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スピンオフ②:ユキ様シャッターチャンス大作戦!

第一章:まゆの部屋、クリエイターの苦悩

「……ダメ。……全然、ダメだわ。ユキの本当の『心』が、一枚も写し出せていない……っ!」


鏡石が静かに光を放つアニマルタウンの夜。まゆの部屋には、モニターから溢れる青白い光と、絶望に近い吐息が満ちていた。

かつて、沈黙の儀式の最中、絶望の淵で震えるユキの手を握りしめ、共に運命を切り拓いたあの極限の集中力は、今や「パートナーの奇跡の一瞬をいかに記録するか」という、狂気にも似たクリエイティブな執念へと変貌を遂げている。


「ええーっ、まゆちゃん! これ、どれもすっごく可愛いよ? ほら、このユキがちょっとあくびしてるのとか、ワンダフルに最高じゃない!」


隣でポテトチップスを無邪気に頬張りながら、いろはがモニターを覗き込む。彼女の瞳には、世界は常に輝いて映っているが、職人気質のまゆの眼差しは冷徹だ。


「違うの、いろはちゃん! 人間の姿になってから、ユキはカメラを向けると、どうしても『完璧な自分』を演じてしまうの。……私が撮りたいのは、そんなモデルみたいなユキじゃない! 無防備で、ふとした瞬間に猫の耳がぴょこんって出ちゃうような……あの、魂の底からリラックスした、剥き出しのユキなのよ!」


まゆはガバッと立ち上がり、キーボードを叩く指を震わせた。


「今の私のシャッタースピードじゃ、ユキの『猫戻り』の速度に勝てない。……これは、私の愛がまだ、ユキの心の最深部にある『警戒の檻』を溶かしきれていない証拠だわ……っ!」


まゆの背後に漂う、芸術家特有の「重いオーラ」。

部屋の隅、ぬいぐるみを抱えてその様子を観察していたこころが、静かに眼鏡の奥の瞳を光らせた。


「……なな先輩。まゆちゃん、完全に『表現の迷宮』に迷い込んでるよ。愛が深すぎて、逆に被写体との距離を見失っちゃってるね」


「だね。これはもう、あたしたちが動くしかないよ! 絆のプロデュース力、ここで使わなきゃ女が廃るってもんさ!」


ななが不敵に笑い、スマホのグループチャットを猛烈な勢いで立ち上げる。


「よーし! 14人の共鳴をフル活用して、ユキの鉄壁のガードを内側から崩してあげる! 名付けて――『ユキ様シャッターチャンス大作戦!』」


「えっ、大作戦……!? 私、ユキのためなら何でもするよ! ユキを世界一の笑顔にして、まゆちゃんに『最高の瞬間』をプレゼントしちゃおう!」


いろはが拳を握りしめ、瞳を太陽のように輝かせる。


「感謝します、なな、こころ、いろはちゃん! ……私、絶対に見つけるわ。レンズ越しじゃなく、私の魂に焼き付いている……ユキの『本当の形』を……!」


こうして、まゆの求道者としての苦悩と、いろはの全肯定の熱意が合流し、アニマルタウンを舞台にした、史上最も平和で、かつてないほど熾烈な「撮影会」が幕を開けた。


第二章:ひろプリ組、ヒーローのポージングは猫に小判?

「いいですか、ユキさん! 真の美しさとは、内側から溢れ出る『正義の輝き』です! さあ、私と一緒に、天を突くこのポーズを!」


アニマルタウンの中央公園。ソラは、マントをなびかせているかのような鋭い足捌きで、抜けるような蒼穹をバックにビシッと指を差した。あまりに真っ直ぐなその瞳は、太陽の光さえも反射してキラキラと輝いている。

作戦名は『ヒーロー降臨! 凛々しすぎるシャッターチャンス作戦』。


背後の茂みからは、特大の望遠レンズを構え、指を小刻みに震わせているまゆと、ユキを笑わせようと手作りの猫じゃらし(特大・鈴付き)を狂ったように振り回すいろはが、固唾を呑んで戦況を見守っていた。


「ユキ、見て! ソラちゃんのポーズ、すっごくワンダブルにかっこいいよ! シャキーンってしてみて!」


「……っ、ユキ……今よ。その高潔な魂が震えて、耳がぴょこんって出る瞬間を……私のシャッターに刻ませて……っ!」


二人の熱烈な期待に対し、ベンチに腰を下ろしたユキは、優雅に脚を組み替えただけだった。


「……お断りよ。そんな騒がしい動き、私の美学に反するわ。まゆ、こんな特訓が必要なの?」


「ひぃっ、ごめんねユキ……! でも、ソラちゃんの凛々しい姿に触発されて、ユキの『気高い本能』が呼び覚まされるかと思って……っ!」


「それなら、アゲアゲな感じでいっちゃおうよ!」


ここであげはが、眩しいばかりの笑顔で参戦。その隣には、キラキラした瞳でユキを凝視するエルが控えている。


「ほら、ユキちゃん! エルちゃんと一緒に、最強に可愛い決めポーズ! テンション上げてこ!」


「ユキ、キラキラ! いっしょに、ぷりきゅあポーズ!」


エルが小さな手を精一杯広げてポーズを決めると、ユキの眉がピクリと動いた。……が、次の瞬間、ユキの瞳に宿ったのは、感動ではなく「悟り」だった。


「……はぁ。あなたたち、少し落ち着きなさい」


ユキはふうっと深いため息をつき、視線をスッと逸らした。その表情は「凛々しい」どころか、完全に「騒がしい親戚に囲まれた、疲れ果てた保護者」のそれだった。

公園の大きな時計塔の陰から、ななとこころが身を乗り出した。


「……なな先輩。ソラちゃんの熱血ポーズも、あげはさんのアゲアゲも、ユキちゃんには『ただのノイズ』にしか聞こえてないみたい。完全に心のシャッターが閉まってるよ」


「こころ、それだよ。ユキのクールな壁が厚すぎて、ヒーローの輝きさえも100%反射しちゃってるね……。見てよ、まゆのカメラ、ソラちゃんの残像しか写ってないし」


「……っ、まさか、私のヒーローポーズが通用しないなんて! ユキさん、相当な修行を積まれていますね!?」


ソラが驚愕に震える中、まゆはシャッターを一回も切れないまま、震える手でカメラを抱きしめて膝をついた。


第三章:キミプリ組、演算と野生のメロメロ方程式?

「……いいですか、ユキ。真の美しさとは、愛する者を前にした時に零れ落ちる『一瞬の綻び』ですわ! 私の演算によれば、今、ここで最高密度の抱擁ハグを交わせば、あなたのガードは0.02秒で崩壊し、猫耳が強制排出されますわ!」


アニマルタウンの閑静な庭園。メロロンは、自作の「萌え指数測定器」の数値を激しく上下させながら、ユキにビシッと指を突きつけた。その隣では、何も考えていないプリルンが「わあ、ユキをギュッてすればいいの? 任せて、得意だよー!」と、既に両腕を大きく広げてスタンバイしている。


作戦名は『愛の特効薬! お姉様プリルンのハグで耳出し誘発作戦』。


庭の生垣の隙間から、望遠レンズのピントをミリ単位で追い込み、指をトリガーにかけたままで静止しているまゆ。そして、ユキの気を引くために猫用の「おもちゃ(羽付き)」を全霊で振り回すいろはが、息を呑んで「その時」を待っていた。


「……まゆちゃん、今だよ。プリルンの『無垢な愛』が、ユキのパーソナルスペースに侵入したわ……っ!」


「……っ、いろはちゃん、……静かに。ユキの瞳のハイライトが、計算通りに揺らぎ始めたわ……! プリルンさん、全出力でお願いしますわっ!」


「よしよし、ユキ! プリルンお姉様が、ワンダフルに温めてあげるねー!」


プリルンが、全力の「野生の抱擁」でユキの首筋に顔を埋め、力一杯抱きしめた。


(……来ましたわ! この論理ロジックを無視した純粋な愛の暴力! これには、あの鋼の自制心を持つユキとて、猫の耳を隠し通すことなど不可能……っ!!)


「……。……。……ちょっと、プリルン。……苦しいわよ」


ユキの反応は、あまりにも「無」だった。

それどころか、あまりにプリルンが全力かつ物理的な力で抱きついてくるため、ユキは猫に戻るどころか、「この予測不能な個体をいかにエレガントに受け流すべきか」という高度な防衛回路をフル稼働させてしまった。


「お、お姉様……っ!? もっと、もっとこう、ロマンチックな雰囲気で……耳をぴょこんとさせるような、柔らかな慈愛を……っ!!」


「ええー? プリルン、これでも一生懸命だよー! ぎゅーーーっ!!」


「……まゆ。これ、あと何分続くのかしら。私の体幹が試されているの?」


ユキの瞳は、もはや冷え切った絶対零度の極み。シャッターチャンスどころか、現場は「猛烈な抱擁を無表情で受け流す、シュールな静水圧実験場」と化した。

庭のあずまやの陰から、ななとこころが顔を出した。


「……なな先輩。愛が重すぎて、逆にユキちゃんの心臓が氷点下まで凍りついちゃってるよ。メロロンちゃんの演算、完全に正負が逆転しちゃってるね」


「こころ、それだよ。プリルンの『野生のハグ』、ユキにとってはただの物理的なホールド(拘束)になっちゃってるもんね……。見てよ、まゆのカメラ、レンズが結露で真っ白になっちゃってるし」


「……ううっ、ユキが……ユキの表情が、悟りを開いた仏像のように固まってしまった……っ!」


まゆは、真っ白に曇ったファインダーを覗きながら、静かにカメラを膝に置いた。

第三陣、キミプリプリルン・メロロン。メロロンが期待した「愛の綻び」は、プリルンの過剰なスキンシップによって「鉄壁の忍耐」へと昇華され、ユキの耳はピクリとも動かないまま、作戦はシュールな静寂の中に消え去っていった。


第四章:こむぎとましろ、癒やしのワンダフル空間?

「……ふふ、ユキちゃん。これ、まゆちゃんが選んでくれた特別な『猫用高級かつお節スティック』だよ。少しだけ、食べてみない?」


アニマルタウンの柔らかな日差しが差し込むテラス席。ましろは、春の陽だまりをそのまま形にしたような穏やかな微笑みを浮かべ、小皿に乗った香ばしいおやつを差し出した。その隣では、こむぎが「くんくん! すっごくいい匂いだワン! ユキ、これ食べたら絶対ワンダブルになるワン!」と、尻尾を千切れんばかりに振って全力で応援している。


作戦名は『究極の懐柔! ましろの癒やしとおやつで耳出し誘発作戦』。


テラスを囲む生垣の陰から、望遠レンズのピントを瞳の虹彩ミリ単位で調整するまゆと、ユキをリラックスさせるために「猫の鳴き真似(プロ級)」を喉を鳴らして練習するいろはが、石像のように息を殺していた。


「……まゆちゃん、今だよ。ユキが、ましろさんの聖母のようなオーラに毒気を抜かれたわ……っ!」


「……っ、いろはちゃん、動かないで。ユキの鼻先が……ピクッてした……! 来るわ、猫の本能が理性を上書きする瞬間が……っ!!」


ユキは、ましろの放つ圧倒的な「拒絶させない優しさ」と、抗いがたい「かつお節」の芳醇な薫香に、わずかに目を細めた。


「……。……。……仕方ないわね。ましろがそこまで言うなら、一口だけ頂くわ」


ユキが、吸い寄せられるようにおやつへ身を乗り出した、その刹那。


「ワンッ! ユキ、美味しいワン!? 私も、私も一緒に食べたいワンッ!」


こむぎの「ワンダブルな共感(という名の食欲)」が臨界点を突破した。こむぎは、喜びのあまりユキの目の前で弾丸のように跳ね回り、その勢いでカフェのテーブルを激しく揺らしてしまった。


「……っ!!」


ユキの全身の産毛(というより、人間姿の背筋)が、雷に打たれたように逆立った。

リラックスしかけた静謐な空間は、こむぎの全力の「犬の歓喜」によって一瞬で「カオスな大騒動」へと変貌を遂げた。


「こ、こむぎちゃん、落ち着いて……っ!」


「あはは! こむぎ、元気いっぱいだね! ユキ、もっと近くで見て、ワンワンッ!」


いろはまで加わって「ワンワン!」「ニャーニャー!」と賑やかな種族混合の大合唱が始まり、ユキは差し出されたおやつを口にするどころか、スッと立ち上がり、零下三十度の視線で一同を見下ろした。


「……やっぱり、お断りするわ。こんな野蛮な喧騒の中で食事なんて、私のプライドが許さないもの」


テラスのウッドデッキの下、隙間からななとこころが顔を出した。


「……なな先輩。ましろさんの『究極の癒やし』が、こむぎちゃんの『圧倒的なわんこ力』に完全に粉砕されちゃったね。ユキちゃん、リラックスどころか、今すぐ爪を立てそうな戦闘態勢モードだよ」


「こころ、それだよ。おやつの香りで釣るはずが、ただの『騒がしい放牧地』になっちゃったね……。見てよ、まゆのカメラ、こむぎの残像で画面が真っ茶色だよ」


「……ううっ、あと数ミリで、ユキの耳が……猫の耳が、銀髪を突き抜けて出てくるはずだったのに……っ!」


まゆは、画面いっぱいに映るこむぎの「鼻デカ写真」を見つめながら、静かにレンズキャップを閉めた。


第四陣、こむぎ&ましろペア。ましろの慈愛は、こむぎの純粋な暴走という天災によって霧散し、ユキの「猫の心」は、かつてないほど分厚い鉄のカーテンを閉ざしたまま、優雅にその場を去っていった。


第五章:ななとこころ、プロデューサーの逆襲?

「……なな先輩。これ、もう普通のアプローチじゃ一生無理だよ。ユキちゃん、完全に『撮影されてる自分』を完璧にプログラミングしちゃってる。このままだと、まゆちゃんのメモリカードがユキちゃんの『美しすぎる真顔』だけで埋め尽くされちゃう」


アニマルタウンの図書館横、静かな木漏れ日の差すベンチ。こころは、これまでの失敗データのログを見つめ、静かに眼鏡のブリッジを押し上げた。その瞳には、かつて世界の危機を見守り続けた時のような、鋭い分析の光が宿っている。


「ふっふっふ……。こころ、あんたも甘いね。ユキが『完璧な自分』を守ってるなら、その『完璧さ』を逆手に取ればいいのさ! ななの七不思議・その十! 『鉄壁のガードは、思わぬ一撃に弱い』……ってね!」


作戦名は『プロデューサー直伝! 虚を突くサプライズ・パニック作戦』。


生垣の影から、極限まで絞った絞り値でシャッターチャンスを待つまゆと、ユキを誘導するために特製の「猫用高級マタタビ香」を焚いたうちわを全霊で仰ぐいろはが、固唾を呑んで戦況を凝視していた。


「……なな先輩、今だよ。ユキちゃんが、ファッション雑誌のページをめくる指を止めた……っ!」


ななとこころは、気配を完全に消し、忍者のような足捌きでユキの背後に忍び寄った。ユキは優雅にハーブティーを楽しみながら、思索の海に沈んでいる。


「……? 何かしら、この奇妙な圧迫感は」


ユキが振り返ろうとした、その刹那!


「はいっ、ユキ! 今日の運勢は……**『ラッキー・キャット』**だよっ!」


ななが、どこから取り出したのかも分からない「手作りの巨大おみくじ筒」を、ユキの目の前で爆発的な勢いで振り回した。


「わあぁっ!? 何をするのっ!」


驚愕でユキの肩が大きく跳ね上がる。そこへ、こころが淡々とした、しかし電光石火の手つきで、ユキの目の前に「最新トレンドの猫耳カチューシャ(キラキラ仕様)」を突き出した。


「ユキちゃん、これ、アニマルタウンで今一番流行ってるアイテムだよ(嘘)」


「……っ、ふにゃっ!?!?」


予期せぬ不意打ち、理解を拒絶するななのテンション、そして視界を覆うキラキラの暴力。三位一体の攻撃に、ユキの理性が一瞬だけ「空白」になった。


「今よ、まゆちゃん! シャッターを、魂を込めて切って!!」


「……っ!! 来たわ、ユキの銀髪が逆立って……猫の耳が、ぴょこんって……っ!!」


まゆが震える指でシャッターボタンを深く押し込もうとした、その瞬間。ななが勢い余っておみくじ筒を激しく振り抜き、中から大量の「大吉」と書かれた紙の束が、雪崩のようにユキの頭上に降り注いだ。


「わっ、出しすぎた! 大盤振る舞いだよユキ、これ全部ラッキーだよ!」


「なな先輩、それは物理的な攻撃に近いよ……っ!」


「……っ!! も、もう、いい加減にしてちょうだいっ!!」


怒りと羞恥で顔を真っ赤にするユキ。しかし、その頭の上には「大吉」の紙が何枚も重なって乗っており、肝心の猫耳は、紙の重みとパニックによる自己防衛本能で、逆に頭の中に深く引っ込んでしまった。


ベンチの影で、ななとこころが揃って頭を抱えた。


「……なな先輩。驚かせすぎて、猫耳が『完全防衛モード』に入っちゃったよ。驚かせればいいっていう理論、完全に破綻したね」


「こころ、それだよ。ガードを解くどころか、物理的な紙吹雪で埋め立てちゃったね……。見てよ、まゆのカメラ、舞い散る『大吉』の文字にばかりピントが合っちゃってるし」


「……ううっ、あと一歩だったのに、……ユキの耳が『幸運の紙』に隠れて消えちゃった……っ!」


まゆは、画面いっぱいに広がる「大吉」という文字の羅列を見つめながら、静かにレンズキャップを閉めた。


第五陣、なな&こころペア。観測者としてのプライドをかけた奇策は、物理的な「大吉」の洪水によってユキの尊厳と共に流され、作戦は盛大に、そしてお祭り騒ぎのようなカオスを残して失敗に終わった。


第六章:うたとはもり、忍耐の先にある温もり

「……ユキ。少し、疲れちゃったかな」


夕暮れのアニマルタウン。茜色の光が長く伸び、すべてを柔らかな陰影で包み込む咲良邸の庭で、うたは、騒がしいプロデューサーたちの猛攻から逃れてきたユキの隣に、音もなく腰を下ろした。その隣では、はもりがうたの肩にこてんと頭を預け、安心しきった様子で「すぅ……すぅ……」と、深い安らぎの寝息を立てている。


作戦名は『言葉なき共鳴、魂の安らぎで耳出し誘発作戦』。


庭の物置の陰、完全に気配を消し、シャッター音を物理的に封じ込めた特注の防音カバー付きカメラを構えるまゆ。そして、その隣で祈るように胸の前で手を握りしめるいろは。


「……まゆちゃん。今だよ。……うたとはもり、そしてユキ。三人の心の波長が、ひとつの旋律メロディみたいに溶け合ってる……」


「……っ、いろはちゃん、呼吸を止めて……。……今、……この静寂しじまこそが、ユキの深層意識ガードを解く唯一の鍵……っ!」


うたは、眠るはもりの手を優しく包み込みながら、空いた方の指先で空中に円を描いた。それは、かつて沈黙の儀式の最中、バラバラになりかけた仲間たちの心を繋ぎ止めた、あの調べをなぞるような、慈愛に満ちた動きだった。


「ユキ。……私たちは知っているよね。……誰にも言えない不安も、守りたいもののために必死だったあの夜の痛みも。……だから、ここではもう、自分を飾らなくていいんだよ。……あなたは、あなたのままで、ここにいていいんだから」


うたの言葉は、音波というよりは、直接魂を包み込む「温度」としてユキに伝わった。

ユキは、ゆっくりと重い瞼を閉じた。……張り詰めていた肩の力が抜け、人間としての「完璧な武装」が、春の陽光に溶ける雪のように、静かに、確実に消えていく。


「……。……。……あなたたちを見ていると、不思議ね。……ずっと昔から知っているような、懐かしい匂いがするわ……」


ユキの呼吸が、寄り添う姉妹の穏やかな鼓動と同調していく。

その時だった。ユキの美しい銀髪の間から、**「ぴょこんっ」**と、柔らかそうな猫の耳が、月明かりを待つ蕾のように、奇跡的な無防備さで姿を現した。


「……っ!! 来た、来たわ、いろはちゃん!! 本物の、偽りのないユキの耳が……っ!!」


まゆの指が、ついに運命のシャッターボタンを深く押し込もうとした、その刹那。


「……む、……ふぅ……。……お姉ちゃん、……だいすき……」


はもりが、幸せすぎる夢を見たのか、それとも隣にいる大好きな姉の温もりを感じたのか、穏やかな寝言と共に、ふにゃりと力を抜いてうたの膝に転がり込んだ。その拍子に、はもりの柔らかな髪が、まるで絹糸のようにユキの頬を「さらり」と優しく撫で上げた。


「……っ、ふにゃっ!?!?」


予期せぬくすぐったさに、弾かれたように跳ね起きたユキ。その瞬間、弛緩していた本能が驚きへと反転し、耳は一瞬で銀髪の中に隠れ、代わりにあまりの動揺に**「完全に猫の姿」**へと戻ってしまった!


「ああっ、ユキ! ……ふふ、驚かせちゃってごめんね。はもり、寝言でお姉ちゃんって呼んでくれてたみたい」


うたが優しく微笑みながら、膝の上で丸くなったはもりを愛おしそうに撫でる。

ユキ(猫)は、真っ赤になった顔(毛並み)を隠すように、一目散に屋根の上へと駆け上がり、二度と降りてこようとはしなかった。

庭の物置の裏から、ななとこころが脱力した様子で這い出してきた。


「……なな先輩。せっかくの『沈黙の絆』がテーマの神回だったのに、最後ははもりちゃんの『お姉ちゃん愛』という天然の癒やしに負けちゃったね」


「こころ、それだよ。魂の共鳴は成功したのに、あの『寝返りヘア・アタック』は演算の外だったね……。見てよ、まゆのカメラ、驚いて宙に浮いたユキの『お尻のしっぽ』しか写ってないし……」


「……ううっ、……完璧な、完璧な聖母のような横顔だったのに、……最後は銀色の毛玉ユキの残像だけなんて……っ!」


まゆは、画面に映る「重力から解き放たれた銀色の毛玉」を見つめながら、静かにカメラの電源を落とした。


第六陣、うた&はもりペア。魂の共鳴は確かにユキの心を溶かしたが、はもりのあまりに純粋な「お姉ちゃんへの愛」という天然の奇跡によって、決定的なシャッターチャンスは茜色の空の彼方へと消え去っていった。


第七章:本当の「可愛い」の形、ニコ様の至言

「……結局、一枚も撮れなかったわ。ユキの、あの『無防備な耳』……。私のシャッタースピードじゃ、愛の速度に追いつけなかった……っ」


アニマルタウンを一望できる、見晴らしの丘。まゆは、力なくカメラを膝に置き、街の灯りが星屑のように瞬き始めた夜景を見つめていた。隣では、いろはが「ごめんね、まゆちゃん。私がはしゃぎすぎちゃったから……」と、申し訳なさそうにこむぎを抱きしめている。


ななとこころ、そしてソラたち14人の仲間も、どこかやり遂げたような、それでいて少し悔しいような表情で、冷たくなり始めた夜風を頬に受けていた。


「……なな先輩。結局、ユキちゃんのガード、最後まで崩せなかったね」


「こころ、それだよ。14人の絆をフル稼働しても、乙女のプライド(猫の意地)は演算の外だったってわけ」


ななは、わざとらしくため息をついて見せた。


「ななの七不思議・その十一! 『最高のシャッターチャンスは、カメラを持っていない時にやってくる』……ってね!」


「なな先輩、それ、負け惜しみじゃなくて、ただの真理だよ」


こころが、クスッと笑う。その穏やかな笑い声が、沈黙していた14人の間に波紋のように広がっていった。

その時だった。


「……ふふ。あなたたち、まだそんな顔をしているの?」


凛とした、けれど鈴を転がすような涼やかな声。

振り返ると、そこにはいつの間にか、人間の姿に戻ったユキが立っていた。驚くことに、彼女の手には一本のソフトクリームが握られており、口元にはかすかに、本当に微かに、クリームが白く残っている。


「ユ、ユキ……っ!?」


「まゆ。……カメラなんてなくても、私はここにいるわ。あなたが私のことを『可愛い』と思ってくれているなら、それで十分じゃない」


ユキは少しだけ顔を赤らめ、夜の風から視線を逸らすように言った。その瞬間、ユキの銀髪の間から、**「ぴょこんっ」**と、今日一番の、そして最高に柔らかそうな猫耳が姿を現した。


「……っ!! あ……、ああ……っ!!」


まゆは、慌ててカメラを構えようとした。……が、その指は止まった。

今、この星空の下で、仲間たちに囲まれて、少しだけ照れくさそうに笑うユキ。レンズ越しではなく、自分の瞳で一生焼き付けるべき「輝き」が、そこにはあったからだ。


「……うん。……そうだね、ユキ。……今のユキ、世界で一番可愛いよ……っ!!」


まゆはカメラを置き、ユキの手をぎゅっと握りしめた。いろはも、こむぎも、みんながその輪に加わり、丘の上には今日一番の「ワンダフルな笑い声」が響き渡った。


その光景を、遥か高み、ニコランドの聖域から見つめる者がいた。

神聖な光を纏ったニコ様は、泉の水面に映る少女たちの笑顔を、慈愛に満ちた眼差しで愛でていた。


「……姿を変え、言葉を手に入れ、それでもなお変わらない『愛おしさ』。……それを形に残そうと足掻き、失敗し、けれど最後にはただの『温もり』で通じ合ってしまう……。人間という種族は、本当に不器用で、そして……何よりも美しい存在ね……」


ニコ様は、そっと泉の波紋を指先でなぞった。


「特別な力がなくても、誰かのために心根を揺らす……あの二人ななとこころも、立派な『絆の守護者』ね。……さて、明日はどの服で彼女たちの前に現れようかしら。アイドルとしての私も、彼女たちの『シャッターチャンス』にならなくてはね」


ニコ様が満足げに微笑むと、その姿は一瞬で光に溶け、地上では再び大型ビジョンの中で、全人類を魅了するアイドルの歌声が響き始めた。


第八章:データの向こう側、未来を映す一枚

「……ふふっ。やっぱり、どれもこれもユキの『完璧な美しさ』からは程遠いわね」


「ええーっ!? そんなことないよまゆちゃん! ほら、このブレブレのユキ、まるで躍動感の塊みたいで最高じゃない!」


夜、静まり返ったアニマルタウン。まゆの部屋では、モニターの淡い光を囲んで、まゆといろはが肩を並べて今日一日のデータを「検分」していた。


画面には、ソラの残像、こむぎの鼻デカ写真、そして、はもりの寝言に驚いて宙を舞ったユキの銀色の毛玉……。まゆが「ボツ」フォルダにマウスを動かすたびに、いろはが「待った!」と声をあげて笑い転げる。


「ねえ、まゆちゃん。……私たち、一年前はこんな風に笑い合えるなんて、思わなかったよね」


いろはがふと、モニターを見つめたまま呟いた。その言葉に、まゆの指が止まる。


二人の脳裏に、かつての沈黙の儀式の、あの凍てつくような記憶が鮮明に蘇る。

まゆは、自分の左手に残る、孤独で冷たい感触を。

いろはは、大切なパートナーを失いかけ、世界が色を失ったあの瞬間の絶望を。


「……うん。あの時、いろはちゃんが私の手を引いてくれなかったら。みんなが、私たちのために戦ってくれなかったら……。今頃、この写真は『ただの記録』でしかなかったかもしれない」


まゆは、ある一枚の画像を開いた。

それは、陽だまりのカフェで撮られた一枚。ましろの穏やかな微笑みの隣で、こむぎが全力で跳ね、それを見たユキが呆れながらも、微かに、本当に微かに「家族」に向けるような柔らかな眼差しを見せた瞬間の、ピントの合っていない失敗作。


「……あ。これ……」

「……うん。みんな、映ってるね」


背景には、散らばったおみくじを片付けるななとこころ、遠くでヒーローのポーズを復習しているソラ、寄り添うキミプリ組、そして、寄り添うように眠るうたとはもりの姿。

14人全員が、それぞれの温度で、当たり前のように同じ空間アニマルタウンを共有している。


「完璧な一枚じゃない。……でも、この『騒がしい幸せ』こそが、私たちが取り戻したかったものなんだね」


まゆの言葉に、いろはが力強く頷く。


「そうだよ! 完璧じゃなくても、ブレてても、みんながいる。……それが、私たちが守った『わんだふる』な世界なんだもん!」


まゆの瞳から零れた雫は、過去の傷を癒やす再生の光。二人の手が重なり、モニターの中の「不格好で愛おしい日常」を優しく肯定した。


「まゆ……。いろは……。まだ寝ないの?」


ベッドの中から、眠そうな声が二つ重なった。見ると、人間の姿のユキと、犬の姿のこむぎが、重なり合うようにしてこちらを見ている。ユキの頭には、無防備な猫耳がぴょこんと飛び出していた。


「……あ、まゆちゃん! 見て、今! 最高のシャッターチャンス!」


「……ううん。……もう、いいの。今この瞬間は、私の『心のシャッター』だけで十分だから」


まゆは微笑み、そっとカメラの電源を落とした。

もう、記録に縛られる必要はない。この光景は、二人が、そして14人が手を繋ぎ続ける限り、未来永劫、アニマルタウンを照らし続けるのだから。


ニコランドの聖域。ニコ様は、泉に映る少女たちの笑顔を、慈愛に満ちた眼差しで愛でていた。


『美しさとは、完成された姿にあるのではない。未完成な絆が、互いを想って揺らめくその瞬間にこそ、真実の光が宿る』


「……さて。神としての仕事はこれでおしまい。明日の朝一番のライブに向けて、アイドルの発声練習をしなくてはね。……みんな、素敵な夢を見て、プリキュア」


ニコ様が満足げに微笑むと、その姿は一瞬で光に溶け、地上では再び、14人の少女たちが守り抜いた虹色の夜明けが、静かに、けれど力強く差し込み始めた。


スピンオフ②:ユキ様シャッターチャンス大作戦!――完

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