狂気
十
講義が始まって三ヶ月が経った。
一日は二十四時間で日本に準じていた。
(日本のゲーム世界だから当たり前だ)
慣れもあり生活パターンも安定してきた。
俺は周りの状況を探り続ける。
日頃話すのはアン筆頭に侍女数名、教授二人と、時折来てくれる乳母のソフィーだ。
父(国王)に会えるのは月一度の挨拶時のみ。母(第三王妃)に会えるのは一週間に一度。母には会いやすいが国王の父には会いにくい。
国王は面会時に必ず真顔でステータスを聞いてくる。
「よく来た。成長したか?」
俺は笑顔で応える。
「お近くでご報告しても良いですか?」
王がゆっくり頷くのを待ち傍らに寄る。信用を得るために実際に数値を見せる。
「ステータス・オープン」
秘匿部分を隠した見せかけのステータスが浮かび上がる。
「父上、難解な言語ですが解ってまいりました。使える魔法が増えれば数値が十段階で変化し成長を示しております」
国王は確認し乾いた笑顔を浮かべた。
俺は思いやりの感じられない王の笑いを見上げる。
笑いが硬い。恐らく俺は戦力になるか値踏みをされている。能力を隠して正解だ。息子の能力を脅威と感じれば殺害する動機となりえる。
社畜社会人としての用心だ。
(だが王とはずいぶんと孤独な立場なのだな)
合わせて頭の中で王と王子の色狂いを再度考えた。
王は子種をばら撒いているし、王子は学園でも女を追いかけまわしている。
異世界が色狂い上等の状況はなぜか?
恐らく王は、魔人に対抗するため聖印授印する男児が欲しい。だから多くの女性に子種をばら撒いて優秀な男児を設ける。戦う者がいなければ戦力ダウンとなり人類は滅亡しかねない。
しかし王子が多ければ、当然跡目争いは激しくなる。中でも優秀な王子は目障りな目の上の瘤となり兄弟間での暗殺対象となる。いや優秀過ぎれば王からも命を狙われるだろう。
考え至れば、現王は単に女好きでは済まされない理由と要因を持つ。
言い方を変えれば、女嫌い子供嫌いな王でも王になれば、女の尻を追う破滅になる。いや追わねばならない。王は絶対に戦力になる子供を生さねばならない。
(逆説も真なりだな。やはりゲームの糞設定が全ての原因だ。糞ゲーム会社が)
つまり王国の存亡を懸けた必然から、王は王の義務(子供量産)を果たし、王子は要請に応える練習を学園でする訳だ。
(種馬は嫌だ! 俺の可愛いひよこに仕事だから頑張れと強要できるか? 王位に就きたくない。絶対回避だ! 俺の国士無双は絶対に秘匿する)
金輪際、王座に近づかぬと心に誓う。
ただ頭にくるのは、日本では仮想世界のゲームでも、異世界では現実という事実だ。
(作った担当が実際に異世界で生きてみろよ! 糞会社のアホ担当者め!)
糞設定の異世界を現実とする状況に俺は居る。
(生き残りをかけて努力するか!)
俺は父に強請った。
「父上お願いがあるのですが」
「申し出よ」
「同年代の乳兄弟と親交を深め、将来の糧としたいのですが、お許しいただけますか?」
「そうだな! ソフィーはドラシル王家の遠縁に連なる良い血筋だ。良く交わり力とせよ」
「仰せのままに、将来は王の片腕として戦えるよう精進いたします」
五歳にしてはあざといかも知れないが、単なる部下で王位に興味はないと軽く宣言する。
頭を下げて謁見は終わったが俺は動かなかった。
王は頷いて下知した。
「下がって良い」
ゆっくりと頭を下げた姿勢を維持したまま退出した。
命が懸かっている手抜きはできない。
(サラリーマンの方が楽じゃねーか)
朝の謁見が終わると講義が始まった。
(たまには休もうよ。力を入れっぱなしは良くないよ)
教授はやる気満々だ。
味方は必要だ。
他の王子立の情報も欲しい。
「他の王子にも教える先生が就いているのですね?」
目の前でレナード・バーンスタイン教授が考える仕草から応えた。
「カルロス王子にはまだ難しいかもしれませんが、王国では次期王位は指名で決まります。私共教師陣は王子ごとに割り振りされおり、お一人の王子にしかつけません」
「意味があるのですか?」
(情報の統制の為だな。優秀な王子ほど毒殺されやすいから情報は漏らさないのだろう)
解らぬ素振りで聞いた。
教授があからさまに困り顔になった。
どこまで実史の話していいやら悩んでいるのだろう。
「我々の報告は現王のみになされます。各王子の人となりや能力は現王だけが知り、必要に応じ判断するのです」
「何故現王のみなのですか?」
「過去に悲しい出来事が続いたためです」
(そらみろ、兄弟で殺し合いだ。金で情報は筒抜けになるだろう)
権力を得んがために兄弟でいがみ合った。黒歴史から現王のみが王子の情報に接するシステムになった。糞ゲーになるはずだ。いや考えたエンジニアがクソ頭だったのか?
俺は呆れながら情報を集め続ける。




