表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【6万PV 感謝感謝!】記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/175

帽子とマスクの女

試験まであと数週間。


病院の短期仕事を終え、私は再びメイソン家の屋敷の図書室で勉強することになった。

病院に行っている間も少し勉強していたので、心配はいらない。


おじいちゃんの名にかけて、私は絶対に合格する!


そんな勉強に没頭する毎日——

ある日、私はジルさんの屋敷で夕食をいただくことになった。


今日は、テレンス家のご子息であり、ジルさんの弟であるフィンさんとイアンさんの、隣国での短期勤務終了のお祝いだ。


短期勤務とは、同盟国との間で交換勤務することだそうだ。

フィンさんとイアンさんの場合は、隣国のサルビア国でそれぞれ法務省と騎士団で勤務していた。

代わりにサルビア国の者もデリュキュース国の別の省で勤務していたそうだ。

そういう短期勤務をした者は、帰国後、就職の面でかなり有利になるらしい。


しかし、誰もが交換勤務に行けるわけではない。

学園で優秀な成績を収め、国家レベルの試験と面接を受けて、やっと結果がわかる。

年に十名ほどが交換勤務に行くという。


……フィンさんとイアンさん、すごいなぁ。

まだお二人に会っていないけれど、好感度はかなり高いのだ。


そして、行き先は同盟国の中でもそれぞればらばらだった。

フィンさんとイアンさんは運よく同じ国に行けただけだという。


(……大貴族パワーも影響していたんじゃないかな)

と、そんなことをこっそり考え、忘れることにしたのだ。


昔からの家族ぐるみの付き合いなので、お父様やお母様、カイテルさん、ジョアンナお姉様、

そしてマーティスさんとそのご家族、王族のファビアンさんも招かれていた。


……大貴族様、勢揃いだ。


ド田舎娘の私は、かなり肩身が狭い。


私はジルさんのお母様にお会いするのは初めて――

なので、マーティスさんのお母様のときと同じく、イブニングローズをお手土産に持っていくつもりだ。


……なんだかんだで——

お貴族様との付き合いはとても忙しい、ド田舎娘の私なのである。


テレンス家の屋敷に到着すると、メイドに案内され、居間に入った。


「アーロン、ジョゼフィン、ジョアンナ、カイテル、リーマ、いらっしゃい。待っていたよー」

ロラン小父様はソファから立ち上がり、相変わらずのんびりとした口調で言った。


「皆様、本日お越しいただきありがとうございます。どうぞおかけください。フィンとイアンはそろそろ参りますわ」

居間にはすでに、ロラン小父様とクロウディア小母様が待っていた。


(……うわ〜)

さすがジルさんのお母様だ〜。

想像通り、きれいな方だ。


お父様とお母様、ジョアンナお姉様、カイテルさんの挨拶が終わった。


次は、私の番――

いつもの平民風の挨拶の言葉と、平民風のお辞儀をした。


「クロウディア小母様、初めまして。リーマです」

私は震える声で、なんとか挨拶した。


「……えーと……お母様から、小母様がお花がお好きだと伺いましたので……イブニングローズを持ってきました。

とてもきれいで珍しい薔薇です。もしよろしければ……」


二か月も大貴族の屋敷に住んでいるのに……私の挨拶はいつまで経っても、上手くならないのだ。

悲しい……。


「まあ、リーマちゃんね〜。噂通り美しいわ。

ふふ、美しい人と美しいお花に……会えて嬉しいわよ。

リーマちゃん、ありがとう」

クロウディア小母様は優しく微笑んでくれた。


(もう―――っ!美しいなんて―――っ!照れちゃうよ―――っ!)

と、そんな考えをもちろん口にも出さず、顔にも出ないようにぐっと我慢した。


「今日は楽しんでちょうだいね」

また優しい笑みをかけてくれた。


(……本当に、きれいな方だ)


お父様と小父様は早速、仕事の話を始めた。

さすが、仕事熱心な方々だね。


お母様、クロウディア小母様、そしてジョアンナお姉様はというと、

さすが大貴族のご婦人なので、すぐ社交界の話を始めた。

来週、何とか侯爵家の社交界にも顔を出すらしい。


(……感服いたしましたよ)



私はちらりと、国の最高幹部たちの話題や大貴族のご婦人たちの話題に耳を傾けた。

すると、ロラン小父様の管轄部署で何か大変なことが起きているらしい、と聞こえてきた。


「カイテルさん、ロラン小父様のところで何かあったんですか?」

私は小声で尋ねた。


私とカイテルさんは、お父様たちの輪やお母様たちの輪には入らず、二人でぽつんとソファに座った。


「……一昨日、財務省で盗難事件があったんだ」

カイテルさんは一瞬戸惑ったあと、小声で教えてくれた。


――話しにくいことなのかな。

カイテルさんは優しいし、いつも私にいろいろ教えてくれる。

でも、騎士だから、軽々しく部外者に話せないことも多い。

お父様と小父様の様子を見れば、なおさらだ。


「そうなんですね〜」


私はこれ以上、首を突っ込まないように口を閉じた。

そのとき、お父様が突然声をかけた。


「リーマならどう思うのか?」


(……何をどう思えばいいのですか……お父様……?)


「一昨日、王城で盗難事件が起きたんだ。ロランの管轄する財務会計部で、大事な台帳がなくなった。

その台帳はいまだに見つかっていない。犯人も分かっていない。

容疑者はたくさんいるけど、まだ絞り切れていないんだ」


お父様はさらっと大事な話っぽいことを話した。


……あ、あれ?

部外者のド田舎娘である私に話しても大丈夫なくらい、大した話じゃなかったんですか、お父様……?


「お、おいっ!アーロン!」

ロラン小父様が慌ててお父様を止めた。


……やはり、部外者に話してはいけないですね、ロラン小父様……?


「いいから、リーマの意見を聞いてみよう。どう?リーマならどう思うか知りたいんだ」

「は、はい……えーと、たくさんの容疑者って、何人ですか?」

「十五人だ」

「じゅ、十五人!?

……ど、どうして容疑者がそんなにいるんですか?」


「はぁ……台帳がなくなったことに気付いたのは、一昨日の夕方なんだ」

ロラン小父様が、ため息混じりに続けた。


「私と部下で、その部署の部員全員を調べた。

その結果、一昨日の朝、部員二人が怪しい人物が台帳を保管していた保管室に出入りするのを目撃したんだ。

その人物は金髪の女性で、王宮の制服を着ていた。

王宮の制服は種類がいくつもあるが——

その人物が着ていたのは私の管轄部署の規定制服だ」

言葉を切り、さらに説明を加えた。


「私の管轄部署の女性職員は合計二七人。

その中で金髪の女性は十五人。

……だから、容疑者は十五人ということになる」


「なるほど……」


ロラン小父様は再びため息をついた。

「その十五人を裏で調べたが、まったく不審な点はなかった。

詐欺師の繋がりも、悪い貴族の繋がりも、怪しい商人の繋がりもなし。

仕事の評判も良好。

……つまり、その十五人はみんな優良職員なんだ」


「そうなんですね……」

一つ思いつき、私は尋ねた。

「あっ、でも二人の目撃者はその怪しい人物の顔を見ていないんですか?」


「ああ、その人物は帽子をかぶり、マスクもしていたそうだ。

その人物が咳をしながら保管室に入り、

わずか一分足らずで出てきた、と二人の目撃者が証言している。

目撃者の一人が『体調悪いのか?』と声をかけると、

その人物は咳をしながら『ちょっと……』と低い声で答えたんだ」


「……怪しいですね」

そんな平凡な意見しか言えない私であった。


「そうだ。その人物が妙に顔を隠そうとしていたとも二人の目撃者は話しているよ」


「……本当に妙な行動ですね」


ロラン小父様は大変だ。

お偉方の仕事はいつも頭痛の種が絶えない。

それでお父様は私にこの事件を話して、何をしてほしいのだろう?

私には何の力もないと思うけど……。


あっ、もしかして——

私の名推理が欲しいのかな?


……残念ながら、今のところまったくひらめいていないの。


「だから、犯人が見つかるまで安心して眠れないんだ。

王宮というのは、私を穏やかに休ませてくれない。

……はぁ……頭が痛い」


ロラン小父様はそのまま文句を言い始めた。

居間の隅に立つロラン小父様の右腕、ジョセフさんは尻目で主を見て小さくため息をついた。

……もしかして、一番大変なのはジョセフさんかもしれない。


「何か仮説があるか、リーマ?」


……お、お父様は気が早すぎる。

私は名推理の“め”さえ思いつかないのだ。


(名推理は、そんな簡単にぽんぽん出てくるものじゃないですよ、お父様……)


「ごめんなさい。何も思いつかないんです……」


詳細が少なすぎて、どうやって想像を膨らませればいいのか、まったく分かりません……。


「お父様、気が早すぎます。リーマは今、話を聞いたばかりですから、すぐに仮説を考えるのは難しいですよ」

カイテルさんがため息をついた。


私にできることがあるなら、お父様たちを手伝いたい。

でも、すぐに名推理を考え出すのは本当に難しいのだ。


「あぁ、悪いな……

この前のルーカスの事件はリーマがすぐ名推理……ではなく、仮説を思いついてくれたからな。

つい早まってしまった」


「い、いいえ!私にできることがあれば、全力で手伝います!」


「あぁ、そういえば、あのルーカスの事件はリーマのおかげで解決したんだったな。

じゃあ、リーマにもっと情報を話すかな~

何か思いついたら、絶対に教えてね~」


……本当に話しちゃって大丈夫ですか、ロラン小父様?


「私たちは、あの十五人の女性職員を裏で調べたんだが、特に怪しい点はなかった。

でも、あの中の誰かの仕業のはずだ。

だが他に証拠が少なくて、なかなか容疑者を絞れないんだ」


ロラン小父様が話を続けた。

「……そうそう。昨日、騎士は犯人が着ていたと思われる制服を王宮の廃棄場で見つけたよ。

女性職員の制服と帽子とマスク――

まさに犯人が着ていたと思われる品だ。

制服はみんな同じ作りだから、誰のものかはわからない」


ロラン小父様が何かを思い出しながら、さらに続けた。

「捨てられた帽子とマスクは――

二人の目撃者が、確かにあの怪しい女性がつけていたものに似ている、と言っている。

私は捨てられた制服も、犯人のものだと見ているんだ」


「制服、帽子とマスクが捨てられた……?」


……ふむふむ。

これは引っかかるね。

あと少しで、名推理をひらめきそうだわ。


「制服の支給は一人三着だ。

財務会計部の女性職員だけでなく、他の部門の女性職員も調べた。

全員が規定通り三着を持っていた。

ただし最近、新しいものを支給された人は三人いたが、

一人は無くしたと言い、あと二人は破れたと言っている」


「そうなんですね……」



……ふむふむ。




……ふむ……ふむ。





まったく何も思いつかないっ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ