オーク その一
十四
レムルを二階に運び、後はケリーに任せる。
一階に戻るとグライドが入口に背を向け、椅子に座り頭を抱えていた。近寄るとレムルの倒れた場所に腰ポーチが落ちている。拾い上げグライドに渡そうとし手を止めた。
小さな声が聞こえる。
「マリーは親友の娘だぞ。俺はどうすればいいんだ……俺はどうすれば……」
繰り返される悔恨。
(公的立場に私情は挟めないよな)
ギルマスの苦悩を聴き流した。静かに離れた。
今後を考えギルドの片隅に魔法ポイントを設置する。
出ると深夜の外気は冷えていた。手のポーチを見つめる。
「レムル! 報酬は確かに頂いた」
あえて声にだした。
(マジックバック作成・容量無限・強化・使用者限定・自動回帰)
作成して直ぐにレムルの想いを腰に装着する。
時間がなかった。マントのフードを深く被る。視野を操作し鑑定眼に暗視機能を付加した。スイッチ・オンで隠形行動を開始する。
風となり駆けた。準音速に抑えて衝撃波を抑える。街を囲う高い城壁に近づいた。鑑定眼が注意せよ! と教えた。壁に検知魔法が重ね掛けされている。飛び越える方法もあるが……。警報が鳴れば騒ぎになる。初心冒険者が深夜に城壁の外に出してもらえるとは思えない。
(さすがに厳重だな。一筋縄ではいかない。騒ぎは避けたい)
リスク回避のため今回は城門をすり抜ける手段をとる。疲れた衛士の動きを見極める。影を縫い城門の外に出た。
後は全力で駆けた。力を解放した服部半蔵に障害物は無い。音速下では纏わりつく外気を液体のように感じる。スローモーションを見ている感覚に陥る。不破壊属性の服部半蔵だから耐えうる動きだ。
探し回り魔物の森深部にオークの集団を見つけた。速度を落とした。
高い樹から見下ろす。隊列に松明の灯が揺らいでいた。燃える火の灯りだ。
松明に何の脂を使っているか詮索はよした。
夜間のためか判断力のあるオークジェネラルを先頭に行進をしていた。オークの巣に戻る途中のようだ。
隊列後方に人間を見つけた。俯く女達数人が数珠つなぎに手を縛られ歩かされていた。前後のオークの背負う篭から人間の手足が飛び出ていた。恐らく切り刻まれた肉も元は人間だろう。
(男は殺されたな。女は別の使い道があるから生かして連れ帰るのか)
何匹かのオークが食料となり果てた人間の腕をかじっていた。クチャクチャ咀嚼し動く口から泡立つ赤い血が涎と混じり滴っていた。
機会を掴むため暗視機能でその全てを見つめ続ける。
(まずは救出)
音速下でも切れ味を維持するため日本刀に超振動ブレード機能を付加した。隠形機能を最大に飛び降りる。音もなく隊列の真横に位置どった。
刀の柄に手をかけ瞬間を待つ。隊列後方の女を結び連ねた縄を手繰るオークが見えた。女の尻を見ながらドリル状のいちもつを立てていた。何を想像しているかが解った。
(警戒もせずに愚かな。が好都合)
時を得た。
(今だ!)
瞬時に音速で抜き身の刃を走らせた。首を切られてもオークはしばらく歩き続ける。後続の魔物の首をすべて切った。バターを高熱の伝熱線で切るように抵抗なく刃は走った。三秒で十のオークの首を斬り落した。
速度を緩める。
女たちの縄をつかんだ。
強制力のある声を掛ける。
「つき従い走れ!」
女たちは機械のように従った。
「しゃがめ。声を掛けるまで隠れていろ」
見つけておいた窪地に女を隠し結界を張る。
(隠形、対物理、対魔法、絶対防御)
半透明のドームが女たちを覆った。
音速で戦場に戻った。
戦端を切ってまだ数分しか経っていなかった。
後続の異変に気付いたオークがやっと警戒し始めた。
もう隠す必要もなかった。
(自動迎撃機能オン、殲滅戦開始)
脳内コマンドで命じた。ようやくオークが敵意むき出しで吠えた。
「永久凍土」
中級魔法が広がった。残り四十体ほどのオークの体が凍り付いた。敢えて頭部は凍らせなかった。音速で駆けながら氷像を切って捨てる。切り刻まれたオークの頭部から苦しむ怨嗟が辺りに広がった。
サーチ機能に知らせがあった。二回り程大きな一体が這って逃げようとしている。
(そんな大きな芋虫に気づかないと思うか?)
音速移動で先回りしてオークジェネラルの頭を踏みつけた。手足が凍りつき胴体だけで這っていた。
見ると人間の嬰児の髑髏を首飾りにしている。恐らく人間の赤子を好んで食べてきたのだろう。
「グゴー。ブブブヒ」
冷気のためか、恐怖のためか、目の前のオークジェネラルがガタガタ震え始めた。
音速で刃を一閃した。抵抗もなくオークジェネラルの下腹部は輪切りになった。頭を掴み胴体を立てる。飛び散った己の内臓を見せるためだ。
意識を保たせた。恐怖し苦しみながら己の死を見つめさせる。心臓が丈夫なのか? 定間隔で血が噴き出した。
至極単純な方法。服部半蔵が最も苦しませる業を知っていた。
怯えるオークに伝えた。
「今からお前の巣を一掃する。一匹残らず消し去る」
「ブゴー! フフフゴー! フゴフゴフゴ!」
「止めてくれと人間が願った時、お前はどうした? 笑いながら殺して食らったろう。相容れぬ中だ。諦めろ」
オークジェネラルは苦しみ悶えながら死んだ。俺は魔物の死を見送った。死体はマジックバッグに放り込んだ。
窪地のドームに戻り女たちに伝えた。
「しばし待て」
強制力で縛った。
(エリアヒール、エリアリカバリー、リラックス、スリープ)
脳内多重詠唱で彼女たちを回復し眠らせた。
改めて装備機能を確認した。
(殲滅する)
オークの巣に向かう。鑑定眼が森深部の巣を直ぐに見つけた。魔法偽装を施した大きめの洞窟だ。隠形機能最大のまま巣に突入する。
目くらましのかかった不自然な暗い横穴を見つけた。鑑定眼の暗視機能が探す対象がいると教えた。僅かな魔法抵抗を破り足を踏み入れる。
洗脳で精神を破壊された人間、エルフ、獣人の女性が、頭を短い杭に固定されていた。まるで飼育だ。用途はピンときた。奥にせわしく動く影があった。エルフの腰を掴み腰を打ちつけるオークだ。
嫌悪から即刻首をはねた。
奥から別の一体が姿を現した。殺意があった。
(隠形に気づかれたか?)
いきなり死の呪詛を掛けてきた。故にレア個体のオークシャーマンと判った。迎撃機能で呪詛を強めて返した。オークシャーマンは即死した。
調べると入口の呪符が破れて存在が知れたと判った。念のため脳内をスキャンしユニークスキルはコピーする。
戦術予測(周囲の状況や対象の初動、自身の経験から瞬時に最適な戦術を予測)
インストール(吸収した相手のすべてを自らに還元)
隠形を予測スキルで看破したと判った。油断は禁物と戒めた。
死体はマジックバッグに放り込んだ。
女性たちに向き直る。近寄ると腰を上げて待つ姿勢となった。洗脳されていると判った。横穴の奥に生まれたての小さなオークをとろんとした目で抱える獣人の女性もいた。
(性処理兼繁殖場という訳か。洗脳のため管理者がオークシャーマンだったのだろう)
俺の中で意見が割れた。
『自我を取り戻せば生地獄。苦痛なき安らぎを』と服部半蔵は死による福音を勧めた。
『囚われの命を救いたい』と神園裕也は願った。
苦悩した。
(命は守るべきもの)
決定権は神園裕也にあった。
全ての戒めを解き中央に座らせてから解呪した。
女達は徐々に自らの境遇に気づき声をあげた。
「殺して。直ぐに殺して」
(サイレント・リラックス)
詠唱し静かにさせた。騒ぎは危険を呼ぶ。
女連れでの洞窟退避は攻撃を受けるリスクが高い。
「しばし待て」
強制力のある言葉で縛った。
横穴の入口を呪符に見せかけ強力に封印した。
オークシャーマンによる呪符でお楽しみ中のオークのためと思うだろう。




