心上とした気持ちの僕に笑顔の井上さんは大はしゃぎで言う。
「じゃあこれからもよろしく!香さん」
「はい」と僕は言いそれを皮切りに解散した。今日と言う日が猛スピードで駆け抜けて思い出の一部になっていく。初めて会ったばかりなのにそれを感じない違和感が所々にあるけれど、単なる気のせいでしかないんだろう。こんな日ばかりなら良いのになと駅まで考えながらに歩く。タクシーでも使えば良かった、足が地味にフラつく。お酒を飲んだ時と似たような感じだろうか。飲んだことはないのだけれど。フラフラと街を歩く。
スマホを見ては辺りを見渡す。それを何度か繰り返す。
たまにキャッチの人たちが僕を捕まえようとしてくるけど、なんとなく否して避け断る。今日一日でだいぶお金を消費してしまった、普段使わないから平気だけど、これからこんな感じの日が増えるとなると、バイトも考えないとな。
「なんで、海斗のこと思い出したんだろう」
怖いな、バレたら。また怯えた顔されるんだろうな。僕は、皆と一緒にいる資格なんてない。怖いな。あぁ、、怖い。
「でも。どうせ。僕も死ぬんだ、あいつらを殺して、僕も死ぬ」
そのために死にそびれてまで生きてきたんだ。
__良い年にするのだ。
全てを奪ったアイツらとあの警官を壊す。
一日が終わった。




