26. テストも終わり…
朝が来た。いよいよ今日からテスト開始となる。
いつもなら初日から諦めモードなのだが今回は違う。俺には2人の女神がついている。
蝶野さんにはたっぷり教わったし、恭子には上手にまとまっているノートをもらったし…。
おかげで今回のテストは自信たっぷり。これで出来なかったら俺はもう人間やめるまである。
もうね、はっきり言って余裕ですわ。 どっからでもかかってこんかいおら~!…って感じ。
そんな訳で今日から試験が始まるにもかかわらず、俺はいつになくテンション高めで学校へと向かった。
クラスに入るとテスト期間なので、いつもと違い出席番号順の並びとなった座席に座る。
さすがにテスト初日とあって、教室に入るとみんな無駄口もたたかず直ぐにノートを開いて1時限目のテスト準備に取り掛かっている。
俺もさっそくノートを広げてテスト準備…にかかろうと思ったが、ふと気になったので蝶野さんの席の方へ視線を向けると、にっこり笑って小さく手を振ってくれた。
テスト前の静寂な雰囲気の教室… 本当は今までのお礼の一言でも言いに行きたかったが、そこは空気を読んで蝶野さんに自信満々の笑顔を向けてそれに応えた。
今日の俺はできる子。蝶野さん、生まれ変わった本郷君マークⅡに期待してくれ…。
俺の自信に満ち溢れた最高の笑顔を見た蝶野さん。
すると突然彼女の顔から微笑みは消えていき、その表情は哀れみに満ち満ちたものに変化する…。
ちょっと女神様…テストが始まる前から俺の心を折るのはやめて頂きたいんですが…
取り敢えず折れた心の傷口にバンド〇イドを貼って手当てしていると、担任がやってきてHRが始まった。
そしてHRも終了し、いよいよテスト開始。
1時限目の英語から中間テストは始まっていった。
テスト用紙が配られ、開始とともに問題を見てみると……
テスト対策で勉強していたところが結構出ている。ざっと全体に目を通してみたが多分出来るだろうと感じた。
その後も2時限目の数学、3時限目の世界史とテストは続いたが、手応えは十分。
こうして1日目は予想以上に順調にテストを終えることができた。
そして2日目。
―――おりゃあああああ!
次の3日目。
―――ぎゃあぁぁぁぁぁ!
最終日4日目。
―――ひでぶ!…あべし!
ようやくテストも終了。
日々生命力を削られていき雄叫びの内容はヤバくなっていったがそれでも十分やれた感はある。
最後の科目のテストを終えるとクラスのみんなにも笑顔が戻り、お疲れさんといった感じで教室も賑やかになる。席も元の場所へと移動となり、俺の後ろの席には久しぶりに蝶野様のお姿が…。
「どうだった?…」
俺の顔を見るなり少し心配した様子でいきなり尋ねてきた蝶野さん。あれだけ親身になって教えてくれたこともあり、俺の出来栄えが気になってしょうがないって感じ…。
「大丈夫。かなり自信はあるよ…」
ちょっと不安げな蝶野さんに向かって俺は自信ありといった感じで笑顔で答えた。
「そう… よかったぁ~」
ホッとした様子で表情を崩した蝶野さん。さんざん勉強の面倒を見てもらいこれほどまで心配してもらった俺としてはもう感謝の気持ちで胸がおっぱい…いや、いっぱいだった。
蝶野さんは俺にとって大天使様であり女神様… 思わず跪いて拝んじゃおうかな…(スカートの中身を)
性なる…聖なるお祈り(邪念アリ)を捧げようかと思っていると、
「だったら遠慮なく報酬を頂けるね…」
ニッコリ笑顔と共に間髪入れず請求書がやって来た。この辺も含めて流石は蝶野様。お見それいたしますはい…。
だがこれだけお世話になっているので、元より何でもお礼をするつもりだった俺は当然快諾する。
「もう何でも言ってちょーだい。蝶野さんのご希望通りでいいよ」
「ほんとに?… ん~、だったら……」
俺の言葉を聞いてちょっと考え込む彼女… 顎に手を当ててちょっと目線を上にあげて悩む姿はいつもにも増して愛らしい。可愛い女の子のこんな仕草って可愛さが3倍増しになるのは世の道理?… ゴチです。
“そうだ!”ってな感じで頭の上の豆電球に灯りがともったように、何か思いついた蝶野さん…。
「次の土曜日とかって予定とか無い?」
「別になぁ~んにも無いけど…」
「だったらその日に映画を見に行きたいな~」
映画…ね。それぐらいお安い御用だけど…。そんなもんでいいのかな?…
何となくお安くつきすぎなような感もあるが本人のリクエストなので取り敢えず納得。
「全然オッケー。それじゃお礼は映画ってことで…」
「いいの? やったー! それじゃね、詳しい事とかはラインで送るね」
「了解っす」
ってな感じで土曜日は蝶野さんを映画にご招待ということとなった。
明日は学校はお休み、そして土、日も休みなので3連休。テストも終わって明日から連休ということもあり、気分はウキウキでテンションもアゲアゲ。約束が完了すると俺も蝶野さんも自然と笑顔の花が咲いた。
教室内はテスト期間終了ということもあり、楽しそうな話声で賑わっている。
蝶野さんと話し終えた俺は帰る準備でもしようと思い、体の向きを変えると隣の席の佐藤が目に入った。
そういや明日から連休、…そしてテストも終了した。ってことはもう明日から佐藤と戦場に行くしかない。
―――作戦会議を開こうか
明日から寝る間を惜しんでゲームができる。オレッちもうニッコニコ。
「さとう………」
さあこれから楽しいゲーム談議を……と思ったら後ろからかなり嫌な足音が近づいてきて…。
「ありがとう佐藤く~ん。おかげで今回のテストはばっちりだよ~」
俺にケツを向けながら嬉しそうな顔をして加賀美が佐藤と話し始めた。
毎度の事なのだが何故こいつは俺にケツを向ける?
佐藤に話しかけるのなら右隣りからでも左隣りからでもどちらでも良いはず。なのに加賀美は必ず俺のいる方、即ち佐藤の左側から話しかける。結果として俺にケツを向ける。
なので俺からすると“振り向けば加賀美のケツ”というシュールな絵が完成してしまう。
しっかし… 毎度のことながら俺と佐藤との関係をベルリンの壁ならぬケツの壁で塞ぎやがって。
はぁ~っと溜め息が出る思いだったが、二人が話している様子を何となく見ていると何処か今までよりも距離が近くなっているような…そんな気がした。
加賀美の「テストはばっちり」という言葉を聞いて嬉しそうにしている佐藤。責任感の強い佐藤にしてみれば加賀美のその言葉でホッとできたんだろうと思う。話を聞いてる感じでは結構加賀美も真面目に教えて貰ってたみたいだし…。
二人が近くなったように感じるのは一緒にテスト勉強を頑張ったという共通認識が生まれたから?…
何となくそう思う。
―――二人で一緒になって何かに向かって努力する…
考えてみればカップルがやっている事と結構似ているよな。
カップルの場合は“勉強”という部分が“恋愛”に変わるだけだか…。
だけどさ、…加賀美も本当によーやるわって思う。
あいつをどっから見ても自分から勉強するタイプには見えないんだが。
佐藤に近付くために好きでもない勉強を一生懸命にやって…。
ここまで来ると根性があるっていうか、…健気っていうか、…ある意味感心する。
さすがの俺もここまで来ると加賀美を弄るのが悪いと思って………
しまうんだけど弄るのはやめませんええやめられませんだって加賀美の反応が尖ってて面白すぎるんですもの。
そう言えば……
加賀美と佐藤みたいに俺と蝶野さんも一緒に勉強頑張ったんだっけ?…
もしかしたら蝶野さんも俺に親近感を抱いちゃったり……
する訳ねーわな。
俺の場合は100%蝶野さんに寄生して養分吸いとっただけだし…。
よし決めた! 俺も男だ、これからは一人でやっていけるように頑張る。
……頑張るから…もうちょっとだけ養分吸わせてね、蝶野ちゅわぁ~~~ん…(てへぺろ)




