3。バク #1-4
「綺麗、だ。」
僕の顰めた声で正気に戻ったのか雪さんは動揺した様子で自分の涙を服の袖で拭いてからそっと前へと歩き出した。
「あそこのベンチ汚いけど座れるし少し座ろ」
指差を指す、そこには錆びついてボロボロの殆ど使われていないであろうベンチがあった。そこへ雪さんが座った後、僕は横に座る。
暫しの沈黙の中、それを破ったのは雪さんの方だった。
「今日ごめんね」
「何がですか」
「ほぼ、強制みたいな感じで連れて来ちゃったじゃん。だからさ、申し訳なかったなって嫌だったかもなって思ったり、言うの遅くなっちゃってさ。ごめんね」
雪さんは首を掻きながら、照れ隠しのようにそんなことを言う、嫌なわけがない。嬉しい。強制でもいい。
「謝んないでいいですよ、僕も来たくて来ただけなんで、嫌ならきっぱり断りますよ、そりゃあ。」
辿々しい抜け切らない敬語で僕は答える。違和感が絶えず背筋が涼んでしまう、それが面白可笑しいのか雪さんは「ふふ」っと笑った。
「ちょくちょく思ってたけどやっぱり癖治んないね、いいけどさ、あと忘れてないからね、さっきさん付け取れてたでしょ、雪って言ってたよね」
「あれは、違くてその。すごい綺麗だったから」
「んまぁ同感、すんごい綺麗だよね、空。初めて見たよこんなん。寒い地域だともっと綺麗みたいだよ?なんだっけ、外国の寒いところとか」
空は綺麗だった、びっくりしてしまうほど、息を忘れてしまうほどに透き通った空気と共にまばらな星の重さがずっしりと感じるほどだ。だけど違う。僕の思う綺麗は、君だ。
君の横顔が綺麗で空なんかより何倍も綺麗で、写真に納めておきたい程に美しく彩っていた。
恥ずかしくなって僕は頭を掻き、んすぅ、と意味のわからんどこから出たんだとなるような息が漏れる。
「ありがとう、ございます、誘ってくれて嬉しかったです、楽しいってすごい感じてます」
「敬語、取りな」
「やっぱり気になります?」
「気になるっていうか、すごい喋りづらそう、やっぱさ。癖じゃないでしょ」
僕は身体がビクッと一瞬固まってしまう。雪さんはニコッと不的な笑みで僕の頬を抓る、痛いよ。
「図星だ」
「バレてましたか」
「当然、私は天才だからね」
そうだ、敬語でいつも喋っているのは癖なんかじゃない、癖と言ってるのはただの理由作りでしかない。敬語で喋れば誰も踏み込んでこないから、近くで喋ろうとしてこないから。壁を作っているんだ、僕自身が自ら、仲良くなりたい、心からの会話をしたい。けれどもみんないなくなる、だから壁を作ってた、壁があればそれ以上は踏み止まって別の道に行くから、だから僕が悪い。駄々を捏ねてるのは少しでも自分を正当化したいから。何でこうも全部見透かされてるんだ。もはや怖いよ。
「だからさ、敬語やめよ。私の前だけでもいいから。後さん付けなしね。前も言ったよね、、あったっけ?」
「わかりました」
「失格」
「はい、」




