取り調べ
翌朝。
待ちに待った取り調べの日。
七人は朝から護送馬車で騎士団本部に移送され、騎士団本部で取り調べを受けることになった。
私は昼から、カイテルさんとリオと一緒に騎士団本部へ向かう。
会議室で取り調べが始まるのを、私は「今か!今か!」とワクワクしながら待っていた。
村を出てから今日まで、毎日新しいことばかりで楽しい。
取り調べを行う騎士には、ジルさんもいる。
久しぶりに会った気がする。リアが出産した日以来かも。
ジルさんは相変わらず元気だ。
「俺のカッコいい姿、ちゃんと見てね〜」
何かを思いついたように付け加える。
「あっ、でも惚れられると、誰かさんが嫉妬で心が張り裂けて死んじゃうから、絶対に絶対に俺を惚れないでよね〜」
うーん……まあ……はい……自信まみれで大変結構。
私は何も言わず、温かい目でジルさんを見送ることにした。
ジルさん以外の取調官は、アレックスさん、イヴァンさん、そして初めましての騎士たちだった。
「リーマちゃーーーん、昨日ぶりだね〜。今日もかわいブハッ!」
アレックスさんがスキップしながら近づこうとした。
その瞬間、カイテルさんが素手で口を塞ぎ、空いているところにアレックスさんを放り投げる。
痛そーーーーーう!
男同士の戯れは容赦ないわねっ!
「くそカイテル……てめぇ……よくもリーマちゃんの前でっ!」
アレックスさんが片膝をつき、ドスの効いた声で言う。
「リーマに近づくな。ばい菌が移る」
ば、ばい菌……。
いつも優しいカイテルさんは、一瞬前まで優しかったのに。
今はまったく優しくない……。
「リーマちゃん、あいつらに気にしないで、僕と一緒にあっちでジュース飲もう〜いたっ!」
イヴァンさんが手を伸ばす前に、カイテルさんが頭をチョップして阻止。
――頭、大丈夫かな?
チョップの音、がっつり聞こえたけど?
頭蓋骨が割れちゃったら、薬じゃ治せないから、私の専門外だよね……。
「リーマ、会議室に連れて行くよ。今日の取調べは人数が多いから、取調室じゃなく、会議室でやるんだ」
カイテルさんは何事もなかったかのように手を取り、会議室へ連れて行く。
「はははっ!」
後ろでジルさんが、なぜかお腹を抱えて笑っている。
楽しそうで何より……かな。
無事、会議室に到着した。
私は会議室の隅っこにカイテルさんと一緒に腰を下ろす。
少しずつ、他の騎士たちも会議室に入ってくる。
リオは近くで『ぐるぅぅぅぅぅ~~』と低く威嚇。
騎士たちはおずおずと私に挨拶してくる。
今度は、カイテルさんはムッとしただけで、手を出さなかった。
カイテルさんもリオも、やっぱり過保護な保護者だ。
騎士の皆さんは、本当に職業のイメージとは違ってフレンドリー。
……でも、取り調べは甘くなっちゃわないかな。
ちょっと心配。
その心配を抱きながら、取り調べを待った。
そして、七人が会議室に到着すると、取り調べが始まる。
私は隅っこに座り直し、ワクワクしながら様子を見守った。
しかし――
さっきまでフレンドリーだった騎士たちが、突然、鬼に豹変する。
「さっさと吐けっ!ぶっ殺すぞ!」
荒々しい口調で大声を出す騎士。
「お疲れさま〜。治療、大変だったんだね~」
穏やかそうに見えて、まったく穏やかじゃない威圧を、バリバリとかける騎士。
「ずっと元気なおまえらに、会いたかったんだ~」
いつも明るく陽気なジルさんも、ニコニコしているのに、なぜか大魔王みたいに見える。
七人はビクビクしながらモゴモゴと答える。
わ、わかるよ、その気持ち……私だったら絶対泣いちゃう。
今までずっと優しくしてくれて本当に良かった……。
これからも優しくしてください。
絶対泣きますから。
圧力担当はマーティスさん一人で充分ですから。
取り調べが始まってから、私はずっとカイテルさんに縋りついている。
騎士たちの大声を聞くたび、七人と一緒にビクビクしてしまった。
七人は、以前どこにいたのか、祖国はどこか、どうやってデリュキュース国に来たのか、素直に答えた。
祖国はバラバラで、デリュキュース国の隣国ナイルウィズ国やゼラニア国、海の向こうのカリナーヤ国もいる。
みんな、出稼ぎのために、こっそりデリュキュース国に入国したのだという。
入国して間もない頃、廃街区域で、見知らぬ人物から手紙を渡された。
そこには――
自分たちが不法入国者であることは、すでに知られていること。
そして、命令に逆らえば、騎士団本部に通報するという脅しが書かれていた。
だが同時に、従えば衣食住と、毎月の金を保証する、とも書かれていた。
生活のために、彼らは仕方なく指示に従う道を選んだのだ。
指定された場所に行くと、同じ立場の十人が集まっていた。
全員が不法滞在者で、その事実だけで、自然と仲間意識が芽生えたという。
その後、十一人で、"誰かに"カレル森の小屋に連れて行かれ、
「今日からここはおまえらの職場だ」
と言われた。
「手紙を渡したのは誰なの?」
ジルさんは微笑みながら尋ねた。
「俺も知らないが……たぶん、廃街区域に住んでいるやつだと思う」
「ふーん。じゃあ、その"誰かに"は、誰なのか?」
ジルさんは相変わらず、大魔王のような微笑みを浮かべている。
だが、その目は、まったく笑っていなかった。
「わからない。まったく記憶にないんだ……」
「俺もだ……男だった気もするが……はっきりしない……」
騎士たちが互いに顔を見合わせ、静かに頷いた。
(この前、カイテルさんが話していた"記憶を消す魔法"……だろうか)
「そうか。続けていいよ~」
軽い口調とは裏腹に、逃げ場のない圧が部屋に満ちる。
麻薬団員は、おずおずと話しを続ける。
小屋には、仕事の内容が書かれた説明書が置かれていた。
そこには「調薬の仕事」と書かれており、植物の知識がなくても作れるよう、材料も分量もすべて細かく記されていた。
「でも、それが麻薬だなんて、本当に知らなかったんだ!」
七人のリーダー役が、必死に弁解する。
「説明書どおりに作っただけだったんだ……」
彼は震える声で、体験を語り始めた。
体調を崩して調薬小屋に行けなかった日、理由もなくイライラした。
心臓もうるさいほどに脈打ち、異常な発汗と震えに襲われたという。
幻覚を見て、恐怖に駆られ、仲間のいる調薬小屋へ死に物狂いで走った。
しかし、麻薬を作る小屋に入った瞬間、すべてが嘘のように収まった。
この人たち――あの時から、自分の体がおかしいことに気づき、
麻薬の支配下にいることをなんとなく理解していたのだろうか。
そういえば、カレル森の小屋に初めて入ったとき、麻薬の匂いがすごく充満していた。
リオもリアもあの辺りをすごく嫌がっていた。
あの小屋は、森にいる危険な動物たちも近づかなかった。
だから十一人は動物に襲われずに安全に過ごせていたのね……。
「調薬小屋にいるとすごく落ち着くんだ。
寝なくても目が冴えるから、俺たちは無我夢中で薬を作っていた。
逆に自分の小屋で休もうとすると、寝れなくてイライラして、幻覚を見るんだ。
後で、これが麻薬の症状だって気づいたよ」
「麻薬に一度ハマったらやめられないって誰かが言ってた。コニファ毒で死んだやつかもしれない。
だから俺たちはそのまま調薬を続けた。
だって、少なくとも衣食住は保証されるし、麻薬だって……使い放題だからな」
「お金はね……一度ももらったことがないんだ。
でもあの仕事をやめられない……やめたら麻薬はどこから手に入る?
あれがなかったら、俺ら死んでいたからな」
「あの小屋だと絶対誰にもバレないし……なぜかおまえらにはバレたけど」
「おまえがよく話していたあの商人は?」
アレックスさんがリーダー役の男に尋ねる。
「あいつは一月に一度は小屋に来ていた。俺らの管理のために。
後は手下が月に何回か、薬の回収と植物の補充のために来ていた」
「あの商人のことを詳しく話せ。髪型、髪色、顔、身長、髭……全部だ」
七人はぽつりぽつりと商人の容姿を答えた。
騎士の一人が似顔絵を描きながら、
「こいつって……」
「やはり……」
騎士たちは、眉間に皺をよせ、納得したように頷く。
昨日、お父様が話した仲介人のことかな。




