3。バク #1-5
「失格」
「はい、」
三十分ぐらいだったかな……。僕らは空を眺めてまた長いこと話し込んだ、今度は雪だけのマシンガントークだけでなく、僕もしっかりと混ざって話す。これがまた楽しくなってきて時間を余裕で忘れてしまう。時間ってどうやったら止まってくれるんだろうか、針を摘んだら止まるかな。
「それでね、美香ったらゲーセンでお金全部使い込んじゃったって、言っててさー、そんなにハマるものなんかね」
「お小遣い全部使い切るって相当後先考えてないじゃないですか」
「そうなのよ、でも私ゲーセン行ったことないからそんだけ楽しい場所なんだろうなってー、思っててさ行ってみたいんだよね、でもお母さんとお父さんは厳しいしさ、今度隠れて行ってみようかなとか、ちょっと悪い子にでもなろうかなって最近はなってる」
「ゲーセン、僕も行ったことないや」
「ウッソめちゃくちゃ行ってそうなのに」
「バカにしてます?、」
「嘘嘘、してないしてないってじゃあ今後さ、午前授業の時とか行ってみようよ、どうにかバレない様にしてみるから」
「いいよ、楽しそうだし」
「やったね!」
軽やかにガッツポーズを決め。今度は僕が「ふふ」っと笑う。
「子供みたい」
「これでも香よりも先輩なんですけど」
「わかってるます。先輩」
「おちょくってるでしょーが」
「はてさて、何のことやら」
すっとボケて適当に遇らう。そして一息肺に空気を入れ込み、気持ちを整え僕は聞いてみることした。俯いたまま、ギリギリ見える足元に視界を置いて。
「雪ってさ」
「ん?」
「なんで僕とそんな仲良くしてくれるの、最初とか全く関係なんてなかったのに寧ろあんな辿々しい対応してたんだから離れてくと思ってたのに、しかもバカみたいに暗かったし、暗いのは今もそうだけど」
「んー、そこら辺はよくわっかんない、まぁ相当な理由がないと離れていかないでしょ、強いていうなら。あんなところにいるんだから訳ありなんだろうなーって思ったから、」
同情なんだろうか。
雪はじっと僕の顔を見ていた、僕もそれに気が付いて雪の方を見るとふと目が合った。
「やっぱりさ」
「何です?」
「寂しそうだね」
「なんでそう思うんです?」
「感」
、、………。
暫しの沈黙が流れた。風の風切り音が耳に吹いた、遠くで微かにパトカーのサイレンの音も聞こえた。心音が近い、距離が近い、肌が、体温が。
話してもいいのだろうか。せっかく仲良くなれて距離感がしっかりと掴めて来たのに。話して、もし。いなくなってしまったら、それこそ後悔が身に食い込んでくる。一生後悔するだろう。どうしたらいいのか。
いっそのこと全部さらけ出してみようか、前にも同じことを考えたな、楽になってもいいんじゃないか、一人で抱えるのはもうやめにしようかな。でも勇気が出ない、父さん。助けて、ヒーロー、助けて。
喉の隙間で嗚咽が挟まって、押し込んでも声にならない。唇が震えて目が蠢く。
「話したくないならそれでいいんだけどさ、もし困ってるんならさ一人より二人の方が気が楽になるんじゃないかなって、話したくないって感じならそれでいいんだけどね」
言葉を遮るように僕は言葉を言葉に出した。
「話して、…みたいです」
「お、話してみるかい」
雪は腕を組んで、いかにも先輩だ、話してみなさいと言わんばかりで「ふんっ!」と力を入れている。
「はい」
「どうぞ」
恐る恐る僕は話した、これまでの事、父の事故のおかげでみんなから迫害されて無視され続けられること、母が変わってしまったこと、今までのことを淡々と喋り続けた。彼女はそれを静かに「辛かったね」「頑張ったね」と諭して慰めてくれた。
「父さんが死んで母が変わっちゃってみんなからの僕の見る目も変わって助けてくれる人がみんなどこか遠くに行っちゃって、誰も見てくれなくて、それで、それで、それ…っ」
「ゆっくりでいいからね」
僕の背中を摩りながらに雪は優しい言葉をかけてくれる。震えた口と声、手で必死に言葉を練り上げる。決壊したダムのように一度開いてしまったらどんどんと言いたかった思いが流れ出しくる。
「もっといろんな人に褒めて欲しくって、もっと。いっぱいみんなと遊んで、もっといっぱいお出かけしたかったのに、僕ばっかり我慢して、我慢したくなくて、僕だけいないものみたいに扱われて、ゴミみたいに、虫みたいに扱われて。何で、、、何で!!。しょうがないじゃん、僕のせいじゃないのに、父さんが居なくなって、それですらすごく悲しかったのに、ただ縋っていたかっただけのに、」
手から何もかもが抜け落ちて、最後に残ったのは自分の中身だけ。羽織っていた衣すら次は魏で縫われて取り繕っていた、それすら抜け落ちた。
手に残った自分は嫌いなのに完璧には嫌いになれない。自分を知っているのは自分だけで、唯一救えて知れるのは自分だけだからだから。その矛盾がまた僕を嫌々垂らしめて錘になる。形だけでもいいから僕は僕を慰め続けた。でも、虚しさと空っぽの何かは埋まってくれやしない。
「ただ愛して欲しかっただけなのに!!僕ばっかり!!!!!こんなんじゃ死んだ方が、産まれてくるんじゃなかった!!」
人生で初めてここまで叫んだ。張り裂けそうな程に熱く喉が痛かったはずなのにそれに存外気付かなかった。その時にやっと目から涙が落ちる。
僕は泣いていたんだ、人前で珍しく気にも止めないでひたすら涙が流れ出る。笑われてもいい、雪は笑ったりしない。最初から。わかってたのに、強がってた、弱音は吐いていいんだよ。
でもやっぱり、ちょっぴり恥ずかしい。
「あれ、何で。泣いてる、嗚呼、違うんです、これはただ」
焦りに飲まれて言葉が百々多度しく詰まる。それを踏まえても雪は僕をそっと抱きしめてくれた。
「辛かったね香、ごめんねわかってあげられてなかったね、話してくれてありがとうね」
嗚呼、嗚呼。あぁ…。
と唸るような切な声だけが響く、眉間に皺を寄せて歯を噛み締めて今までの事何もなかったことにするみたいに子供らしく僕は泣いた。雪の胸の中で小さな子供みたいに泣いた。些細な号哭が憂いに任せて轟く。本当に。今だけが続いて欲しい。頼むから。今日の夜は今までもこれからも絶対に良い夜で、これ以上は確実にない。それだけは確実、わかる。
ひとしきり泣いた後、我に帰り雪に申し訳なくなり謝る。顔の頬に跡がついてる。
「ねぇ、さっきの嫌だったらごめん、自分が自分じゃなくなったみたいで、いらないことも全部吐き出して。忘れてください。ごめん」
髪が靡くまま、ただひたすらに僕は空を見る。紛らわすために小っ恥ずかしさを小さくするために。
やっぱり綺麗だ。以前変わりなく粗目模様に散りばめられた星が無機質な光を放っている。無心にそれを眺める。
「なんで忘れなきゃいけないのよ、せっかく頑張って話してくれたのに覚えておくよしっかり思い出として残しておきます、あと脅しでも」
「そんな大層なもんじゃないんだけど」
「にしては随分深刻そうに話してたじゃない、聞いて欲しそうな言い方してたし可愛かったよ、面白い一面が見てたからラッキーだったよありがとね、そんな冗談っぽく言っても話してくれたこと自体は私も嬉しかったし、しっかりと友達として仲良くなれてる様で感謝感激だよ」
「ありがとう」ただ一言だけ僕は口にした。それしか口に出なかった。頭が回らないから、バカになってる。
「素直じゃん」
「無駄に放れても意味ないでしょ、実際かなり楽になったし、ありがたかった、です」




