双子の来訪と賑やかな食卓
――コンコン。
お父様が盗難事件の話をしていると、扉のノックの音がした。
――まったく面白い名推理が思いつかない私にとって、まさに救世主の音。
「失礼いたします。アーロン小父様、ジョゼフィン小母様、ジョアンナお姉さん、カイテルお兄さん、ご無沙汰しています」
一人の若い男が、爽やかに挨拶した。
「小父様、小母様、ジョアンナお姉さん、カイテルお兄さん、お久しぶりです!」
もう一人の、同じ顔をした男も颯爽と続けた。
この二人はジルさんの双子の弟さんたちだ。
……双子だと聞いてはいたけれど……こんなにそっくりなんだ。
人生初双子。
すごいなぁ。
確かにすごく似ている。
同じ顔なのに、立ち姿の雰囲気が少し違う気がする。
二人とも美形で、さすがジルさんの弟さんたち。
いや、正確にはさすがロラン小父様とクロウディア小母様の息子さんたち、だね。
全員美形すぎて、私はちょっと萎縮してしまう。
私、ちょっと場違いかも……。
「三年ぶりじゃないか?サルビア国に行く前に会ったのが最後だったな。相変わらず見分けがつかないものだ」
「久しぶりね。二人とも元気そうでよかったわ」
「小父様、小母様、ジョアンナ姉さん、こんばんは。リーマ、いらっしゃい〜。カイテル、さっきぶりだね〜」
ジルさんもにこやかに居間に入ってきた。
……ふぅぅ。
見慣れた人がいて、少しだけ安心した。
平常心を保っているつもりでも、まだ少し緊張しているのだ。
「ジルさん、こんばんは。遠方任務から戻ってきたんですね。お帰りなさい」
カイテルさんから、ジルさんとマーティスさんが昨日まで遠方任務に行っていたと聞いていた。
「君はリーマ?よく噂を聞いているよ!俺はフィン、こっちは弟のイアンだ」
何の噂をされているのか分からないけれど……いい噂であってほしい。
「リーマ、初めまして、イアンだ。俺たちの方が年上だよな?お兄ちゃんと呼んでもいいよ。それにしても噂通り可愛いね〜。テレンス家のお嫁さんにならない?俺、まだ婚約者いないよ」
イアンさんはニコニコしながら話した。
(もうーーーっ!可愛いなんてっ!イアンさん、正直すぎる!)
いい噂みたいでよかったーーーっ!
「イアン、黙れ」
カイテルさんは低く言って、イアンさんを睨んだ。
「フィンさん、イアンさん、こんばんは。初めまして。リーマです」
私はできるだけ平常の笑顔を浮かべ、いつもの平民風のお辞儀で、お二人に挨拶した。
「お兄ちゃんって呼んで〜」
(……ふふっ)
イアンさんの親しい態度に、肩の力が少しだけ抜けた。
……だがしかし。
イアンさんをお兄ちゃんと呼んだら――
他のお兄さんたちもお兄ちゃんと呼ばなきゃいけないのかしら。
そうなると、ちょっと慣れないわね。
『カイテル兄ちゃん』とか?
『ジル兄ちゃん』とか?
……今更だから、すごく照れくさい。
できれば、さん付けで統一させてもらいたい。
でも、どうやって伝えれば分かってもらえるんだろうか。
「リーマ、こいつらを何て呼んでもいいからね。呼び捨てでも大丈夫だ。あいつらの言うことは気にしなくていい」
……カイテルさんは風の魔法以外に、人の心を読む魔法も持っているのかしら。
「はい。では、フィンさんとイアンさん、よろしくお願いします」
「ケチ……」
イアンさんが小さく呟いた。あまり聞こえない。
「ふふふっ」
フィンさんはいきなり笑い出した。
イアンさんが何か面白いことを言ったのかもしれない。
聞こえなくて残念だ。
フィンさんとイアンさんが、カイテルさんやジルさんと話している様子を、
私は黙って四人の話を聞きながら、ちらっと二人を観察してみた。
フィンさんとイアンさんはすごく似ているが、近くで見ると少しずつ違いが分かる。
フィンさんの目元はクロウディア小母様に似ていて、
イアンさんの目元はロラン小父様に似ている。
笑うときの口先の癖も違う。
……何よりわかりやすいのは、性格。
フィンさんは丁寧で落ち着いた雰囲気なのに対して、イアンさんは朗らかで少し距離が近い。
……ふむふむ。
これなら、呼び間違えずに済みそうだ。
……たぶん。
お父様や小父様、そしてお兄さんたちが、
フィンさんとイアンさんのサルビア国での短期勤務や、
デリュキュース国での今後の仕事について話し始めた。
私はその話の輪に入らず、みんなの話を聞いているだけだった。
フィンさんはサルビア国の法務省で勤務していた経験を活かして、これからはデリュキュース国の法務省で働きたいと話していた。
イアンさんは騎士団に所属していたものの、騎士よりも管理部門の仕事のほうが向いているらしく、ロラン小父様の管轄する財務省を希望しているそうだ。
どうやら、この双子はジルさんのように騎士を目指してはいないらしい。
ロラン小父様も王宮の仕事をしているし、もしかするとテレンス家では、ジルさんのほうが少し珍しい存在なのかもしれない。
しばらく話を聞いていると、メイドさんが知らせに来た。
「ファビアン様と、レンブラント侯爵家の皆様がお見えです」
少し待つと、ファビアンさんとマーティスさん、そしてご家族が居間に入ってきた。
一通り挨拶を交わしたあと、私はバーバラさんとナディアさんのもとへ向かった。
「バーバラさん、ナディアさん。お久しぶりです」
大貴族の中にいてかなり緊張するけれど……バーバラさんとナディアさんは心の癒しだ。
二人に会うのは久しぶりだった。
以前、レンブラント家のお茶会に誘ってもらったのに、病院で緊急勤務をしていて、まったく訪問できなかったのだ。
「最近、病院のお手伝いが終わったでしょう?来月試験あるよね?試験が終わったらぜひお茶会しましょう。楽しみにしているわよ」
バーバラさんが優しい笑みを浮かべた。
相変わらず優しくて、私のお姉ちゃんになってほしいくらいだ。
(お姉ちゃんと呼んでもいいかな……?)
田舎娘の私が大貴族のお嬢様をお姉ちゃんと呼んだら、怒られるかしら。
「はい、嬉しいです!」
もちろん、喜んで行きたい。
私は本当に――
お貴族様との交流に大変忙しい田舎娘だ。
「リーマお姉様の大活躍、毎日お兄様から聞いています。さすがです〜」
ナディアさんが私の腕にすり寄ってくる。
ナディアさんも相変わらず小動物みたいで可愛い。
田舎娘の私をお姉様と呼んでくれるくらい懐の深い大貴族のお嬢様だ。
バーバラさんとナディアさんと話しながら、私はこの二ヶ月の自分の大活躍(?)をたくさん褒められた。
バーバラさんに頭をなでてもらい、ナディアさんにすりすりされる。
ふふふっ。
それぞれお喋りしていると、メイドさんが食事の準備ができたと知らせに来た。
私たちは食堂へと移動することになった。
食堂に入ると、私は目を見開いた。
料理は……何品あるのだろうか?
二十品くらい?
まあ、今日は人数が多いから、こんなものかもしれない。
それぞれ席に腰を下ろした。
私の近くには肉料理はなくて、ちょっとほっとした。
「フィン、イアン。ジルみたいに騎士にはならないのか?
イアンはサルビア国の騎士団に所属していたから、経験はかなり積んでいるだろう?」
食事中、お父様が双子の話題を振った。
「交換勤務と同じ業務なら、試験を受けなくてもすぐ入団できるぞ」
……なるほど。
これは、就職に有利ってところね。
「私はジル兄たちみたいに騎士にはなれません。剣術も強くありませんし、武術の才能もありませんから」
フィンさんはため息をついた。
「私は昔、ジル兄さんみたいに騎士になりたかったんですけど……
実際サルビア国で騎士をしてみて、無理だなと思いました」
イアンさんは、さらりと話した。
「野営とか野宿とかが嫌なんですよね。
ふかふかのベッドで寝る方がいいじゃないですか。
ジル兄たちみたいに、なぜあんなに騎士になりたかったのか、まったく理解できません」
「お坊ちゃまだな、おまえたち」
ジルさんはにやっとした。
「……あ?やろうと思えばできますよ。したくないだけです!」
イアンさんは即座にジルさんに対抗した。
「……向き不向きってところですよ、兄さん」
フィンさんは穏やかに言った。
私は野営や野宿を実際に体験したことはない。
でも、辺境森でリオとリアと過ごしていたとき、ふかふかのベッドじゃなくても普通に楽しかった気がする。
リオとリアのおかげで、危険もなく安心して過ごせたからかもしれないけど。
「剣術が強くないなんて言いすぎだろ?
二人とも学院では一、二争いぐらいは強かったんじゃないか?
二人は水の魔法は上級レベルだよな?」
マーティスは呆れたように首を横に振った。
へぇ〜。
フィンさんとイアンさんはそんなに強いんだ~。
さすが、交換勤務の難関試験に合格したお二人。
お二人への好感度はますます高くなっちゃうよ。
それに、水魔法かぁ。
ジルさんも水魔法が使えるし、テレンス家は水の魔法使いなのかな。
“何とか魔法使い”って呼び方、かっこいいよね。
羨ましい。
私なら『薬の魔法使い』と呼ばれたいかも。
触ったものは全部薬になるとか、超便利だし、レアっぽいし。
……そんな魔法、本当にいたらいいのになぁ。
……そもそも、私には魔力を持っていたらいいのになぁ。
それにしても、フィンさんとイアンさんが騎士にならないなんて、もったいないな。
ジルさんは剣術も武術も魔法も強いから、
兄のジルさんみたいに、きっとフィンさんもイアンさんも強いんだろうな。
私はみんなの会話を聞きながら、呑気なことを考えて食事を楽しんだ。
テレンス家の料理はメイソン家と同じくとても美味しい。
魚も、卵も、カニも、すごくふわふわで、口の中で溶けてしまう。
でも、私はメイソン家の料理長ジョージさんの料理を贔屓しているので、
メイソン家の料理こそが断トツ一位だと決めているのだ。
それでも、この魚の蒸し料理はどうやったらこんなに美味しく作れるのか知りたい。
街のレストランより、ずーーーと美味しいっ!
「マーティス兄さん、フィンも私と同じく、野営とか嫌なんですよ」
「じゃあ、動物飼育場はどうだ?野営や野宿は、騎士みたいに頻繁にはないぞ」
ファビアンさんは相変わらず、ホワイトウルフちゃんも人間も飼育場に勧誘してしまうのだ。
「それでもあるんじゃないですか?
僕たち、動物とか詳しくないですし、一番仲良くできるのはモアとシュアだけですよ」
(モア?シュア?動物かな?)
どんな動物だろう。
鳥ちゃんかな〜?
リスちゃんかな〜?
それともレンブラント家のやんちゃなライオンのレオちゃんだったり?
ガイルちゃんみたいな可愛いドラゴンだったり?
会ってみたいな〜。




