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花盗人  作者: 楠ゆう
2章 流星の燈

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3。バク #1-1

                  

           春花(しゅんか)祭り当日。

 

 「こら走るんじゃ無いよー」

 「元気だねぇ」


 走る僕を見て父と母は笑顔で(さと)す。大きな花道を楽しそうに両手を出して突き進んでいる。自分が飛行機になった様に道を占拠している、辺りの人は微笑ましそうに口角を微かにあげて僕を見ている。嬉しかった、誰かに見てもらえていると言うのが。誰かと気持ちを共有できている、同じ気持ちなんだ。楽しい、嬉しい、心地良い。そんな感情で満ちている。


 「あそこのお花すっごい綺麗、あれなんて名前なの?父さん!」


 目の先には赤、青、黄や白、桃色など様々な色をした花が咲き誇っており周囲はミツバチや蝶が舞っている、それを疑問に指差して物知りな父へと言葉を垂らした。基本何でも知ってる父、図書館みたいな脳をしている。僕にもあったら良いのにその記憶力。


 父さんは僕の側まで歩いてきて視点が僕と同じになるようにしゃがんでから言った。


 「おっ!あれか綺麗だなぁ、まるでお母さんだな!がは!!」

 「もぉ」と母が呆れたように照れ隠しと共に笑う。

 「香あのお花はアネモネって言うんだ、綺麗だろぉ」

 「あねもね?」

 「そう、アネモネ。確か花言葉が、、何だったかな。儚いとか期待とか他にも色々あったな、父さんバカだからわかんねーけど」


 優しくて強い少しガサついた手が僕の髪を撫でる。大人の人の。父の手の感触。「うーん」っと父は考えている、手で顎を掻き生えかけの髭をガサガサと触ってる。


 「確かあれじゃなかった?可能性、真実の愛とか。綺麗よね〜、ポカポカして春を目で見ている感じ」


 言葉を詰まらせた父を見て母が代弁して答える。僕はあまり理解ができなくて「ふーん」としか言えず、聞き流してしまった。聞いたのは僕なのに、それに答えてくれてた父の母には申し訳ないが思考が乏しいのだ。齢若干の八歳の初い脳にはあまりにも難しい情報で、僕の脳はフリーズ、処理しきれなかったのだ。


 元気な僕はどんどんと先に進み、これは!これはどんなの!と指差して聞いては次へ次へと目移りして子供ながらの想像力で尽きぬ遊びをし続けている。


 「あの子あんなに元気になって相当嬉しいのね、連れてきてよかった」

 「そうだねぇ。香最近元気無かったみたいだし。じいちゃん所行かせてあげられなかったから元気なってくれてよかった」

 「そうね」と母は微笑み、父母は各々の顔を横目で見て。そして二人は僕をみる。僕は遊ぶことに夢中で母や父が見ていることは気が付かなかった。


 噛み締めた幸せを眺めているようにその瞬間は夢見心地の様だったんあろう。何とも美しい、束の間の思い出。僕はずっと続いてくれると思ってた。いつまでも家族で楽しく笑顔を並べていれるとそう思っていた。今日も美味いもの食って、同じ屋根の下で寝て、同じ車に乗って帰って。だって誰だってそう思うだろ。そう考えてしまうのも仕方がないだろ、父が死ぬなんて家族が壊れるなんて考えたりなんかする人間そういないだろ。そうだろ。


 僕は振り向いて手を振る。「こっちー!早く早く!」と活気におんぶされた声で遠くにいる二人を呼ぶ。


 遅いよ二人ともそんなに遅く歩いてたら日が暮れちゃうよ。止まらないでよ。もっとあそぼ。楽しんで。


 「こら香あんまり遠くに行くんじゃないぞ、迷子にならないでね〜」


 この時の僕は祖母に叩かれ尽くした後だったから相当元気が無かった。だからこうして気分転換ができる機会が滞りなく嬉しかったんだ。あんまりこう言う機会はないから尚更に喜んでいたと思う。


 今になって思えば、どうして祖母のことを言わなかったんだって少し後悔をしている。言っていたら多少は道は変わっていたかもしれないのに。過去に戻れたとしてもそんな勇気僕にはないけど。いや言ってみようかな。


 父の心配とお叱りの兼ねた声を聞いて僕は体育会系に負けじと「はい!」っと返事をして家族の元へ戻り母に抱きつく。


 「あらいい子ね」

 「ねぇ、母さん、次のお休みっていつなの?」

 「そうねぇ、いつかはわからないけどまたお休みが取れたらこうやってまた遊びにこようね、香」


 母はそっと僕の頭を撫でてくれた。それがとても心地よくて僕は暖かい気持ちでいっぱいになれた。懐かしいこの感覚、長いこと忘れてしまっていた。この感覚。今日は二人が撫でてくれた。


 「この後どうするか」

 「そうねぇ、ご飯でも食べに行く?」

 「僕!お腹すいた、カレー食べたい」

 「カレーいいなぁ俺もカレー食いたい、行こうか由香里」

 「食べにいきますかーいいとこ知ってたりする?」


 他愛のない会話、それが何より好きだった。今日は何しようか、学校どうだった、明日は何しようか、今日の天気はどうかなとかそんな会話が何より愛おしくて何よりも捨てたく無かった。負い目に死を考え続けて、この景色がもう見れないことすごく後悔して悔やんで恨んで。いっそ家族なんていなければなんて思って。確かに言ったんだ、言ってしまったんだ。「父なんて、」と。


 思い出した。

 「あぁ、父さん、母さん」

 

 ………………何?


 「ありがとう。

       ごめん、

               ごめんなさい、出来損ないの僕で。」


 笑顔だ、三人とも。僕。父。母。三人とも笑ってて、気持ちよかった。

 「ありがとう」


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― 新着の感想 ―
色々な花がいっぱい咲いているとテンション上がりますよね 仲良かったのなら家族が壊れるかもしれないなんて、考えられたとしても考えたくないですよ 本日もありがとうございます!! 
いつも拝読させていただき思う事は、登場人物、場所、雰囲気などの表現、ところどころに出てくる比喩表現がとても素晴らしいという事です。読んでいるうちに自然と情景が目に浮かび、感情移入してしまいます。 この…
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