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エクストラ ゼロ  作者: at-tky
14/18

脅威との遭遇

今回と次回が、この章の山場となります。

上手く書き切る事が出来るでしょうか……。

「魔力反応に惹かれて来てみれば……これは珍しい来客」

 迷宮を歩くウォーレン達に唐突にかけられた言葉。

 ギルベルとウォーレンは即座に警戒レベルを最大限まで上げる。


 ギルベルは気配察知によって、ウォーレンは魔力探知によって、ほとんどの敵の接近を看破する事が出来る。

 事実、これまでの探索で彼らが不意打ちを受けた事は一度もなかった。

 彼らの探知能力を意図的に潜り抜ける程の実力者であったのだ……この"敵"は。


 アリスト、コスモの警戒レベルはそこまで高くはなかった。

 それは、その言葉が魔物の呻き声ではなく、意味の通じる言葉だったからだ。

 しかし、その意味を少しずつ理解し、ある可能性に思い当たって……しまった。


 彼らが探索しているのは、学園迷宮の最深部のさらに閉ざされた迷宮。

 そこへ現れた人語を話す存在。


 アリスト、コスモは声のした方向へ恐る恐る目をやる。

 遠目には、豪奢なローブを被った魔術師のように見える。

 顔はローブに隠されて伺う事は出来ない。

 片手には大鎌が握られている。

 そして、その存在からは全く、"生気"が感じられない。


 一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる存在。

 ウォーレンのライトの魔術に照らされ、その姿が明らかになる。

 人ではない。骨と皮だけのアンデッド。その双眸に光はない。ただ、闇がそこには佇んでいた。


「リッチだと……」

 思わず声をこぼしたのはアリスト。

 死者の王――リッチ。それが、かの存在の名前。

 Sクラスに認定されている正真正銘の化け物。

 人語を理解する知性を持つ事から、通常の魔物とは一線を画した"魔族"に分類される存在。


 死者の王は久しぶりの迷宮への迷い人に眼孔を向ける。

 彼が感じた大きな魔力は二つ。

 が、どうしてだろか。

 彼が目を引かれたのは、その持ち主達とは異なる黒髪の青年。

 しばらくして、彼はその理由に気付く。

 青年の持つ極小の魔力の形があまりに整っているのだ。

 その矛盾が、違和感が、不死の王の興味を引いた。

 とうの昔に朽ち果てたその目は細まる事は無く、ただ闇を濃くする。


 リッチの存在を認識した事で4人は膨大なプレッシャーに襲われる。

 それは、深い恐怖。……自身の根源的な感情を揺さぶられるようなもの。

 例えこの場に聖職者が居たとしても、その恐怖は和らげる事は出来ないレベルのものであった。


 コスモは全身から力が抜け座り込み、恐怖のあまり少しだけ失禁をしてしまう。

 アリストも恐慌状態に陥り、その身体は完全に縛られる。叫び声を上げることすら許されなかった。

 ――この二人は理解した。ここが自身の人生の終着地点になると。


 ギルベルの心はまだ折れてはいなかった。

 しかし、全身から噴き出る汗が先ほどから止まらない。

 彼の本能は――逃げろと全力で叫んでいる。

 しかし、理性では分かっていた……逃げる事は出来ないと。


 リッチから視線を逸らさずにギルベルはPTの状態を確認する。

 ……予想の通りウォーレン以外は既に戦闘を行える状態ではない。

 ウォーレンが補助魔術をギルベルに全力で行使したとしても、この化け物に勝ち切れる未来が彼には全く……想像出来なかった。


「……人がここへ迷い込むのは何年ぶりぐらいになりますか?」

 ウォーレンがいつもと変わらぬ口調で、目の前の存在に話しかけた。

 しかし、ギルベルには分かった。変わらぬ風を装っているだけで、ウォーレンも緊張状態にあると。


 事実、ウォーレンは緊張状態にあった。

 彼はリッチに話しかけながらも、悟られないよう慎重に魔術の術式を組み上げ始める。

 ここで、しくじればPTは全滅の道を辿る。

 自身の生死には今更、恐怖は感じていなかった。ただ、巻き込まれただけの人間が死ぬのは理不尽だと思った。


「はて、人間の時など私にはおおよその感覚でしか分からないが、50年程ではないかね?」

 その回答に若干の余裕がウォーレンの中に生まれる。

 彼が聞きたかった事はまさにそれであった。


 ギルベルにはこの会話にどんな意味があるのか、全く分からなかった。

 しかし、こんな化け物を前にしても引く姿勢を見せないウォーレンに、ギルベルの心持ちが幾分軽くなる。


「さて、雑談はこれぐらいに……。後ろのお二人はどうにもならないようだが、君達――準備は出来たかね?」

 言葉とともに濃密な闇の気配が二人を襲う。

 リッチは高位の魔術師がアンデッド化し、何百年の時を過ごした存在。

 アリストがダウンしている以上、ギルベルが単身で戦うには文字通り接近戦しかその活路はない。

 死角からの不意打ちの魔術を警戒しながらも、ギルベルは自身を奮い立たせ、咆哮と上げその間合いに飛び込む。

 ギルベルは対魔術師戦の手解きもウォーレンから受けていた。

 もちろん、こんな馬鹿げた相手を想定してのものではない。

 しかし、基本的なセオリーは抑えている。


 大鎌が横薙ぎに振られる。

 一瞬で命が刈り取られるかのような斬撃。

 その速度にギルベルは目が追いつかなかったため、勘を頼りに"本能"で受け流す。

 崩れた態勢は、丁寧な重心移動、"技術"で立て直す。


 続けざまに放たれる漆黒の球体状の魔術を、触れるのは危険と判断し、体捌きのみで躱す。

 射線上にアリスト・コスモがいる可能性は全く考えない。

 後ろにはウォーレンがいる。そして、何よりそんな事を考えている程、目の前の存在は甘くはない。


「うらぁっ!」

 牽制気味に放った一撃は軽くいなされる。

 リッチは魔術師の系統に大きく寄った魔族。しかし、この2、3合の打ち合いでギルベルは理解する。

 戦士として比べても、自身の技量はこの化け物には全く届いていないと。


 リッチは久しぶりの獲物を前に、まるで遊ぶかのように戦っている。

 高位の魔術で一方的に蹂躙するのではなく、わざわざ――ギルベルのスタイルに"合わせて"戦っているのだ。


 そして、その事にギルベルは僅かな笑みを浮かべる。

 この戦いは、ギルベルが単身でリッチを打ち倒す戦いではない。

 元々、神聖の属性など持ってもいない彼の得物では、高位のアンデッド相手に致命傷など、到底与える事は出来ない。


 ギルベルはこの戦いの初めから、自身に補助魔術が"全くかかっていない事"を知っていた。

 それはすなわち、ウォーレンがその思考を補助魔術に割く余裕がない事を示していた。

 ……ならば、ギルベルの役割は彼の時間を稼ぐ事。

 虎族の戦士は生身の状態で、その身体を躊躇いなく死線へと放り込んだ。


 ウォーレンはその意図を察し、死線の中を舞い続けるギルベルに感謝の念を抱く。

 仮にその意図を察したとしても、誰の援護もないままSランクの化け物と斬り合うなど、簡単には出来る事ではない。

 彼よりも実力が高い者ですら、そんな事はきっと出来ない。

 彼はウォーレンの無茶な要望に答えた。

(それならば、私も彼の期待を裏切らないようにしないと……いけませんね)


 ウォーレンの構築している魔術は空間の属性を持つ魔術。

 基本属性、複合属性、応用属性、その上位に存在する究理属性。

 空間の属性はもっとも取り扱いが困難な究理属性に分類される。

 彼自身の魔力では、この空間属性の魔術は実質一種類しか扱う事は出来ない。

 そして、その効果も注ぐ魔力の量が少ないため、あまり高くはない。


「繋げろ……ディメンション」

 彼の持つ全魔力の9割程を注ぎ込み、ウォーレンはその魔術を完成させる。

 彼の言葉ともに彼の目の前には小さな空間の裂け目が出来る。

 コスモは戦いのプレッシャーから既に意識を失っていたが、アリストは辛うじて意識を保っていた。

 恐慌状態に陥ったままの彼女の頭はその裂け目が何なのか認識出来なかった。

 ただ、その中には何かとんでも無いものが潜んでいる気がした。


 同じ事を感じたのはギルベルと相対している死者の王。

 悠久の時を生きたリッチにとっては、空間魔術はそれほど珍しいものではない。

 しかし、今それを成したのは、まだ10代半ばに見える魔術の学徒。

 ただそれだけで称賛に値する。


 大きく鎌を振り、死者の王はギルベルから距離を取る。そして、その動きを止める。

 ギルベルは既に満身創痍の状態。しかし、Sランクの化け物を相手取って、1分以上もの時間を単身で稼いだ。


(なんとか、間に合いましたかね)

 ウォーレンが浮かべたのは彼には不釣り合いな安堵の感情。

 それを自分では意識しないままに彼は次の動作へと移る。

 彼が用意した裂け目は物理法則が通用しない亜空間へと繋がっている。

 といっても彼が用意出来るものは、高々1メートル四方にも満たない小部屋とも呼べない空間。

 だが、それで十分なのだ。彼がこの空間に保管しているのは、たった一振りの杖なのだから。


 空間からゆっくりと現れる杖を見て、アリストは恐慌状態から脱する。

 見た目は非常に美しい白銀色の杖、おそらく使われているのはミスリル銀。

 希少金属を惜しげもなく使った杖はそれだけでも芸術品として十分感嘆に値するが、真に恐ろしいのはそれが内包している力。

 魔術師の杖は、基本的に魔術の制御を容易にする事を目的として用いられる。

 例えば、アリストの持つ杖は火属性の魔術の制御を容易にし、その出力を少しだけ上げる事を目的として作られた杖だ。

 ウォーレンが普段、手にしている学園標準の杖も多くの学生が扱いやすいように魔術制御のみにその機能が割かれている。

 アリストが白銀色の杖から感じたのは、暴力とも言える量の"魔力"。

 材質として魔力が宿りやすい金属を使い、その媒体にしっかりとした術式を刻めば、杖自身が魔力を宿す事も可能である。

 しかし、そんな事はまともな魔術師であれば誰もしない。

 昔、一人の研究者体質の魔術師の男が自身より大きな魔力を宿した杖を用いて、魔術を使おうとした事があった。

 扱った事のない魔力量に魔術の制御は失敗。さらに外部の魔力を用いていたという理由もあり、そのまま暴発。

 その男は自らの命を代償にその危険性を証明した。


「何百年も生きてきたけど、驚いたね。不死の存在にその身体を落とした私が言うのもなんだけれど、その杖の製作者は頭のネジがいくつか飛んでる。それとも何かい、それを扱えるほど外の人間は進化しているのかい?」


 骨と皮だけの死者の王の顔が狂気に染まったように見えた。

 そのプレッシャーはただ一人、ウォーレンへと注がれる。


「製作者の頭のネジが飛んでいる事については同意です。扱えるかどうかについては……その身で味わって下さい」

 久しぶりに握った杖だったが、ウォーレンの手にひどく馴染んだ。

 その感触に彼の気分が少しだけ高揚する。

 柄にもなく浮かれているのだ。何百年の時を生き、魔術に全てをかけたこの死者の王との対決に。


「……さぁ、始めましょうか」


 こうして戦いは第二幕へと突入する。

次回、影の薄い主人公にようやく光が!


P.S

たくさんの感想、ありがとうございます。

一つ一つ、しっかりと読ませて頂いています。


P.S

後書きにあった補足説明は、本文中になんとか埋め込みました。

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