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エクストラ ゼロ  作者: at-tky
12/18

PT戦の掟

日刊ランキング3位ありがとうございました。

ちょっとガクガク震えてたら投稿が遅くなりました。

ノミの心臓で頑張りますノ

「ここは、学園の管理外の本当の迷宮です。難易度が上がるので、絶対に油断だけはしないで下さい」

 もちろんこれはアリストとコスモに向けられた言葉だった。

 そして、二人は言われるまでもなく、油断するつもりはない。

 ウォーレンの言葉に少しだけ身体を強張らせた二人に向かってギルベルはいつもの調子で話しかける。


「まぁ、そこまでビビるこたぁねぇぜ!  俺も最初はビビりまくってたが、いつも通りやってたら、案外いけるもんだ!」

 これはおそらく彼なりの冗談だ。

 少なくともコスモはこの男が魔物相手にビクついてる姿など想像出来ない。

 むしろ、吠えながら単騎で突っ込んでいくタイプのように思える。

 なんだか脳筋に心配されている自分がおかしくて、コスモは笑みを浮かべた。

 アリストもその言葉で肩の力を抜く。そして、周囲に目をやった。


「……空気が上とはかなり違う感じがするな」

 上の迷宮とは違い、人の手など全く入っていない場所だ。

 もちろん壁に備え付けられていた明かりもない。先は暗く、所々で発光している植物らしきものが見える。

 足元にはヌメリがあったり、均されていない足場のせいで、非常に歩きづらそうだ。


「灯れ……ライト」

 ウォーレンの手から光が浮かび上がる。

 明かりの確保としてはランタン等の方法もあるが、ライトぐらいの魔術であれば、常駐させて戦闘を行う魔術師もいる。

 と言っても最初に術式を描いてしまえば、後は魔力を途切らせる事無く注げばいいため、そこまで難しくはない。

 メリットはある。光度の調節などが比較的容易であったり、範囲指定が出来たりするためだ。

 もちろん術者の意識が飛べば、即座に危機へと発展する要因にはなり得るが。


「さて、迷宮探索はここからが本番です。ギルベルはいつも通り前衛を、委員長は中衛よりやや後方から彼の支援をお願いします。コスモさんと私は後衛に入ります。私はバックアタックの警戒ですね」

 ギルベルの力を目の当たりにしているアリストに反論はない。

 このPTの火力はアリストではなく、間違いなくギルベルだ。

 だから、ウォーレンは火力型のアリストにわざわざ支援の役割を与えた。


「えっと、私は役割なし?」

 彼女の疑問はもっともだが、アリストにはやはり妥当な判断に思えた。

 おそらくこの4人では、アリストやコスモは完全に裏方に徹した方が良いと思われた。

 下手な攻撃は余計な不確定要素を生む。


「まぁ、下手に攻撃して狙いが移っても面倒ですからね。戦闘後は回復、戦闘中は余裕があれば水属性の魔術で相手の足を取るようなぬかるみを作るぐらいでしょうか」

 その指示に一応は満足したのかコスモは軽く頷く。


「がはは!  二人とも緊張しているが、ウォーレンと俺がいれば難なく進めるからよ! 心配するとハゲるぜ!」

ギルベルの声が迷宮に木霊する。

 言葉の意味を解釈すれば、二人を思っての事なのだが、ギルベルは少し暑苦しいとコスモは感じた。

 アリストはその言葉になにやら神妙に頷いている。ギルベルとアリストは熱血同士、相性が合うのではないかとコスモは密かに思った。


*************************************


 そこから先の歩みは10階層と比べるよりもはるかにゆっくりとした物だった。

 探索速度と警戒度はトレードオフの関係。つまり、先頭を歩くギルベルの歩みの速度が、この深層というべき迷宮の難易度を物語っている。


 その意味を理解し、アリストとコスモの緊張の色は和らぐ事なく続く。

 この深層の持つ雰囲気に気圧されているという事もあるが、彼女達がほんの僅かとはいえ、役割を与えられたという事も原因となっていた。

 

 ここまでこのPTが行使したのは、ギルベルの圧倒的な個人技のみ。

 後衛に控えるウォーレンがそのギルベルと並ぶ程の実力を持っている事は分かっていた。

 しかし、個々の実力の高さがそのままPTの実力とはならない事を彼女達は良く知っていた。


 そして、最後に自分達の存在。

 ギルベルとウォーレンにとっては、彼女達の存在は明らかに不確定要素だ。

 特にコスモに至っては、自衛能力がない。10階層の魔物を相手取ってすらだ。

 ウォーレンの陣形指示は、恐らくこの事も考慮しての事だと思われた。


 緊張するアリストとコスモとは対照的に、ウォーレンは集中の度合いを上げていく。

 確かにウォーレンが自身を後衛に配置したのは、コスモの護衛という意味合いもある。

 しかし、それが主な理由では"ない"。


 彼の才が最も生かせる場所。

 それは全員が視界に入るこの最後列だっだ。

 そう……彼は魔術師なのだから。


「くるぞ」

 簡潔に呟いたギルベルの声色は、先程までとはうって変わって、静かなものだった。

 しかし、彼の中の滲み出た熱量がその言葉には宿っているように、アリストとコスモには感じられた。


 (さしづめ、楽しい時間の始まりというところか)

 アリストはその熱量に押されるようにゆっくりと自身の息を深く吐いた。

 (自分がここに来た理由はなんだ? ……先を目指すんだろっ!)

 ギルベルがその一歩を踏み出すと同時に彼女は詠唱を始める。


 PT戦の開幕のセオリーは相手の視認範囲ギリギリまで、引きつけての遠距離攻撃。

 敵はスケルトン・ウォーリアが5体。

 しかし、それは純白のスケルトンとは違い、青みがかっていた。通常の1mスケルトンとは違い、体長も2m程ある。

ガシャガシャと両手に持つ剣や盾、自身の骨の音を響かせながら、彼らはまっすぐとウォーレン達の方へと向かってくる。


 アリストが選択したのは得意属性に火の魔術では無く、土の属性の魔術。

 スケルトンには単純な打撃が有効との判断だ。

 しかし、彼女が開幕の一撃を見舞う前に、ギルベルが……単騎で突出した。

 狂ったような速度で集団に突っ込んでいくギルベルにアリストの魔術が間に合うはずもなく、彼は開幕の一撃を先頭のスケルトン・ウォーリアへと見舞う。

 上段から振り下ろされた大剣は、スケルトン・ウォーリアの持つ盾に阻まれ、僅かにその軌道をずらしながらも、相手の左半身を吹き飛ばす事に成功した。

 続く斬り上げによる斬撃で、1体目は撃破する事が出来るが、その事実がアリストとコスモに衝撃を与える。

 これまでの道中、ギルベルは一太刀で魔物をねじ伏せてきた。

 それに抵抗できる魔物が"いる"のだ。

 アリストは動揺しながらも、そのまま詠唱を続ける。


 ギルベルはそのまま2体目に向かうが、最初の不意打ちのようにはいかず、他のスケルトン・ウォーリアに横槍を入れられる。

 自身に降り掛かって来る剣に対して、獰猛な笑みを浮かべてギルベルが吠える。


「やっぱ……こうじゃなきゃ……なぁっ!!!」

 躱す、受ける、強引に薙ぎ払う。

 数の利など関係ないかのように暴れ続ける。

 自身より大きな魔物に左右を囲まれながらも、見事に立ち回りを続ける。


 緩急自在のその動きは、コスモがかつて見たある動きを彷彿とさせた。

 慌ててコスモが振り返ると、そこには幾つもの魔術式を宙に浮かべ、一心不乱にギルベルの動きを目で追っているウォーレンの姿があった。

 その光景を見て、コスモは鳥肌が立った。


 彼がクラスで見せていた魔術は地味だ。

 それが無詠唱かつ魔術式さえ浮かべないものであったからだ。

 理由は単純で、彼は自身にかけるのであれば、それをしなくても最低量の魔力でかけ続ける事が出来るからだ。


 だが、ギルベルとウォーレンはPTの最前線と最後尾に位置している。この距離を埋めるには、いつもは浮かべない魔術式をわざわざ浮かべる必要があった。

 浮かべなくても出来る事は出来るが、魔力が簡単に枯渇してしまう。

 そして、その姿を見て初めてコスモはこのウォーレンという男がどれだけ規格外であったかを知る。

 この男は、目の前の状況に対して有効な補助魔術をかけるのではなく、リアルタイムでギルベルが最適に動けるように、複数の魔術を叩き込んでいる。

 浮かび上がっては消えていく魔術式は芸術的な美しさすら持っていた。


 魔術式の美しさは術の威力にはさほど影響はないと魔術科のSクラスでも言われている。

 しかし、この光景を見て初めてコスモは自分達の議論していた美しさの基準があまりに低い事に気がついた。

 彼の魔術を見ていると、魔力を流し込むための型である魔術式自体の美しさはもちろんの事、魔力を流す順番、速度、濃淡等、数えきれない程の要素、全てに意味があるように思えてきた。

 そして、それは決して独善的な物ではない。

 ギルベルに合わせて即興で、それらが彩りを浮かべていく。


「アース・ブレット!」

 アリストの発声で、コスモはふっと我に返った。

 彼女の飛ばした土の塊はギルベルとの射線上から外れたスケルトン・ウォーリアに向かうが、元々隙を狙って放った訳でもなく、ただギルベルの邪魔をしないように放った一手。

 それも、詠唱は完成したもののタイミングがなかなか訪れず、我慢できずに放たれた一手だ。

 スケルトン・ウォーリアが左手の盾をかざすと、貫通する威力もなく、叩き落とされる。

 元々、最初の狙撃用に用意した魔術なので、それほど威力も高くはない。

 そうこうしている内にギルベルがスケルトン・ウォーリアを単騎で斬り伏せていき、初めてのPT戦は幕を閉じた。


*************************************


「いいとこなしだったが、そう睨むなよ! 委員長だったか?」

 戦闘後、至極ご満悦の様子であるギルベルはそう話しかける。

 一方のアリストは、その顔に不満しか浮かべていない。


「だいたいセオリーがあるだろう、ギルベル? 考えもなしに突っ込むから、私は牽制用に用意した魔術を持て余した。そのせいで、戦闘中はほぼ満足に魔術行使が出来なかったんだ」

 PTを組む以上、いくつかどんなPTでも適応されるセオリーがある。

 その一つをアリストは説いた。


「確かに遠距離からの一撃ってぇのは、セオリーかもしれないが、そのセオリー通りやって、さっきの俺の初撃を超えられたか?」

「じ、時間さえあれば……」

 先ほどのレベルのスケルトン・ウォーリアを葬り去るにはかなり魔力の込めた魔術を行使をしなくてはならない。

 それには当然時間がかかる。事実、アリストの選択した魔術は時間がそれほどかからない、牽制にはもってこいの魔術だった。


「それは10秒か?30秒か?1分か?俺にはそんなもん待っている余裕がないから突っ込んだだけだ。その方が効率もいいしな」

 ギルベルの言う事はもっともだ。アリストは口をぎゅっと結ぶ。


「それに、牽制用の魔術を持て余したんなら、そんなもん待機させて次の魔術を詠唱し始めればいいだろ?」

 ギルベルは魔術師の事をよく知らなかった。

 彼にとっての魔術師とはウォーレンを指す。

 ウォーレンはいくつも魔術を展開、待機、発動させているため、その事が当たり前だと思っていた。

 もっとも、並行して生み出す魔術の量は流石に常識的ではないだろうと思っていたが。


「常時展開型であればそういった事も可能なんだが、発動型の魔術を複数待機させるのは、かなり高度な技術に入るんだ……」

 尻すぼみに言葉が小さくなっていく。

 確かに高度な技術だ。だが、出来る者は出来る。


「はい、そこまでにしましょう。まぁ、ギルベルの動きが常識外れだった部分もありますし、委員長も初めてだと合わせづらいでしょう。少し手本を見せますね」

 話をまとめたのはウォーレン。

 どちらの言い分も正しい部分があり、今回は強者の言い分が正しいように聞こえただけだと彼は思っている。

 言い争うよりも、次のステップを見せた方が早い。

 だから、ウォーレンはアリストでも出来るレベルかつ、ギルベルを効果的に活用する魔術の使い方を見せる事にした。

 「分かった」とギルベルが声を出す前に、次の接敵をギルベルとウォーレンが同時に察知する。


「4だ」

「了解です」


 コスモとアリストが気づく頃にはギルベルは魔物に向かって走り出していた。

 二人が視認した魔物は先程と同じ、スケルトン・ウォーリア。


 ギルベルがスケルトン・ウォーリアと接触するよりも幾分も早くに、ウォーレンはその魔術を完成させ、撃ち放った。


「エアロ・ブレット」

 撃ちだされた視認しづらい風の弾丸は、吸い込まれるように"ギルベル"の背へ向かう。

 弾丸がその背に届く瞬間、ギルベルは少しだけ駆ける道をずらし、弾丸の射線上から外れる。

 その妙技にアリストとコスモが声を上げる間もなく、ウォーレンが次のトリガーワードを口にする。


「バースト」

 風の弾丸はギルベルを追い越し、スケルトン・ウォーリアの目の前で爆発する。

 爆発と言うよりは、弾丸の分裂に近く、それぞれの個体に弾丸が向かう。

 それは、寸分違わず4体のスケルトン・ウォーリアを押し、一瞬の空白の時間を作る。

 倒れるほど強いわけではない。動きが少しだけ止まる程度の衝撃。

 絶妙のタイミングでその空間へ飛び込んだのは、風の弾丸をそのまま追ったギルベル。


「りゃぁっ!」


 一閃。


 横薙ぎに払った大剣は押しつぶすわけでもなく、4体のスケルトン・ウォーリアを纏めて斬り抜いた。

 先ほどの戦闘とは全く異なる経過を辿り終わった戦い。

 使われた魔術は、アリストが行使しようとした牽制の魔術であるアース・ブレットとランクの変わらないエアロ・ブレット。

 確かに詠唱速度の違いはあった。途中で魔術の2次発動もあった。

 しかし、それはアリストにとって絶対不可能という領域のものではなかった。


「前衛の戦士もギルベルぐらいの人になってくると、だいたい周囲の状況が知覚出来るようになってくるんですね。なので、発声さえすればフレンドリーファイアをそこまで恐れる必要はないんですね」

 淡々と語るウォーレンの言葉は、かなり実践経験を積んだ事がある人間の言葉のように聞こえた。

 しかし、やれと言われている事は極端に難しいものではない。


「なので最優先でやるべきことは、いかにギルベルを有効に動ける状態にするかという事なんです」

 最初の戦闘がアリストの脳裏に浮かぶ。

 ギルベルは先制攻撃を成功させたにも関わらず、スケルトン・ウォーリアの盾に阻まれ、僅かに狙いを逸らされた。

 それが、なければ……彼の剣は相手を叩き潰していた。

 そして、そこへ至る回答は先程、ウォーレンが示した。

 ギルベルの一閃が通る道筋と、時間を作り出せばいいのだ。

 それは、ほんの僅かなものでも構わない。


 アリストはふっと息を吐き出し頷いた。


「……分かった」

 その言葉に決意を乗せて。

ギルベルがアリストに説教を垂れる回。

これで、またギルベルの読者好感度が下がるんでしょうね。・゜・(ノД`)・゜・。

私は見捨てないよ。。。

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