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42,母の道


桂子おばの家がある島のお隣が、母や桂子おばの生家がある島であった。




活気に溢れる造船所を目前に抱え、そこで働く人達のために桟橋が作られ、人々の往来が賑やかであった海辺。




生活雑貨から食料品まで、豊富かつ綿密な品揃えで顧客に愛されご贔屓にされた大田商店は、桟橋のたもとに位置していて、商いは至極順調であったはずだ。





高校生になると、フェリーで隣の島まで通学するスタイルになり、毎朝自転車にまたがり、遅れそうになりながら、待って待ってと慌ててフェリーに滑り込んでいたそうだ。お友達とおしゃべりをしながらの通学はとても楽しかった、と母が生前話していた事を思い出す。そして、穏やかな瀬戸内の海でも、嵐が通り過ぎる様な時は船が欠航になり、そうすると通学も出来なくなったものだったと。




祖父母が亡くなって久しく、小さかったいとこ達も巣立った後、今では和子伯母ちゃんが一人で、とうに店じまいした大田の実家を守っていた。




おやせさんでもめちゃくちゃ元気だった年雄伯父ちゃんも、最期は身体を壊して逝去していた。




「和子姉さん、元気にしとる?今、珠ちゃんが島に来とるんじゃけど、みっちゃんの実家も行きたい言うとるんよ。お連れしてもええかねえ?」桂子おばがよそ行きの声を出して、和子伯母ちゃんに電話をかけてから、桂子おば夫婦と私は、自動車で元大田商店へと向かった。




桂子おば夫婦にとっては当たり前の様に、島と島を結ぶ橋を通って、便利にあっという間に到着する。




瀬戸内に浮かぶ島々を、まるでビーズ細工でテグスを通す様に橋をかけて繋ぎ合わせ、観光に訪れる人達には然る事乍ら、地元の人々にも暮らしの利便性を授け、時間の使われ方に効率を与え、外部からの経済的資源の流入をスムーズにし、人々に繁栄をもたらしているのであった。




貴重かつ素朴で味わいのある、船での移動という物が、「今は昔の物語」になってしまった様で、うら淋しい気持ちを抱えながら、大田の実家を訪問した私なのだった。





和子伯母ちゃんは、とてもお元気そうに、笑顔で迎えてくれた。変わらないはつらつとした声で、近況の報告をしてくれた。




「珠ちゃんが来とった頃と全然違っとろう?」




母が兄弟達と長細いお膳を囲んで楽しそうに宴会をしていた居間。




おばあちゃんの嫁入り道具だという、繊細な作りの小さな箪笥や戸棚が端に並んでいた廊下。




その廊下から皆のいる居間をよくガラス越しに見ていた、仕切りのガラス付き障子。




そして年雄伯父ちゃんがいつもしゃがむように座っていた、海に面した窓辺の部屋。




その全てが、今ではとっぱらわれて、広い板張りの床になってしまっていた。




「娘のムコが大工さんなんよ。おばあちゃんの部屋の畳が沈んどったのも直してもろうたん。」





和子伯母ちゃんが、一人になって懸命にこのおうちを守っておられるんだなあ、という事が胸に迫って、言葉を選んで私は思いを口にした。




「あそこのところに廊下があって、焦げ茶色の床だったですよね。そっちはみんなが集まってよくご馳走よばれてましたよね。こうなってみるとこんなに広いんですねえ。寂しいようですね。」




伯母ちゃんは笑顔のままで、「いつの間にか一人になってしもうたねえ。じゃけど時々、なんとなくおばあちゃんがおる様な気がするんよ。」「おばあちゃんとふたーりの事が長かったけ。」




義理の親や連れ合いを次々と見送って、がらーんとしてしまった嫁ぎ先の家で、今ではたった一人で暮らしている伯母ちゃん。それでも、お姑さんと暮らしていた頃を懐かしんでいるんだなあ。素敵な関係だなあ。




私は、正直驚いていた。なんて強い、どこまでも明るい、たくましい人だろう。




こんな素敵な人だから、きっと先に逝った家族達が、見守ってくれているんだろうなあ。




長居をしてもいけないと桂子おばが気を回して、最近は足が痛むと言う伯母ちゃんに労りと励ましの言葉をせめてかけさせてもらいながら、様変わりしてしまった大田商店のおうちを後にした、ほろ苦い一日であった。



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