また採用されちゃいました。
「おまえたちは、そろそろ王城に来るんだな。テレンス伯爵家に恥をかけるなよ。
イアン、試験はしっかり頑張れ。私は財務省の大臣だからといって、甘くないぞ」
ロラン小父様は眉毛をあげて、軽い口調で言った。
……本当に甘くないかしら。
そして、ロラン小父様が盛大なため息をついた。
「ようこそ、頭痛の天国だ。王城は、頭痛の種ばかりでな。ほら、書類が消えた事件もその一つだ」
「犯人はまだ見つかっていないんですか?」
イアンさんがロラン小父様に尋ねる。
「十五人も容疑者が挙がっていてな」
「明日、その十五人の自宅を調べる。カイテル、ジル、マーティス、よろしく頼む」
お父様がお兄さんたちを見回した。
へぇ〜、お兄さんたちがこの事件を担当しているんだ。
そういえば、私にはさっきから疑問に思っていることがある。
あと少しで名推理をひらめきそうだけど……聞いても大丈夫かな。
でも、皆さん真面目に話しているから、口を挟まないほうがいいかも。
後でメイソン家の屋敷でタイミングを見て聞こう。
忘れないように気を付けないと。
「リーマも、何かいい仮説を思いついたら教えてくれ。別に間違っても怒ったりはしない。参考にしたいだけだから、気楽にね」
お父様が優しく言った。
……おっと。
早速ご注文をいただきました。
そう言われたら、ちょっと気楽になる。
じゃあ、私の疑問、今聞いちゃおうかな。
「では、お父様、ロラン小父様、少し聞いてもいいですか?」
「いいよいいよ。なになに?」
お父様は待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうに身を乗り出した。
……なんだか普通に期待されているみたいですが?
「……えーと、財務会計部の男性職員は何人いますか?」
「うん?……なぜ男性職員?……十一人だが」
「その十一人の中に、廃棄場で捨てられていた制服を着られる体型の男性職員はいますか?」
「……捨てられた制服を着られる体型の男?……どういうことだ?」
「ただ、制服が捨てられていただけなら、それだけで犯人が女性だと断定するのは、早いのではないかと思いまして……」
気楽に口にしたつもりだった。
けれど――
お父様もロラン小父様もバロウズ小父様も、じっとこちらを見ている。
その視線に、だんだんと喉が詰まってきた。
私、変なこと言ってないよね……?
「リーマはこの事件についてどう考えているんだ?言ってみて」
お父様が静かに促した。
……さっき「気楽にね」と言ってくれたのに……。
名推理がまだなのに……。
「……えーと、女性の制服が、あまりにも簡単に見つかる場所に捨てられていて、
しかも、目撃者がいる時間帯に保管室に出入りしていたとなると……」
少し言葉を探してから、続けた。
「犯人は、あえて“女性だ”と思わせたかったのではないかな、と少し考えてみました。
だから……犯人は、男性の可能性もあるのではないでしょうか」
「……それで?」
お父様も、ロラン小父様も、バロウズ小父様も、そろって眉間に皺を寄せた。
お兄さんたちは真剣な表情で、お母様たちやフィンさんたちも、静かに頷きながら私を見ていた。
名推理、まだなのに……。
……みんな期待しすぎじゃない?
私はこっそりつばを飲み込んだ。
――あっ。
一つの仮説を思いついた。
心の中で思わず、ふぅ、と息を吸った。
「えーと、怪しい人物が保管室に入って一分足らずで出てきた、とお父様から聞きました。
一分足らずで出てきたなら――
迷わず書類を見つけたはずですから、
犯人は保管室の書類の置き場所に詳しい、つまり、日常的に出入りしている人物のはずです!」
口に出した途端、頭の中で点と点がつながっていく。
……あ、これ、いけるかも。
そして私は、いつもの私に戻ってしまった。
「いつも」とは……
調子に乗ってしまうリーマちゃんだ。
私はぺらぺらと話し続けた。
「つまり、犯人は財務会計部の職員の可能性が高いと思います。
男性職員は十一人いますから、
財務会計部の内部事情に詳しい男性となると、
容疑者は十一人に絞れるのではないでしょうか!」
容疑者が十五人から十一人に!
四人減った!
正解かどうかは別としてっ!
食卓を囲むお父様や小父様たちだけでなく、小母様たちやお兄さんたち、バーバラさん、その場にいた側近やメイドまで、私をじっと見ていた。
(……どうだ!?私の名推理は!?)
「あとは、女性制服を着られる財務会計部の男性職員を探すだけですね~。
……あっ、いれば……の話ですが。
いないかもしれません……」
そういえば、男性職員の体型について、まだ答えをもらっていなかった……。
いなかったら、今の名推理はボツだね。
……ちょっと恥ずかしい。
……まあまあ。
「気楽にね」と言われたし、気楽にね、気楽に。
「その女性制服が着られるような小柄な男性職員か……確か……いや、あれは……」
ロラン小父様が、思い出すように呟いた。
(……おっ!?いるの!?いるよね!?いてください!)
(じゃあ、この名推理、採用されちゃう!?)
「リーマ、どうして女性制服を捨てただけで、犯人が男性だと言えるんだ?
別に女性でもよかったんじゃないか?」
バロウズ小父様が、眉間に皺を寄せた。
(ふふふっ〜、決まっているんじゃないですか、バロウズ小父様?)
「犯人は、わざわざ二人の目撃者の前で咳をしながら保管室に入り、一分も経たずに出てきました。
つまり、“女性だと思われたかった”のではないでしょうか」
興奮した気持ちを必死に抑え、説明を続けた。
「そして、その狙いは完璧に成功しました!
しかし、本当に女性なら、帽子とマスクだけ捨てればよかったはずです!
女性なら、制服を着たまま、いつも通り仕事をしていれば、疑われる可能性は低かったはずです!」
(ふふふ。この名推理以上の完璧は、ないじゃないかな!?)
「だって、財務会計部の女性職員の制服は共通ですから、女性職員であれば、制服姿で目撃されても不自然ではありません。
なので、女性であれば、制服を着替える必要はなかったはずです!」
視線がさらに集まり、みんな考えながら頷いた。
「……確かに」
誰かが呟いた。
「それなのに、犯人は制服まで捨てました。
――女性の制服を着続けられなかったからです!」
もう一度、興奮を抑えてから、続けた。
「つ・ま・り、犯人は男性。
だからこそ、女性制服を捨てなければならなかったんです!」
名推理を言い終わった直後に、ついでにひとドヤもした。
(どうだ!?私の名推理、完璧……!?)
ロラン小父様が目を見開き、深く頷いた。
「なるほど……確かに、犯人が女性だったら、制服を捨てる必要はなかった……」
バロウズ小父様も口をぽかんと開け、しばし言葉を失った。
場の空気が、針で刺したようにピンと張り詰めた。
ふふふっ。
「ロラン、その該当しそうな男性職員は誰だ?
今すぐ騎士にその職員の自宅を捜査させるぞ。
ウィリアムズ、騎士団に連絡だ」
お父様の声には、ためらいも迷いもなかった。
「承知いたしました」
ウィリアムズさんが、弾かれたように返事をすると、ジョセフさんもすぐに立ち上がった。
テレンス家の屋敷は、突然の緊張感に包まれた。
私はというと、内心でニヤリ。
(やった!私の名推理、また採用されちゃった……!)
騎士団本部へ向かうウィリアムズさんとジョセフさんの後ろ姿を見送りながら、私は大きくガッツポーズをした。
――心の中で。
まさか今日の私もまた大活躍してしまうとは!
……って、外れたら普通に恥ずかしいよね。
目撃者いっぱいだし……。
……まあいいか。
「気楽にね」って言われたし、
気楽にね〜。




