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スピンオフ①:お姉様メロメロ大作戦ですわ!

第一章:ななの部屋、乙女の悩みは深刻ですわ!

「……もう、限界です。私の演算回路は、この耐え難い孤独にオーバーヒート寸前ですわ……っ!」


ななの部屋に、悲痛な叫び(と、少しドラマチックすぎる嘆きのポーズ)が響き渡った。

声を上げたのは、ななのベッドに突っ伏して枕を全力で叩いている少女――メロロン(キッス)。人間としての実体と「心」を手に入れてからというもの、彼女の感情は常にリミッターを解除された状態にある。


「ちょっとメロロン、落ち着きなって! あたしのベッドが涙で塩漬けになっちゃうよ!」


ななが、呆れを通り越して感心したような顔でツッコミを入れる。


「なな、冗談事じゃありません! お姉様が、人間になってからというもの、私に対して妙に余所余所しいのです! 妖精の姿だった頃は、夜寝る時、同じお布団の中で密着してお姉様の温もりを感じていたのに……人間になった途端、『今日からは別々だよ』なんて……。これはもう、私への愛が冷めたとしか思えませんわ!」


メロロンはガバッと顔を上げ、潤んだ瞳で訴える。その隣で、お気に入りのぬいぐるみを抱えたこころが、冷静かつ的確な一撃を放った。


「……メロロン。それは単に、人間サイズだと一人用のお布団には二人は入れないからじゃないかな?」


「いいえ、こころ! お姉様の愛があれば、物理的な面積や熱伝導率の低下など些細な問題ですわ! 私、このままではお姉様不足でシステムダウンしてしまいます。……なな、こころ! お願いです、知恵を貸してください。どうすれば、あのお方を……天然記念物級に鈍感なお姉様を、私にメロメロにさせられるでしょうか!?」


「……しょうがないね。あたしたちの絆の力、ここで使わなきゃ女が廃るよ!」


ななが不敵に笑い、スマホを取り出した。


「うん、メロロン。私たちで、プリルンにメロメロになってもらおう! なな先輩、作戦会議だよ!」


「よーし! 14人全員を巻き込んで、最高のシチュエーションをお膳立てしてあげる。名付けて――『お姉様メロメロ大作戦ですわ!』」


「感謝しますわ……! なな、こころ、お二人の友情は私の全ストレージに永久保存いたしますわ!」


こうして、平和なはなみちタウンの片隅で、一人の元妖精の(非常に個人的な)情熱をかけた極秘プロジェクトが動き出した。


第二章:いろはとこむぎ、散歩道は誘惑の香り?

「よしっ! 第一陣、ワンダフルに突撃だワン!」


はなみちタウンの陽光が降り注ぐ並木道。いろはとこむぎは、ななからの協力要請を受け、やる気満々で待ち構えていた。作戦名は『お散歩で物理的距離をゼロにしちゃおう作戦』。


「いい、こむぎ? 二人が肩を並べて歩けば、自然と手が触れ合って……そこからメロメロが始まるんだからね!」


「任せていろは! 私がプリルンをぐいぐいリードしちゃうワン!」


そこへ、何も知らないプリルンと、ななにコーディネートされた勝負服(フリル多め)に身を包んだメロロンがやってきた。メロロンの瞳は、期待でキラキラと輝いている。


「あ、いろはにこむぎ! 今日はお散歩に誘ってくれて嬉しいな!」


「……っ、お姉様、見てください。この並木道、二人で歩くには絶好の……その、密着感ではありませんか?」


メロロンが頬を染め、勇気を出してお姉様の腕にそっと自分の腕を絡めようとした、その瞬間。


「あ! あっちに大きなチョウチョさんがいるワン! プリルン、競争だワン!」


「わあ! 負けないよ! 待ってー!」


「……えっ」


メロロンの指先が、虚空を掴む。

こむぎの「野生の勘(という名の無邪気さ)」が炸裂し、プリルンの天然エンジンに火をつけてしまった。二人は「人間」の脚力をフルに使い、凄まじい速度で並木道を爆走し始める。


「待っ……待ってくださいお姉様! 淑女の散歩はもっと優雅に……ひぃっ、速すぎますわ……っ!」


並木道の植え込みの陰から、ななとこころが顔を出した。


「……なな先輩。あれ、ただのガチのマラソンになってるよ」


「あはは……。距離を詰めるどころか、光速で追い抜いてっちゃったね……。メロロン、フリルなびかせて激走してるし……」


「……計算、外です……」


ようやく追いついた先で、肩を並べて歩くどころか、全力疾走で息を切らし、髪をボサボサにしたメロロン。隣でプリルンとこむぎが「次はあっちまで競争だよ!」とはしゃぐ姿を見つめながら、彼女は力なく膝をついた。


第一陣、いろは&こむぎペア。共鳴しすぎて「散歩」が「ガチのマラソン」に化け、メロロンの乙女心は置いてけぼりのまま、作戦は失敗に終わる。


第三章:まゆとユキ、リボンが結ぶ一方通行?

「……いい、まゆ。リボンは単なる装飾じゃないわ。それは、視線を釘付けにする『絆のしるし』よ」


はなみちタウンのお洒落なカフェ。ユキは、新作のリボンを指先にかけ、騎士のような峻厳な面持ちで語りかけた。隣ではまゆが、少し緊張した面持ちで、特製の手作りリボンをいくつもテーブルに並べている。


「うん……! ユキと私でお揃いをつけると、なんだか心が繋がってるみたいで、すっごく幸せな気持ちになるもん。……メロロンちゃんにも、その温かさを知ってほしいな」


作戦名は『運命のお揃いリボン、視線は独り占め作戦』。


そこへ、マラソン(散歩)でボロボロになったメロロンを連れ、無邪気なプリルンがやってきた。


「まゆにユキ! 今日はお洒落の相談? プリルンも興味津々だよ!」


ユキは、あらかじめ用意していた「情熱の深紅」と「可憐な純白」の対になるリボンを手に取り、プリルンの前に立った。


「プリルン。今日はあなたに、特別な贈り物を。……そして、その対になるリボンを、あなたの最も大切なパートナー……メロロンに着けてあげなさい」


(き、来ましたわ……っ! お姉様の指先が私の髪に触れ、お揃いのリボンで結ばれる……。これはもう、実質的な……その、愛の誓いも同然ですわ……っ!!)


メロロンは、期待に胸を膨らませ、瞳を潤ませてプリルンの前に跪いた。プリルンの手が、深紅のリボンを持ってメロロンの髪に伸びる――。


「わあ! このリボン、すっごくキラキラしてて可愛い! ……でも、なんだかメロロンの今日の服には、こっちの白いリボンの方がもっと似合う気がするよ!」


「えっ……?」


プリルンの天然エンジンが、クリエイティブな方向へ誤爆した。


「ほらっ、メロロン! 白いリボンを着けると、メロロンの瞳がもっと綺麗に見えるよ! ……あ! この赤い方は、ユキのクールな髪色にぴったりだね! ユキ、着けてあげる! そしてまゆには、このフワフワしたのが似合うよ! みんなでお揃いだね、嬉しいな!」


「……。……。……独り占めどころか、……大盤振る舞い(シェアリング)されてしまいましたわ……」


カフェの植え込みの陰から、ななとこころが身を乗り出した。


「……なな先輩。プリルンの博愛主義、底なしだね。完全に『みんなで幸せになろう』っていう方向に変換されちゃった」


「こころ、それだよ。お洒落を極めすぎて『全員コーディネート』っていう斜め上の結果になっちゃったね……。メロロン、一番地味な予備のリボンがちょこんと乗ってるだけだし……」


第二陣、まゆ&ユキペア。プリルンの「全員大好き」という博愛精神の前に、メロロンの乙女の野望は、カラフルなリボンの海に沈んでいった。


第四章:ソラとましろ、ヒーローの抱擁は想定外?

「いいですか、メロロンさん! ヒーローとは、ただ強いだけではありません。大切な人が挫けそうな時、そっとその体を抱き上げ、安心させてあげる……これこそが『究極の信頼』への近道なのです!」


はなみちタウンの広場。ソラは拳を握りしめ、青空よりも澄んだ瞳で熱弁を振るっていた。隣でましろが、少しだけ頬を赤らめながら「そ、ソラちゃん、それはちょっとハードルが高いんじゃ……」と苦笑いしている。


作戦名は『ヒーロー直伝! ときめきのお姫様抱っこ作戦』。


そこへ、リボンの海に沈んで憔悴しきったメロロンと、依然としてエネルギーの塊のようなプリルンが到着した。


「わあ、ソラにましろ! 今日はヒーローの特訓? プリルンも強くなりたいな!」


ソラは、メロロンに向かって力強く頷いた。


「さあ、メロロンさん! 今です! お姉様が段差で躓きそうになった……という設定で、その華奢な肩を抱き寄せ、優しく抱き上げるのです! さあ、ヒーローの魂を燃やして!」


(……っ! 抱きしめるだけではなく、抱き上げる……! お姉様の柔らかな重みを、私の腕の中で……。これは、演算するまでもなく、最高難度の……そして最高のご褒美ミッションですわ……っ!!)


メロロンは意を決し、プリルンの前で足を踏ん張った。


「お、お姉様……っ! 足元が、危険ですわ! 私の胸へ、飛び込んできてください!」


「わかった、メロロン! 受け止めるよ!」


プリルンは、持ち前の野生の勘で「特訓」のスイッチが入った。だが、彼女が思い描いたのは「守られるヒロイン」ではなく「共に戦うパートナー」の姿だった。


「せーのっ……とぉっ!!」


「……えっ?」


メロロンが腕を広げるより先に、プリルンの驚異的な脚力が爆発した。

彼女はメロロンの横をすり抜けると、その細い腰をガシッと掴み、あろうことかメロロンを軽々と頭上までリフトアップしてしまった。


「とぉっ! メロロンを高いところへ避難させたよ! これで安全だね!」


「お、おねえ……さまぁぁ……っ!? 高いですわ! 地面が、遠いですわ……っ!!」


広場の銅像の陰から、ななとこころが身を乗り出した。


「……なな先輩。あれ、お姫様抱っこじゃなくて、ただの重量挙げになってるよ」


「こころ、それだよ。ロマンチックの欠片もないね……。プリルン、ヒーローっていうか、もはや重機パワーショベルの勢いだし」


「……ソ、ソラちゃん。……お姫様抱っこじゃなくて、高所作業車みたいになっちゃってるよ……」


「……っ、まさか、私の教えをさらに高みへと昇華させるとは。プリルンさん、恐るべしです……!」


第三陣、ソラ&ましろペア。メロロンが「抱き上げられる(あるいは抱き上げる)」はずの展開は、プリルンの怪力によって「高高度訓練」へと変貌し、メロロンの魂は空の彼方へと置いてけぼりにされた。


第五章:あげはとエル、お姉さん力は背中で語る?

「いい、メロロンちゃん? 恋も絆も、時には『全開で甘える』のが最強のスパイスなんだから! ほら、エルちゃんをお手本にして!」


はなみちタウンの芝生広場。あげはは、余裕たっぷりの笑みを浮かべて腰に手を当てた。その隣では、エルがあげはの背中にぴょんと飛び乗り、首に腕を回して幸せそうに頬を寄せている。


「あげは、だーいすき! ギュッてして、エルを離さないで!」


「はーい、エルちゃん、よしよし。……ね? こうやって無防備に飛び込めば、相手の『守ってあげたい本能』を直撃できるってわけ!」


作戦名は『最強の甘えん坊! プリルンお姉様のふところ全開作戦』。


そこへ、高所訓練で三半規管がボロボロになったメロロンと、依然としてエネルギーの塊のようなプリルンが現れた。


「あげはにエル! 今日は日向ぼっこ? プリルンも一緒にゴロゴロしたいな!」


あげはは、メロロンに鋭い目配せを送った。


(……っ! 甘える、……飛び込む……。計算上、お姉様との密着度は120%に達しますわ。……勇気を、私の全演算機能を『甘え』に全振りしますわ……っ!!)


メロロンは顔を真っ赤にしながら、少し離れた場所に座っていたプリルンの背中を見つめた。


「お、お姉様……っ! 私、少し疲れましたの。……その、……ギュッて、……ギュッてしてくださいましっ!!」


メロロンは決死の覚悟で、プリルンの背中を目がけてダイブした。


「わかった、メロロン! 任せて!」


だが、プリルンは「甘え」を「緊急事態」と誤認した。彼女は振り返るやいなや、飛び込んできたメロロンの体を空中で器用に受け流し、あろうことか、自分の膝の上にメロロンを仰向けに寝かせ、猛烈な勢いで「赤ちゃんあやし」を開始した。


「よしよし! 疲れちゃったんだね、メロロン! 高い高い! いないいない……ばぁ!」


「ひ、ひぎぃっ……!? お、お姉様……赤ちゃん扱いは……っ、演算の外ですわ……っ!!」


「あはは、プリルン、あやすの上手だね! メロロン、よしよし! エルも手伝うよ!」


「よしよし! メロロン、いいこ、いいこ!」


エルまで参戦し、メロロンは広場の中央で「ダブルよしよし」の刑に処された。甘い雰囲気どころか、完全に「手のかかる幼児」として扱われる屈辱。


広場の大きな樹の陰から、ななとこころが身を乗り出した。


「……なな先輩。プリルンのお姉さん力、もはや育児レベルだよ。甘えるつもりが、完膚なきまでに『あやされて』終わっちゃったね」


「こころ、それだよ。メロロン、尊厳が芝生の上に霧散してるもん……。プリルン、母性溢れすぎてて、もはや聖母マリアの域に達してない?」


「……うーん、プリルンちゃん、お姉さん力が強すぎて、甘えを全部『お世話』で返しちゃうんだね。……これは、あげは姉さんも予想外のアゲアゲ失敗かも……」


第四陣、あげは&エルペア。メロロンが狙った「守られる乙女」のポジションは、プリルンの過剰なまでの包容力によって「あやされる乳幼児」へと上書きされ、作戦はまたしても迷宮入りとなった。


第六章:うたとはもり、忍耐の先にある温もり

「……うた。はもり。……協力、感謝します。……私の演算回路は、もはやこの『甘え』と『育児』の矛盾でショート寸前ですわ……っ!」


はなみちタウンの夕暮れ時。茜色の光が差し込む公園で、メロロンは力なく、うたとはもりの前に立っていた。


そこには、うたの膝の上で安心しきって眠るはもりの姿がある。うたは、はもりの頭を優しく、一定のリズムで撫で続けていた。


「いい、メロロン。……言葉なんて、いらないんだよ。ただ隣にいて、相手の熱を感じる。……それが、お母さんが教えてくれた『本当の絆』なんだから」


うたの瞳には、かつての戦士としての鋭さはなく、ただ家族を想う穏やかな慈しみが宿っている。作戦名は『沈黙の温もり、言葉なき抱擁作戦』。


(……そうですわ。言葉はいりません。……ただ、あの頃のように、お姉様の隣に……同じ空間に、溶け込むだけで……!)


そこへ、一日中遊び倒して満足げなプリルンが、スキップをしながらやってきた。


「わあ、うたにはもり! 今日は夕焼けがとっても綺麗だね!」


メロロンは、うたの目配せを受け、静かにプリルンの隣へ腰を下ろした。夕闇が迫る中、沈黙が二人を包み込む。メロロンは意を決し、言葉を捨て、ただゆっくりと、プリルンの肩に自分の頭を預けようとした。


「……お姉様。……私、……ただ、こうして……」


「わあ! メロロン、肩凝ってる? 揉んであげる! ――えいっ、メロメロになっちゃえ!」


「ひ、ひぎぃっ……!? お、お姉様、……力が、力が強すぎますわ……っ!!」


「あはは、プリルン、やりすぎだよ。……メロロン、大丈夫?」


うたの苦笑い。メロロンの「沈黙の抱擁」は、プリルンの力強いマッサージによって物理的に粉砕された。

メロロンはついに、その場に膝をつき、絶望の声を上げた。


「……もう、無理ですわ……っ! お散歩も、リボンも、お姫様抱っこも、よしよしも……全部、全部失敗ですわ! お姉様はもう、私と一緒に寝てくださらないし、私の気持ちなんて……計算するまでもなく、一滴も届いていないのですわ……っ!!」


メロロンの目から、大粒の涙が溢れ出した。

その時だった。プリルンが、いつになく真剣な表情で、メロロンの肩に手を置いた。


「……メロロン。悲しませちゃったなら、ごめんね。……でも、プリルンが一緒に寝ないのは、メロロンが嫌いだからじゃないんだよ?」


「……えっ?」


「人間になったら、身体が大きくなったでしょ? 前のお布団だと、二人で入るとメロロンが端っこになっちゃって、風邪を引いちゃうと思ったの。だからプリルン、うたのお母さんにお願いして、二人で入れる『特大お布団』を注文してたんだよ! 今日、それがお家に届いたはずだよ!」


「…………え、ええええええええっ!?!?!?」


公園の遊具の陰から、ななとこころが飛び出した。


「……なな先輩。今の聞いた? プリルン、最初からメロロンのことしか考えてなかったんだよ」


「だね! 最高のオチだよ。メロロンの心配は全部、愛ゆえの空回りだったってわけ!」


メロロンの絶叫が、夕暮れの街に響き渡った。

「嫌い」どころか、プリルンはメロロンの安眠を誰よりも案じ、そのための準備をしていたのだ。


第七章:絆の形、少女たちの黄昏

はなみちタウンを包む夕闇は、かつての戦場を覆った絶望の黒ではなく、明日への希望を宿した柔らかな茜色をしていた。膝をつき、安堵と気恥ずかしさが混ざり合った涙を流すメロロン。その目の前に、二つの影が落ちる。


ななとこころ。特別な力を持たず、ただ「寄り添うこと」で14人の共鳴を支え抜いた二人が、誇らしげな笑顔でそこに立っていた。


「……ったく、メロロン! あんたの演算回路、たまには『信じる心』にもメモリを割り振りなさいよ!」


ななは、わざとらしく腰に手を当て、おどけたポーズを決めて見せる。


「ななの七不思議・その九! 『乙女の悩みは、だいたい思い込みでできている』……ってね!」


「なな先輩、ドヤ顔で言ってるけど、それ今作ったでしょ」


こころが、春の陽だまりのような温かいツッコミを入れ、メロロンの震える手を優しく引いた。その掌の熱が、メロロンの不安を溶かしていく。


「でもね、メロロン。私たちの作戦が全部空回りしちゃったのは、みんながメロロンを大切に想って、一生懸命になりすぎたからだよ。……ね、なな先輩?」


「そうだよ! 特別な力がなくたって、誰かのために全力になれる。それが、私たちの誇りなんだから!」


ななの瞳は、かつて沈黙の儀式の最中、戦士たちの心を繋ぎ止めた時と同じ、強く透明な光を宿していた。


はなみちタウンの夕景が、波紋のように揺らぎ、ニコランドの聖なる泉の平穏な水面へと繋がる。そこには、神聖な衣を纏い、地上の様子を静かに見つめるニコ様の姿があった。


「……王女やヒーローでもない。特別な関係や力を持つわけではない、あの二人ななとこころが、この絆を根底から支えている。……そう、彼女たちこそが、この14人の共鳴を現実いまに繋ぎ止める、真の象徴なのね……」


ニコ様は、慈しむような微笑みを浮かべ、泉の水面にそっと指を触れる。


「素敵な『ファン』を持って、あなたたちは幸せね、プリキュア。……さて、明日のライブに備えて、私もそろそろ『アイドル』に戻らなくては」


立ち上がると、聖なる衣が光に溶け、現代的なアイドルの衣装へと変わっていく。神としての威厳と、少女としての茶目っ気を併せ持った瞳が、一瞬だけこちらを向いて輝いた)


ニコ様が満足げに微笑んだその時、背後からプリルンがメロロンの腰をぎゅっと抱き寄せた。


「メロロン、今夜からまた一緒に寝ようね! うたのお母さんにお願いして届いた、ふかふかの特大お布団があるんだよ!」


「お、お姉様……っ! また、あの温もりを感じて眠りにつけるなんて……私、世界で一番の幸せ者ですわ……っ!!」


メロロンの叫びは、もはやデータの出力ではない。

それは、過酷な忍耐の果てに彼女たちが選び取った、最高に騒がしくて、最高に愛おしい「未来への誓約」そのものだった。


第八章:繋いだ手の温度、未来への安眠

その夜、咲良邸の一室には、かつて見たこともないほど広大でふかふかな「特大お布団」が敷かれていた。

窓から差し込む月明かりが、静まり返った部屋を青白く照らしている。


メロロンは、隣でスースーと無防備な寝息を立てるプリルンの温もりを感じながら、自分の左腕をそっと持ち上げた。

そこには、あの過酷な戦いの果てに残った**「銀色の回路」**が、月の光を反射して、まるで繊細な彫刻のように浮かび上がっている。


(……ああ。かつて、私のこの回路は、絶望と演算負荷で焼き切れる寸前でしたわ……)


メロロンは愛おしそうに、指先でその傷跡をなぞる。


(けれど……あの沈黙も、この痛みも、すべては今、お姉様の隣でこの『温度』を感じるためにあったのですわね。……この傷こそが、私たちが未来を掴み取った『誓約』の証……)


かつて論理ロジックだけで構成されていた少女の瞳に、慈愛に満ちた、人間としての潤んだ光が宿る。世界で一番静かで、温かな夜。メロロンが静かに瞳を閉じ、夢の世界へ誘われようとした――その時だった。


「むにゃむにゃ……おいしいウインナー……。待って、逃げちゃダメだよ……」


プリルンの寝相は、人間の姿になっても「野生わんこ」そのものだった。

コロコロと丸太のように転がり始めたプリルンは、メロロンが張っていた心の防衛線を軽々と突破し、あろうことか隣の布団で寝ていたうたの領域へと、物理的かつ強引に侵入!


「……ん、プリルン……? しょうがないなぁ……」


寝ぼけているうたは、無意識に、しかし力強くプリルンの体を抱き寄せた。


「えへへ……うた、あったかい……」


プリルンもまた、うたの胸に幸せそうに顔を埋める。

それを見守っていた(というより、一瞬たりとも目を離さず観察していた)メロロンの理性が、凄まじい音を立てて崩壊した。


「……咲良うた……っ!! よくも、よくも私の聖域を侵しましたわね……!!」


メロロンはガバッと起き上がると、嫉妬の炎をその拳に宿し、うたの寝顔を目がけて渾身のパンチを繰り出した!


「この、お姉様ドロボー!!!!!」


「ぐえーーーっ!!??」


深夜の咲良邸に響き渡る絶叫。しかし、ひと騒動終えて肩で息をするメロロンの顔には、もうかつての孤独な影はない。

彼女は「全く、世話が焼けますわ」と小さく毒づきながら、乱れた布団を丁寧に直し始めた。蹴飛ばされた枕を戻し、うたにはタオルケットを掛け直し、最後にプリルンの頬を指先でそっと撫でる。


「……本当は、分かっていますのよ。あなたたちが、どれほど私を愛してくれているか。……感謝していますわ。おやすみなさい、私のお姉様たち」


繋いだ手の温度は、もう二度と冷めることはない。

翌朝、はなみちタウンの空に、また「お姉様ーーーっ!」と叫びながら全力疾走するメロロンの声が響き渡る。


それは、彼女たちが命をかけて選び取った、最高に騒がしくて、最高に愛おしい未来の序曲プレリュードだった。


スピンオフ①:お姉様メロメロ大作戦ですわ!――完

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イメージソング収録

https://youtube.com/channel/UCf9Cp8TicaB66IdgbE7wxPQ?si=kFtHO8Jk97tbQuwx

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