ギルド その二
十三
隠形のまま見守る。
俺へではなくケリーとジムの二人に対しての投げかけのようだ。
(B級でも酔っ払いだ。男性職員が上手くやるだろう)
念のため部屋の片隅に忍ぶ。
ギルド職員のジムがあわてて対応し始める。
「ゲザクさんB級に昇格したばかりの暫定期間です問題行動は不利になりますよ」
(暫定Bランクなのか面白いシステムだな)
ドン!
俺が感心しているとジムは突き飛ばされて壁にぶつかった。そのまま崩れ落ちる。
「お前の出る幕はねえんだよ! 俺はケリーちゅあんに用事があるんだ。まてよ……こいつが居るってことは、えへへ! 暇になったケリーちゃんは俺と同伴だな」
(なにが同伴だ! キャバクラかよ!)
ケリーの視線が一度ジムに向いた。ジムは動かない。目が誰かの助けを求めて泳ぎ始めた。ガタガタと体も震え始める。
(関われば騒ぎになる。望ましくない)
心が正論を吐いた。
理解したまま俺は隠形マントの左鎖骨のボタンを触れた。
隠れ社畜ゲーマーは、決して目立たず中庸に生きる。天涯孤独、徒党は組まない。平凡で分相応の人生。穏当で片寄らず中正。ただし、できる範囲の人は助ける。
鼻から息を逃がした。
(致し方ない。手助け可能な案件だ。見過ごせない)
カウンター前にいきなり姿を現す。一歩踏み出し、そのままケリーとゲザクの間に割り込んだ。
「何だてめーは! どこから来たんだ。真っ黒!」
(マントも黒いし黒装束だから、真っ黒! ね。安直だな。これって、やっぱり初心冒険者のテンプレだよね)
「酒に呑まれる者は飲む資格なし」
相手のみぞおちに適度な力で拳を入れた。心臓が一瞬動きを止める程度に加減する。
(これ実戦で結構難しい。加減せず力一杯殴って破裂させる方が楽だ)
ゲザクは気を失ってその場に倒れた。
「もう大丈夫だ。初心者に負けるなら、こいつは暫定でもB級には相応しくない。降格だな」
気さくに声を掛けてもケリーは震えていた。
背中にそっと手をあてリラックスの魔法を無詠唱でかける。震えが止まった。落ち着いたようだ。
「どうした! 非常連絡魔法を発動したのは誰だ」
身長二メートルオーバーの厳つい筋肉男が飛び込んできた。
(しまった。巻き込まれ事故だ。逃げ切れるか)
隠形マントのボタンに触れようと立ち上がる。ケリーからぶら下がるように腕を掴まれ引き戻された。
「俺はギルマスのグライドだが。お前は誰だ?」
「……」
俺は黙った。
代わりにケリーがにこやかに応える。
「ハンゾウ・ハットリ様です。いま私を救ってくれました」
「状況が解らん。ケリー! 説明を頼む」
グライドが求めた。
状況の把握を始めたグライドはたびたび視線を俺に向ける。
俺は少し離れて何時でも離脱できる位置取りで状況を見守る。
聴き終えるとギルマスが近寄ってきた。
「対処してくれてありがとう。助かった。ゲザクは三十を超えてやっと暫定B級に上がった苦労人だ。舞い上がったんだろう。だが言い訳にもならんな。こいつは降格だ」
頭を下げるグライドに返した。
「了解した。長居した。では失礼する」
一礼し俺は立ち去ろうとした。ほぼ同時に観音開きの扉が激しく揺れた。
「だれか! 助けてくれ」
見知らぬ血だらけの男が飛び込んで直ぐに倒れた。
グライドが駆け寄った。
「お前は竜血パーティのレムルじゃねえか。どうしたんだ? 他のメンバーはどうした?」
「帰りにオークの襲撃を受けバラバラになった。あいつを助けてくれ。俺を助けるために盾になってくれたんだ。仲間に助けを呼ぶと約束したんだ」
静かに聴くグライドの顔が徐徐に引きつっていった。間を置いて冷たく言い放った。
「自己責任だな」
「ううっ……解っている。頭じゃ解っているさ。でもマリーは今頃……」
「オークの巣に連れ込まれれば凌辱を受け。洗脳されてオークを生む性奴隷になる。嫌なら方法は一つだ。女の冒険者なら理解しているはずだ」
「……自分で命を絶つのか。そんな人生ってあるか? 自分の手で死ぬんだぞ。死んだら死んだで喰われるんだぞ。お前ら許せるか? ……残った俺は許されるのか?」
「そこらの村娘じゃない。女でも冒険者だ。マリーはリスクを承知で冒険者になったはずだ。オークの子種を孕むより死を選ぶだろう」
「一番若い俺を逃がすために……誰か助けてくれ! 道案内はする。誰か……助けてくれ。捕まったのは夕刻で帰り道だ。今ならまだマリーは助かるはずだ」
「あきらめろ! 深夜に魔物の森に入れる者はいない。自殺行為だ。お前はもう眠れ」
グライドは頭を項垂れてレムルの目に右手をかざした。
「スリープ……目覚めた時には全てが終わっているさ……」
自分に言い聞かせるように呟いた。暗い顔のまま指示を出す。
「ケリー 疲れているところ悪いが、レムルを二階に連れて行って寝かしてやってくれ」
「お任せください」
真顔のケリーが応じた。助け起こそうとレムルに近寄る。
黙って聴いていた俺は申し出た。
「手伝おう。力仕事は任せろ」
「有り難うございます。私はベッドメイキングをしてきます」
ケリーは二階へ駆けていく。俺は無言で(クリーン・ヒール)を脳内詠唱で重ね掛けした。レムルの治療を終え抱える。
(メモリー・サーチ)
抱えついでに記憶を探る。情報を高速分析した。
(オークは、オークジェネラルを含め、およそ五十体だな。大体の位置情報も掴んだ。お前、よく帰ってきたな)
無言でレムルを褒めた。
(努力は報われねばならない)




