乙女たちの談話
今回はアリストとコスモだけの話。
ウォーンとギルベルが剣を交えたり、迷宮に潜ったりしている時の裏側の話です。
「ここ数日、ぼーっとしてて済まないね」
ギルベルとウォーレンの決闘まがいの出来事から数日、アリストとコスモは学園から少し離れた喫茶店にいた。
時刻は放課後を示している。
「気持ちは分かるわ。私だって、あれから目に焼き付いて離れないから」
ウォーレンとギルベルの戦いが、とはコスモは口には出さなかった。
この数日、彼女達は珍しい事にお互いあまり会話をしていなかった。
それよりも、考えるべき事項があったからだ。
「で、あんたはアレを見てもまだウォーレンとタメを張りたいと思うの?」
コスモはウォーレンとギルベルの戦いの最中、ただ無事に事が済めば良いという思いで頭がいっぱいだった。
しかし、冷静に戦いを思い返してみれば、その内容の高さには舌を巻くしかなかった。
魔術科でウォーレンの戦いは、2番手に位置するアリストと向い合っても、時間なく決着がついていた。
そのせいで、彼の実力の全容がいまいちはっきりと掴めていなかった。
しかし、ギルベルとの戦いでいくつか分かった事がある。
一つはウォーレンの身体能力が圧倒的に高いのではないという事実。
魔術科のアリストとの戦いで多くの生徒が目を奪われていたのはその立ち回りの巧さだった。
その特異なスタイルから、彼は身体能力が高いと誰もが思っていた。
ギルベルとの戦いは結果として勝利で終わったが、最後の最後で剣を落としたのはウォーレンだった。
終始、技量ではウォーレンが圧倒していたにも関わらずだ。
そのことからもう一つの事実が分かってくる。
併用していた補助魔術の精度の高さだ。
彼の疲労具合、すなわち体力から逆算すれば、その本来の身体能力の高さが見えてくる。
現実の彼の動きとその身体能力の差分が、彼の補助魔術のスペックということになる。
ギルベルは獣人、それも自身の身体がそのまま武器になると言われている虎族。
その身体能力が化け物じみていたのはコスモも見ていた通りだ。
ウォーレンの動きはそれと比べて僅かに見劣りしていたが、それでも驚異的なレベルのものだった。
常時その差分を魔術行使で補いながら、ギルベルの剣を抑えこんでいたウォーレン。
もはや得意とか、特化しているとかそういったレベルではない。
――文字通り次元が違った。
だから、コスモはアリストに問いかけた。
「あぁ。なんというかあんな風に戦えたらと、もちろん魔術師としての話なんだが、まだ思っている。私は……ウォーレンを追いたい」
それは果てしなく長い道のりになるだろう。
そもそも道が続いているのかさえも分からない。
だが、焦がれるほどに引きつけられてしまった。
もし、ウォーレンの認識している世界の側に入って行くとしたら、それは一定の何かを得るしかない。
あの二人の戦いを見て……ギルベルは少なくともその何かを持っているようにアリストには思えた。
「あんたって頭が良いんだか、悪いんだか分からないわ」
コスモにはそんな風に言葉に出す事の出来るアリストの心が理解できなかった。
たしかに、あの戦いを見て、憧れといった感情を持つ事はコスモにも理解出来る。
しかし、その憧れを純粋に追う事が出来るというかと話が別だ。
魔術師は一般の人から見れば、奇跡のような力を行使できる。
だからと言って何でも出来るという訳ではない。
アリストもコスモもウォーレンに比べれば、その魔力容量は遥かに高い。
だが、それでもコスモは彼やギルベルに並ぶような何かを、この先自身らが獲得出来る未来が想像できなかった。
「……方向性はなんとなくだけど見えてる」
この数日で、アリストは色々な経験をした。
ウォーレンに一撃を見舞う事も出来たし、その反動で意識を失ったりもした。
最高峰の戦いも見たし、その裏でどれほど高度な魔術が使われているかも見せつけられた。
それらを紐解いて、バラバラになったピースから得られるヒントを自身の求めるものへと一つ一つ当てはめていけばいい。
「まずは自身のスタイルを確立する事。ウォーレンやギルベルが周囲に凄いと思わせるようなパフォーマンスを見せる事ができるのは、既に彼らが自身のスタイルを確立していて、それを中心に戦術を選択し展開しているからだと思う」
ウォーレンは自身の魔力の少なさをわざわざ"生かした"補助魔術中心の戦い方。
また、魔力の少なさを補うために、ありとあらゆる魔術の研究をこの歳にして既に行なっているように見える。
ギルベルはその身体能力の高さや、勘の鋭さといった天性の才を活かす戦い方。
理性よりもとにかく本能を優先する。その結果、常人には理解し難い反応速度で、物事を切り抜ける事ができる。
「私の場合は、豊富な魔力容量を生かす事。相性の良い火属性の魔術を使いこなす事。もちろん今までもやってきたが、そんなものより遥かに高い認識でこれらを実践していく」
アリストの脳裏に浮かぶのは担任のアリエッタの姿。
風の魔術と言えば、魔術科にいるものならば誰でもアリエッタを想像するだろう。
単一属性に特化した分かりやすい魔術師の例だ。
風の属性はどちらかと言うと支援に寄っていると言える。
しかし、彼女の使う風の攻撃魔術はどれも十分な力を持っていた。
相性もあるだろうが、おそらくは熟練度の差だろう。
つまり、単一の魔術属性の使い手でも、そこを極めれば攻守関係なく、ある一定のレベルまで上がっていける。
彼女はそれを体現していると言えた。
アリストは火属性が得意だが、だからと言って他の属性が使えないというわけではない。
むしろ平均よりも高い水準で多くの属性を使いこなしていた。
他の多くの魔術科の生徒からすれば、彼女は万能な優等生だ。
しかし、アリエッタやウォーレンと比べると、それは単なる器用貧乏のレベルでしかない。
多くの才能を有するが故のジレンマ。
「スタイルが固まってきた次は切り札。これを自分のスタイルと真逆の位置に一つ置く」
遠距離での戦いが彼女の強みなら、切り札は近距離の強撃。
彼女は例の魔力放出をここに当てるつもりでいた。
改善点は先日、ウォーレンが示した。
全方位に放出するから魔力が足りなくなるのである。
単にそれに指向性を持たせれば良い。
と言っても魔術の様に術式で制御できる物ではないため、何らかのプロセスを経る必要はある。
彼が出来ていたと言う事はどこかに必ずその方法が存在するのだ。
それを探し当てれば良い。
「後はもう前を見て、歩み続けるだけだと思う」
もしも、彼女がウォーレンと出会わなければ、彼女は何の疑問も感じずに、唯の優等生として学園を卒業したに違いない。
しかし、幸か不幸か二人は出会ってしまった。
そして、彼女自身引き返せないとすら感じている。
1年次の筆記試験では辛酸を舐めさせられた、まだ見ぬ好敵手。
2年次の実技実習では自分の実力を歯牙にもかけない強者。
今は遥か先に見える……目指すべき超越者。
そして、もしもこの道を歩き続けられたなら、彼女にはその過程でウォーレンに知って貰いたい事があった。
そのためには、彼が見える位置まで自らが歩き続ける必要があった。
ウォーレンに知って貰いたい事は"普通"。
彼の師が願った通り、普通の学園生活を知って貰いたいとアリストは思っていた。
普通に友達と笑ったり、普通に友達と悩んだり、それはそんな些細な事。
彼は誰よりも物事を器用に進めるが故に、おそらくは……誰よりも孤独だ。
そして、彼自身それが悪い事だと"思っていない"。
何かにとり憑かれたように生き急いでいる。
アリストがやろうとしている事は、本人にとってはお節介かもしれない。
でも、関係ない。アリストがそうしたいと思ってしまったのだから。
「……あんた、口に出したんだから、ちゃんとやりなさいよ」
素直にウォーレンを追うと言ったアリストの言葉がコスモには少し羨ましかった。
コスモにだってそういった気持ちが無い訳ではなかった。
ただ、そこまでの覚悟はなかった。
「まぁ、コスモも気が向いたらこっちに来るといいさ」
親友の気持ちをアリストはそっと受け止める。
「あんたがウォーレンにボコられた時のために、回復魔術の腕だけは磨いておくから安心して」
そんなアリストに対してコスモはいつも通りの毒舌を吐く。
「はははっ、それはありがたい」
そう言って彼女達はどちらからともなく笑顔を浮かべるのだ。
それはいつもと変わらない光景。
――しかし、何も知らなかった日常へはもう帰ることは出来ない。
この二人は仲良しです。
それは、それぞれが道を違えた後も。
……って書くとコスモがフェードアウト気味に聞こえますね。
ちゃんとコスモは復活します。
話は全くできてないですが……orz




