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骨董屋『ろまん』より  作者: メルツェル
~第二章・『風と少女と魔科学』から~
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第十五話 『次の夢』より 

「やはり・・・」

「なにかわかりましたか?」


 骨董屋『ろまん』の居間にて、志摩とソフィはある実験を行っていた。それは扉の向こう、つまり地球でも魔術は使えるのかということだ。

 結果から言えば一応は使えた。だが、発動したと同時に直ぐ消えてしまうのだ。

 これは大気中に魔力がない為、込められた魔力が直ぐにバランスを崩して霧散してしまうのではないか、と志摩は仮説を立てた。それならばと、ソフィの持ってきた自ら魔力を発生させる魔石を置いて、さらに『増幅』の術式も書き込んで実験を行っていたが、ふとソフィの横で眺めていた志摩が意味ありげに呟いた。


「いや、さっきも言ったが『増幅』は外の魔力を吸収する『ライン』であることは間違いなさそうだ。それともう一つ、やはりオレに見えている白いモヤは見間違いでは無さそうだ」


 志摩は疲れた目をほぐすように抑える。

 なんどもソフィや生徒達の魔術を見ていたが、発動時に必ず手から白いモヤが出てくるのが見えた。それも魔術によってモヤの形も変わり、火ならば濃く絡みつくように、風ならば薄く広がるようにと書き込んだ魔術式の特性通りの動きを見せる。

 『増幅』を『ライン』といったのも、近くに置いた魔石から発せられる魔力のモヤをまるで掃除機のように吸い込んでいた為そう呼んだのだ。

 しかし、吸い込んだ先から魔力が霧散してしまい結局すぐに消えてしまう。粘性が強い火の魔術ならとも思ったが、それを家の中でやるのは危険すぎるため未確定だ。


「それはシマさんの特殊能力なのでしょうか?それともこちらの人でしたら皆見えるとか」

「さぁな。ところで、そんなにあっさり信じていいのか?ソフィには見えてないんだろ?」

「シマさんの言うことですから」


 そう事も無げに言ったソフィに、志摩は呆れた感じで返す。


「時々お前が心配になってくる。いつか騙されるんじゃないかとな」

「シマさんは特別なんです。それとも、シマさんは私を騙そうとしてるんですか?」

「今のところは考えていないな」

「ほら。なら大丈夫・・・って今のところは!?」


 ソフィのツッコミにため息と笑みの混じった顔で後ろに寝転がる。


「あーしかし、これ早くわかってれば、あんなに徹夜してまで解析する必要なかったんじゃないか?」


 志摩は机の上で資料とにらめっこしていたので気づかなかったが、込められた魔力がどのような形をとっているのかわかれば、魔術式の解析ももっと楽になっていただろう。


「あはは・・・。でも見えるだけではわからない事だってたくさんありますし、やっぱりシマさんの研究と考察があって解析することが出来たんだと思いますよ」


 ソフィのフォローにもどこ吹く風とばかりに受け流す。もっとも、本気で悔やんでるわけではないのでこの反応なのだが。


「それとシマさんが考案してくださった木炭の使い道。アレも見ただけではどんな効果があるかなんてわからないですし」


 まだ広がりを見せるのは先になりそうな『シチリン』だが、アレは単純に魔術式が書かれているわけではない。調節する魔術式と、魔力を火炎の魔術式に変える術式、それが上から出るときに起動させるよう別々に書かれているのだ。

 急な変化を防ぐために魔術式の仕組みは公表されていないが、『シチリン』を見て何かに気づける者から浸透させていく狙いだ。

 また、薪を使わない『シチリン』や製作中の設置型かまど『コンロ』が普及すれば、多くの木こりが廃業する。志摩は危険意識が生まれるのを防ぐため、薪の新しい活用法を同時に広めることを勧めたのだ。


「先人の知恵に感謝だな」

「でも、知識を活用できるのはシマさんのおかげです」

「そうか」

「えぇ」


 会話を終えると志摩は伸びをしながら立ち上がる。


「さて、そろそろ行くか」

「はいっ!」


 志摩に続いてソフィも立ち上がり扉を抜けて研究室に向かう。


「それとシマさん、そろそろ外出許可を・・・」

「駄目だ」


 ソフィがショボーンとする。ここで言う外出とはもちろん日本でのことだ。

 ソフィや生徒たちからは度々外出を求める話をされたが、まずは日本の常識を学んでからと言って許可を出していない。交通や所有物の決まりなどをしっかりと教えなければ、何が起こるのかわかったものではない。


「まぁでも、だいぶ覚えたから次のテスト次第では出れるかもな」

「ほ、ほんとですかっ!!やったー!!」


 まだ誰も来ていない研究室で、両手をあげて喜ぶソフィを志摩は苦笑してして眺める。


「オレも学院の外に興味あるんだがな」

「外ですか・・・。学院の近くなら大丈夫ですが、今は盗賊が出たとかで討伐隊が戻るまでは待ったほうがいいですね。あと何かしらの自衛手段はあったほうがいいです」

「自衛手段ねぇ」


 いままで何もなかったが、やはりここは日本ではないということ実感する。世界を廻った時もそうだが、その意識を常に持つことがトラブルを回避する常套手段だ。


「なにか武器の心得はありますか?」

「いや、ないな。素手での格闘は習ったがこれもな・・・」


 志摩は幼い頃から目つきが悪かった為、要らぬトラブルを招いた。その為、父の勧めで古武術やボクシングを習っていた。


 戦うためではなく逃げるために。


 ただただ、避けて逃げることを考えた。それだけを考えて、なにか嫌な事が起きそうな時は察知できるまでに研ぎ澄まされ、今に至る。


「でしたら、魔術式を組み込んだ武器を使ってみます?私の白衣も特殊な糸で魔術式を編み込んでるんですよ」

「ほぉ。例えばどんなことができるんだ?」

「そうですね。シマさんが魔術式を解析してくれてからは、夏は涼しく冬は暖かくなるようにしました!」


 自衛手段の話をしていたはずが、何やら快適空間の話をされてしまった。しかもドヤ顔で。


「・・・不安もあるが、そこんところはソフィに一任する」

「一任・・・はいっ!任せてくださいっ」


 ソフィは何故か『任せる』と言った類の言葉にやたらと気合を入れる。


「それと、補助魔術具はどうなってる?」

「あっ、そうでした。今日渡そうと思ってたんです」


 ソフィは戸棚の中から箱を取り出し志摩に差し出す。志摩は箱を開けながら中身を確認すると、灰色の魔石がつけられた鉄製のブレスレットが入ってる。

 魔石から魔力を吸収して使うには特別な処置が必要なため、職人科にブレスレット型に製作依頼を出して作ってもらい、ソフィが魔術式を掘り上げ完成させた。


「これが・・・、ありがとう。恩に着る」

「これもシマさんのおかげで、既存のものより格段に使いやすくすることができました。早速試してみますか?」

「そうだな。そうさせてもらう」


 心なしかワクワクした様子でブレスレットをつけ、風の魔術式の前に立つ。

 心音がやけに早く感じるし指先も冷たい。

 小さく呼吸を整えると、意を決して魔術式に触れる。すると魔石から手に何かが通り抜ける感じがしたかと思うと、白いモヤが魔術式に注がれ


ブワッ!!


 と、風が吹いた。


「これが・・・魔術かっ・・・」




 魔術科校舎に向かう途中にある広場の横を、リゼルがうんうん悩みながら歩いていた。


「やはり、耐久が・・・それにバランスも・・・」


 リゼルには夢という名の野望があった。志摩が来てからは一層強く願うようになった野望が。

 しかし、前途多難なようで思い悩んでいる様子だ。すると、広場の方から聞きなれた声が聞こえてきた。


「・・・マさん、もっと腕は前です」

「こう、ヒュッときたのをビューンって感じで」

「貴女の説明はいつもわかりにくいのよ。ちょっと黙ってて」

「この声は・・・」


 リゼルが広場の方を向くと、志摩に向かって研究室メンバーが揃って熱血指導をしていた。


「おっちゃんっ!!もっと腹に力を込めて気合や!!」

「シマ殿、ます腕立て100回を・・・」

「なにをしてるんですか?」

「あっ、リゼルさん」


 最初は魔術の練習かと思ったが、何やら筋肉理論まで聞こえてきたのでソフィに事情をきいた。


「シマさんが魔石による魔術行使が可能とわかったので、コントロールするための練習をしていたのですがみなさん何故か変に気合が入っちゃって」

「はぁ・・・。シマさん」

「ハァ・・・ハァ・・・ん?リゼルか」

「魔力のイメージが難しいのでしたら、砂などもっと身近なものでイメージしてみてください」

「そ、そうか。よしっ」


 リゼルに言われた通り、魔力を掴むのではなくもっと身近なものでイメージしてみた。すると、霧のように掴み所のなかった魔力の膨らみが、なんとなく掴める感じがした。


「よしっ、これなら」


 志摩は腕を前に伸ばすと風の魔術を解き放ち、大きな突風が生まれる。設置されていた的を揺らす事は叶わなかったが、大きな進歩だ。


「うん、いい感じです。よろしければ、シマさんの練習は私が見ましょう」

「「「えぇ~」」」「なんとっ!」


 それぞれから不満の声が上がる。


「アンリさんは感覚でやっている部分が大きいので教える側には向きません」

「うっ・・・」

「マリオくんも練習が必要なんじゃないのかな?特に火とか」

「ギクッ・・・」

「エーリカさんは一体何を教えていたのですか?」

「むっ?シマ殿を一人前の魔術騎士にするのでは?」


 志摩の方を向くと顔を横に振っている。思わずため息が漏れる。


「違うそうです。それとメリッサさんもですか?」

「だ、だって。リゼルさんとシマさんの二人に抜けられたら・・・ツッコミ不在で、またわたくしに回ってきますわ!!」

「頑張ってください。そしてソフィ先生、ここは私に任せてもらえませんか」

「う、うーん・・・」


 いつもはなんだかんだ大人の余裕を持っているソフィだが、今日は諦めが悪い。


「私も魔力コントロールは苦労しましたし、独自の解決策を模索しました。私が適任かと思います」

「んー・・・、わかりました。お任せします。シマさんもよろしいですか?」

「ん?あ、あぁ。教えてくれるならありがたいが・・・」


 本人を置いて進められる自分の話題に入ることができず、ただ見守っていたが不意に問いかけられて思わず頷き返す。


「それでは、早速私が実践した中でも効果が大きかったものを・・・」




 それから、リゼルと二人で日が暮れるまで練習は続いた。志摩も初めて魔術を使っているという喜びで夢中になっていた。


「今日はこれくらいにしましょう。お疲れ様です」

「ハァァ・・・お疲れ様」


 息を整えながら声を駆ける。


「それにしても一日でだいぶ上達しましたね」

「そうなのか?夢中だったからよくわからなかったが」

「そうですよ。これなら、私が教えることもすぐになくなってしまいそうです」


 志摩は少し淋しげに見えたリゼルの横顔に、なぜかいたたまれない気持ちになる。


「いや、リゼルの考えたやり方はわかりやすくて理にかなっている。できればこれからも教えて欲しいんだが」

「私に?その・・・よろしいのでしょうか?」

「お願いしているのはオレだからな。頼めるか?」

「・・・はい。私、いままで魔力のコントロールも下手で自分で精一杯だったんですけど、そんな私が思いついたことでよければ」

「オレにとっては最高の先生だよ」


 嬉しそうに笑うリゼルの顔は、見た目相応の少女のようで晴れやかだった。


「シマさん」

「ん?」


 研究室に戻ろうとする志摩をリゼルが呼び止めた。


「シマさんには夢ってありますか?」

「夢?そうだな・・・魔術を使うことは叶えたが・・・考え中、かな」

「私はですね、いつか大きくなって世界を見てみたいんです。私の両親はどちらも小人種なので背はこれ以上大きくならなそうですが」

「どちらも?」

「私ってドワーフとリリィエルフのハーフなんですよ」

「え?」

「あっ。私がハーフドワーフだと知っていても、ハーフリリィエルフだと知っている人は殆どいないので秘密にしてくださいね。好奇の視線を向けられるのは嫌いなので」


 突然のカミングアウトにどう返せばいいのかわからず間抜けな声が出てしまう。

 ドワーフはわかったが、リリィエルフとはなんなのか?小人種と言っていたが、よく物語に出てくる金髪で美男美女に描かれる『エルフ』とは違うのか?などと考えていると、リゼルが小さく笑いながら校舎へと歩き出したので志摩も続く。


「リリィエルフはですね、普段は森に住んで滅多に人前に出てこないんです。ですが私の母は変わり者でして、鍛冶師になりたいが為に森を出てドワーフに弟子入りしたんですよ。ちなみに、その時の弟弟子が私の父です」

「そりゃすごい・・・のか」

「えぇ、それはもう。リリィエルフは高い魔力と森を操る魔法を使えますので、森を出るなんて殆どありません」

「魔法を使うのか」

「えぇ。ですが残念なことに、私に魔法を使う才能は無く、高い魔力だけを受け継ぎましたが」

「もしかして、魔力コントロールが苦手というのも」

「はい。高すぎる魔力故、制御が難しくて」

「それでか。しかし、何故オレにそんな話を?」


 純粋な疑問を投げかけると、前を歩いていたリゼルが振り返った。


 志摩からは夕日の逆光でよく見えなかったが、先程の少女と同じとは思えない妖艶な笑みだった。


「さぁ?なぜでしょう。シマさんに知って欲しかったから・・・かな」


 まっすぐ見つめるリゼルに志摩は少し戸惑いつつ、ほんの少しだけ口角を上げた笑みで返す。


「そうか」

「えぇ。それじゃ日も暮れるので早く戻りましょう」


挿絵(By みてみん)




~おまけ~

「ハッ!?いま私の先生ポジションが脅かされている気がします」

「なにを言ってるのソフィ先生?」

「シマさーん、リゼルさーん。早く戻ってきてくださいまし」


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