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エクストラ ゼロ  作者: at-tky
13/18

噛み合い始めた歯車

各話の書式を少し揃えました。

また、いくつかの話で表現を改変したりしています。


今回はギルベル無双から、少しコスモとアリストへ焦点を移しています。

ウォーレンの影が……段々と薄く……なって。

 初戦は散々な結果を迎えたこのPTだったが、迷宮の奥へ奥へと進み、戦闘をこなすうちにその練度は徐々に上がっていった。


 ギルベルは相変わらず獅子奮迅の働きを見せ、どのようなタイプの魔物が現れても、攻守に渡り立派に前衛の役割を果たし続ける。

 最初の内、アリストやコスモは彼の持ち味が豪快な剣技による"攻め"だと思っていた。

 それは、ウォーレンと剣を交えたあの戦いや、10層で見せた一振りで相手を斬り捨て続けた時の印象が強かったからだ。


 しかし、実際の所はそうではなかった。

 文字通り一匹の魔物も彼の横を通り抜ける事が出来なかった。

 魔物達も彼を避け、後衛の無防備な人間を攻撃する事が効果的である事は本能的に理解していた。

 それでも、なお目の前の男が放ち続けるプレッシャーがそれを許さない。

 無防備に背を晒せば、たちどころに斬られる。

 だからは、彼らは無謀だとは理解しながらも、惹きつけられるようにギルベルへと向かう。


 一対多の戦闘。

 それはどんな偶然から、綻びが生じてもおかしくはない。

 もし、ギルベルが生身のまま一対多の戦闘を演じれば、おそらくその均衡は保ち続ける事が出来ない。

 だが、彼の後ろには的確に魔術行使を続けるウォーレンがいた。


 これが、どれほどの効果を与えているか。

 それは実際に魔術を受け動き続けるギルベルにしか分からない。

(全く負ける気がしねぇ! こいつは麻薬みたいなもんだ)


 自分の想像通りに身体が動くという事。

 その結果が更なる太刀筋を連想させ、そのサイクルが止まる事無く続く。

 動きが、思考が――加速を続ける。


 もしも、彼が普通の人間の戦士であったら、このようなトランス状態にはならなかった。

 その前に身体が悲鳴を上げ、疲労から徐々に動きが鈍るからだ。


(俺はウォーレンとは相性がいい!)

 虎族の戦士は咆哮を上げ、狂ったように戦い続ける。


 彼の調子を支えている要因は他にもあった。……それは、コスモの存在。

 戦闘中は役立たずだという思いから、コスモは自身の中にストレスを溜め続ける。

 彼女は、こんなレベルの高い戦いに介入できる気が全くしなかった。

 Sクラスでは2番手に位置するアリストですら、彼らの前ではあまり戦力には換算されていない。


 だから、彼女は戦闘の間に挟まれる小休止にその力の全てを注いだ。

 力はあまり過ぎるほどにある。戦闘中はただの傍観者に徹するしかないからだ。


 ――使い慣れたヒーリングの魔術。

 

 その紡ぐ詠唱の一言一言、構成する魔術式の細部にまでイメージを行き渡らせる。

 ウォーレンとコスモの使う魔術の種類は全く違う。

 しかし、彼の生み出す魔術の美しさを思い出し、そのイメージを自身のものに重ねる。


 戦闘の余韻である高揚感も彼女の魔術をプラスの方向へと導く。

 いつもより、幾分も光を増した癒しの光が小休止中のギルベルを包む。


「うぉ、久々にヒーリングかけて貰った気がすんぜ! ウォーレンの奴も出来るだが、あの野郎、俺が死にかけねぇと使わねぇんだよ。魔力の無駄遣いは良くねぇとかなんとか。普通、魔力の残量じゃなくて、気にすんのは仲間の身体だろが!」


 ギルベルの口調は明確にウォーレンを非難するようなものではなかった。

 ウォーレンと行動を続けていく中で、彼にとってはまさに魔力が命綱だという事を知っているからである。


「いや、ギルベルなら放っておけば、いつの間にやら元通りに復活しているので……」

「俺はゾンビかっての!」


 ガハハと笑い続けるギルベル。

 これらの会話にアリストは参加することは……無い。

 彼女はただ繰り返される戦闘をずっと回想し、反省点、改善点を探し続ける。

 そして、分からない所や迷った所があれば、ウォーレンへと聞きに行く。

 彼は直接の回答は示さずに助言のみ行い、アリストを思考の中に戻す。


 答えを与える事は簡単である。

 実際、ある程度のレベルの者であれば、その方が上達が早い。

 しかし、アリストは自分で思考する事のでき、ある程度から脱却した存在だとウォーレンは判断している。

 それならば、自力で思考する事がそのまま糧となり血肉となる。

 思考と知識は魔術師の最大の武器だ。

 だから、それを奪うような事はしない。


*************************************


「割りとまともになってきたじゃねぇか!」

 ギルベルが相手取るのは全長5mもあろうかという4足獣。

 ベギル・ムクスと呼ばれるこの魔物は動きは遅いが、その腕から繰り出される薙払いが強力な魔物。

 体毛が分厚く並の戦士では傷をつける事ですら容易ではない。

 一応、4足はあるが後ろ2本の足は退化し、その重量のある身体を引き摺りながら動く。

 もちろん逃げる事は容易ではあるが、これは修練の一環。ギルベルは果敢に立ち向かう。


 そんなギルベルが言葉を向けるのは後方に位置するアリスト。

 この魔物は特に刃物が通りづらく、また打撃もよっぽど良い場所に当たらなければ有効打にはならない。

 初めて目にする魔物であったが、アリストにもこの魔物の弱点は推測出来た。

 まずは、急所となりそうな部分に、下級の火属性の魔術を連続して叩き込み続ける。

 べギル・ムクスはその両腕を使い、火球を撃ち落とそうとするが、ギルベルがそれを許さない。

 魔物の体毛と表皮の焦げる匂いを感じながら、ギルベルは叫ぶ。


「もうちょい焦がせば……俺の攻撃も通るぜ!」

 その言葉に確信を得たアリストは魔術の行使を続ける。

 比較的速い速度でそれを打ち出せるのは、後方からウォーレンが彼女の魔術構成を補助しているからだ。

 下級の魔術を無詠唱で打ち出しながら、アリストは本命の魔術の詠唱を始める。

 並行での魔術詠唱だ。難易度の高いものは使えない。

 そして、自身の一撃ではこの魔物を焼きつくすことは出来ないと彼女は判断していた。

 だから、彼女は自身の使える魔術の中で、最適ともいえる魔術を選択する。


「いけるぜ! さぁ、来い!」

「彼の者を包みこめ……フレイム・ミスト!」


 ギルベルの合図に対してアリストは即座に反応を返す。

 行使するのは中級の火属性の魔術。

 温度の高い空気が霧のように相手を包みこむ。

 この魔術は殺傷力がそれほど高くないが、焼けた空気は吸い込む相手の呼吸器官を焦がす。

 苦しげな咆哮を上げ、魔物は自身を包む霧の中で藻掻いた。

 ギルベルが欲しかったのは、この鬱陶しい両腕が下がる瞬間。


「うぉりゃあぁ!」

 今までの鬱憤を晴らすかのようにギルベルは上段からの振り下ろしを行う。

 ギルベルはウォーレンから多くの剣の振り方を学んだ。

 しかし、やはり一番自身の力を生かせるこの剣の振り方がもっとも好きだった。

 べギル・ムクスは霧に気取られ全く反応出来ていない。

 ここから先は純粋にギルベルの力や技量が、この魔物の剥き出しとなった弱点をぶち抜けるかどうかという勝負。

 ウォーレンはアリストに割いていた補助魔術を打ち切り、行使する魔術の全てをギルベルの一振りに合わせる。

 肉を裂き、頭蓋骨に当たるであろう部分まで、ギルベルの剣がめり込む。


 断ち斬れはしなかったが、それは十分と致命傷となり得る一撃だった。

 べギル・ムクスは絶叫を上げ絶命する。

 外の世界ではBランクに相当するであろう魔物との戦闘に彼らは勝利する。


 もっとも確かな手応えを感じていたのはアリスト。

 この一ヶ月、彼女は火属性の魔術について、さらに理解を深めていた。

 火属性が得意とするのは瞬間的な暴力。

 そして、それを実現するためには詠唱に短くはない時間をかけなくてはならない。

 アリストが今まで組んだPTでは、彼女はいつでも敵の殲滅を担っていた。

 前衛が彼女の詠唱のために時間を稼ぎ、与えられた時間で最大の効果を上げる魔術を組み上げる。

 全てが彼女中心で回っており、その事に疑問を感じていなかった。


 だが、それが火属性の魔術の全てではない。

 アリエッタが風の魔術で攻撃役を担えるように、火属性の魔術でも支援は"出来る"。

 もしも、火属性を極めるつもりなら、単なる火力だけで満足しているようでは駄目だ。

 アリストは火属性を中心としながらも、そこから派生する魔術にも手をつけていった。

 今回、彼女が用いた魔術は炎の魔術に火属性とは反する性質の水属性の要素を加えたもの。

 図書館の古い書物から、この術式を見つけた時、彼女は魔術の深淵に確かに触れた。


 常識としてはあり得ない組み合わせ。

 この魔術はどうして生まれる事が出来たのか。

 どこからその発想は来たのか。


 彼女の疑問は尽きる事はなかったが、その時は目の前の魔術を習熟するだけで、精一杯だった。

 そして、先ほどこの魔術を考え出した先人の気持ちの一端が……分かった。


 身体の大きな魔物に対して、中級位の火属性の魔術で怯みの効果を狙うのはあまり得策ではない。

 焼け焦げはするが、ただそれだけだ。動きが止まるとは限らない。

 だから、この魔術の創作者は、身体の内部から動きを止める事に発想を転換した。


 高揚が止まらなかった。この感情は上手く共有出来るものなのだろうか。

 アリストはふと後ろを振り返った。


「玄人好みの魔術ですね……。学園に来てからは初めて見ました。たしか、火属性の拡張性について拘り続けた人が生み出した魔術でしたね」

 ウォーレンの言葉は純粋に驚きから溢れ出た。

 この学園の魔術科の者は、とにかく教科書的な魔術を好む。

 それは、教師であっても変わらない。

 自分向けにカスタマイズした術式を用いるウォーレンにとって、それは信じ難い光景だった。

 彼には他の者が使う魔術が非常に窮屈そうに見えた。

 1年も経てばそんな光景にも慣れた。

 だから、学園という色に染まった優等生のアリストがその魔術を行使した事について新鮮さを感じた。


「あぁ、図書館で資料を読み漁ってたら、文献が出てきてな。ひどく興奮したものだ」

 ある道を極めるという事は、ある意味で孤独になるという事だ。

 この魔術の事など、Sクラスでは誰も知らないかもしれない。

 だけど、彼女にはウォーレンという先人がいた。


 この後、少しずつ自分の魔術に対する自信を持ち始めたアリストは、上手くギルベルの支援をこなせるようになっていった。

 また、時にはウォーレンの支援により持ち前の火力を生かすシーンもあった。


 PTが上手く回れば、その雰囲気は次第と穏やかなものになる。

 最初は怒鳴り散らしていたギルベルも今ではすっかり上機嫌だった。

 コスモもなんだかんだ言いながら、今ではこの冒険を楽しんでいる。


 ……彼らは知らない。自分達の身に大きな脅威が近づいている事を。

はい、なんだかギルベルを愛でる会から抗議の感想が殺到しました。

中には「ヒロインは要らない気が……。魔術師と剣士、男2人の友情物語でも十分楽しく読める!」という方も!

ギルベル、良かったね、ギルベル。


さて、影の薄くなってきたアリストをどうするか……それが問題だ。


主人公は、ほら多少影が薄くても、主人公っていう立場がありますし、それよりヒロインという立場を半分ほど奪われているアリストの方が問題です。


むむむ。

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