深層の奥
色々な物が足りないなぁと思いながらも執筆を続けています。
時々、過去話を練習時料に、表現の工夫をしてみたりしています。
暇があったら読み返して見て下さい☆(最低な作者)
「ウォーレン、今日もまたギルベルとどこかへ行くのか?」
季節は6月。
あれからアリストとウォーレンの間にはなんとなく距離感が出来ていた。
接点は今も相手が出てこない実技の実習ぐらいか。
正直、ウォーレンに構っている余裕がアリストにはあまりなかった。
授業の間は何かヒントになるものが転がっていないかと今まで以上に、真剣に授業を受けた。
休み時間や昼時の時間はそのほとんどを思考に費やしている。
放課後は魔力が尽きるまで、体力が尽きるまで、鍛錬の時間に当てていた。
寮へ帰れば、そのほとんどを自室で過ごし、学園の図書館で借りてきた資料を読みあさる。
寝る前にはあの戦いを夢想し、決意を新たにした。
アリエッタに話を聞きに行く事もあれば、無理を言って学園長と話す機会を設けてもらった事もある。
前へ進む度に課題が増えると感じた。
しかし、それを一つ一つ丁寧にこなした。
日々の努力がすぐに結果となる事はない。
それでも、ただ自分の可能性を信じて1ヶ月やってきた。
ようやく息をつけたのは、一月前の自分にはなかった実力がついたと感じられるようになった時だった。
そこで初めて意識の外に追いやっていたウォーレンの事を思い出した。
選択肢としてウォーレンに教えを請う方法もあっただろう。
なんとなくアリストには目指している張本人に物事を教わるという行為が気恥ずかしかった。
どうせなら、彼の知らない所で実力を伸ばし、あっと言わせたかったという思いもある。
ウォーレンを思い出して思ったのは、自身の成果を確かめたいという事と、彼が今やっている事や興味を持っている事 を知りたいという事。
コスモによると、ここ最近のウォーレンはだいたいギルベルと行動を共にしているらしい。
なら今日もそうだろうと、当たりをつけてウォーレンに話しかけた。
「えぇ、今は大抵、学園迷宮に潜っていますね」
学園迷宮ならアリストも1年次に踏破をしていた。
コスモを含む、典型的な5人PTでだ。
だから、その難易度も把握している。
正直、最深部の10階層の魔物ですら、ギルベルとウォーレンの相手をするには力不足だと感じた。
だが、そんな疑問は口には出さない。
「もし良ければ、私もそこへ連れて行ってくれないか?」
それは、彼らと自分との距離を再度計るための確認作業。
言葉にするのに勇気が必要だったが、元々そこを目指してやってきたのだ。
アリストは躊躇しなかった。
「うーん、あんまり楽しくはないと思いますが、迷宮にひたすら潜っているだけですし……。それでも良ければ、構わないですよ」
そう返したウォーレンの言葉に噛み付いたのはどこからともなく現れたコスモ。
「ア~リ~ス~ト~、あんた男二人の中に、のこのこ女一人で混ざって迷宮いくのって危ないから! こいつ、人畜無害そうな顔してるけど、お・と・こよ、男!」
アリストは全くもってそんな事を考えていなかった。
ウォーレンも全くもってそんな事を考えていなかった。
コスモの言葉で、ようやく客観的に問題がありそうだと二人は認識するが、そんな事起き得ないのだから、結局のところ問題ないと思った。
ウォーレンはそれよりも人畜無害そうな顔という言葉に少しだけ傷ついていた。
そんな感情は少しだけ歳相応である。
「よし、ならばコスモも参加という事でいいだろう」
「ですかね」
この二人はおそらく似たような所がある。
外聞が気になるなら、それを手間なく解決すれば良い。端から物事を中止にするという発想がない。
そして、ちょうど目の前には手頃な材料が転がっていた。そもそも、彼女が言い始めた事だ。
後は時間の無駄という事だろう。
口をパクパクとさせたコスモを引きずり、アリスト達はHRの終わった魔術科2年Sクラスを後にした。
クラスメートは哀れみを持った目でコスモを見送った。
*************************************
「んで、その足手まといを連れてきた訳か。ウォーレン?」
ギルベルの不満はもっともだった。
彼の目から見て、彼女達はウォーレンの様な強さを持っているとは到底思えなかった。
「守る対象が二人増えたところで、何か事故が起こるほど、あなたの腕は低くないと思っていましたが?」
軽く挑発とも取れる言葉を吐いたウォーレンに目を丸くしたのは、アリストとコスモの二人だ。
彼女達はそんなウォーレンなど、同じクラスになってから一度も見たことがなかった。
「分かったよ! その代わり、俺が万が一撃ち漏らしたら、てめぇが動くんだぞ? 俺は後ろには下がらないからな」
そう言ってずんずんと学園迷宮の受付へと歩いて行くギルベル。
「あぁ言ってはいますが、まぁ大丈夫ですよ。照れ隠しみたいなものですから」
そんなようにはアリストとコスモの二人には見えなかったが、二人とてギルベルの人となりを噂でしか知らない。
そこら辺はウォーレンの方がよっぽど詳しいだろう。
それよりも、コスモには気に障る事があった。
「守るって言ってるけど、一応私もアリストも10階層まで踏破してるんだからね! 私は自衛は危ういかもしれないけど、アリストがいればこっちは気にしなくてもなんとかなるわ」
コスモとアリストには、ギルベルやウォーレンの様な飛び抜けた実力がある訳ではない。
だが、それでもSクラスにいるというプライドはある。
「10階層なら全く気にしてないんですがね……。まぁ、実際に行った方が説明も早いので、その疑問は取っておいて下さい」
ウォーレンはそんな言葉を残し、ギルベルの後を追う。
「なんだか、ワクワクしてくるな」
「いや、今の言葉で抱くのは不安でしょ、普通……」
そう言いあいながらもコスモはアリストと共に、二人の後に続いて学園迷宮の受付へと向かった。
「今日も10階層からで頼むぜ、ねぇちゃん!」
コスモとアリストがちょうど受付へ到着した時、ギルベルが居酒屋で呑んだくれてるおっさんの様な言葉を吐いていた。
「何度言ったら分かるんですか。私はユズハです、ギルベルさん」
コスモは女性職員に哀れみの眼差しを向けた。
この場での常識人は、たぶんコスモとユズハと名乗った職員だけだ。
「……今日は4人のようですが、いつもと同様、22時までにはお戻りください。それ以降も、探索を続けていますと救援部隊が動く事になります」
ユズハはアリストとコスモの二人に目を向ける。
どちらも容姿は整っている。また、"多少の"強さも兼ね備えていそうだ。
外見上はアンバランスな4人組のPTだと思う。
単独踏破組の実力を知らなければ。
「どうぞ、お気をつけて」
ユズハはいつもと同じ言葉で4人を送り出した。
*************************************
「あんた達!いつもこんな事やってる訳!?」
叫び声を上げたコスモは何故かウォーレンの"背の上"にいる。
同意の言葉を発したいアリストだったが、風の飛行魔術の制御のせいで、話す余裕などない。
彼らは迷宮の10階層を全力で駆け抜けていた。
先頭を走るのはギルベル。
信じ難いことに出会った端から魔物を切り捨て、スピードを落とさずに迷宮を駆け抜ける。
幾度となく繰り返した作業なのだろう。手慣れた手つきで、処理を続ける。
それに続くのはアリスト。
肉体でこの速度を出すのは無理だと早々に判断し、風の飛行魔術に移動手段を切り替える。
しかし、ただでさえ狭い迷宮の中だ。その制御に神経をすり減らしている。
ギルベルが魔物を倒す事を信じきって、魔物の事は忘れ全神経を傾けてその後を追う。
最後に続くのはウォーレンとコスモ。
文字通りお荷物となったコスモをウォーレンが抱え、得意の身体強化で後に続く。
当たり前ながら戦闘をこなしているギルベルは彼女を背負う事が出来ないし、アリストの魔術の腕では自分一人の飛行で精一杯だ。
必然余裕のあるウォーレンが彼女を背負う事になる。
ギルベルが残した魔物の残骸を躱すように、軽やかな身のこなしで迷宮を進む。
「っていうか、スピード落とせばいいでしょ!?」
コスモの絶叫が迷宮内を木霊する。
ウォーレンは耳を塞ぎたい衝動に駆られたが、彼が今抱えているものを放しその選択をすれば、より酷い結末が待っているだろう。
「ごちゃごちゃ、うっせぇぞ! これでも、そこの飛んでる女に合わせてペース落としてんだよ! 文句言うならてめぇで歩け!」
ギルベルは怒鳴り散らしながらも、器用に魔物の群れを捌く。
こんな場所で置いて行かれても一人では到底帰る事が出来ないため、コスモはウォーレンにギュッとしがみつく。
コスモがウォレーンに確認を取ると、ギルベルの言っている事が本当だという事が分かった。
つまり彼らが本気を出せば、これ以上の速度が出せるだ。
その人間離れした光景を思い浮かべて、コスモは少しだけ背筋が寒くなったが、今は目の前の背中の暖かさがそれを和らげてくれるような気がした。
それにしても先程からギルベルは本当に一体も撃ち漏らすこと無く、魔物を一刀両断している。
これは、コスモが把握していた彼のレベルを更に上回る物だっった。
ウォーレンと剣を交えた時は剣の技術よりも、身体能力で圧倒するタイプに見えた。
しかし、彼は先程から綺麗に道を切り開き続けている。
技術力があの時よりも"上がって"いるのだ。
「だぁ! 最深部まで到達だぜっ!」
おそらく最後の一匹となる魔物を斬り伏せると、ギルベルは満足気に雄叫びを上げた。
彼には微塵も疲れた様子はない。
その身体がただほんのりと汗ばんだ位のものだった。
10階層の魔物も準備体操のように蹴散らされてしまった。
なんともあっけない幕切れだった。
「じゃあ、いつもの様に頼むぜ! ウォーレン!」
その言葉で初めてウォーレンはその背からコスモを降ろした。
彼がつかつかと歩いて行くのは、迷宮の一番奥まった場所。
もちろんその先には何もなく、ここが迷宮の最深部だと言われている。
「資格ある者に正しき道を……示せ」
ウォーレンからは幾つかの魔力の通った術式が浮かび上がり、何もない迷宮の壁へと吸い込まれていく。
強大なボスもいない。財宝もない。なんの変哲もない迷宮の最深部が、……鈍い光を上げながら少しずつ開いていった。
その光景に息を飲んだのは、アリストとコスモ。
学園の情報には強いコスモだったが、学園迷宮のその奥に隠された迷宮があるなどと聞いたことがなかった。
不安、好奇心、高揚感が綯い交ぜになって二人の感情を浚う。
「ここから先は昔々の学園創始者達の手によって"封印された"迷宮です。数十年前にちょっと狂った魔術師が一時的な簡易解除が出来るキー、魔術式ですが、それを仕込むまでは。出るためには特殊なキーは必要とならないのですが……お二人とも付いて来ますか?」
ウォーレンの話が本当ならば、この迷宮の存在は教師陣ですら知らない可能性がある。
二人はゆっくりと頷いた。
――迷宮探索はその幕を開ける。
えと、アクセスが話を投稿していないにも関わらず上がっているのですが……。
原因分かる方がいましたら、感想でもメッセージでもいいので教えて下さい。
ちなみにホラーは苦手です。
理由なく何かが起こると夜眠れなくなります。
P.S
理由が分かりました。とあるブログで紹介されていました(詳しくは活動報告へ)。
まだ、この作品がランキングへと上がる前でした。




