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39,リングを捨てた夜


その日、私はいつもの様に、夕食後の食器洗いを済ませた。






残菜をまとめてシンクの隅の三角コーナーに入れ、水を切る。






明日の朝、生ゴミの袋に入れてゴミ収集所に持って行くだけの状態だ。






大根の皮やキャベツの芯、人参のしっぽなんかが放り込まれた生ゴミの様子を、特別な感慨を持って眺めた訳ではなかった。






迷いや戸惑いや躊躇などによる、何らかの意味を持った、沈黙とも間とも呼べる様な物はそこには全く無く、私はまるで梅干しの種を舌の先からつまんで無造作に投げ込むように、左手の薬指からリングを外して捨てた。






雑然とした残菜のてっぺんに、古びたゴールドのリングがひとつ乗っているのを、少しの間注視して、袋を閉じた。






古くなって輝きが失われ、もはやゴールドとは言い難い、黄土色にも近い鈍い色合いになっていたそれは、残菜と共に存在していてもちっとも違和感を感じさせなかった。






忙しく子供達の入浴を済ませ、洗濯をしたら手早く干して夜風に晒すべくベランダにせわしなく持ち出す。






保育園の荷物を整え、子供達を寝かし付ける行動に移りながら、私はふと、妙に息が楽な事に気が付いた。






意識して深呼吸をしているつもりはなかったが、何故だか呼吸のひとつひとつが、自然と深くなって随分と楽に出来ている気がする。






思えば気持ちも何故だか軽やかだ。






せいせいした様な気持ちだった。






余計な荷物を手放した様な爽快感と言っても当てはまるかも知れなかった。


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