名推理と、不意打ち
ある日。
メイソン家の屋敷で大事件が起きた。
私が図書室で勉強していると、メイドさんが慌てて、お母様の伝言を伝えに来た。
「リーマお嬢様、奥様がお呼びです。急ぎ居間へいらしてください」
……何があったのだろう?
私は勉強を中断し、急いで居間へ向かった。
すると居間には――
お父様、お母様、カイテルさん、ウィリアムズさん。
そして執事長のニクソンさん。
さらに、
お母様の専属メイド三人もいた。
専属メイドさんたちは泣きそうな顔で立っていた。
お母様は眉間にしわを寄せ、何か怒っているように見える。
居間の雰囲気が重く、息が詰まるように感じた。
お母様は、ダイヤモンドの指輪がなくなったことを話した。
メイドさんたちが屋敷中を探しても、それでも見つからなかった。
「いつからなくなったかわかるか?」
お父様が尋ねる。
「わかりませんわ。確かこの前の社交界の日にはまだつけていました。
社交界にルビーの指輪をつけるつもりでしたから、ダイヤモンドの指輪は部屋にあったはずです。
でも、今朝つけようとしたら見つからなかったのです。
……使用人の誰かが盗ったのかしら?」
最後の言葉は、お母様が小さな声で呟いた。
専属メイドさんたちは体を震わせ、今にも泣き出しそうだった。
お母様の部屋に入れるのは……この三人の専属メイドだけ。
長年働く彼女たちが、わざわざ盗みを働く意味はない……はず。
……うんうん。
こういう場合、一番怪しいのはやっぱり部外者だよね。
私の推理では、絶対犯人は屋敷の部外者だ。
そして、この屋敷の一番の部外者は――
「……」
……えっ!?
私じゃんか……っ!?
なんてこった。
待って待って待って待って!
ヤバいヤバいヤバい!
大変だ、どうしよう!
私じゃないからね!
私じゃないよ!
信じて!
おじいちゃんの名にかけて、私が泥棒じゃないからね!
確かに居候で、ド田舎者で、お金がなくて――
でも、可愛くて、心優しくて、頭も良くて……
可愛い部外者ではあるけどさ!
でもでもでも……本当の本当に私が盗んでないからね!
確かにダイヤモンドは高そうで、
つい取ってしまいそうだけど――
ド田舎娘にもプライドがあるからね!
部屋を隅々まで調べても大丈夫。
絶対出てこないから!
……
……ふぅ。
一旦落ち着こうか。
うーんと……お母様が社交界に行った日か。
そういえば、専属メイドさんたちが「あの日、部屋にカラスが侵入した」と話していたっけ。
その日は確か社交界の日だった。
どうして私がそのことを知っているかというと――
専属メイドのジェーンさんとルイスさん、ベラさんから何度も聞かされていたから。
三人が声を荒げて、
「あのカラス、私たちを馬鹿にしたんですよ!絶対許せません!次会ったら焼き鳥にしてやりますから!」
と激ぷんぷんしていた。
あの時の私は、キョトンとした顔をしていた。
間抜けだったな……。
あれは絶対、社交界の日の話だ。
カラスちゃんか~~
カラスちゃんね~~
ふふふっ、今の話と合わせると、辻褄が合ってすごくかっこいい一説を思いついたよ。
……うーん、でもどうしよう。言うべき?
……でも外れたら、お母様に怒られるかも。
恥ずかしくて、村に逃げ帰るかもしれない。
どうしよう?どうしよう?
言ったほうがいいかな?
言わないほうがいいかな?
でもでもでも、当たるかもしれないよ?
いやいや、当たらない可能性も高いじゃん?
でも言わなかったら、ジェーンさんたちが大変になっちゃうかも?
でも間違ったら、三人は疑われたままだよ?
どうしようどうしよう、リーマちゃん。
どうする!?
「お母様、ジェーンさんたちに聞きたいことがありますが、よろしいですか……?」
私は脳内のぐるぐるを整理し、思い切って話してみることにした。
「ええ、いいわよ」
「ジェーンさん、この前お母様の部屋にカラスが入っていたのを、皆さんが見つけたんですよね?」
「はい、そうですが……」
「えーと、その時の状況は確か……」
私はジェーンさんたちから聞いた話を思い出しながら続けた。
「ジェーンさんが、お母様の部屋に戻ったらカラスが化粧台に留まっていた。
追い出したら屋根まで飛んでいった。
それで、屋根の上に留まって鳴いていた……ということでしたよね?」
「えっ?ええ、間違いありません。
あのカラスが、屋根の方に飛んで行って鳴いていました」
……うーん、確信はゼロに近いけど……
えいっ!
言っちゃえ!
「えーと、お母様……誰かに屋根を探してもらいましたか?」
「屋根?どうして?うぅん、探していないと思うよ?」
「じゃあ、誰かにお母様の部屋の屋根を探していただけますか?」
「どうして?」
「自信はないのですが」
私は少し俯きながら話した。
「屋根にお母様の指輪があるかもしれないと思うんです……
間違っていたら、申し訳ありません……」
「じゃあ、私が探してみます。皆さん、ここで待っていてください」
カイテルさんがそう言うと、居間を出て行った。
……相変わらず頼もしい。
どうやって屋根を探すのだろう。
どこかから登るのかな。
私とお父様、お母様は、窓際でしばらくカイテルさんを待った。
すると、ガイルちゃんに乗って屋根へ向かうカイテルさんが見えた。
……あっ、そうか。
ガイルちゃんに乗ればいいんだ。
ガイルちゃんが屋根に近づくと、カイテルさんはそこから飛び降りた。
私はドキドキしながら、屋根で指輪を探すカイテルさんを見守った。
ほんの数分しか経っていないのに、三時間くらい経った気分だった。
もし指輪が見つからなかったら、土下座でもして心の底から謝ろうかしら。
きっと……心優しいお母様とお父様が、私の過ちを許してくれるはず……。
カイテルさん!
どうか見つけちゃってください!
お願いします!
しばらくすると、カイテルさんが再びガイルちゃんに乗る姿が見えた。
庭に降りると、使用人がガイルちゃんを裏庭に連れて行った。
カイテルさんはそのまま屋敷に入った。
ど、どうかな?
見つけたかな?
――コンコン。
私のドキドキがまだ治まらないうちに、カイテルさんが扉を開け、神妙な顔で居間に入ってきた。
「リーマ、すごいね。指輪、見つけたよ。どうしてわかるのか?」
……はっ!
本当に!?
やったぁ!
本当にあったよ!
カイテルさんは、指の上に小さく光るものを乗せていた。
ダイヤモンドの指輪だ!
カイテルさんはその指輪をお母様に渡した。
「まあ……これだわ、私のダイヤモンド指輪」
お母様は目を丸くした。
「リーマ、どうしてわかるの?……驚いたわ」
お母様とお父様は、まるで答えを待っているかのように、視線を向けていた。
「はい、えーと……この間の社交界の日のことを思い出したんです」
私は、お二人の視線に耐えながら、できるだけ冷静に話し始める。
「ジェーンさんたちが追い出したカラスは、屋根に留まっていたのを思い出しました。
カラスは光り物が好きだと、この間読んだ本に書いてあったんです」
もう一度、一呼吸をした。
「あのカラスがおそらく、ダイヤモンドの光を見つけて……
ちょうど窓も開いていたから、咥えて逃げたのではないかと思いました。
屋根で鳴いていたみたいですから、指輪がそこに落ちていたかもしれない、と思ったんです」
……緊張で口が震えていた。
本当に見つかってよかった!
でなきゃ恥ずかしすぎるよ。
お父様、お母様、カイテルさんは感服したかのように頷いた。
ジェーンさん、ルイスさん、ベラさんは安堵のあまり手を握り合い、胸を撫で下ろした。
やはり――
私の名推理通り、犯人は部外者だった。
私……めちゃくちゃ冴えてない!?
冴えすぎていない!?
天才かよ!
今度おじいちゃんに会ったら、このお土産話もしてあげよう。
忘れないようにメモっとかなくちゃ!
「説明を聞いたら、本当に単純だったわね」
お母様がふっと笑った。
「でも私には絶対思いつかなかったでしょうね。リーマは頭がいいわね」
(えへへ、それほどでも~~っ!)
「カイテルさんが見つけてくれたおかげです」
確かに私の名推理で場所は特定できた。
でもガイルちゃんに乗って屋根を探して、見つけてくれたのはカイテルさんだ。
功績は半分こにしてあげよう。
「ふふ〜ありがとう。リーマがここにいてくれて、本当に良かったわ」
お母様が微笑みながら、私の頭を撫でる。
本当のお母ちゃんができたみたいで、嬉しい。
話が落ち着いた後、カイテルさんは私を図書室まで送ってくれた。
さっきの指輪事件の話をしながら。
「さっきはありがとうね。お父様とお母様、すごく喜んでいたよ。リーマがいて本当に助かった」
カイテルさんが微笑む。
「本当は全然自信がなかったんですよ。言うべきかどうか迷っていて……
カイテルさんが見つけてくれなかったら、土下座でもして謝ろうと思っていたんですよ。
見つけてくださってありがとうございました。
おかげで土下座せずに済みました!」
私は笑った。
メイソン家の皆さんに少しでも恩返しできて嬉しい。
カイテルさんは優しい笑みを浮かべ、私の目をじっと見つめて頬を優しくなでた。
思わず、頬がぽっと熱くなった。
反射的に目をそらしてしまった。
もうーーっ!
なんでいっつもいつもこんな不意打ちするのよっ!?
なんで私がいっつもいつもドキドキするのよっ!?
もうーーーっ!
カイテルさんのこういう振る舞いは法律で取り締まってもらいたいものだ!
ドキドキして心臓に悪すぎるのだ!
「ふふ」
カイテルさんはまた笑った。
さらに恥ずかしくなった。
「図書室に行きます」
私は小さく言って、逃げることにした。
でも、走って逃げるのはかっこ悪いし、バレそうで嫌。
だから、できるだけ落ち着こうと、深呼吸してゆっくり歩く……ふりをする。
「リーマ」
カイテルさんに呼び止められ、足が止まり、振り向いてしまった。
「顔が赤いけど、大丈夫?……熱はない?」
カイテルさんが微笑み、両手で私の頬を優しく包み、自分のおでこを私のおでこに当てた。
……っ!!
か、か、か、顔が近すぎる!
び、び、び、びっくりしちゃった!
「うーん、熱はないね〜。でも顔は赤いよ。大丈夫?」
カイテルさんがニヤニヤして頬を撫でた。
「勉強に、集中できるのか?」
この破壊的な攻撃に、私は完全に免疫なし。
顔を真っ赤にして数歩後ずさり、身を翻して何も言わず図書室まで走った。
後ろから、カイテルさんの笑い声が聞こえた……気がした。
ゆっくり歩いている場合じゃない!
もうーーーーっ!
この男はっ!
街の男はっ!
『まあ、街に行くのね。いいなあ。でも男には絶対に気を付けるんだよ。甘い言葉に惑わされないで!』
『リーマ、おまえが街に行ったら、男が群がってくるだろうけど、絶対に信じるな!身を守るんだ!』
ふと、思い出した。
村のジゼルお姉ちゃんとニックお兄ちゃんの言葉を。
思い出してよかった!
勘違いしちゃうところだった!
リーマちゃん、流されちゃダメ!
絶対にダメ!
あんたは妹だから!妹だから!妹だから!
勉強どころではなくなった。
私は放心状態のまま、机に顔を伏せ、心の中でこの呪文を唱え続けた。




