27. 昔とは違う今
テストも無事終了してただいま絶賛帰宅途中……
なのだが、今日はちょっぴり変わったメンツで帰宅と相成っている。
俺と仁志…&恭子。
恭子との関係が元に戻ってからはたまに二人で帰ることもあったが、仁志を含めて3人でというのは今回が初めて。何の気なしに一緒に帰ろうと言ってはみたが、よく考えたらこの3人の超絶微妙な関係をすっかり忘れていた。
この3人、個別同士では互いによ~くしっている間柄。だがはっきり言って3人で集まって仲良く遊んだことなど一度もない。
それに恭子と仁志は去年のクラスが同じだったから仲良くなったのだろうが、その経緯は俺の知るところではない。
まあ中学の時から知り合いだったし、この二人が仲良くなったのは理解できるんだけど…。
3人で一緒に教室を出たのはいいが共通の話題ってもんが全くないんで話しにくいったらありゃしない。相変わらず仁志は仏頂面の鉄面皮、気の利いた話題を振ってくるなんてあり得ないし…。
なに話せばいいかな?… そんなことを考えていると、
「飯でも食っていかねーか?…」
こんな事滅多に言わない仁志から激レアのお誘い。
「それいいね。お腹も減ってるし…。修二も行くでしょ?」
仁志の提案に速攻で食いつく恭子。しかも「でしょ?」という言葉付き。
“行くでしょ? 行かないなんて言う訳ないよね?”…これが真の意味。この有無を言わせない俺に対する脅しの利いた誘い文句。
懐かしいっていうか…久しぶりに訊いたっていうか… 最近の恭子は昔の感じに戻ってきている。確かに昔のように戻りたいと言ったが、なぜそーいう所ばっかり昔に戻す? もっと優しさプリーズ…。
睡眠時間削って珍しくテスト勉強頑張ったんで早くお家に帰って寝たいんだけど…。
「………あのさ…」
「行くよね?…」
「行かせていただきます…」
俺に決定権が無いんだったら初めっから優しい雰囲気装って訊いてくるのやめて貰えます?…
もう眠いし3人で喋る雰囲気も微妙だし… 仁志がいらねーこと言うから。
でもまあ、飯でも食ってたらなんだかんだで雰囲気も和んで会話も進むか…。
これから3人で居ることも多くなるんだろうし…
そんな事を考えながら歩いていると、「ここにしよう」と恭子がとあるお店に指をさした。
「私結構好きなんだよね…」
恭子が決めたのはスープカレーのお店屋さん。
「それじゃここにしようか…」
そう言って仁志も恭子の意見に同意。そして二人は揃って俺の顔を見る…。
「ここでいいんじゃね…」
二人から熱い視線という名のパワハラを受けた俺は即答。
別に店屋なんてどーでもいいから真顔で俺を見つめるのやめなさいってば二人とも…。
さっそくお店屋さんに入り席に案内されると、恭子が自慢げに色々と説明を始めた。
俺はスープカレーの店なんぞに入ったことは一度も無かったのだが、注文の仕方がややこしい。
先ずはスープの種類を決めて、具材を決めて、辛さを決めて…ってな感じで自分好みのアレンジを決定しなければならない。はっきり言ってなーんにも分かんない俺はメイン具材のチキンだけ決めて後は恭子にぶん投げた。
仁志も似たような感じで恭子にお任せとなり、最終的に恭子が皆の分をまとめて注文することに…。
注文を済ませると恭子の口から出た「テストはどうだった?」という言葉を皮切りに3人での談笑が始まった。
テストの出来栄えやら問題を作った先生への文句やら… 何かと話しているうちに、最初に感じた違和感もすっかりなくなり昔からよく知っている仲間内って感じで話も自然と盛り上がっていった。
恭子と仁志… 俺にとってかけがえのない2人の友人。この2人と一緒に居ると本当に落ち着く。自分のことをよく理解してくれている人達と共に過ごす時間はちょっと照れ臭くなるほどの心地よさを感じることができる…。
そして話が盛り上がってくるほどに感じる二人の心遣い…。中学時代の話を極力しない恭子と仁志。俺の初恋の人をよく知る二人がそこに絶対触れないように気を配って話している様子を見ると、何だか申し訳ない気持ちになってしまう。
そんな事もあり、ちょっと複雑な想いに耽りぼんやりと二人が喋る様子を眺めていた。
俺が黙っていても恭子は満面の笑みで仁志と楽しそうに話している。それにあの不愛想な仁志が恭子の話に合わせて上機嫌で受け答えしている。
―――恭子と仁志ってこんなに仲良かったんだ…
なんとなくそう思った。学校以外で二人で喋っているのを初めて見たが、明らかにクラス内での態度とは異なる。恭子が仁志に向ける笑顔は普通の人に向けるものとは異なるっていうか何ていうか…心を許せる相手にだけ向けられるような、少し特別な感情が籠っているような…そんな気がする。
もしかして恭子が言ってた………
そっか、……ま、それなら納得だな。
恭子が初めて好きになった男…それは仁志?… 何となくそんな想いが頭に浮かんだ。
恭子は仁志のことを好きになった……
そう感じたがそのことに何ら違和感は覚えない。と言うより当たり前か…。
俺が一方的に恭子と絶交した後に恭子のことを気遣って傍にいたのは仁志だ。そんな仁志に想いを寄せるようになってもそれはごく自然なこと。それに仁志も恭子にだけは特別優しかったみたいだし…。
仁志は俺が知る中で最高の男。イケメンだから?…そうではない。むしろそっちはどーでもいいぐらいだ。
あの真っすぐな気持ち… 決して揺らぐことなく自分の意思を貫いて行動するあの潔さ…。
それに……自分が大切だと思う人をあいつは絶対に裏切ったりしない。
まあどうしょうも無いぐらい不愛想なのが致命的ではあるんだけどね…。
恭子が初めて好きになった相手が仁志、…もしそうなら俺はどう想う?…
―――なんにも言うことはねーな。
むしろ頑張れって言ってあげないといけないぐらいだ。恭子が仁志と結ばれるのならそれは理想的なことだといえる。
恭子も仁志も俺なんか比べものにもならないくらい良い奴らだ。絶対に上手くいくだろう…。
心からそう思った。だから頑張れと言ってあげたい…。
だが何なんだろうか?… 心の中にぽっかりと空洞ができたようなこの寂しい気持ち…。
喜ばしいと思う気持ちと寂しいと思う気持ちが同時に湧き出てくる。
俺にとって親友と呼べる二人が幸せになれると感じているのにどうして素直に喜べない?…
―――恭子のことを想うとどうしてこうも複雑な気持ちになっちゃうんだろうか…。
俺と恭子の関係が戻る前はそんなこと何も思わなかったのに…。
二人が楽しそうに話している姿を見ていると、2年間と言う時の流れを感じさせられた。
俺が知っているのは昔の恭子であり、今の恭子ではない。
恭子との関係は確かに戻った。だがお互いの状況はもうあの頃と全く違うんだな…。
「………うじ、…しゅうじったら… 聞いてるの?」
「―――ああ、聞いてるよ…」
ぼんやり考え事してると恭子が何やら言って来てたので思わず適当に返事をしたのだが… 俺は何を聞いてたの?
「だったらそれでいい?」
「それでいいよ…」
“黙って頷いておけば話は成立する”の法則を発動。どーせたいした話でもないでしょう。
「良かった~ じゃ、そーいうことで…」
何が良かったのか知らないがそう言って楽しそうに微笑んでいる恭子。
ダメだ……何となく今は恭子の声が頭の中を素通りしてしまう。なんか集中できないって感じ…。
それから少ししてようやく頼んでいた品が俺達のテーブルに運ばれてきた。
グツグツと煮えた鍋とその横にバターライスが置かれる。鍋の蓋を取るとカレーの香ばしい匂いが広がり食欲をそそるのだが……中のスープカレーは地獄の釜の中のように未だに煮えたぎっている。
何かこれってヤバくね?… とは思ったが、ちょいとスプーンでスープをすくって少し冷ますと口に入れても存外熱いと感じない。そして初めてスープを口に含んでみると「美味い!」…思わず声が出た。
さらに驚いたのは鶏肉がよく煮込まれていて物凄く柔らかいことだ。スプーンで簡単にほぐすことができる。
「ね、スープカレーって美味しいでしょ?」
エヘンと自慢げに胸を張る恭子。でもこれは確かに恭子の言う通り。いつものカレーはご飯と一緒に食べるものだが、こいつはスープだけで味わえるため奥深い味を感じることができる。
そんなスープの味は俺の舌にピリッと辛いカレースパイスの旨みを感じさせるが、恭子と仁志が仲良くしている風景は異なるスパイスとなり、その刺激は俺の心に様々な想いを感じさせた。
スープカレーもおいしくいただいてご馳走様。それから少し3人で喋ってそろそろ帰ろうかということに…。いつものように電車に乗り、住んでる街の駅に到着すると、仁志と別れて俺と恭子は二人で家路についた。
歩き始めると恭子は俺の顔を覗き込んで、「約束忘れないでよ…」って言ってきたのだが…。
約束って何ですか?… 全く身に覚えがない。
思わず天を仰ぎ見る。…もう直ぐ梅雨だってのに空は快晴、青々とした空が眩しいぜ…
「忘れてたでしょ?…」
「……ごめんなさい」
ジト目で俺を睨みつけている恭子。タレ目で可愛く謝ってみる俺…。
「もう… さっき約束したでしょ? 土曜日に買い物に付き合ってくれるって…」
さっきって… あッ、あれか… スープカレーのお店屋さんで恭子がなんか言ってたやつだな。
そっか、買い物に付き合うって話だったんだ。別にそれぐらいなら構わないんだけど…。
「ああ、買い物に付き合う話ね。大丈夫だよ。土曜日ならぜんぜん…………」
良くねーよ… あっぶねー、ギリ思い出した。土曜日って蝶野さんと約束してる日じゃねーか。
「―――あのさ、恭子 日曜日じゃダメ?…」
「別にいいけど… どうしたの?…」
「ちょっとね、土曜日は出かける用事があって…」
「……ふぅ~ん そーなんだ…」
ちょっと意外… そんな感じで不思議そうな眼で俺を見る恭子。確かに彼女もいない俺に出掛ける用事なんて普段は無いしね。
「日曜日の予定とか決まったらラインで教えて…」
「うん、わかった」
無邪気にそう返事して微笑んでいる恭子。その顔は楽しげで思わず惚れそうになるほど美しく…そしてどこか懐かしい感じがした。
だけどその素敵な笑顔を見るほどに俺の心の中には複雑な想いが浮かび上がってくる…。




