二月夜(ふたつきよ)
十一
夜の更けた頃合に一人起き上がる。
窓辺に寄った。赤と青の月が出ていた。二つの月から差し込む月光は重なって金色に見えた。どういう理由か解らない。ただ月光を浴びた城の壁も金色だった。
「夜も異世界か」
違和感から零した。
ただ一つ夜空に浮かぶ銀盤。優しい日本の月が脳裏に浮かぶ。
(ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの だったか……)
郷愁を頭から振り払う。
目的から敢えて明るい二月夜を選んだ。
部屋の明かりは点けたくなかった。
大切な確認をしなければならない。
姿鏡の前に立った。寝巻姿の五歳のカルロスが映っていた。意識を集中する。
脳内で唱えた。
(国士無双 服部半蔵 召喚)
瞬時に黒い忍者が鏡の中にいる。
身長190センチ、黒装束だ。目鼻を隠す黒い額当てを付けている。黒髪は後頭部で束ねていた。インナーの鎖帷子、胸に亀甲文様の黒金属の胸当て、両の腕は肩、肘に防具、手首の籠手が綺麗だ。脚は膝、足首に金属の防具を装備していた。背中には左肩に柄をのぞかせる袈裟懸けの太刀、腰に鎖鎌を装備していた。
視野の隅に小さな説明の文字が浮かぶ。
(全不破壊属性ってなんだっけ? 異世界で破壊できないという意味か)
服部半蔵に不破壊属性がついているわけだ。
自分に問いかけて自ら答えを出す。
何はともあれ俺は国士無双のキャラクターになれた。
五歳児の金髪碧眼のカルロスは、大人の黒髪黒目の服部半蔵となった。
(好きなキャラクターを召喚した。これから俺は自分の身は己で守る)
自然と立ち姿が常に腰を落としての半身となる。
まず確認せねばならなかった。唱えた。
「ステータス」
画面を確認する。
ステータス
氏名:服部半蔵 (秘匿:神園裕也=カルロス・ルースター)
国士無双:メンバー(秘匿:神園裕也=ルースター王国 第六王子)
加護:女神の加護(秘匿:女神エルピス希望の星)(秘匿:国士無双を愛する者(ゲーム機能使用∞))
救済措置補正:各種経験値1000倍、
レベル:10+5(秘匿5555/∞)
HP:30+5(秘匿50000/∞)
MP:20+5(秘匿50000/∞)
(秘匿:魔法適正:火∞、風∞、水∞、地∞、光∞、闇∞、雷∞、氷∞、聖∞、無∞、創造∞、付与∞、全制限解除∞)
武力:50+5(秘匿30000/∞)
~
鑑定:50+5(秘匿30000/∞:神眼)
……etc
(秘匿機能付き、文字修正、数値修正が可能です)
(部外者開示は実数のみ。秘匿数値は開示不可)
熱心な指導の為か、チート機能のせいか成長速度が速い。基本数値はカルロスのままだ。今後ステータス内容を確認し実行する時間をとれるだろう。
再び脳内で唱える。
(ミッション遂行、スイッチ・カルロス)
瞬時にカルロスとして、服部半蔵がオート機能で待機する姿を眺めていた。
国士無双機能の実行に成功した。
黎明期のウオ―ゲーム国士無双はミッションを二名で遂行するスタイルだ。
ミッション遂行を画面切り替えでプライマリーキャラとセカンダリーキャラを使い分ける設定だ。
プライマリーのカルロスとしてベッドに横になった。
(スイッチ・服部半蔵)
瞬時に服部半蔵としてベッドに寝るカルロスを見つめていた。
(うまくいったな。これで夜間自由に動けるし一人で修練も可能だ)
そのまま服部半蔵として行動する。
意識を向けると視界に機能ゲージが現れた。
隠形機能、透過機能、レーダー探知機能、自動迎撃機能をオンにした。
瞬時に城のドアも窓も意味をなさなくなった。
窓から城の中庭に飛び降りた。ジグザクに駆ける。次に三段飛びで屋根乗り飛び乗った。自由自在に体は動いた。
服部半蔵となった感覚を表現するなら軽自動車から超高級車に乗り替えた気分だ。全てが音もなくスムーズに動く。
尖塔から周りを見まわした。眼前に城の屋根が広がっていた。
(思った以上に大きな城だな)
小さな明かりが二つ動いている。ツーマンセル警備する衛士の巡回だろう。明かりで場所と人数が解る。恐らくあの光は魔力による光だ。炎に揺らぎがない。
ルースター王国が魔法先進国と言われる所以だな。衛士と戦えば遠隔攻撃は魔法で近距離攻撃が剣戟となるのだろう。
鑑定(神眼)を使って周囲を偵察する。
警戒区域に自動探知魔法を施術していると判った。
(王城はよほどの巧者でなければ忍びこむのは不可能だな。俺は別だが……)
厳重な警備体制に感心する。
より綿密に城の調査を始めた。
国王陛下の大きな王城が中心にあった。三人の王妃の居城が正三角形の頂点に配置されていた。間に割り込むように逆三角形で各省庁の中枢機能棟があった。王城を真上から見れば六角形に見えるだろう。
各王妃の周囲にやや距離を置き王子の生活する別棟の居城があった。隣り合わないように離された配置だ。
(おいおい王子ごとに建物一棟かよ。贅沢過ぎるぞ)
かなり呆れる。
王子で暗殺しあう暗黒歴史を思い返した。
(そうでもしないと直ぐに王子同士で殺し合うのか。商売敵は消せだな)
妙に納得する。
今夜の調べを終えた。
自分の小振りな居城の屋根に戻り少しホッとする。
(さすが国士無双の服部半蔵だ。他の者に気づかれもしない)
二つの月を見上げた。
(やってみよう)
最後に技を確認せねばならない。特殊技、通常攻撃、防御技等だ。
今夜は一つだけ試す。意を決した。
「破! 空・間・断・絶」
唱えると自動的に服部半蔵が、二つ月の夜空に向かって腕を一閃していた。コントローラーのボタンを一気に押す感覚が神経に走った。
眼前の夜空に特殊技が広がった。数百メーター四方の漆黒の空間が無数の刃で破断された。断片が二つの月の月光を浴び黄金にキラキラと輝いていた。
俺は空間を引裂く景色に魅入った。
(綺麗だ。国士無双のキャラの放つ技を直にこの目で見れるなんて……まるで黄金の花吹雪だな)
刹那に日本を懐かしく感じた。いとおしさが胸に広がる。
(俺よ! 浮かれるな! 小さな一歩に過ぎない)
見た者がいれば不審に思うだろう。悪目立ちは避けたかった。心を戒めた。
部屋に戻った。
急にパチパチと放電現象が起きた。
カルロスと共鳴し無双機能が発動しそうになる。
(無双機能オフ!)
自動戦闘モードを慌てて切る。
(危ない! たやすく周りを灰燼に帰する力だ! ミッション終了)
脳内操作で瞬時に服部半蔵はカルロスと同化する。
五歳児のカルロスに戻りベッドに横たわっていた。
軽い疲労と満足から安眠に就いた。




