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記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


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取り調べ

翌朝。


待ちに待った取り調べの日。


七人は朝から護送馬車で騎士団本部に移送されていた。

今は騎士団本部で取り調べられるのを待っているそうだ。


私は昼から、カイテルさんとリオと一緒に騎士団本部へ向かった。


騎士団本部の本館の廊下を歩く一歩一歩に、

(もう少し!もう少し!)

と、内心でワクワクしながら歩を進めていた。


村を出てから今日まで、毎日新しいことばかりで楽しい。

村では絶対に体験できないことばかりだ。


取り調べを行う騎士には、ジルさんもいるとカイテルさんが言っていた。

廊下を歩いている途中、ぱったりとジルさんに会った。

久しぶりに会った気がする。

ちゃんと顔を合わせるのは、リアが出産した日以来かも。


ジルさんは私を見かけると、大きく手を振り、私のもとまで走ってきた。

相変わらず元気だ。


「ジルさん、こんにちは。なんだかお久しぶりですね」

「おう!リーマは取り調べに参加するんだな?

俺のかっこいい姿、ちゃんと見てね〜」

そして、何かを思いついたように付け加えた。

「あっ、でも惚れられると、誰かさんが嫉妬で心が張り裂けて死んじゃうから――

絶対に絶対に俺を惚れないでよね〜」

「……」


うーん……まあ……はい……自信まみれで大変結構。

私は何も言わず、温かい目でジルさんを見送ることにした。


ジルさん以外の取調官は、アレックスさん、イヴァンさん、そして初めましての騎士たちだった。


アレックスさんがスキップしながら近づこうとした。


「リーマちゃーーーん、昨日ぶりだね〜。今日もかわい――ブハッ!」


その瞬間――

カイテルさんが素手でアレックスさんの口を塞ぎ、空いているところにアレックスさんを放り投げた。


痛そーーーーーう!

男同士の戯れは容赦ないわねっ!


「くそカイテル……てめぇ……よくもリーマちゃんの前でっ!」

アレックスさんが片膝をつき、ドスの効いた声で言った。


「リーマに近づくな。ばい菌が移る」


……ば、ばい菌。

いつも優しいカイテルさんは、一瞬前まで優しかったのに。

今はまったく優しくない……。


「リーマちゃん~」

今度はイヴァンさんだった。


「あいつらに気にしないで、僕と一緒にあっちでジュース飲もう〜~いたっ!」


イヴァンさんが手を伸ばす前に、カイテルさんがイヴァンさんの頭をチョップし、イヴァンさんの動きを完璧に阻止した。


――頭、大丈夫かな?

チョップの音、がっつり聞こえたけど?

頭蓋骨が割れちゃったら、薬じゃ治せないよ?

頭蓋骨割れの治療は私の専門外だからね……。


「リーマ、会議室に連れて行くよ。今日の取調べは人数が多いから、取調室じゃなく、会議室でやるんだ」

カイテルさんは何事もなかったかのように手を取り、会議室へ連れて行った。


「はははっ!」


後ろでジルさんが、なぜかお腹を抱えて笑っている。

楽しそうで何より……かな。



カイテルさんの淡々とした行動でその後は他の騎士に何も話しかけられなかった。

おかげで、無事に会議室に到着した。


私は会議室の隅っこにカイテルさんと一緒に腰を下ろし、

「今か!今か!」

心臓をバクバクさせながら、取り調べの開始を待っていた。


そして、少しずつ他の騎士たちも会議室に入ってきて、一人ずつ私に挨拶してきた。

義理がいいね。

部外者まで挨拶してくれるなんて。


だがしかし――

リオは近くで、

(チカヅクナ!)

と低く威嚇し始めた。


そして、カイテルさんは仲間の騎士たちを睨みつけた。

でも、アレックスさんたちのときみたいに、手は出していなかった。


……騎士たちは何もしていないのに。

カイテルさんもリオも、やっぱり過保護な保護者だ。


騎士たちと挨拶を交わすと、みんなは本当に職業のイメージとは違ってとてもフレンドリーだ。

……でも、取り調べは甘くなっちゃわないかな。

ちょっと心配。


その心配を抱きながら、取り調べを待った。


そして、七人が会議室に到着すると、取り調べが始まった。

私は隅っこに座り直し、ワクワクしながら様子を見守った。



だがしかし――

さっきまでフレンドリーだった騎士たちが、突然鬼に豹変した。


「さっさと吐けっ!ぶっ殺すぞ!」

荒々しい口調で大声を出す騎士。


「お疲れさま〜。治療、大変だったんだね〜」

穏やかそうに見えて、まったく穏やかじゃない威圧をバリバリとかける騎士。


「ずっと元気なおまえらに、会いたかったんだ〜」

いつも明るく陽気なジルさんも、ニコニコしているのに、なぜか大魔王みたいに見えてしまう。


七人はビクビクしながらもごもごと答える。


わ、わかるよ、その気持ち……。

私だったら絶対泣いている……。

今までずっと優しくしてくれて……本当に良かった……。

これからも優しくしてください。

絶対泣きますから。

……圧力担当はマーティスさん一人で充分ですから。


取り調べが始まってから、私はずっとカイテルさんに縋りついていた。

騎士たちの大声が響くたび、七人と一緒にビクビクしてしまっていた。




七人は、以前どこにいたのか、祖国はどこか、どうやってデリュキュース国に来たのか、素直に答えた。


祖国はバラバラで、デリュキュース国の隣国ナイルウィズ国やゼラニア国、海の向こうのカリナーヤ国もいる。


みんな、出稼ぎのために、こっそりデリュキュース国に入国したのだという。

入国して間もない頃、廃街区域で見知らぬ人物から手紙を渡された。


そこには――

自分たちが不法入国者であることは、すでに知られていること。


そして、命令に逆らえば、騎士団本部に通報するという脅しが書かれていた。

だが同時に、従えば衣食住と毎月の金を保証する、とも書かれていた。


生活のために、彼らは仕方なく指示に従う道を選んだのだ。


指定された場所に行くと、同じ立場の十人が集まっていた。

全員が不法滞在者で、その事実だけで、自然と仲間意識が芽生えたという。


その後、十一人で、“誰かに”カレル森の小屋に連れて行かれ、

「今日からここはおまえらの職場だ」

と言われた。


「手紙を渡したのは誰なの?」

ジルさんは微笑みながら尋ねた。


「お、俺も知らないが……た、たぶん、廃街区域に……住んでいるやつ、だと思う」

一人はオドオドしながら答えた。


……今のジルさんは、私が知っているいつものジルさんと違って、ものすごく怖い。

本人はにこにこしているけど……。


「ふーん。じゃあ、その“誰かに”は、誰なのか?」


ジルさんは相変わらず、大魔王のような微笑みを浮かべた。

けれどその目は、まったく笑っていなかった。


「わからない。まったく記憶にないんだ……」

「俺もだ……男だった気もするが……はっきりしない……」


騎士たちが互いに顔を見合わせ、静かに頷いた。


(この前、カイテルさんが話していた――

“記憶を消す魔法”……だろうか)


「そうか。続けていいよ〜」

軽い口調とは裏腹に、逃げ場のない圧が部屋に満ちた。


麻薬団員はおずおずと話しを続けた。

小屋には、仕事の内容が書かれた説明書が置かれていた。


そこには「製法工程」と書かれており、

植物の知識がなくても作れるよう、材料も分量もすべて細かく記されていた。


「でも、それが麻薬だなんて、本当に知らなかったんだ!」

七人のリーダー役が必死に弁解した。

「説明書どおりに作っただけだったんだ……」


彼は震える声で、体験を語り始めた。

数週間その仕事を続けたある日、彼は身体の異変に気づいた。

彼はたまたま体調を崩して、調薬小屋に行けず、寝床に寝込んでいた。


あのとき、彼は理由もなくイライラしたという。

心臓もうるさいほどに脈打ち、異常な発汗と震えに襲われたそうだ。


そして、彼は動物が小屋に流れ込み、自分を襲おうとしているのを見た。

恐怖に駆られ、仲間のいる調薬小屋へ死に物狂いで走っていった。


しかし、麻薬を作る小屋に入った瞬間、すべてが嘘のように収まり、自分を追っていた動物たちも急に消えていた。


あれが幻覚だったと気付くのには、時間がかからなかった。




この人たち――

あのときから、麻薬の支配下にいることをなんとなく理解していたのだろうか。

……そういえば、カレル森の小屋に初めて入ったとき、麻薬の匂いが充満していた。

リオもリアもあの辺りをすごく嫌がっていた。


あの小屋は……麻薬の匂いで守られていたから、森にいる危険な動物たちが近づかなかったのね。

だから、麻薬工場も、この七人も、動物に襲われずに安全に過ごせていたのね……。




「調薬小屋にいるとすごく落ち着くんだ。

寝なくても目が冴えるから、俺たちは無我夢中で薬を作っていた。

逆に自分の小屋で休もうとすると、寝れなくてイライラして、幻覚を見るんだ。

後で……これが麻薬の症状だって気づいたよ」


「麻薬に一度ハマったらやめられないって誰かが言ってた。

……コニファの毒で死んだ、あの男かもしれない。

だから俺たちはそのまま調薬を続けた。

だって、少なくとも衣食住は保証されていたし、

麻薬だって……使い放題だからな」


「お金はね……一度ももらったことがないんだ。

でもあの仕事をやめられない……やめたら麻薬はどこから手に入る?

あれがなかったら、俺ら死んでいたからな」


「あの小屋だと絶対誰にもバレないし……なぜかおまえらにはバレたけど」


「おまえがよく話していたあの商人は?」

アレックスさんがリーダー役の男に尋ねた。


「あいつは一月に一度は小屋に来ていた。俺らを管理するために。

後は手下が月に何回か、薬の回収と材料の補充のために来ていた」


「あの商人のことを詳しく話せ。髪型、髪色、顔、身長、髭……全部だ」


七人はぽつりぽつりと商人の容姿を答えた。


騎士の一人が似顔絵を描きながら、

「こいつって……」

「やはり……」


騎士たちは、眉間に皺をよせ、納得したように頷いた。



昨日、お父様が話した仲介人のことかな。


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