表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花盗人  作者: 楠ゆう
1章 二枚舌
3/3

2。君と僕、

          久梨原香…中学。


 瞬きの。ふと目を開ける瞬間。本当に一瞬だった、流れ星が当座(とうざ)から姿を消すみたくに鼓膜から音を吸い取るのようなその刹那(せつな)であった。

 眩しい光りが角膜を目黒を揺らがしたのだ。景色が変わり身体が軽くなったように感じる。肩の痛みも首のだるさもなく背中に翼が生えたみたいに心地がいい。絹糸にでもなれた様な気がする。

 学校の校舎。廊下に唖然と立ち尽くしていた。

 どうして僕はこんな所で突っ立って居るんだろう。ふと後ろ向くとそこには男子トイレの扉があり手が少し濡れていた、これは僕がトイレから出てきた直後だと安易に予測出来た。

 一つ息を吐いて無心で足音はしばしばに歩き出して僕は廊下を進んでく、知らない数人の横を何の貶しに抜けて前だけを見つめてくそして一つの教室の前へと止まる「懐かしい」と言葉を脳のどこかでふわっと現れた

 何でなんだろうか。

 一年三組の扉の前で立ち竦む。何かを考えるわけでもなくそのわずかに傷のついた引き戸を眺める、そして何を思ったのか振り向いて窓を覗く。反射した窓越しに僕を見る、少しばかりに縮んだ身長にハリのある肌。空は曇っていて風がどこか吹き騒いでいる。そっか。

 僕は。中学一年久梨原香(くりはらこう)としてここにいる。

 閉まっていた教室の引き戸をガラガラとは開けず音が小さくなる様、極力加える力を抑えて慎重に開ける、

そっと教室内へと入っていく。空気が割れている、ヒビから残風(ざんぷう)が侵入し辺りを冷たく張り巡らせてる。

 向かう標的は。はなからとっくに決まっている。僕はそっと自分の席へ向かう。誰かの机と椅子を避けて進む。クラスメイトの横をいくつか横切る。見る見ないの判別ではなく多分認識されていないんじゃないんだろうか。

 自分達の周囲を目で微かに見えるほどの小さな虫が横切ったぐらいの

何の脅威にもならないから放っておこうかなとか思っているんだろう。それとも考えているのがただひたすらに無関心なだけなのか。本人たちに聞いてみようかそんなのただの煙か。

 僕は自席の前へ着くとそっと椅子を引いていつも通りただ座り沈黙に沈む。

 ただ今日も。ぼっちで机は真ん中あたりの方だけど僕の周りには人が来ないそこだけぽっくり穴が空いたように何もいない。いるのは僕だけ。

 何者でもない僕だけが穴の中心を支配してる、なんでこうなってしまったんだろ。

 肌寒いな…。

 今は四月の二十八日、もう暖かくなり始めるはずなのになぜだか未だ寒さが残り続けている、もう少しの辛抱なのかもしれないが(いきどお)りは積もるばかりだ。

 効きの悪い暖房のおかげで寒いし制服は学校か店がケチってるのか少々布が薄いものでなおさらに暖かさが心細く感じる、この微妙な寒さが嫌だ。いっそのこと大雨でも降ってくれたらいいのに。そしたらこの寒さにも納得がつくと思うのに。

 クラスのみんなはセーターだったりネックウォーマーや手袋で寒さを凌いでいる様子が窺える。僕にだってそういう類のものはしっかりと手にしてる、母が買ってくれたものが家の中自室のロッカーか箪笥(たんす)か何処かに保管されているはずこの時の僕は子供だったから。

若かった。若気の至りで勘違いが過ぎていたのだろう、多分だけど一種の軽い厨二病か何かだったんだろうな。

 それともただ寂しさを紛らわしたかっただけか。

 きっと自分を強く見せようとしていたのかも知れない。こんなじゃへこたれないぞとお前らとは違うと思い知らせたかっただけかも。まっ見向きもされないんだけども。

 周りは何事も無く話を続けたり遊んだりしている。中には勉強をしてる子もいる、「昨日のテレビの番組どうだった」とか「昼休み何して遊ぶ」だとか「あのお菓子すごく美味しいからオススメだよ」なんて声が聞こえる。聞き耳を立てていることは申し訳ない反面、暇を紛らわすための行為が思い当たる限りこれが一番だなって。

 そんな中僕は机の引き出しから一冊の小説を取り出す「メメント・モリ」というどこにでもある普通の本。

 あまり分厚くはなく肌触りが心地いいからとてもお気に入りだ、することが無い時とか何も考えたく無い時とか、安心したい時そんな時によくこの本を触っている。ペットを愛撫(あいぶ)するように丁寧に丁寧に触る。そのぐらい大事なんだ。けどどれだけ大事にしていても傷はついてしまう、角は潰れていて丸みがかっている。これについては仕方がない、いくら慎重に扱っていてもついてしまう物だから。

 もしこれを無くしたらきっと半年寝込むことだろう。でも大切だってだけでこの本が好きだって訳じゃない、特別内容が面白いとか僕の心に深く刺さったとかそんな大層な理由じゃない

だけど好きじゃなくとも大切だから今日もこれを持ち逸独(いつどく)し読む。

 この本が大事なのには理由(わけ)がある。これは初めて父が買ってくれた本で最初で最後の形見みたいなもの、父が死んだ後父の使ってた腕時計とか高そうなお財布とかも貰った。だけどそれは祖母に取られてしまった「高そうだから売れる」とかで「子供がこんなもの持ってても意味ないだろ」とか。

 そんなことを言われて。最終的に残ったのはこの一冊の本だけで。祖母に聞いたら「そんなの売れるわけでもないから捨てちまいな」なんて言われる始末だった。だから僕は祖母が嫌い。

 嫌いと一存してしまうのはよくないものなのかもしれない。でも嫌い。その前から苦手意識はあったけれどこの出来事以来めっきり祖母のことが嫌悪の対象として認識する様になって、弱い僕を餌に別に大きくもない素朴な獲物ばかりを獲って祖母は誰かに自慢してる、高らかに自らが一人で獲ったものだと豪語するように時計や財布を誰かに見せていたのを度々見かけたことがある。でも少ししてからそれを見なくなったからきっと売られてしまったのかも知れない。

 だけど母の前では祖母はすごく優しくて母の前じゃ何をしても怒ったりしないしすごく穏やかだった、別人が憑依でもしてるんじゃないかって拝察してしまうほどだ。

 でも母が目を離すと一気に形相が変わりとてつもなく怒鳴ってくる、隠していたストレスを発散するかの如くビンタをしてきたりゲンコツなんかして来ることもあった。そんな事でよく泣いてる僕を祖父はそっと慰めてくれた、お菓子をくれたりお小遣いをくれたりたくさんの優しさと温もりをくれた。確立した幸せで僕は祖父が大好きで、祖母を見る度に脳裏に過ぎる、祖父はなんであんな人と婚姻を結んだりしたのだろうか。どうしてあんな人を選んでしまったのだろう。それはきっと祖父にしかわからない何かがあるのだろうけど如何せん理解が遠い。

 まだ子供の僕じゃ知らない、大人だけにしかわからない何かが存在するのだろう。

 そういえば祖父の機嫌が悪い姿を僕は見たことはなかった、一体どんなふうに叱るんだろう。

 少し。気になるな、

 そんな祖父も今では寝たきりで長いこと会えていない。

 生き生きとしていた祖父は、久しぶりに会うたびに疲弊していっているように感じる、顔色も体格も何処か弱々しく目に映っていく。

 元気になってほしいけれど寿命でもう仕方がないって担当医から聞いた。幸い悪い病気だったりで苦しくなるような事はないみたいで、それだけが喜ばしく思う。

 お見舞いに行ってあげたいのは山々に一人ではどうも行けない、場所は知っているけど足がないんだ。

 市をいくつか跨いでいるもので歩きじゃかなり時間がかかってしまう、片道だけで半日は掛かるんじゃないかな。

 僕はそれを父に言ってみた、「祖父に会いたい」と。

 父は笑顔で「それじゃあ一緒に行こうか」と答えてくれた。だから父とは頻繁とはいかないが一緒に祖父のところに遊びに行ったりお見舞いをしに行って日々の重圧に耐えていた。

 それが何より楽しくて何よりの幸せで、疲れが無くなるくらいに、無視なんてされることなんかどうでも良くなるくらい嬉しくて

僕を元気付けてくれていた。父と母も優しくて心の拠り所で生きているってそう思えていたんだ。

こんな日がいつまでもどこまでも続いてくれるんだってずっと思量(しりょう)にあった。

 

  でも父は先日他界してしまった。

 

 唖然と身が強張り喪失感を伴ったのを深く覚えている。

 いつも近くにいる人がこんなにも簡単に亡くなってしまうのかと深く感じ喪失感と失望感を目の当たりにした。テレビとかで人が死ぬニュースは底となく見てきた。でもそれは身近な死なんかじゃない。どこか誰か知らない死んでも哀しくはならない愛入れない何かでしかなかった。でも今。身近に人が死んだ。しかも父で一人の家族。

 死を受け入れられなかった。何で父さんだったんだろうって何で僕の知らない誰かじゃなかったんだろうってそう最低にもそう考えてしまう。

 父が死んでからというもの母はどこか変わってしまったように思う。優しくて良い人だったのにもう周りが何も見えていない風に感じて、母は今暗闇を彷徨っている。

 死因は事故で車と車での衝突事故。裁判では父の運転が最悪となり賠償請求は僕ら家族の方に請求されることになった、保険にも入っていたのけれどそれじゃあ到底賄いきれないようで幾らかの詳細は子供の僕には聞かせてはくれず、聞いてないから分からないけど相当な量だそうだ。でもきっとそれは当然なのかもだと頷いてる。

 最低だけどこちらは父一人、相手は三人なんだから三十代ぐらいの女性とその息子さんとその弟さん、相当大きな事故だったようで大きなニュースになっていた。テレビを見てなかったから父がどう映っていたか知らないけど。周りの反応を見るに相当悪い書き方をされていたのだろうきっと多分恐らく、確証はない。

 死んだ父はどこに逝くのだろう。天国って相当いい場所なんだってさ。知らないけどさ。行ったら、帰ってきたりしないじゃないか。

てことは楽しい場所なんだろうな。

 人を殺した父はきっとそんな場所には行けないんだろうけど。

 

 葬式を終えて一二週間経った辺りだったと思う。記事を読んだ。父の部屋にあるパソコンで気になり調べ見てしまったんだ。


 未来ある子供を殺した犯罪者。


 容赦のない刃が飛び交っている、ネットでは晒し者。母も僕も、そして当然父もだ。

 学校はバレ、住所もバレ、顔も。何から何までバレてた。目を見開いたよ。こう簡単に地の下まで崩れを落ちてしまうんだと。

 記者やテレビの人が長い事張り付いていて、本当に鬱陶しくて気持ちが悪かった。なんの取れ高も無いとわかるとすぐに居なくなったけども。

 でも大変だったのはその後。どれだけ今が地の

地だと思ってもそれは最初に過ぎないから。

 クラスは一時期その話で持ちきりとなっていた。仲が良かった子からの視線と笑顔は少しずつ僕から遠くなっていった。クラスの中心だったって訳ではない。でも人並みに馴染めていたって思ってる、思ってるだけかもしれないけど、

感じたことはあるか、いつもの日常が次の日にはもうない地獄を。考えたことはあるか。追い詰められた人間の心身とその儚さを。日本語は表現が所作が美しい。だからこそより痛みがひどく残り続ける、平凡を突き詰めるということは穏やかしか知らないんだ。ましてや若い者と匿名の場となれば必然と言ってもいい。

 何を言っても許されやしないのに、彼らが間接的に殺人の道理として動いていることを理解できていないんだ、平和ボケしているからこそそこを快感につけ込まれる。

 父なんかよりもよっぽど悪で人を殺しているのはあいつらなのに。誰もそれについて咎めたりしないで野放しで放置のまんま好き勝手させている。なんであいつらばかりが幸せを享受してるだろうか。それでどうして僕らは上を見上げて見下ろしているあいつらに怯えないといけないのだろう。

 

  ……………嫌いだ。

 

 今じゃぼっちみたいなもので少し寂しいと感じてしまう時が増えてしまった。

 その中には僕の初恋の人がいた。”いた”だからもう過去形となってしまったのだけど。

僕の好いていた人がみんな死んでいく。事実的に死んでいるわけではないけど。

 ただ僕の心から消えてしまっただけ。

 だからこそこの本が好きなのだ、無機質なものは死んだり逃げたりしない。父さんがそっと優しく撫でてくれてるようなそんな気がするから。

 撫でていた手を止めて僕の膝の上に本を置き丁寧に本を開く、これまでの話を脳に思い浮かべて話を整理しパラパラと紙を捲り栞のあるページまで進む、ほんの匂いがほんのりと鼻を掠める。木の匂いというのか定かじゃないけど心地のいい匂いがより一層、没入感を加速させてくれる。

 ほっと息をついてから一文字づつその本の文を解読するように、なだらかに読み進めてく。

      僕はこの本の主人公になれる。

 

          :メメント・モリ:


 森の中にオオカミと私はいる。

 暗い暗い森の中月光が辺りを照らして草達が微々と靡いている。鈴虫の音の内で私はオオカミに一つ言葉を問う、小さく吐息を漏らすみたく。

 「ねぇオオカミさん、名前を教えて」

 「聞いてもきっと意味なんてないさ」

 私が言葉を言い終えるとすぐに突き放すかのように言う。

 オオカミは今にも死んでしまいそうなほどに息が浅い、身体からはダラっと血が流れ出ている。人とは違うオオカミと人の血の匂い。鉄のような鈍い匂い、錆のような普段では嗅ぐ事なんて到底できないそんな匂いが周囲をドクドクと満たされている。なんていうか独特で嫌な匂いじゃない。私と同じ匂い。

 そっとオオカミは私の髪を撫でた。

 「私こんなにもオオカミさんとずっといるのに名前教えてもらってないよ、私だけだよ。

それならなんで私に生き方も笑い方も泣き方もどうして教えてくれたの」

 撫でていたオオカミの手を握って少女は問う。その手は暖かかった。体温だけの話ではない、心というのだろうか願いや憐れみの憂いのような何か。ザラザラしていて爪は鋭い。それでも綺麗に整頓された長さの黒い爪は、しっかりと手入れが施されているという証明でもある。でもこれだけ暖かいのだと思うのに何だか何処か冷たい。

 「私これからどうしたらいいの、オオカミさん。貴方がいないとわからないよ、これからどうしたらいいの」

 山吹色の目が真っ黒の空の中に浮かぶ満月のような黄色い目が私を見つめてる。

 「キミは強いから大丈夫、好きなように生きていい。これは君の人生だ。どこへでも行くと良いさ、ワタシがいたら不便だろう?きっとこの先も楽しいはずだから。

 だから仕方ないんだよ、キミは強いだから平気、さぁ手を離して逃げなさい

…………逃げなさい。」

 遮るように私は大きな声を轟々と漏らす。

 「やだよ。一緒!一緒に居てくれるってオオカミさん言ったもん、私は無理だよ……。」

 するとオオカミの口角を少々あげて私の手を振り払って言う。

 「イファ、ワタシの娘、逃げてイファ、どこか遠くへ」

 オオカミはイファの手を引っ張り、力強くイファを抱きしめた。私は名前を呼んでもらえたことによる驚きで頭がすっからかんとしてしまった、その時オオカミは小さな震えた声で私にそっと耳打ちをした。

 「ワタシの名前は。ルパだよ。イファ、さぁ、お行き」

 そう言ってルパは私を突き放した、思いっきり。痛みを感じるほど強い力で。私は地面に尻餅をついてそれからルパを見る、するとルパは空を見ていた、暗い暗い深海みたいな淀んだ空だった、月は綺麗だった。

 大きな満月が空を食ってしまったようにそこだけまん丸で凛々しく光っている。

 ルパの目にもその月が凛と映っていて大きく息を吸い込んだルパは雄叫びのような強くて雄大な遠吠えをした、耳がキーンとなる、とてつもない音圧で周囲が揺れ木々が溢れる、当然私の耳にもそれはかなり響いた。耳を押さえてどうにか身体にくる衝撃を抑える。ルパの雄叫びは雄弁にそれでいて何か美しい

恐ろしいはずの遠吠えは悲しみと辛さに悶えて叫んでいるとそう感じる。

 「ルパっ」

 私の声なんてかき消されていてルパには聞こえてはいないだろう。遠吠えからは「私はここだ、ここにいる、ワタシを殺してもいいだからこの子は殺さないでおくれ」と言っているようで切な遠吠えに深く身体が揺らぐのがわかった、それに答えるように私は必死に走り出す。

 私は走るどこか遠く誰も知らない場所を探すために私は逃げるどこか未開の私だけの世界を探して。

 生き物はいつか死ぬ、自分だっていつか死ぬんだ、それを噛み締めるように。私は走る。この果てのない森の中を精一杯、足が砕けるまで、死ぬまで、命の灯火が尽きて灰になってしまうまで。目先の見えない運命を握ってく。

 泥と血と、草の匂いが、全身に伸し掛かる、私の今日は次の日には過去になってしまう、それでも。それでも。

 生きたい…


 「何読んでんの?」

 僕の背後から急に肩に手を乗せられ声をかけられた、集中してそれ一点だけをずっと見続けて没頭し本を黙読してたものでかなり驚いた。肩がビクッとなって咄嗟に振り返る。けれど不快な声でも嫌な雰囲気は感じることはなく、それどころか嬉しさすら覚えるものであった。

 振り返り目で認知する。するとそこにいたのは雄介だった、倉岩雄介(くらいわゆうすけ)。ザっ元気な少年って感じの短髪刈り上げ頭の彼は。僕の父の話を聞いてもそんなの「関係ない」とお前はお前だ。と分け隔てなく接してくれる。良いやつだ。これだけでも恵まれてると言えるのかもしれない。

 僕は笑顔で雄介に言う。

 「何読んでるでしょう」

 僕が雄介に問うと雄介は僕の読んでいる本のページを見てから厭う(いとう)ように言い放った。

 「んげっ、また字の多いの読んでんじゃん、頭おかしくなりそう大丈夫か?頭おかしくならないんか?保健室とか行く?」

 「なんてな」と冗談混じりに笑い全開で雄介は猫背で本を読んでいた僕の背中を摩る。

 「こんなんじゃ頭おかしくなったりしないし、もしなったとしたら国語の授業とかどうすんのさ、それに雄介はもっと勉強をしなよ、まだいいけど高校とか受験大変になるんじゃない?」

 「平気平気、だってお前いるじゃん、やばくなったら助けてくれよ、お前は心配性すぎだし頭ん中大人すぎもう少し香は遊んだほうがいい。勉強好きの化け物め」

 「僕だって勉強は嫌い。というかあんまり勉強しないし、やばそうなら助けるけどさ、自業自得なら手を貸すの諦めるかもだからね」

 「嘘だ!そう言って家では勉強しててさ、テストの時とかに自慢してくるんだろ!俺は勉強はしない!楽しく生きるんだ今だけ見てくんだ!」

 雄介は胸を張ってバカなことを言う。

 「んなことしないよ。今までだってしたことないでしょ、そんなこと、それにんなことして雄介がもう話してくんなくなったら僕ほんとにひとりぼっち、なるじゃん、嫌だよそんなん、これ以上は勘弁だよ」

 「それもそっか、感謝しろよー俺にこの雄介様にな!、ハハっ!」

 そう高笑いをする雄介の声はかなり大きくて教室中に響いていた、それを鬱陶しく思う子いるのだろう、睨んでる人が何人かいてそのほかは無視気づいてないわけはないから、本当にお気楽で良い性格をしてる。

 いいな元気そうで。

 「少し声大きいよ、迷惑になるんじゃない?それじゃあさ」

 「いいのいいの、いつもの事じゃん?今更みんな気にしないよ」

 「確かに…。、とはならないな」 

 自信満々に雄介は僕の肩を叩いた。力加減がなってない、少々痛かった。跡がついてしまいそうだ。

 「そうそう!放課後、都姫(さつき)なんかと遊ぶけどお前もくる?くるなら話しておくぜ」

 僕が行ったらきっと雄介が今度を迫害されるかも知れない。僕のせいで人が悲しむのはごめんだ。せめてでもこんな気持ちの人は増えないでほしい。雄介だけはいい人生を送ってほしい。いいやつだから。

 「いやー僕はいいや、迷惑になってやだし、僕が行ったら白けちゃうし、楽しんで来なね」

 僕は笑う。でも嘘はついてないから。本心だし彼らとは正直遊びたくない。

 「な事ない!でも!お前が嫌そうだからやめといてやる、感謝しな!」

 「はいはい、ありがとうね、雄介くん」

 ふざけてくん呼びをしてみる。

 「君呼び禁止ってこの前言ったろっわかんねーなぁ」

 「ごめんごめん、もうそろ授業始まるよ、雄介」

 「うしそれでいい、俺は戻る。」

 雄介は元気な足取りで悠々と戻っていった。僕はそれを見届ける。するとタイミングがよく学校のスピーカーから大きな音でチャイムが鳴った。

 教卓の方で授業の用意をしていた、石倉(いしくら)先生が教室全体に聞こえるよう声をかけた。

 「ほらぁ、みんな座ってー授業始めるよー」

 みんな聞き分けよく「はーい」とだけ言って自分の席に戻る。みんな各々授業用ノートとか教科書とかを引き出しから取り出す、カツカツ、コツコツと音が周囲で放たれている、シャーペンの芯を出す音、ノートのページを開くペラって音が全方位から鳴ってる。

 …次の授業、なんだっけかな。さっき数学だったから、、理科だったっけな

面倒だ。理科は苦手なわけではないのだけど、眠くなるんだ。退屈で気分が上がらないんだ。理系でもなければ文系でもないものだから、正直何をしても眠たい。

 「それじゃあ日直の人、号令お願いします」

 「はい」と高らかに声をあげたのは、江野(えの)さんだ。江野さんは「起立」と教室全体に声をかけて授業の号令を唱える。異を唱える者おらずただ皆が一斉に椅子から立った。もちろんその中には僕もいる。

 「礼」の合図とともにみんなが頭を下げ、再び皆席に座る。規律が正しいと言うのか、根っからの日本人というべきなのか。そこの部分は全員が誰がどれだけ尖っていようとそこを(たが)えることはない。

 平凡な授業が一斉に開始された。

 どれだけ時間が経過して行ったのだろうかと僕は時計を目でこっそり見る。そして手に持つシャーペンを止める。

 時間が経つのは早いものでもう授業は終盤の方に差し掛かっていた。困ったものだ、授業の内容があまり耳に入っていかない。耳から耳へと抜けていく感覚、と言っても多少なりとも覚えてはいる。基本断片的であやふやな文言だけが頭脳に飛び交って飛散してる。

 テストがこの先あるし覚えておかないと後々嫌な思いをする。何を話していたかなと思考を巡らせつつノートに書かれてる字を少々眺める。

 先生は飄々と授業を続けている。僕らの方には目をくれずチョークで黒板に白い単色を書き綴っている。

 「…………なので、この紋白蝶が幼虫から、成虫になったり、カブトムシやクワガタがあのような姿になるという訳です、そしてこの名称を変体といい、自然界では様々な生物がこの変体を行います」

 周りでは、ヒソヒソと、

 「私、マジ虫無理なんだけど」

 「うわーキメー笑」

 「授業つまんなーい」

 「変体だってよ、変体だってよ笑」

 「ちょっと男子煩いよ」

 「てかガチ寒い」

 「本当に春ですかってこれ」

 「帰りたい」

 ガヤガヤと周囲から声が喋る仕草が聞こえる。

 僕は淡々とノートに字を取ってから空きスペースに落書きをする。けして上手ではないけれど、誰にも見られないし別にいいかとあっけらかんとしてる。世界は決してひとつじゃないから、大袈裟にしてしまえば人の数だけ世界は存在するんだ。一人一人の脳には思考と秩序と(さが)が生きてる。それらが混じっていくつかの世界が描きに足されてく。

 ノートには先の本で読んだ、オオカミと少女を描いたり、先日見た漫画のキャラだったりを描いて時間を潰している。

 「それじゃあ、これでここの範囲は終わりなので次の授業は四二ページの電気と発電についてのところをやるからねー。できる子は予習しておいてください」

 するとまたしてもタイミングが良く授業が終わる。先生は教科書を閉じて号令の合図を出そうとしてる。

 今のが四時間目終章の合図つまり次は給食の時間だ。

 億劫だな…。給食は配膳係とか用意係とか分かれていて基本的人と接しないとやっていけない、今の絶対的なお遊び喰い物状況において僕と接してくれる子なんていないものだ。

 嫌なものを見るかのように汚いモノを見るみたいに僕を拒絶するように接してくる。

人間は異分子を極端に嫌う。だから同じ線路から片足はみ出て外れた僕をみんなが嫌悪する。

 そんな一面だけを見る子は僕だって嫌いとお声を大にして言ってやる。はなから願い下げってやつだ。

 石倉先生は「みんな仲良くしてあげて」とか「いじめはダメだよ」って言うでもそれだっけ結局は他人事、みんな口耳(そろ)えて「はい」で終わってそのあとまた元通りの無視が続行。前までは多少なりとも好きだった学校が今では苦になってしまった。

 学校行きたくないと以前母に言って見たのだけど「それでも行け」って「私だって忙しいんだ」って「少しは現実を見ろ」って。その度に背中に重荷が増えていくみたいで少しぐらい優しくしてくれてもって考えてしまう。でも当然だった。考えたらわかるような事だった。

 父が死んで色々書類を書いたり役所に行ったり。だけどそれでも欲しかったんだ、少しでもいいから欲しかったんだ。残念ながら僕は強くないのでね。

 母の父の。人の暖かさが。少しでもいい。

 たった一言だけ、温かい言葉が欲しかったんだ。それだけだったのに、母なりの優しさは余裕のある時しかくれない。それってただの哀れみでしかないんじゃないだろうか。唯一の祖父のところにはもう行けない、

だから捌け口なんてもう。どこにもないんだ。道はぐんと狭くなってしまったようにふらつく。

 相談できる相手なんていないし。もういっそ雄介に話してみようか?

話してしまおうか。………

 いやそんなことしたらきっと離れていってしまう、なんてめんどくさい奴なんだって、きっとその場から僕のそばからいなくなってしまうだろう。雄介は絶対にそんなこと言ったりしまいとわかっている。

 わかっているけど、もしもがあるだろ。万が一を引いてしまったらどうなる?簡単さ。

ほらもうひとりぼっちさ、誰もいない見向きもされない、誰にも触れられないいじめてもくれない。

 たった一言でも、たった一度。抱きしめてくれるだけでよかったのに。褒めてくれさえすれば少しは楽になれたかもしれないのに。

 

 なんで、僕ばっかり。


 たった一度の過ちが関係を無に期してしまうなんてましてや僕のせいなんかじゃないのに、父さんが事故なんて起こさなければこんなことにはならなかったのに。幸せを享受して成就(じょうじゅ)していたかっただけみんなと同じ世界をみんなと一緒に居たかったのに。

                  父さんなんて……。

 「父さんなんて…………」


 最悪だ。こんな事を思ってしまう自分が。


最低だ。最悪だ…。


 簡単にいなくなってしまうなら最後まで優しさをくれないのなら最初から居ないで欲しかったのに

手なんて差し伸べないでくれよ、最初から誰も居なければ。暖かさなんて知らなければこんな事にならないのに。弱い部分が弱くなって強い部分が蓋されてく。

僕ってこんなに性格だったんだ。と自分を俯瞰したつもりじゃないけど。止まって欲しいと頼んでも時間は止まっても戻ってもくれない。「今を精一杯」ってそんなん戯言だって思ってしまうのはいけないことなのだろうか。

 綺麗事っていい事なんだろうか。そんなんは金にもならないだろうに。まぁ悪いことをするよりはマシなんだろうけど。


       久梨原香…昼休み。


 お昼休みになった。給食には手が一つとつかずと過ぎた。てか教室に僕はいなかったので食べれるものもない。給食費を払って貰っているというのに申し訳ないとは思う反面にそんなのどうでもいい。だって誰にもその事について僕を咎めたりとか心配の念を込めることなんてないんだから、居てもきっと給食のトレイを置いてすらもくれない。ずっとその場に居ない亡霊でしかない。咎めたり叱ったり叱責する以上に僕と話したくないんだろう。

 先生は見て見ぬふり。大人だなと心底思う。

 「あぁだるーい」

 だから僕は今学校から抜け出している。もちろん昼休みが終われば戻る予定だ。おっぴろに背伸びをして涙が少々出るほどに欠伸をする。

 「眠たい、」

 僕は最近はいつもここにいる、校舎から出て歩きでほんの三分程度で到着する。公民館の裏。

 ここは人なんて滅多に来ないから一人の時間を大事に満喫できる、それに学校のチャイムも聞こえるからすぐ時間通りに教室に戻れる。誰とも接さないで僕の世界をずっと繰り広げ練り上げられるそんなこの場所が今では愛おしく思えるようになった。

 夏は公民館を盾に影ができるから暑さを凌げる、太陽の日差しから隠れてるだけだから気温が高いとほとんど意味ないから暑いことには変わりない。それでも寒さは凌げないのでこの季節はかなり嫌いだ。この季節ってかこの時期に寒いのがもうおかしいのだけど。あとちょっとの辛抱だろう。にしても異様に寒い。如何せん気に食わない。

 そして僕はまた本を読もうと腰を下ろす。先と一緒の本、表紙を撫でながらゆっくりと胡座をかいてゆっくりと肩を下ろす。

 床のコンクリは冷たくてさらに身体の体温を奪っていく。少々身体が震えてしまう。こんな地べたで虫や動物はどうやってこと寒さを凌いでいるのだろうか。きっと人の知らない方法があるんだ、いい隠れ家でもあるんだろうか。

 本を開いて栞の所までペラペラと進みまた文章を読もうとした時だった。 

 「あれ、もしかして定員オーバー?」


 「は?」

身近にいる人って大切にってかなり簡単だけど難しいなって感じるんですよ。あと更新日は土曜日の予定ですが、29日水曜に一話更新する予定です。

んまぁ、大体土曜に更新してたのでお気づきでしょうけど。

色々追筆してたら結構文が増えました、書くのは楽しいけど良い気はしないです。僕は自分は善人ですと大袈裟に言う人は嫌いです、僕はいい人じゃないので。

善人か悪人は他人が価値をつけるものでもないけど

完全にセルフプロデュースされた僕は善人です、怖くないですよニコニコ。みたいな奴って完全に裏があるなって嘘ついてんだなって感じてしまってどうにも一緒にいても落ち着かないんですよね、利用されるんかなって裏では笑われてるんかなって考えるんですよ。

悪い癖ですけど、なんでもかんでも深読みしすぎてるのは良くないってわかっちゃいるんだけど

どうしても探しちゃうんですよね。

 最近だともう、嫌うなら嫌ってくれて構わないってスタンスが確立されてつつあるあので気にしてはいないんですけど、前はすごい気にしてましたね.

 気にしすぎは良くないってことです。

気楽にいきましょう、適当に知ったこっちゃないと、突っぱねてしまおう。

 後悔しない選択。大事だと思います。

それじゃあ。読んでくれてありがとうございます!。

また次で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
気になる終わり方、されまして……。 この時の香くんに寄り添えたらなぁってなりました。 大切にしたい人を大切にするために、まずは自分を大切にって感じでいってます!! 
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ