1。私の性
久梨原香。…自宅
春が過ぎて夏が来た。麗らかだった季節は一体何処へ行ってしまったのだろうかと常々寂しさを感じてしまうようになった。
僕らがどれだけ今が良いと嘆いたとしても季節は滞りなく真っ直ぐに描かれていく、それは変わっちゃくれない。「今」という隔てない平等は全員に滞りなく渡される。
変わり映えはしない時間と日々が何度も過ぎ去り玉響の短かった高校生時代も終えて僕はいま大学一年生となった。
僕の気分は心はまだ中学のままどこかで止まってる。まだ芽すら生えてこないで種が埋まった状態で停止してる、栄養が足らないのか腐っているのか詳細は僕にもわからない。根掛かりでもしてるのかな。
蝉はどこかしこで渦を巻いて喚き散らかしている。兎に角耳障りで常に蠢き鳴き続けている、ご苦労な事である。もし給与が与えられるとするなら一体給料は幾ら程になるんだろうか。少々分けてはくれないかな。
結局の所僕に友達はできなかった。大学は一人のまま。大学デビューとかで髪を染めたり、おちゃらけたり己に浮かれる事もなく話したとて限りなく浅い会話を数回繰り広げる程度の関係の人間しかいない。友達とも言えないし知人とも言えない、まどろっこしい何かだと受け取っている。
高校は一年の時に一度逃げ出したものでほとんど行ってはいない。色々な物全てを避けて全部放り出して、一人で何処までも逃げて、気がついたら十七の半ばになってしまった
我儘に山をかけて川を抜けて物を盗んだ。でも心のどっかでは楽しいと思ってたんだと感じる時があった、地獄だったことには変わりはないけど。
「眠たい」
結局僕は何がしたかったんだろう。今でも芯がぼやけてはっきりと先見えず、未だすんなりしない彼女の輪郭や面影を何処かで追い続けている。
世界に僕と同じような境遇の人物ってどれだけいるんだろ、てか存在するんだろうか。
もし近くにいたとして僕らが話し合いをできたとするなら一体どんな会話を繰り広げるのだろう、お通夜みたくシーンとなるのが常なのか、はたまた笑い合って各々の思い出話でノスタルジーに浸り感傷の反復がなされるのか。
結論はどうでもいいしどちらでもいい。でも時々考えてしまう、僕がもう一人いたらとか。同じ境遇の友達が数人いて虚無感の穴埋めができたらなんてことを。
どうせ喧嘩でもしてしまって離れ離れになる運命だと思うけど。
僕が十五歳の時。
雪が十六歳だった。
凍えるほどに寒い冬一月四日。彼女は死んで逝ってしまった。もっと早く着いていたら結果は変わってたのかもしれないな、後悔先に立たずと全くもってその通りだと感じる。
今となればもう僕の方が生きた時間は長く僕の方が歳を取ってしまった、数ヶ月のほどではあるがそれは今だけ。この先更にその時間は長くなるのだろう
誕生日を迎える度より一層それを色濃く感じ脳はそれを理解するんだ。どんどん彼女のいない時間が増えていく。
「いない時間が増えていく…。」どこか詩的で美しいとか思う日もあるけれどそれを覆すほどの孤独が手を振って僕にしがみついてくる。呪いみたいに纏まり着いて離れない。
それからいうもの人とさほど交際や交流はしていない
てかどう人と接したら良いか正直あまりわかっていないしとまぁ忘れてしまったのかもしれない。
僕は今までをずっと受け身で生きてきたから、人にヘコヘコとしていれば怒られる事もないし怒鳴られることもなければ、困る事もない、そんな感じに生きていればこの先もどうにかなるとそう何度と幾度となく感じてきた。
別に人と話すことに抵抗があるわけじゃない、ただ自分から会話始めることが苦手で避けて歩いてたら誰も寄ってこなくなっただけ。誰かが話しかけてくれさえすればいくらでも喋れる気はする、辿々しくはなるんだろうけどお喋りは嫌いじゃない。
でも崩れてしまったんだから自分で後先を考えないとこの先にどうにも進めなくなってしまった。父が、雪が。いなくなってからというもの隣から、そばから。手が離れてしまったように遠のいて行ってしまったみたく感じられてならない。僕は弱いから。そっと周りを見たら崖しかなかった。
父は中学の頃事故で死んでみんなは父のことを最悪だって言い張り続けた。ニュースや記事の一面でしか情報を得ていないのにそればかりを鵜呑みにして僕を父を何度も蔑んだ、僕のことは「人殺しの息子」だって周囲から張り付けられて指を刺された。
その後ぐらいからみんなすっかり変わってしまった。その中には母も入っている。
みんなは知らないんだ。言葉や言霊という名の刃物で切り付けられた感覚を、食い荒らす快感だけを摂取してるから。あの気持ち悪さと痛みを理解できない。水を得た魚は振り返らないで走り続ける。それを綺麗と蔑むか汚いと豪語するか、知ったこっちゃないと跳ね返してしまうかのどれか。
誰もその先を知ろうとも聞こうともしない。どうでもいいからだ、ただ目の前で起きてる事象に食いついて晒し者にしてそれで飽きたらもういいやってまたどっかの知らないやつをまた探し出て晒し者にする。
でもきっとこれは何かしらの天罰なんだろうなって前向きでも何でも無いけれどそう思ってる。気が付いてあげられなかった僕への自分のことばかりしか考えられていなかった。周りが見えていなくて他人が僕よりも確実に幸せであると御託を並べて声を出せなかった、助けてあげらなかった。
僕への神様からの何らかの罰なんだって思う様にしてる。
ひとつため息をついて視点は天井を仰ぐ、どこを見たら良いか存外ピンと来なくって目の行き先が右往左往してしまう。
というか神なんか何処にもいないだろ、何を言っているんだろう。
神がいたらこんな事実や現実は作ったりしない。もし神がいてそれを神自身が神自らの選択でこうしているのなら到底仲良く出来る脳みそはしていないであろう、そんなのに神が務まってたまるか。
かなり最悪な性格をしている事で相当ひん曲がった心の持ち主だ。そんなの恨みしか生まないだろうに、そんなの。
……いや。もしかしたら本質はそこにあるのかもしれない。性格が良くあれば神には向かないのかそうなのかもしれない、
いや。いないのに。なれもしないのに。何を一人で語っているんだか。「ふふっ」と可笑しく息を漏らしながら笑ってしまう。
意味もないのに時間の浪費で体力の浪費でしかない。
何してんだろ…
何をしてるんだろうか、急に冷静になってしまった。布団の上に大の字になって寝そべりながら天井をずっと何事も無く仰ぐ。思い出をなぞって描き出してパズルのように足して埋めてく。あの頃をなぞる。
あの日の公園やあの夜の情景と屋上。笑い声に匂いに感触。靡く髪の動きと形。暑くて寒くて悲しくて楽しくて苦しくて息は苦しく。
そっと慎重に丁寧に決して手荒に触れないように。爆弾を処理するかのように、産まれたての赤子をゆっくり抱くかの如く。目を閉じて映画の回想シーンみたいに今までが描き出されてく。
思えば出会いは誰とも遜色ない平凡で変わり映えのない日常にパッと現れて、急に話す様になって、いつの間にか幸せになって、付き合って。気が付いたらもう彼女はその場からいなくて。
繋いで歩んでたはずの手が離れて先に逝ってしまった。なんと儚い泡沫であろうか。蜃気楼のように走馬灯の如くに頭の中の描写を描いては消して、描いては消してまた描いて。
繰り返し絵に色を足しては壊してまた新しいキャンパスに絵を広げる。思い出の輪郭を密かになぞっている時、頭の角にひっそりと置いていたスマホがバイブした。
通知が来たんだと考えたが一向に鳴り止まないスマホから辿り着く答えは恐らく電話かそこら辺だと確信がついた、スマホの方を見ずおぼつかない手でスマホを手に取り顔に落っこちてこないようにしっかりと持つ。明るく点灯した画面を覗き込んでバイブの正体を確認する。
八木さんからの電話だ。
少し鬱陶しさを持ちつつも出ない訳にもいかないのでしばしば電話に応答する。恩があるのに鬱陶しさを持つのはいけないことか、恩知らずだったと少々反省をした。
画面の電話ボタンをタップして耳に画面を当て応答する。
「もしもし。」
「もしもし、香くん元気にしてる?ご飯は食べてるの?お風呂はしっかりと入っているの?」
心配そうな声が画面越しから聞こえてくる。
「お久しぶりです八木さん、元気ですよ、どうしました?」
「そんなには大したことじゃないのだけど。ダンボール届いたかの電話よ、あなた目を離すと碌にご飯も食べないでしょう、だから役に立つかなと思って色々送ってみたの、連絡なしに送ってしまったことはごめんなさいね、それでどう?ダンボール、届いてる?」
「ダンボール?ですか」
そんなもの見てないし届いた様子もない、少し前もインターホンすら音沙汰なく静かなままだ、狭い一室だし音が鳴ればすぐに気が付く、だから確証を持って言える、そんなもの届いていない、と頭であーだーこーだと言っていると。「もしかして届いてない?」と八木さんが心配そうな声で聞いてきた。
「わかんないです、外はまだ確認してないので、」
咄嗟に僕はそう答える、とりあえずの可能性として外にあるかもと提示をし八木さんの言葉を待つ。
「あら、ごめんね休み中に、少しお外見て確認できる?」
「はい」と一言、布団から手をついて立ち上がり、散らかった足元の物を踏まない様に慎重に玄関の方に向かう。そして気まずさを紛らわすために僕は八木さんに少し問を貸す。
「八木さんこそ、元気にしてるんですか?」
「私はいつでも元気よそれよりもあなたの方こそ心配なのよ」
「それもそうですよね、僕はほんとに元気です、まだ全然若いんでどうにかなります。」とだけ言ってから玄関に着いた、羊蹄と錆びたような音を立てる扉をゆっくり、そっと開け隙間から外を確認する。
「ありますね、ダンボール」
すると八木さんは安堵の声を漏らして肩を撫で下ろしたのか柔らかくなった声で答える。
「あった?よかったー、その中石鹸とかお菓子とか他にもいくつか入ってるから、遠慮せずに自由に使ってちょうだい」
「ありがとうございます、ほんと何から何までどうお返ししたら良いのやら、」
耳と肩でスマホを支えながら重たいダンボールを玄関の中に入れ、床の方に置き、扉を閉める。
「いいのよ、貴方はもう私の大事な息子なの、息子を大事に思うことは親として当たり前のことなのよ、遠慮なんてこと考えないで、
香。身体大事にね」
僕は口角を少し上げて軽く頷く、見えていないから意味はないけど。気持ちの問題なんだろうなこれは。
「お互い様ですよ、八木さんも身体に気をつけて、これありがたく使わせて頂きます、今度また会いに行きます、また八木さんの肉じゃが食べたいです」
「ありがと、待ってるわね、飛び切り美味しいの作って待ってるからいつでもおいで香くんまたね」
ピッと異質な電子音と共に通話が終了してスマホを横の棚に置いた。
「息子…か。」訳も落ち着かずまたため息をするとその後に欠伸し背伸びをする。背中がポキポキと音を鳴らしながら先のことについて考える。
久々に八木さんの声を聞いた気がする、半年ぶりだろうか、それよりも前かな。大学に入るにあたってから僕は一人暮らしを始めた、貯金も何も無いので資金は八木さんが出してくれた。本当に八木さんには頭が上がらない。でもその辺りから八木さんと話す事が極端に減少してしまった。声だけではわからないけれど、元気そうではあった。誰にでも寛大でお人好しで底なしに優しい人、それは姿や人相にも大きく表れている様に僕は見える、いつも優しく微笑んでにこやかに笑っている八木さんは勤務先でも人気だって話をどっかで聞いた様な気がする。それでいてしっかり者、少しでも道を間違えそうになればすぐに正してくれる、あの叱ってくれた時の八木さんは何よりも怖かった、もうあの怒られ方はしたくない。
しっかりと思い知ったんだ、優しい人ほど怒ると怖いんだって。もう勘弁だ。ハッキリと言えるトラウマと言って遜色ない。
八木さんは今となっては女手一つなのだが昔は夫さんがいたそうで写真だけでしか見たことはないのだけど、写真を見た限りではとても良い人そうだった、いい笑顔をしてた。八木さんもすごく良い人だったと言っている
話してみたかったな…今はもう居ないらしい、逝ってしまったと癌で早くに亡くなってしまったのだと八木さんは言った、そのせいか子供もできなかったそうでだから八木さんは僕のことを本当の息子のように扱ってくれる。僕としてはすごくありがたいし暖かみをもの凄く感じる。あの時のご飯の味は何よりも美味しかった。また、あの肉じゃがまた食べたいな。
そんなことを他所に僕は目線をダンボールに向ける。すごい重たいかった、ずっしりと質量のある重傷を感じ何が入っているんだろうと少し心を弾ませる。
「何が入っているんだろう」
ダンボールが開かないようにしっかりとガムテープで止められている。カッターやハサミの様な便利なものはうちにはないからどうにか爪でテープをビリビリと勢い良く剥がして上から覆う様に中身を確認する。
そこには懇切丁寧で均等に隙間なく詰められた食料品や飲み物、タオルや石鹸など生活必需品が入っていた。
ここまでしてくれるのかと少々申し訳なくなって頭を抱えてしまう。
八木さんにあとで感謝の連絡しておかないと。
そういや今日は日曜か、昼まで寝て時間を潰そうとか思っていたが少し予定が狂ってしまった。
まぁそんなこと言っても仕方がないのだけれど。
形が崩れないように衝撃で質が落ちてしまわぬようプチプチや新聞紙で保護されてるのを見ると心配性なのが視覚でもはっきりとわかる。
そんな時何か角の方に何か紙切れの様なものが挟まっているのがわかった、新聞紙とは明らかに違う、材質が明確に異なっていて見たらすぐにわかる。
僕は「なんだこれ」と声に出すほどに気になっていた。好奇心が僕の背中を押してく。物を入れる際混入してしまったのかもしれないと挟まってる紙を力を注ぎ引っ張ってみる、
すると手紙のようなものが出てきた。挟まっていたんではなかった。紙の表面には八木さんの字で、「元気にね」と表に書かれていてしっかりと紙が折られている。すると一緒に紙の後ろから更に一枚の写真がヒラヒラと花びらが散るように床へ落ちていった。
なんだろう…。
裏返しで、真っ白な面しか見えない少し細かい傷がついている、年季が入ってる風には見えない写真の角を指でつまみ表の面をひっそりと捲り見る。
数秒写真を凝視して、呆気に取られた。
写真には僕と雪と。雄介の三人が馬鹿騒ぎしている時の写真をなんで八木さんがこの写真を持ってるんだ、雪はまだしも雄介のこと確実に知らないはず。
雪のことは過去のことは少しだけ話したことはあるけどどうして現像の写真を八木さんが持っていて、なんでそれを僕になんかわざわざ送ってきたんだ。八木さんの心情がどうにも理解し難い。
ふと考え立った。もしかしたら手紙の中に答えが書かれるかもしれない。だから僕は急いでばっと手紙を開いて読み始める。でも焦ってしまって読んだ字を読めば読むほどに忘れてしまう、さながら鳥頭であろうか。
一度落ち着くために胸に手を当ててから深呼吸を何度か繰り返す、下唇を噛んで脳を空っぽにする
心臓は早鐘を打ち続けて血液が全身をくまなく移動していくのがわかる。全力で生きているんだってわかる。わかってしまう。
もう一回。大きく。息を吸う。
「はぁぁ……」
…そして吐く。
胸に当てていた手を紙を掴むことに役割を割り当てて僕は字に目を向ける。
焦りは未だしばしば存在してる。けれども先よりはマシになった。
そこには数々の字が書かれていた、淡々と字が綴られている、この書き方八木さんの字。微かに八木さんの家の匂いがする、なんとなく落ち着く良い匂いがする、八木さんだって忙しいだろうに。そっと紙を撫でる、昔からの癖だ。どこか不安を感じてしまうとすぐに紙を摩ってしまう。案外安心するんだ僕なりのストレスの発散方法、きっと今も無意識に不安を感じてるんだ。だからこうして指の先で紙の凹凸を摩ってるんだ。
香。お元気ですかもう長い時間会えていませんね、体調を崩したりはしていませんか、
しっかりとご飯を食べてしっかり寝て楽しく過ごしていてくださいね。
大学はどうですか楽しくしごせてますか?
新しい友達はできましたか新しい環境だったりしますけど休みの時はゆっくりしていてね。でも休み過ぎてもいけませんよ、しっかりとメリハリを持って規律正しい誰にでも親切で悪いことはしないでね、誠実で優しい子のままでいてください。
私は貴方の本当の母ではないけれど私の心の中では貴方は大切で立派な愛おしい息子なんです、血だけが繋がりじゃない思いも出来事も
出会いも全てが家族としての繋がりとしてあるって私はそう思ってます。だからこそ貴方が大切なんです、また暇な顔を見せにきてね。
最近は私が暇になることが多くて少し退屈なのでいつでも帰ってきてね、香。
そうそう、貴方の友達だって子と出会うことができたの。
私が言うのは違うかもしれないけれど残念だったね、全てを話してれなくていいでも鎖に繋がれてるみたいで何だか可哀想で、私なりに色々調べたりしてみたの、通っていた学校とかに電話してみたりしてね、私にできることはこれぐらいだからせめて貴方の力になれたらなって
貴方の担任だったって人が出てくれて、そこから色々聞いたわ、本当に大変だったわね。お疲れ様。
だから少しでも楽になれたらって、
それで、貴方と親しかった子がいるって担任だった人がその子に連絡してくれてね、
この写真を頂いたの。
貴方が持っていた方がいいってそっと渡してくれたの、驚いていたのよもうこの世にいないもんだって思ってたみたいで、だから何度も言うようでもう訳ないのだけど、もし暇があったらその子にも連絡をしてあげてね、名前は確か、ゆうすけって子、漢字は聞いていないから、わからないけど、もし心の支えが必要になったら帰ってきてね。悲しくなったらいつでも電話してね。
八木より。
口を手で覆い荒い息を殺そうとした。
動揺が全身に走って、呼吸が浅くなり眩暈を動悸を起こしてしまう。
八木さん……。
こんなにも僕のことを思って心配してくれてるのか、僕がどこで産まれたかどうかも八木さんは知らないのに、どうして僕なんかの為に会ってからまだ間も無いのに。碌でもない僕に気なんて使う必要なんてないのに。
でも、それよりも…………。
走馬灯のようにあの日があの日々がぐるぐる回って回って頭を殴って。潰して。声にならない声は喉に何か詰まっているみたいで呻き声しか唸り声しか唾液混じりの枯れた声が小さな無機質な部屋に溶け出して飛び出してる。
さっき思い出していた事とは違う。楽しかった幸せな思い出だけじゃなく嫌なものも思い出してく。
忘れていた訳じゃない。あの時の学校の事とか諸々を無かったことにしたい訳じゃない、鮮明に思い出すほど強く感じてしまうといつも最悪の気分になる。祖母や叔父、みんなの事を思い出す。
あの頃の夢、時々見て鮮明に繰り返してしまう。その度飛び起きて汗をかいて泣いて吐きそうになる。
手は微量に震えてるし動機も尚更止まらない。
とりあえず何か飲み物を摂らないとと思い台所へドカドカと蹌踉めきつつも走る、冷蔵庫を勢いよく開ける、そして中にあった飲みかけの水を勢いよく取り出して必死に飲み干す、溢した水なんか気にせずに。喉にキンキンの水が通っていく、急に入ってきた水に内臓が対応し難く逆流しそうになるのを必死にそれを止めてむせ返るほどの勢いで喉を通過して脳が漸く正常に動き始めた。軽々しく内臓がびっくりして躍動してるのがわかる。
気分は些かどんよりとしている、断然良い気はない。
誰かの声も度々響いて耳がモスキートーンで埋まってく。
はあはあと荒い息が溢れ出してくる、気持ちの整理が何処までも追いつかない。
泣きそうな声で成らない声で、何かに縋ろうとした声。ならず者の僕の声。
膝から崩れ落ちて床に額を当て悶えてる。
「何で」
落ち着いてと喝を入れてもそれが即座に上書きされて飲み込まれて行ってしまう。何処までも付き纏ってくる。
おちつかないと。
…。。。。。煩い!!
雑にがなりの効いた声が部屋に響いた。耳鳴りがする、キーンと鼓膜に轟いている、このアパートは壁が薄いけど近所迷惑とか正直今はどうでも良かった。
自分の脳で気持ちの自分を圧させつける、けれどもそれは収まることは知らず済まずで常に全身を走っている。下唇を噛んで跡が残るほどに噛み締めて
最終的に血が流れてきた。
額を床に何度もぶつける。叩きつける。何度も叩きつける。
僕はギロっと段ボールを見て立ち上がる。
何かに物に当たりかった。気を紛らわせたかったんだと思う。ダンボールを勢いよくすごい強さで蹴り上げようとしてダンボールに全力で駆け寄る、けれども寸前で足を止めた。
でもこれは八木さんが僕にくれたものだ、蹴ってそれを見られたら何を思い僕に言葉を発すのだろう。僕はまた見放されてしまうかもしれないまた一人になってしまうかもしれないとやっと冷静に気持ちが働くようになってきた。
銅鑼が鳴り続ける身体。モヤモヤがあれどこれは八木さんが善意で僕にくれたもの、バチが当たってしまうとそう思って蹴るのはやめた、というか物に当たるのはいけないことだって教えてくれたのは雪や八木さんだし、十中八九怒られるよな。
冷静になった。気持ちが平坦になって心底脳が空になる。
心臓が何処となく満ち満ちて鳴っている、これはアドレナリンが出ているのか。何なのか。ハイになってる、多分今頭蓋を割られたとしても存外痛くはないのかもしれない。痛いことに変わりはないだろうけど。
とりあえず、今は少し休もうか。寝よう。
基本的にあまり動いていないのに果てしなく疲れた気がする、本当に吐きそうだ、寝れるだろうか。
暑い、汗をとてつもなくかいている、嫌な脂汗だ、エアコンのスイッチが切れている。床に落ちてるリモコンを誤って気付かぬうちに踏んづけて止めてしまっていたみたいだ、リモコンを手に取り再びボタンをそっと押す、ピッっと不思議な電子音が部屋に鳴ってエアコンが違和感のある音と共に再び起動した。ゆっくりと動き出し、涼しい風が肌を掠める、すごく心地よい風が僕を冷やしてくれる。
リモコンを棚の放り投げてから再度、布団に寝そべる。
目を腕で覆い光を妨げる。
「何してんだろ」とガサガサな声が出た。手をぎゅっと握って一人で後悔していると視界はすぐに曖昧に暗くなってく。やっぱり疲れているのか、あまりにも睡魔が襲うのは早すぎる。
意識は深海の底に落ちてく泳ぐことを知らない身体がそのままぷかぷかと意も唱えずに澱んだ気持ちと共に落ちていった。
雪。。。
………君に会いたい。
最初このエピソードだけで20000字が超えそうだったんですけど流石にそれで出してしまうと他のエピソードが短っ!!って陥る可能性がすごかったんでしばし短くしました。ほんとに香くんの心情をどう書いたらいいか難しくって何回も書き直して今に落ち着いてる感じです、でもこれでも及第点の一歩手前程度でもう少し上手く書けるんじゃないかなとかもっとポテンシャルを引き出して書けないかなとか。必死こいてたんですよね、だけど満足いかないって駄作にはしたくないんでとりあえずは掲載しようとそれでも自信作と呼べるものを徹底して書いていきたいですね。登場したばかりの八木さんなんですけど構想時点では腹黒い感じにしたいなとか思ってたんですけど、
正味それだと人間味が増しすぎてキモすぎるなとなってやめました。八木さんはとてもいい人です。覚えておきましょう。あんまり出会ったことないんですよね、こういう底なしに優しい人ってほんとにいるんですかねそう言う人っているなら是非とも友達になりたいもんですよ。
てな感じでやっぱり後書きやっぱり楽しい。話したいこと基本なんでもここで話せるし独断上だし自分の世界って感じすごい好き。自分語彙力が欠けている部分がまだどこかいるんで小細かな部位を少しずつ克服していきたいなってこの物語を通して少しずつ趣味程度の作家だとしても人間の一人として成長していける様精進しましょうと目標を決めてがんばります!。




