表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/31

スピンオフ③:ましろとあげはの、そら色キャンバス大作戦!

第一章:ましろの新作絵本の行き詰まり

「……描けない。……どうしても、この『青』じゃない……っ」


ソラシド市の柔らかな陽光が差し込む虹ヶ丘邸。ましろは、机の上の真っ白なキャンバスを前に、筆を持ったまま固まっていた。


かつて、沈黙の儀式の最中、仲間の心が一つずつ凍りついていく絶望の中で、彼女は「言葉」という希望を必死に紡ぎ出し、銀色の回路を繋ぎ止めた。その時の極限の精神性は、今や絵本作家としての真摯な「産みの苦しみ」へと昇華されている。だが、今の彼女を縛っているのは、技術的な不足ではない。


「……ましろ。まだ、そこに引っかかっているの?」


背後から声をかけたのは、あげはだった。最強の保育士を目指し、常に周囲を明るく照らす太陽のような彼女だが、ましろに向ける眼差しには、あの日、背中を預け合って死線を潜り抜けた戦友としての、深い慈愛が混ざっている。


「……あげはちゃん。私、あの日からずっと探しているの。私たちが守ったこの世界にある、一番優しくて、一番強い『青色』を。……でも、私の絵具箱には、あの空の輝きを再現できる色が足りないみたい……」


ましろの指先は、微かに震えていた。

沈黙を破り、光を取り戻した代償として、彼女たちの感性は研ぎ澄まされすぎている。ただの「綺麗な青」では、彼女たちの魂が納得しないのだ。それは、あの日失いかけた空の重みを知っているからこその、贅沢で切実な呪縛だった。


「……ましろ。あんた、ちょっと根を詰めすぎ。最強の保育士アタシのアドバイス、聞く気ある?」


あげはは、ましろの肩を軽く叩き、不敵に笑った。


「最高のインスピレーションは、部屋の中じゃなくて、あの広い空の下にあるもん。……ちょうどいいことに、明日、とっておきの『光』がスカイランドから届くみたいだし!」


「えっ……? とっておきの光……?」


ましろの瞳に、戸惑いと、わずかな期待が宿る。

その様子を、庭の生垣に身を潜めて観察していたななとこころが、通信機インカムを調整しながら深く頷き合った。


「……なな先輩。ましろさんのキャンバス、完全に『過去の記憶』に塗りつぶされちゃってるね。守り抜いたはずの空が、今の彼女には眩しすぎるんだよ」


「だね。光が強ければ強いほど、影も深くなるってわけさ。……でも、だからこそ、あたしたち『観測者』の出番だろ? ましろの筆に、新しい色を注いであげなきゃね!」


ななが不敵に笑い、端末の操作を開始する。


「よーし! ましろの『青』を取り戻すための、最強のピクニック・プロデュース! 名付けて――『そら色キャンバス大作戦!』」


こうして、ましろの繊細な創作への苦悩と、あげはの「最強」の優しさ、そして観測者たちの献身が合流した。スカイランドからの純粋な来訪者を迎える、新しい「共鳴」の物語が、静かに幕を開けた。


第二章:再会、空を抱きしめる少年の輝き

「……ましろ、あげはさん! きました、きましたよ! スカイランドの風を纏って、彼が帰ってきました!」


ソラシド自然公園の広大な芝生の上。ソラは、いつになく弾んだ声で天を指差した。その腕の中では、エルが「ちゅばさ! ちゅばさ、くる!」と、短い手足をバタつかせ、太陽のような笑顔を弾けさせている。


ましろとあげはが、眩しそうに目を細めて蒼天を見上げると、そこには一筋の飛行雲を鮮やかに引きながら降下してくる、見覚えのある黄金の鳥の姿があった。旋回し、柔らかな風を巻き起こしながら着地したその瞬間に、姿を変えたのは一人の少年。


「……皆さん! お久しぶりです。スカイランドでの研究も一段落して、皆さんに会いに来ました!」


ツバサは、少しかすれた、けれど一点の曇りもない真っ直ぐな声で告げた。その瞳は、スカイランドの広大な空をそのまま映し出したかのように深く、澄み渡っている。


「……ツバサくん。……おかえりなさい」


ましろは、思わず胸に手を当てた。

彼が放つオーラは、あまりにも「純粋」だった。


ましろたちが共有する、あの銀色の回路が刻まれた「過酷な絆」の感触。それは誰にも言えない誇りであると同時に、魂の深層に沈殿する重い静寂でもある。けれど、ツバサの笑顔には、その「重み」が微塵も感じられない。彼は、彼女たちが血を吐くような想いで死守した「平和な日常」そのものの結実として、そこに立っていた。


「……最強の保育士アタシの予想通り。……ツバサくん、あんた、また少し背が伸びた?」


あげはが、いつもの「余裕のあるお姉さん」の表情でツバサの肩を叩く。だが、その指先は、彼が無事に帰ってきた安堵と、彼が象徴する「光」の眩しさに、わずかに震えていた。


「あげはさん、茶化さないでください! ……でも、はい。空を飛ぶための筋力トレーニングも欠かしていませんから!」


ツバサが誇らしげに笑う。その無邪気な自信。それこそが、ましろたちが守りたかった「子供たちの夢」の形だった。

公園の並木道の影から、望遠レンズと感度センサーを構えたななとこころが、通信機越しに呟く。


「……なな先輩。ツバサくんの『純粋指数』、振り切ってるね。ましろさんのキャンバスに足りなかったのは、この『傷を知らない青』だったんだ」


「だね。あたしたち14人の絆は、どうしても『戦いの記憶』が混ざっちゃう。……でも、ツバサくんは違う。彼は、あたしたちが命を懸けて守った『未来』そのものなんだよ。……さあ、メロロン、準備はいい?」


遠く離れた場所で、メロロンが精密な演算回路を走らせる。


「了解ですわ。ツバサ様の『空を飛ぶ夢』を最大効率で増幅し、ましろ様の視覚野に投影する……。計算通りにいけば、最高密度の『青』が、この公園に満ち溢れますわ!」


ツバサがエルを高く抱き上げ、再び空を見上げる。


「……ましろさん。僕、もっと高く、もっと遠くへ行きたいんです。皆さんが守ってくれたこの空の、一番高い場所へ!」


ツバサの言葉は、ましろの停滞していた心に、冷たくも鮮烈な衝撃を与えた。

彼には見えていない。彼女たちが潜り抜けた「闇」も、「沈黙」も。……けれど、だからこそ。彼が語る夢は、ましろのキャンバスに新しい風を吹き込もうとしていた。


第三章:上昇気流、夢と筆先が共鳴する瞬間

「……風。スカイランドの風とは違う、このソラシド市の風には、皆さんの優しさが混ざっている気がするんです」


芝生に腰を下ろしたツバサは、膝の上でエルの機嫌を取りながら、遠く入道雲が湧き上がる地平線を見つめた。その瞳には、彼が研究し続けている「航空力学」という理知と、鳥として空を愛する「本能」が、黄金色の火花となって散っている。


「僕、もっと高く飛びたいんです。ただ翼を動かすだけじゃなくて、この空そのものと一つになって、皆さんが守り抜いたこの平和な景色を、一番高い場所から見守れるようになりたい……!」


ツバサが語る「空の物語」。それは専門的でありながら、どこか詩的な響きを持っていた。

その言葉を聞いた瞬間、ましろの指先が、無意識に手元のスケッチブックの上で踊り始めた。


(……ああ、これだわ。私が探していた『青』は、ただの色じゃない。ツバサくんが信じている、未来へ向かう『意志』の色なんだ……っ)


ましろの創作意欲が、かつての「沈黙の試練」を耐え抜いた強靭な精神力と結びつき、爆発的な熱量へと変わっていく。彼女の瞳には、ツバサが語る気流の渦が、目に見える極彩色の旋律となって映し出されていた。


「ツバサくん、もっと聞かせて。……あなたが空で感じる、その『自由』の感触を。……私、それをこのキャンバスに刻みたいの!」


「もちろんです、ましろさん! 僕の知っている空のすべてを、お話しします!」


一方で、あげはの瞳にも、静かな「熱」が宿っていた。

彼女は最強の保育士を目指す者として、ツバサという一人の少年の成長と、その無垢な夢を「守り、育む」ことへの全霊の責任を感じていた。


(……最強の保育士アタシが、この子の翼を折らせるわけにいかないでしょ。……この子が信じる空を、もっと輝かせてあげるのが、あの日、地獄を見てまでこの世界を守ったアタシたちの役目なんだから!)


あげはは、カバンから色とりどりの画材を取り出し、ツバサを囲むように配置した。


「よーし! それじゃあ、ツバサくんの夢をカタチにするための『最高のキャンバス』、みんなで作っちゃおうよ! ましろの絵本と、アタシのプロデュース、最強のコラボレーションで行くよ!」


公園の東屋の陰で、メロロンが高速でキーボードを叩く。


「……検知しましたわ。ましろ様の『創作エネルギー』と、あげは様の『守護本能』が臨界点を突破。ツバサ様の純粋な夢が、14人の絆の核に火をつけましたわ……! こころ、演出のフェーズへ移行してくださいまし!」


「了解だよ、メロロン。……なな先輩、準備はいい? ツバサくんの夢を、本物の『奇跡』に変えるための仕掛け、いくよ」


なながニヤリと笑い、無線機に命じる。


「当たり前でしょ! ツバサくんの夢は、あたしたち全員の夢なんだから。……さあ、ソラシド市の空を、キャンバスに変えてあげるよ!」


ツバサが立ち上がり、空に向かって手を広げる。その背後で、ましろの筆が、あげはの情熱が、そして見守る仲間たちの祈りが、一つの巨大な「上昇気流」となって渦巻き始めた。


第四章:14人の青空スカイプロデュース

「……ふふ。ツバサくん、そんなに驚かなくても大丈夫。これは全部、みんながあなたのために用意した『特別な一日』なんだから」


ましろは、少しだけ悪戯っぽく、けれど慈愛に満ちた瞳で微笑みながら、公園の中央へとツバサを促した。そこには、いつの間にかソラシド市の静寂を塗り替えるような、圧倒的な「熱量」が渦巻いていた。


「お待たせしましたわ、ツバサ様! 私の演算によれば、現在の気圧、湿度、そして皆さんの『祝福指数』は、あなたが空を飛ぶための最高の上昇気流を形成していますわ!」


生垣の影から颯爽と現れたのは、メロロン。彼女の指先が操るホログラム・ディスプレイには、ツバサの飛行軌道をリアルタイムで解析する幾何学模様が輝いている。その隣では、プリルンが「わあ、ツバサくん! 飛ぶ前に、私の『元気が出る特製サンドイッチ』、全部食べてねー!」と、山のようなバスケットを抱えて駆け寄ってきた。


「……なな先輩。ターゲット(ツバサ)の心拍数が上昇。驚きと感動の混合状態ミックスに入ったよ」


「だね、こころ。……よし、ソラ、あげは! 準備はいい!? ツバサの『夢』を、本物の『伝説レジェンド』に変えるよ!」


ななの不敵な号令と共に、公園のあちこちから仲間たちが姿を現した。ソラはツバサの飛行訓練をサポートするための特製ロープを肩にかけ、あげはは最強の保育士としての鋭い眼差しで全体の安全と進行を華麗に指揮ディレクションしていく。


「……ましろ。見て。あの子、本当に嬉そう」


隣に立つましろの肩を抱き寄せ、あげはが熱を帯びた声で囁いた。


「……うん。私たちが守りたかったのは、この笑顔だったんだね」


ましろは、自分の胸元に刻まれた「銀色の回路」の疼きを、心地よい温もりとして感じていた。かつて、言葉を奪われ、絶望の沈黙に沈んだあの夜。けれど今、目の前には、自分たちの戦いの「意味」そのものである少年が、仲間たちの愛に包まれて輝いている。


まゆの傍でユキは少し離れた木陰から、「……騒がしいわね。でも、あの子の翼、少しだけ磨いてあげてもいいわよ」と、気高い本能の裏側に優しさを滲ませ、いろはとこむぎは「ツバサくーん! ワンダブルに飛んでー!」と、公園中を駆け回って空気を震わせる。


「……皆さん、……ありがとうございますっ! 僕、……僕、頑張ります!」


ツバサが感極まったように叫び、一気に黄金の鳥へと姿を変えた。うたとはもりが、静かな祈りを込めた旋律を口ずさみ始めると、ツバサは仲間たちが作り出した「愛という名の上昇気流」を捉え、ソラシド市の空へと力強く蹴り出した。


「……綺麗。ましろ、今だよ。あの子が描く軌跡こそ、あんたが探してた『青』じゃない?」


あげはの言葉に、ましろは深く頷き、スケッチブックを広げた。

空を駆ける少年の黄金の光。それを見守る14人の、少しだけ「重すぎる」けれど、どこまでも透き通った過保護な眼差し。それは、かつての傷痕を鮮やかな色彩で塗りつぶす、最高密度のキャンバスとなって、ソラシド市の空に溶け込んでいった。


第五章:空の静寂しじま、背中に宿る銀色の残光

「……ふぅ。……高い。……これほどまでに、今日の風は……僕を押し上げてくれる……っ」


黄金色の翼を羽ばたかせ、ツバサは高度数千フィートの静寂の中にいた。

地上では、ましろが小さく筆を動かし、あげはが大きく手を振っているのが見える。ソラの真っ直ぐな応援、エルの無邪気な笑い声……。けれど、その賑やかな景色を見下ろしながら、ツバサの胸を去来したのは、言葉にできない不思議な「重圧」だった。


(……不思議だ。……皆さんは、あんなに優しく僕を笑わせてくれるのに。……どうして、時折あんなに『遠い目』をするんだろう)


ツバサは気流を捉え直しながら、独白するように自問する。

スカイランドで研究に没頭していた彼には、彼女たちが潜り抜けた「あの夜」の詳細は知らされていない。けれど、鋭敏な鳥の本能は、彼女たちの背中に、目には見えない**「巨大な傷痕」と、それを誇り高く抱きしめる「銀色の回路」**の輝きを感じ取っていた。


(ましろさんの筆先。……あれは、ただ絵を描いているんじゃない。……何か、取り返しのつかない闇を塗りつぶそうとするような、必死な祈りに見える。……あげはさんの笑顔も。……あんなに強い『最強の光』を放っているのは、……かつて、底知れない『暗闇』を見たからなんじゃないか……っ)


ツバサは、自分に向けられる14人の過剰なまでの優しさが、単なる親愛ではないことに気づき始めていた。

それは、**「守り抜いた奇跡(自分)」**に対する、執着に近いほどの愛情。

彼女たちは、ツバサが自由に空を飛ぶその姿に、自分たちがかつて命を懸けて守り、そして失わずに済んだ「世界の美しさ」を投影しているのだ。


「……僕に、何ができるだろう。……スカイランドの賢者(候補)として、何を……っ」


ツバサは旋回し、地上の「光の輪」を再び見据えた。

14人の絆。それは、部外者である自分には決して立ち入れない、過酷な沈黙を共にした者たちだけの聖域。


けれど、彼は誇らしかった。その聖域に守られ、今こうして自由に翼を広げられること。彼女たちが守った空を、誰よりも高く、美しく彩ることこそが、今の自分にできる唯一の恩返しだと悟った。


(……いいえ。僕が悩む必要なんてない。……皆さんが守ってくれたこの空を、僕は全力で愛するだけだ。……それが、皆さんの『救い』になるのなら……っ!!)


ツバサは、自分を突き動かす上昇気流が、実は地上から見守る彼女たちの「祈り」そのものであることを確信した。

彼は黄金の光をさらに強く放ち、ソラシド市の空に、見たこともないほど鮮やかな「青」の軌跡を刻み始めた。


第六章:観測者の慈雨じう、演算される「平和の質量」

「……なな先輩。ツバサくん、気づいちゃったみたいだね。自分が飛んでいるこの空が、ただの自然現象かぜじゃなくて、14人の『執念』に近い祈りで編み上げられたものだってことに」


公園の片隅、録音機材とモニターに囲まれたこころは、ヘッドフォンをずらし、静かに空を見上げた。モニターには、ツバサの飛行軌道と共に、地上にいるメンバーたちのバイタルデータが淡い銀色のラインで表示されている。それは、かつての「沈黙の儀式」を生き抜いた者たちだけが放つ、特異な共鳴波形だった。


「だね。隠してるつもりでも、あたしたちの『絆』は、どうしても戦いの残り香がしちゃうからさ。……でも、それでいいんだよ。ツバサくんがその重さを感じて、それでも高く飛ぼうとする……。その瞬間こそが、この作戦の真骨頂なんだから!」


ななは不敵に笑い、無線機のスイッチを入れた。


「メロロン、最終フェーズだよ! まばゆい光で、ましろのキャンバスに最後の『一滴』を落としてやりな!」


「了解ですわ。……ツバサ様の揚力を一時的に200%まで増幅。同時に、ましろ様の視覚野に、14人が守り抜いた『概念としての青』を強制投影いたしますわ……!」


離れた丘の上で、メロロンの指がキーボードの上を猛烈な速さで舞う。彼女の瞳には、かつて「銀色の回路」が世界を繋ぎ止めたあの夜の演算式が、今度は「祝福」の数式へと変換されて映し出されていた。


「……ましろ。くるよ。最強の保育士アタシたちが、命懸けで作った『最高のステージ』の仕上げがさ」


あげはが、隣で筆を握るましろの肩を抱き寄せた。

その瞬間、空の色が変わった。メロロンの演算とななの演出、そして14人の想いが一つに溶け合い、ソラシド市の空が、まるで巨大なプリズムを通したかのような、多層的な「青」へと塗り替えられていく。


「……あ。これだわ。ツバサくん。あなたが……あなたが今、私たちの代わりに、あの日の絶望を希望に変えてくれているのね……っ!!」


ましろの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。それは悲しみではない。自分たちが守り抜いた「未来」という名の少年が、想像を遥かに超える高さまで羽ばたこうとしていることへの、震えるような歓喜だった。


「……なな先輩。見て。ましろさんの筆が、迷いなく動いてる。過去の影を、ツバサくんの光が……完全に『新しい色』に変えちゃったよ」


「……そうね。あたしたちの観測も、これでひと段落かな」


ななとこころは機材を置き、一人の観測者として、空を駆ける黄金の点を見つめた。14人の「重すぎる愛」を翼に変えて、ツバサは今、ソラシド市の空そのものを、ましろのキャンバスへと変貌させていた。


第七章:黄金の残光、救済の「ヒーロー」

「……はぁ、……はぁ。……すごかった。……あんなに高く、あんなに遠くまで、迷わずに飛べたのは初めてです……っ」


鳥の姿から少年の姿へと戻り、芝生に膝をついたツバサ。その肩を、ソラが誇らしげに抱き寄せ、エルが「ちゅばさ、かっこいい! キラキラ!」と、その胸に飛び込んだ。


周囲には、ましろとあげは、そして物陰から姿を現したなな、こころ、メロロンたち14人の仲間たちが、まるで一つの星座のように彼を囲んでいる。


「……ましろ。見て。……あの子の目」


あげはが、隣でキャンバスを抱きしめるましろに囁いた。

ツバサの瞳には、先ほどまで彼を突き動かしていた「14人の重すぎる祈り」への戸惑いは、もう微塵もなかった。彼は、自分を包囲する「銀色の回路」を持つ者たちの、その深すぎる愛情の正体を、空の静寂の中で正しく理解わかっていたのだ。


「……ましろさん。あげはさん。……そして、ななさん、こころさん……。皆さん」


ツバサはゆっくりと立ち上がり、一人ひとりの顔を真っ直ぐに見つめた。

その視線は、かつて「沈黙の儀式」で魂を削り、世界を繋ぎ止めた彼女たちの、隠しきれない「傷痕」に優しく触れるかのようだった。


「僕……分かりました。皆さんが、どうしてあんなに僕を高く飛ばせてくれたのか。……皆さんが守り抜いたこの空が、どれほど重く、どれほど美しいものなのか……っ」


ツバサの瞳に、夕陽を反射した涙が光る。


「……皆さんは、僕にとって……。いえ、この世界に生きるすべての人にとって……最高の、本物の『ヒーロー』です! 僕、皆さんのことが……大好きです!!」


その瞬間、ましろの胸の奥で、カチリ、と音がして、最後のパズルが嵌まった。

彼女が探し求めていた、描き出せなかった「青」。

それは、ツバサが今放った、迷いのない**「肯定」**の色だった。


「……っ、……ふふ。……ありがとう、ツバサくん」


ましろは、溢れ出す涙を拭うこともせず、最高の笑顔で答えた。


「……あなたにそう言ってもらえるだけで、……私、あの日から今日まで、ずっと頑張ってきて……本当によかった……っ」


あげはもまた、最強の保育士としての仮面を脱ぎ、一人の少女として、誇らしげに空を見上げた。


「……最強のヒーロー、か。……悪くないね。……ねえ、ましろ。アタシたち、……報われちゃったね」


ななとこころ、メロロンたちも、それぞれの場所で静かに微笑んでいた。

観測者として、戦士として、過酷な沈黙に耐え抜いた彼女たちの魂は、この少年の無垢な叫びによって、今、完全に浄化カタルシスされたのだ。

ソラシド市の公園に響く、14人の穏やかな笑い声。

それは、かつての絶望の沈黙を完全に上書きする、最高密度の「平和の旋律」だった。


第八章:そら色キャンバス、守り抜いた「手」の温度

「……行っちゃったね、ツバサくん。最後、あんなにかっこよく笑うなんてさ。最強の保育士アタシも、一本取られちゃった」


あげはは、夜風に揺れる髪を耳にかけながら、一番星が瞬き始めた空を仰いだ。その横顔には、一日のプロデューサーとしての熱気はもうなく、一人の少女としての、穏やかで少しだけ寂しげな充足感が漂っていた。


「……うん。でも、ツバサくんのあの笑顔、私、一生忘れないと思う。私の絵本の中に、ずっと生き続ける色を、あの子は置いていってくれたから」


ましろは、傍らに置いたキャンバスを愛おしそうになぞった。

そこには、今日の青空の記憶が、そしてツバサが切り拓いた黄金の軌跡が、もはや「過去の影」に怯えることのない、鮮烈な輝きを放って定着していた。

ふと、ましろは自分の**「左手」**を見つめた。


かつて、沈黙の儀式という極限の地獄の中で、仲間の心を繋ぎ止めるために、感覚がなくなるほど強く握りしめていた拳。あの日、銀色の回路が魂を焼き切らんばかりに脈動していたその手は、今、微かに震えていた。


「……あげはちゃん。私たち、守れたんだね」


その言葉は、祈りのように静かだった。

あまりに過酷だったあの日。言葉を奪われ、絶望の淵で「明日」という概念すら信じられなくなった、あの永遠のような沈黙。けれど今、目の前にあるのは、ツバサが「ヒーロー」と呼んでくれた、穏やかなソラシド市の夜景だ。


「……そうだよ、ましろ。アタシたちがボロボロになって、それでも絶対に離さなかったこの『手』がさ。あの子の夢を、ちゃんと空まで届けたんだよ」


あげはは、ましろの震える左手を、自分の右手でぎゅっと包み込んだ。

かつて戦場で、互いの生存を確認し合ったあの時と同じ、けれど今は「温もり」だけが伝わる、最高の握りグータッチの代わりの、優しい抱擁。


「……っ、……よかった。本当によかった……っ」


ましろの目から、最後の雫が零れ、あげはの手のひらで温かく溶けていった。

14人の絆。それは、部外者には決して理解されない「傷の記憶」かもしれない。けれど、その傷があったからこそ、彼女たちはこれほどまでに深く、世界の美しさを愛せるようになったのだ。


「……さて! 湿っぽいのは、最強の保育士アタシに似合わないでしょ。ましろん、その絵本が完成したら、真っ先にツバサくんに送ってあげなきゃね!」


「……ふふ。うん、そうだね、あげはちゃん。世界で一番『青い』絵本、絶対に描き上げるよ」


二人は立ち上がり、ゆっくりと丘を下り始めた。

背後のキャンバスには、夜の帳の中でもなお、消えることのない「希望の色」が宿っている。

それは、14人の少女たちが沈黙を越えて守り抜いた、未来という名の、どこまでも透き通った**「そら色」**だった。


ニコランドの聖域。ニコ様は、ましろとあげはの背中を見守りながら、光のペンをそっと置いた。


『勇気とは、恐怖を知らぬことではない。絶望の沈黙を知る者が、それでもなお、誰かの夢のために「色」を紡ぎ続ける、その背中に宿るものである』


「……素敵な物語をありがとう、私の愛しきプリキュアたち。今夜は、みんなが温かな夢を見られますように。……おやすみなさい」


ニコ様が指を鳴らすと、ソラシド市の夜空に、一瞬だけ、14人の絆を祝福するような、銀色の流れ星が静かに弧を描いた。


スピンオフ③:ましろとあげはの、そら色キャンバス大作戦!――完

専用Xアカウント

https://x.com/gin_no_sakura_y?s=21


イメージソング収録

https://youtube.com/channel/UCf9Cp8TicaB66IdgbE7wxPQ?si=kFtHO8Jk97tbQuwx

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ