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38,三人の外孫


一人目の子供が産まれた後、私は母に言った。




「女の子では困るって言われた。」







二人目の子供が産まれた時、母は私に言った。




「産後で大変だから、おばあちゃんのお葬式には顔出さなくて良いよ。」







三人目の子供が産まれた後、母が私に言った。




「あんた、外孫ばっかり三人も産んでから。」






私は、嫁いだ先の苗字を名乗る子供を三人授かった事には違いなかった。






元々子供が好きな私は、乳児期や幼児期といった我が子達の世話や相手をする事が楽しく、充実した日々を送っていた。






第一子のお披露目に、夫の実家を訪れた際、義父が私に言った。




「女の子では困るんじゃ。男の子をあと二人、お願いします。」






私達夫婦の結婚披露宴での挨拶で、ほろ酔い気分で「大日本帝国万歳。」発言をした、海軍幹部の軍人家庭の長男として育まれた義父であった。






富国強兵の精神をその身に叩き込まれ、一家の長男がその精神を脈々と受け継ぐべし。まさにその生き証人だ。






そんな人物に頼まれたからという事で従った訳ではないが、たまたまその後、男の子を二人授かった我々夫婦であった。






さて、負けず嫌いで鼻っ柱の強い私が、腕の中の長女をことさらに強く抱きしめながら、「では女の子は必要ないって言う事ですね!」と義父に食ってかかったのは言うまでもない。






その場は酒の席で、笑って流された訳だったが、私の心には、大きく暗い影を落とした出来事であった。






一方、私の父方の祖母は、長く認知症を患い、入院生活を送っていた。






実家の母が、面会や事務手続き等の面倒を見ていたのだが、私が第二子を出産後まもなく祖母が息を引き取ったとの事で、母が電話をくれたのだった。






父方の親戚に失礼に当たるとは言えど、産後まもない私の身を気遣って、葬儀への参列を猶予してくれた母だった。






男の子の誕生は、夫の実家ばかりでなく、男子に恵まれなかった私の実家にとっても喜ばしい物であったと見られ、母は自らの闘病の合間に無理をしながら、男の孫の顔を見に来ては珍しそうにしていた。






母の闘病を気遣い、私は長男誕生後、数日経ってから母の都合に合わせて、無事の出産報告をしたのだった。






「あんた、いつの間にか知らんうちに産まれて〜。」と赤子に嬉しそうに話しかけていた母だった。






私は、小さな子供や赤ちゃんに囲まれ、忙しい中にも、日々たくさんの幸せを見つけながら暮らしていた。






ディズニーシリーズのCDをかけて子供たちと一緒に聴きながら、遊んだり、家事をしたりして過ごす。






子供たちの些細な行動の中にも、可愛らしさや健気さ、あどけなさを見出し、子育ての喜びに満ちた、人生でも最高ではないかと思われる時期を過ごしていた。






笑顔と歓声と元気に溢れ、泣きわめく声や怒号さえ生活のアクセントとなって、心豊かな日々の暮らしを織り成していた。






それだけに、電話越しの母の言葉には驚愕した。






そんな風に思われていたとは。






無事に三人の孫を産んで、元気に子育てをして、時には顔を見せに連れて行って、てっきり両親共に手放しで喜んでくれている物とばかり、信じ込んでいた。






「外孫」という響きは、もはや私にとっては、何の意味も成さない、空虚な音声でしかないのだが、母にとっては、わざわざ娘に電話をかけて、育児で忙しくしている手を止めさせてまで、一言言ってやらないと気が済まない種類の、特別な意味を持つ言葉であったという事であろうか。






その言葉のバックボーンには、どんな景色が広がっているのだろう?






あの時義父の言葉が私の心に暗い影を落とした出来事と、似た様な種類の光景なのだろうか?






どれだけ考えても正解には辿り着けないと漠然とわかっていながら、我が子達の無邪気な笑顔の向こうに、母の思いを探ろうと足掻いている自分がいる事を感じていた。



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