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記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


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花火、二人を照らす光

踊り会場に入ると、私は目を見開いた。


男女がたくさんいて、音楽に合わせて楽しそうに踊っていた。


……あれ?

音楽は、どこから流れているのだろう?


私はきょろきょろ見回す。

楽器を演奏している人は、見当たらない。


「リーマ、どうした?」

カイテルさんが私を覗き込んだ。


「あの、音楽って……どこからですか?

楽器を使っている人、全然見当たらなくて……」


「あぁ」


カイテルさんはふっと笑い、そしてあちら方向へ指さす。


「あの白い建物、見える?

あの建物の前で楽団が演奏しているんだ。

楽器だけじゃ、この会場まで音は届かないから、風の魔法でここまで届けているんだよ」


へぇ……風の魔法か。

カイテルさんと同じだ。


「後で楽団も見に行こうか?」

「はい!見たいです!」


会場では、男女のペアが楽しそうに踊っている。

私はその人たちの邪魔にならないよう、端に寄ろうとした。


……が。


「リーマ、こっちだよ」

カイテルさんが手を引き、会場の中央まで連れて行った。


「カイテルさん、私、踊れませんよ!」

小さな声で慌てて言う。


「大丈夫。ここは誰でも参加できる踊りだよ」

カイテルさんは私の両手を取り、踊り始める。


「右手はこうして握るんだ」

「左手は俺の腰に」


距離が一気に縮まる。

抱き合っているみたいで……心臓がバクバクする。


(落ち着いて、リーマちゃん……!)


「足はこう動かすんだ」


教えられた通り、カイテルさんの足を踏みながら踊る。

少しずつ足が慣れて、踏む回数も減ってきた。


(楽しい……)


「今年練習して、来年も一緒に踊ろうな」

「はい!来年もまた一緒に踊りたいです!」


カイテルさんは満面の笑みを浮かべる。


音楽が落ち着くと、カイテルさんは私の右手を解き、自分の腰に添えた。

左手も私の腰に。

さっきよりも、さらに近い距離。


あぁ……


カイテルさんは私の心臓の音、聞こえたりしないよね……?


見上げると、カイテルさんは、優しい瞳で私を見つめている……気がする。


私はその瞳に耐えられず、すぐ俯いた。

周囲の喧騒も、音楽も、まるで遠くに感じる。


ここだけ、静かで穏やかで――

長くも短くもある、夢のような時間だった。


いつの間にか、音楽は終わってしまった。


私とカイテルさんの距離も、またできて……


なんだか、少しだけ寂しく感じた。



足が疲れてきた頃、


「少し休もうか」

そう言って、カイテルさんは教会へ連れて行ってくれた。



教会の前には二十人ほどの演奏者が並び、楽器を奏でている。


中央街の楽団の演奏を見たときとは、まったく違う雰囲気の音だ。

中央街の楽団は楽しく、心を躍らせてくれる音楽だった。


けれど、教会の演奏はゆったりとしていて、心を落ち着かせてくれる。


私たちはベンチに腰を下ろし、手を握り合ったまま、何も言わずに静かに音楽を楽しむ。

周囲の喧騒は遠く、ただ二人だけの時間が流れているようだった。



教会の演奏を静かに楽しんでいたら、突然―――


――ヒューッ!


――ドーン!


いきなり空に響き渡る音がした。


驚いて見上げると、赤、青、緑、紫――


色とりどりの花火が夜空を彩っていた。


――パチパチ。


音と光が徐々に消え、そしてまた―――


――ドーン!


何度も繰り返されるたびに、私は目を奪われる。


花火――

こんなに美しいものだなんて。


「花火、すごくきれいです。初めて見ました。本当に素敵です」

空を見上げながら、小さな声で言うと、カイテルさんは私を見つめて微笑む。


「来年も連れてくるよ。再来年も……

毎年一緒に見ようね」


「はい、来年も再来年も、一緒に見たいです」


私の言葉に、カイテルさんは手をギュッと握り、嬉しそうに笑った。


二人で教会の前のベンチに座り、花火を静かに眺める。


周囲の喧騒は遠く、まるで二人だけの世界にいるようだ。



心から幸せを感じた。


なぜか涙が滲んでくる――


村でおじいちゃんと過ごした日々とは違う、もう一つの幸せ。


カイテルさんに出会えて、

本当に良かった。


王都に来て、

本当に大正解だった。


おじいちゃん、外の世界を見せてくれてありがとう。


いつか再会したら――

私の王都の冒険譚を全部聞かせるよ。


花火が終わると、祭りも静かに幕を閉じる。

人々はだんだん会場を離れていく。


私とカイテルさんも、しばらくその場に座って景色を眺めた後、ゆっくり屋敷へと戻った。




祭りは三日間続くけれど、今日一日で十分満足だ。

来年も再来年も、きっとカイテルさんが連れて行ってくれる。


そう思うと、心がじんわり温かくなる。




祭りの熱気と花火の余韻を胸に、屋敷へ戻った私は、いつもの日常に静かに包まれた。

朝の光が差し込む食堂で、お父様、お母様、カイテルさんと一緒に朝食をとる。


昨日の祝福祭の話を思い出しながら、私は笑みをこぼす。


「リーマ、昨日の祭り、楽しめたかしら?」

お母様がいつもの優しい笑顔で尋ねる。


「はい、とってもです!楽しかったです。

花火も、踊りも、全部初めてで……

すごく素敵でした」


私の言葉に、カイテルさんは少しだけ照れたような表情を浮かべる。


お父様とお母様がお互いの顔を見て、ニヤニヤと笑い合った。


「そう?それならよかったわ」


「カイテルも楽しんでたみたいだな」


お父様も笑みを浮かべる。

その後も、日常はいつも通りの穏やかな時間が流れた。




後日。

カイテルさんが買ってくれた髪飾りを見たお兄さんたちは、口々に文句を言った。


「二人だけで祭りに行っちゃってひどいよな。俺も行きたかったのに」

ジルさんが口をとがらせる。


「全く、一言も誘ってくれなかったんじゃないか。冷たいよな」

ファビアンさんは腕を組み、ニヤニヤする。


「誘いくらいしてくれてもよかったのに。水臭いな」

マーティスさんも頬杖をついて笑った。



その日――


お兄さんたちは仕事で祭りに行けなかったはずなのに……。




どうして私にそんなことを言うのか、少し不思議に思った。


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