接点 その二
十七
(国士無双・真空牙)
窮地とみて無双技の斬撃を飛ばした。
真空牙はオーガ・ジェネラルの首に当たり収縮消滅させた。首の切断面から血が噴き出した。巨体が振り上げた金棒の重みで後方に倒れる。
地面が揺れた。
ミスリル甲冑の騎士は固まったまま、オーガ・ジェネラルを呆然と見上げていた。兜から零れる銀髪から女性エルフと解った。
構わず次のオーガに向かった。
隠形最大で殲滅戦に移行する。
遠距離は真空牙を飛ばして間引きする。
接近戦は直接日本刀で切り結び排除する。
十体ほどのオーガはソルが固有スキルの風刃で薙いでいた。
(さすが神獣強いな。オーガなど敵にもならないか)
最後に一体のオーガだけがシャムシールに似た反った大刀で立ち向かってきた。
鑑定眼で確認する。
オーガ・ジェネラルは上位種のハイ・オーガだった。
(俺の姿は見えないはずだが、気を読んだのか? それとも存在を感じたか?)
音速で日本刀を振り抜く。オーガ・ジェネラルは対応してみせた。
(音速攻撃に剣を合わせるか?)
挑んできた太いシャムシールの鉄刀をチーズのように切り裂いた。
次いで袈裟懸けに胴体を斬り下ろす。
野太い雄叫びが森に響く。
斬られてなおハイ・オーガの目は生きていた。
(眼力で戦い続けるか)
戦闘種族の気概を感じた。
惜しく想い脳内をスキャンした。
・危機把握(空間把握能力と感知能力の上昇。攻撃者の位置、規模、動きを知るスキル)
・霊視(幽霊や実体を持たない存在を認識できる魔眼スキル)
・ホルスの目(地図上で敵、宝の表示と敵の詳細情報、弱点が見えるスキル)があった。
(スキル能力で俺の動きについてきたのか)
異世界の強者に敬意を持った。ハイ・オーガのスキルをコピーする。スキルをインストールで国士無双に吸収し還元した。
(俺の一部となり生きよ)
剣戟が終わると静寂があった。
辺りは冒険者、エルフ、オーガの血と死体で覆われた。
豪華な馬車からエルフの貴族? メイド? が降りて豪華なミスリル鎧の騎士を介抱していた。
手をかざすエルフ特有の魔法治療だ。
騎士は治療を受けるため鎧を外されていた。
横たわるエルフは美しく輝いた。
(これ実際に治癒魔法で輝いてるよな。恐るべしエルフの魔法。まるで眠れる森の美女だな)
「姫様! お気を確かに。姫様! もっと治癒魔法を強めよ」
執事風の老エルフが指示をだした。
「無理です。これ以上強めると治癒魔法に体が耐えられません」
(いいことを言うね! 魔法師さん。それ免疫の過剰反応だよ)
隠形機能を解き近づきながら肯定する。
「何を甘いことを。姫が死ねば聖樹国が亡ぶのだぞ!」
老エルフが叫んだ。
(ヤバい……聞いてはいけない会話だ。そっと抜けよう)
俺は踵を返しそうとした。
腕を掴まれた。
「ありがとうございます。おかげで救われました」
声を掛けてきたのはエルフのメイド? だった。
「どうかお気遣いなく。これにて失礼する」
(お嬢さん!この腕を解いてくれますか? 面倒事は御免です。直ぐに帰りたいのです)
手を振り解こうとした。
「何をおっしゃるのです。お礼をさせて下さい」
「気遣いなく」
断るがエルフの力は強く腕を離さない。
埒が明かない。
(早く帰りたいが、まだ時間の余裕はある。約束もある……)
早く撤収したかったがグライドとの約束が身を縛る。
(遣るべきを遣り、行うべきを行う)
考え直した。
最も早く帰れる方法を実行に移す。
腕を掴むエルフの手を優しく外す。無言で姫と呼ばれるエルフに近づいた。
「貴様! 何者だ! 警戒せよ」
老エルフの指示が通る。
周りのエルフ騎士が剣を抜き身構えた。
(残念! たとえミスリルの刃でも不破壊属性の服部半蔵には傷一つ付けられないぞ)
構わず鑑定眼・サーチで状態把握した。
両腕の複雑骨折。左肺は機能停止。肋骨が肺を突き破り肺深部に達している。衝撃による内臓破裂が最も深刻。
(重症だな。生きているのが不思議だ)
エルフ固有魔法で生体を繋ぎ合わせて保たせているだけだ。持ちこたえられないだろう。一時間で死亡する。
(死す宿命から解放すれば、運命が変わりかねないが……)
意志を決めて声を掛けた。
「任せてくれれば救おう」
反応が激しかった。
「何様だ? 姫様に向かって不遜な! そもそもお前は……」
老体を押しのけて女性の声が響いた。
「どうかお願いします。私のアデレートを救って下さい」
豪華なドレスのエルフは切迫した表情だ。執事風の老エルフは口を閉じ低頭した。
異論はないか見回した。
沈黙を応えとした。
頷いて放つ。
(国士無双・エクストラ・ヒール)
姫と呼ばれるエルフの体が強く光る。途端にエルフの顔に血の気が戻った。呼吸が平静になる。薄っすらと目を開けた。
「貴方が……救ってくれたの?」
まだ焦点の合わない目付きでボーっとしていた。
姫の問いには応えなかった。
(権力者の好意は下々には毒だ。振り回わされるのが落ちだ。面倒は御免だ!)
「体調は戻ったはずだ。が失われた血は戻らない。しばらく安静にさせろ」
「アデレート! 良かった! 私の娘が助かった!」
治療を許可した女性エルフが叫んで真っ先に傍らに寄り添った。
(げっ! 母親かよ! 姉さんにしか見えないぞ! エルフは年齢不詳だな。美魔女のエルフ恐るべし)
俺はそっと位置をずらし騒がしさから身を引いた。
冒険者の確認に向かう。
生存冒険者がテキパキ動いていた。
リーダー格で指示を出すのは獣人だった。
近づくと狼人から声が掛かった。
「有りがとう助かった。俺は冒険者のベンだ。真夜中に救助があるとは思わなかった。もう駄目と諦めていた。違っていたらすまん。お前さん、あのハンゾウか?」
恐らくグライドから聞いているのだろう。
黙って頷いた。
「救える者は救い。片付けも手伝おう」
(早く切りを付けて帰りたい。セカンダリー機能のカルロスが少し心配だ)
「助かる」
後は早かった。周りの状態把握をする。
(国士無双・サーチ)
生命力は薄っすらと青かった。
倒れ伏した騎士も冒険者も重症ながらまだギリギリ生きていた。
(国士無双・エリア・ハイヒール)
「騎士と冒険者の体の状態は戻した。流血は戻せない。少し休息させろ」
「休ませたいが、オーガの血が他の魔物を呼ぶ。直ぐ移動したい」
「片付けは任せろ」
応えて直ぐに動く。
オーガ・ジェネラルを含む魔物の死体をマジックBOXに放り込んでいった。
(国士無双・エリア・オールクリーン)
周辺の血の海を綺麗にする。
「広範囲魔法だろ? 魔力消費は大丈夫か? 魔力枯渇で死ぬぞ!」
ベンが驚きの声を上げた。
そのまま俺の背後に目を移して固まる。
「ハンゾウ殿の、背後に控えているのは……もしや……フェンリル様では?」
ベンが目を剥いて尋ねてきた。
応える前にソルの意志が心に届いた。
(よせ! 言うな! フェンリルは獣人の守り神だ。拝礼を受ければ、その間は動けなくなる。面倒だ)
頷いてから応えた。
「勘違いするな。単なる従魔だ」
「重厚な佇まいと美しい毛並みは……フェンリス様に違いない」
狼人の目付きは尊崇の気配を湛えた。
脳内詠唱でソルを陰に潜ませる。
(神獣フェンリル・ソル・陰に控えよ)
ソルの気配が俺の陰に宿った。
ベンの意識を現実に引き戻す。
「朝まで持つ防御魔法を掛けておく。日が昇るまで休んでから出発しろ」
「……ありがたい。そうさせてもらおう」
ベンが頷き改めて感謝の顔つきになった。
(国士無双・対物理、対魔法、絶対防御・六時間限定)
「では失礼する」
「お待ちください」
執事風老エルフの声だ。
(不味い。お礼とか恩賞とか面倒だ。命は救ったしグライドへの義理も果たした。この場は引かせてもらおう)
待たずに唱える。
(国士無双・転移・隠形最大・冒険者ギルド)
グライドが目を見開きカウンター内で腕組みをしていた。
(だから誰を待ってるんだよ?)
カウンターに近づいても隠形効果で気づかれない。隠形機能をオフにした。
「冒険者は無事だ。日が昇ってから迎えに行けば丁度いいはずだ」
グライドに伝えて隠形ボタンをオンにした。
立ち上がり辺りを見回すグライドの前を横切った。
脳内詠唱した。
(転移・城門)
「命を助けてもらった。ありがたい。加えて国家間の問題になるところだった。助かった。本当にありがとう」
転移の中、声が背中に届いた。
城門から城に入ろうと見上げた。
夜の闇に火事の火が燃えあがっていた。
(居城の方向だ)
嫌な予感がした。




