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接点 その一

       十六

 覚醒して半年。

 今夜もカルロスとして寝付く。

 目を閉じてから唱える。

(国士無双・ミッション遂行・服部半蔵・プライマリー)

 服部半蔵として覚醒した。

 横たわるカルロス(セカンダリー)を眺める。

 セカンダリーの間カルロスは能力限定のオート機能で動く。

(無双シリーズ愛好者の周知の事実としてオートになると少しばかりお馬鹿になる)

 どう考えても寝てもらっていた方が安全だ。

 無邪気なカルロスの寝顔を見つめる。

(気持よく寝てるよな)

 口の端から涎がたれた。

(大丈夫か?)

 セカンダリー機能の馬鹿さ加減が心配になる。

(ミッション中はカルロスも国士無双の不破壊属性キャラの一人だ。大概は大丈夫だろう)

 気持ちを切り換えた。今夜は探索の詰めだ。隠形マントの左鎖骨部分にある機能ボタンをオンにする。

(国士無双・隠形)

 転移が使える城門まで疾走する。

 準音速移動による風の抵抗を感じながら情報を整理する。

 連夜のミッションとしてダンジョン「迷宮峡谷」入口魔法陣を探してきた。

 家族を守り、ゲーム攻略をスムーズにするための必需品。

 ダンジョン・ボスを攻略して得られるドロップ・アイテム。

 貫徹の精神疲労覚悟で欲しい品。

 ゲームの隠しアイテム。

 聖剣グラムは、神々の金属オリハルコン製で精神体だけを滅する力を有していた。

(魔人を消滅させるためにどうしても欲しい。聖剣グラムを持っていないと難易度が大幅に上がる)

 ダンジョン「迷宮峡谷」自体は遠くタロン大山脈内に存在している。設定では転移魔法でないと入れない。

 問題はダンジョン入口だ。

 調査で「転移魔方陣」に導く三カ所の転移石柱の所在は絞れた。残念ながらゲーム主人公ではないので強制力が働かない。

 解決法は簡単だ。実際に魔法陣まで行けばいい。

一、デュラン高地

二、バデス沼

三、魔古木の洞

 三カ所の転移石柱を反時計回りに廻り。強制的に魔素を活性化させ転移魔方陣に足を踏み入れるだけだ。

(困難だがやるしかない)

 今夜は魔法陣の場所の確定する。冒険者ギルドで古地図を見つけて、確認の為、実際に魔物の森に向かう予定だ。

 城門に出た。転移ポイントを脳内把握する。

(隠形最大、転移、冒険者ギルド)

 冒険者ギルド内の陰に転移した。室内は薄暗い。

 眼前に夜半のカウンターがあった。受付には筋肉隆々の大男が腕組みして座っていた。

 目を閉じているがオーラが半端なく出ている。いったい誰を威嚇しているのか?

(よりによってギルド長のグライドが夜勤か?)

 ギルド奥の地図の前まで進む。隠形機能最大で誰にも存在すら判らないはずだ。古い地図を睨む。

(国士無双・転写・オートマップ)

 地図を脳内に記憶した。

 やはり石柱三カ所が頂点の正三角形と解った。三角形の真ん中に「英知の丘」の表記がある。最有力の入口候補だ。

 今夜は、実際に「英知の丘」を確認に向かう。

 魔物の森前の魔法ポイントを脳内把握した。

 森に直接転移して背後から魔物に襲われるとさすがに心臓に悪い。自分がどこにいるか確認する意味で外部城壁が見える位置に最初の転移ポイントを設置している。

(今夜こそ見つけるぞ。隠形最大・……)

 急に大きな声が響いた。

「ハンゾウ殿! 居るかどうかは正直解らない。俺の勘だ! まず先日の礼を言いたい。そして厚かましいが救ってもらいたい命がある。どうか姿を現してもらえないだろうか」

 切実な願いが搾り出す声にあった。

 声が響いた後グライドは頭を下げた。大声の余韻が残った。

 よりによって『救ってもらいたい命がある』と聞くと俺は立ち止まってしまう。

 隠れ社畜ゲーマーは、決して目立たず中庸に生きる。天涯孤独、徒党は組まない。平凡で分相応の人生。穏当で片寄らず中正。ただし、できる範囲の人は助ける。

 心の持ちようなのだろうが、主義に反すると気持ちが悪い。鼻から息を抜いた。左鎖骨のボタンを解除する。

「どうしたギルド長! らしくないじゃないか」

 頭を下げ続けるグライドに声を掛けた。

 グライドはカバっと頭と体を起こした。

「ありがたい。今夜出会えたのは神のお導きだ。神よ! 感謝いたします」大男が天を仰ぎ感謝の言葉を口にする。

(今夜は神の前に俺に感謝してもらいたいものだ)

「それでどうした?」

「まずマリー達を救ってくれてありがとう……」

 口を挟んだ。

「終わったことはもう良い。『救ってもらいたい命がある』とは何だ?」

 単刀直入に問う。

「マリーから伝言で……」

「俺が暇そうに見えるか? もう行くぞ!」

「解った。話だけでも聞いてくれ」

 頷き話を進めるよう促す。

「実は護衛依頼を受けた冒険者数人が戻らない。とある国の要人警護で主に哨戒任務だ。騎士も付くから付け足しに近い楽な仕事のはずだった。が、昼過ぎに着く予定でまた帰らない。魔物の森で何かあったはずだ助けてくれ」

 気に入らなかった。

「騎士がいるなら援護は無用だろう」

 国の要人がいれば、下手に介入すれば成功でも失敗でも厄介になる。

(超面倒だ。きな臭い! 権力者には近づかないに限る。断ろう)

 単刀直入に伝える。

「断わる。これで失礼する」

「待ってくれ。なら困難に遭遇した冒険者がいたら手助けしてやってくれないか。陰ながらの最低限の援助、それだけでいい。ただ遺品があれば回収してほしい」

(仕方ない)

「……了解した」

 頷いた。俺は甘いのかもしれない。承諾の意思を伝え左鎖骨のボタンに触れた。

(隠形最大・転移・魔物の森入口)

 辺りは静寂だった。眼前の森は漆黒に見えた。

 背後の外部城壁は威圧をもって魔物を阻んでいた。実際に魔物の嫌がる聖魔法が感知できる。高い壁の内側に僅かな喧騒があった。

 人の温もりに背を向ける。人外の森を見据えた。いつものように呼び出す。

(召喚・神獣フェンリル・ソル)

「また夜の散歩か?」

 傍らに馬ほどの白いスピッツ? が現れた。毛並みに月光が反射して輝いて見えた。

(隠形・ソル)

 フェンリルの存在と光る毛並みの認識を抑えた。

「目的はあるさ。が、そぞろに行こう」

「あい解った。主よ夜を楽しもう」

 傍らにいてくれる存在が嬉しかった。

 調査でポイント設置した「魔古木の洞」の転移石を脳内把握する。

 ソルの背をひと撫でして唱えた。

(隠形最大・転移・魔物の森、魔古木の洞)

 目の前の石塔はうっすら輝いていた。直ぐに陰に身を潜めた。傍らのフェンリルが語りかけてきた。

「転移酔いが全くない。見事な術式だ」

 当たり前のこんこんちきだ。服部半蔵だぞ。

「いつも通りだ。さあ行くぞ」

 テレを隠した。一人と一匹? で魔物の森中心部へ向かう。音速移動では追随するソルが大変なので移動速度は抑えた。

 進むにつれ違和感を覚えた。魔物の森、正三角形中央部は認識を受け付けなかった。

 地図で「英知の丘」を確認して正解だ。位置を意識できれば突破口となる。

 正確には認識を巧妙にずらす術式だ。見過ごすところだった。

 脳内詠唱をした。

(国士無双・神眼・認識補正)

「英知の丘」周辺の強力な目くらましを突破した。

(見つからないはずだな)

 目の前に急に丘が現れる。

 見た目に丘の頂上は平たい地形だ。上り坂をソルと駆け上がる。

 丘の上に足を踏み入れた。

 テニスコート二面ほどの頂上は石が敷き詰められていた。足元に大きな魔法円が読み取れた。

(見つけた。転移魔法陣だ)

 認識のずれを補正して転移ポイントを設置する。

 今夜の目的を達した。

「日を改めてダンジョンに挑むのだな」

 ソルが尋ねてきた。

 本音で応える。

「攻略に丸一日は欲しいところだ」

 糞ゲーに費やした時間を想いため息をつく。ダンジョン突破の前に時間をつくらねばならない。どうアンの目を掻い潜るかが問題だ。

 気持ちを切り替えた。

「さあ帰ろう。走るか」

 ソルの尾が揺れた。

「良かろう。疾走だな」

(疾く駆けよ! という意味か)

 即、ソルが走った。俺は追うように駆け始める。

 魔物の森の外れでソルが止まった。

「どうした?」

 フェンリルの尾が緊張していた。

「斬撃の音」

 直ぐに理解した。

「襲撃だな」

 暗視・隠形最大で近づいた。隊列がレッドオーガの群れに襲撃を受けていた。

(国士無双・鑑定眼・広域サーチ)

 騎士と冒険者が豪華な馬車を守っている。戦闘が長時間にわたったのか? 騎士も冒険者も青い光の生命力が消えかかっている。攻める赤い点がオーガだ。

(レッドオーガ、三十二体か)

 二メーター級三十体、三メーター級二体だ。特に二匹のオーガ・ジェネラルの戦闘力が高い。

(騎士は劣勢だな)

 既に五人ほどの騎士と冒険者は倒れていた。

 グライドの願いが頭に過る。

『困難に遭遇した冒険者がいたら手助けしてやってくれないか』

 超振動ブレードの日本刀を抜いた。

 社畜信条が体を突き動かす。

『できる範囲の人は助ける』

 隠形最大に陰縫いで進んだ。

 ソルも疾風と化してオーガに向かう。

 直近のレッド・オーガは興奮して金棒を振り上げていた。対する冒険者の右手は既に潰れていた。

 オーガを側面から一閃した。ズルッと胴体が落ちた。

 見れば傍らで倒れ伏した騎士から血が地面に広がっていた。

 ズレた甲冑から黄金の髪がこぼれている。

 顔が見えた。

(エルフじゃねえか! しかも女だ。騎士が女性?)

 移動しながらサーチの精度を上げた。戦っている騎士の少なくとも半数はエルフの女性と判った。

 数体のオーガを屠った騎士がオーガ・ジェネラルに対していた。

 ひと際豪華な全身ミスリル甲冑の騎士だ。

 既に甲冑の継ぎ目から血が流れ落ちている。

 次の瞬間にオーガ・ジェネラルが金棒で強打した。

 鈍い音が響く。

(ミスリルは軽く丈夫だが、生身の体は衝撃で細胞ごと破壊されるよな)

 攻撃をもろ受けした騎士の体幹が変な方向に折れた。

 騎士は崩れ落ち組み敷かれた。

 サーチの生命反応が極小となる。

 オーガ・ジェネラルは最後の一撃を振りかぶった。

 音速にギアを上げる。

(間に合うか?) 

 即、脳内詠唱した。




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