2。あの頃へ。#1-5
辺りはより一層暗くそして埃がとても舞っている、古い机にも積もり積もった埃が雪みたいになっている。それをそっと手で掬って払い、その奥に歩いてく。雪は楽しそうにステップをしている。
「煙たっ」
咳き込み咽せながらに埃を手で仰ぐ、楽しそうにステップをしていた雪さんはそんな僕に。
「男の子でしょ〜我慢しなさーい」
「なんでそんな平気そうなんですか、怖いんですけど」
「平気なわけがない!私の得意技やせ我慢ってやつ」
我慢しているにしてもどうにかなるもんなのかな。手で周囲の埃を退けていると、その節に机に置いてあった紙を一枚落とした。「やべっ」と言わんばかりに吐息を出しながらしゃがみ込む。僕はそれを拾い上げ暗い中それをじっと見つめる。
何の変哲も無い数年前の春花祭りのチラシ。
「なんでこんなもんがここにあるんだ」
「ん?なになに?」と気になったのか雪さんは僕の方に駆け寄ってきた、肩の上に手を置きながらにチラシをガン見している。
「祭りのチラシ?」
「昔、父と母。三人で行ったことがあって、懐かしいなって思っただけです」
「お父さん、大事になっちゃったんだっけ」
それを聞いて僕はドクっと心臓が唸った。
「知ったんですか、」
「うん。確証はなかったけど。ちょっと前にみんながそんなこと言ってて、人殺しの息子がこの学校にいるとか、嫌でも耳に入ってくるぐらい一時期持ちきりだったでしょ。クラスの男子とかが見に行くがどうとかも言ってて、正直可哀想だった。、あ!もちろん私はそんなこと一言も言ってないし関与してないからね、当然だけど。私も怖いもん、立場が違ったら。私もこうなるのかもって」
一呼吸ついてから僕は答える。
「いつから、気づいてたんですか」
「初めて会った時から」
そっか、そんな時から。もうバレていたのか。バレてたんだ。そっか。
「居たくなったんじゃないですか?僕と」
「そんなわけ無いじゃん、楽しかったよ?十分しっかりと、今だって楽しい」
「ほんとかなぁ」
チラシを持っていない片方の手をぎゅっと握り、歯を食いしばる。込み上げてくる涙を必死に食い止める。
「ほんとだよ、香といたら楽しいよ、気ー使ったりとかも一切なし!正直。居心地いいよ」
「信じても良いんだかわかんないですよ」
それが真実としても嘘だとしても受け取ってしまう心が憎い。裏切ってしまっているような、雪さんの好意を踏み躙っていると思ってならない。もちろん信じている、心から、心底。毎日会いたいと思うほどに僕は雪さんを信じてる。だからこそこの水中にいるような気持ちが死ぬほど嫌で仕方がない。
「ごめんなさい」
「いいよ、気にしてない」
雪さんは僕の肩から手を退けた。離れてしまった、柔らかい優しい手が。……、また離れてしまう。咄嗟に叫んでしまった。
「待って!!」
目をカッピラいてびっくりした雪さんが僕を見ている。やらかした、、。
「ごめん。なさい」
暖かかった。「へっ?」と、声が出たことだけは理解している、暖かかった。抱きしめてくれた、柔い身体が僕を包んで良い匂いが僕の鼻を掠める。不安を読み取ってか、孤独を察してか。僕を。優しくぎゅっとしてくれた。
「居るよ」と。雪さんはそれだけを言った。
何に対して、どれに対して居ると答えてくれたのか、僕には一目瞭然で、細い手が今にも折れてしまいそうな手が僕の頭に触れる。
そして僕はあの頃を思い出した。
あの頃へ……




