28話 吹き荒れる風
【イオリは国の幹部である父親のカズヨシと1対1で戦っていた。】
イオリはカズヨシに踏み込み攻撃を仕掛けた。
だがイオリの攻撃は尽くかわされていた。
「遅いな。戦闘部隊でもない僕にここまで避けられてよく生き残れたもんだ。」
「うるせえ!ここからだ!」
(やつは幹部クラスだ。やろうと思えば一瞬でやれるだろう。息子の実力を試しているのか?)
ナイフがイオリの頬をかすめた。
「くっ。」
「今のをよくかわしたな。だがこれはどうだ?」
カズヨシはメスのようなものを無数に取り出した。
「安心しろ。これには毒はない。少し僕の能力を見せてやろう。」
「人間というのはかなりもろい生き物だ。血液が30%以上失われると死に至る。そして20%を急激に失うと出血性ショックを起こす。さぁどこが一番出血しやすいかな?」
カズヨシはメスを投げた。
吸い込まれるように肘に当たった。
「っ!」
肘から血がドクドクと流れ出た。
「大量に出血した後に起こる症状は血圧低下、冷汗、呼吸困難、尿量の減少、意識障害だ。そして今の傷と後2箇所を切れば全部の症状が一気に襲い掛かりこんな毒ナイフを使わなくてもお前を倒すことが出来る。なにより一番苦しい死に方だ。」
「くそっ血が止まらない…。」
セイジがカズヨシを見て思った。
(あれは長時間戦っていい相手ではないな。流石医者だ。一番厄介なとこを攻撃された。人間の体を知り尽くしてるからこそできる戦い方だ。もし俺なら次に狙うとしたらあそこか…。)
「イオリ、今からお前の自由を奪う。」
「なに…?!」
またメスを投げた。
イオリはかわしたがメスはイオリの足首に命中した。
「ぐはっ!」
「やはり足首の間接を狙ったか。」
「なんでわかったの?」
「最初にやつが狙ったのは肘の間接。そして次は足首だ。この二ヵ所を狙うとほぼ体の自由が効かなくなる。そして最後に狙うとすると…」
「首か。」
「そう。もうこれで抵抗はまったくできないまま20%以上血を失い出血性ショックで終わりだ。」
「イオリ、最後に言うことはあるか? 父さんはこんなにもお前が弱いとは思わなかった。もう少しまともに戦えると思ったんだがな。」
イオリは着ていた服を破り止血をした。
「ほぉ。止血か。まだやろうというのか?」
「こんなのは想定内だ。むしろここからだ。」
「そうか。じゃあどう対処するか見せてもらおう。」
カズヨシは3本のメスを一気に投げた。
「3本だと…?やはり首回りか?」
カキン!カキン!カキン!
イオリはメスをナイフで弾いた。
「ナイフだと?」
「父さんがやろうとしていることは大体わかった。」
「肘と足首はわざと受けたというのか?」
「そんなことできる余裕はない。父さんの実力は本物だ。避けようと思って避けられるものではない。少し感覚が掴めてきただけだ。」
「だろうな。だが今の動きはよかったぞ。その調子で戦ってくれ。お前もいいデータになるからな。」
「父さん…さっさと終わらせろよ。じゃないと次は俺も父さんを殺す覚悟で攻撃を仕掛ける。」
「生意気なことを言うようになったな。」
「俺は父さんみたいにはならない。」
「なに?」
「こんな国のために戦うような父さんにはぜってぇならねぇって言ってんだ。」
「イオリ…。」
「そんな風に育てたつもりはないんだがな。まぁいい。それじゃあこっちも遊びは終わりだ。」
メスを捨て毒のナイフに持ち替えた。
「来いよ。父さん。」
カズヨシがイオリに向かって襲い掛かった。
「イオリ!!」
「体にオーラを集中させ、そして手に集中させる。」
「あれは…」
風がイオリの周りに集まった。
ナイフがイオリの首元に当たる瞬間。 カズヨシは吹き飛んだ。
風が建物の中で吹き荒れた。
窓ガラスが一斉に割れ、私たちも立っているのがやっとだった。
「なんて風圧だ。これがイオリの能力なのか。」
「そうだ。イオリは俺と同じタイミングで能力を開花させた。ウルハの能力によってな。この能力はかなり厄介だぞ。」
「俺の能力のことも既に知っているんだろ?父さん。」
吹き飛ばされたカズヨシは立ち上がりニヤリと笑った。
「ああ。もちろんだ。だが、これほどまで威力が高いとはな。実際にくらってみてよくわかったよ。」
(よしなんとか立てる。出血もある程度止まった。感覚も少しだけどある。だが長時間は戦えない。なんとかして突破口を見つけないとな。)
「威力は高いようだが、致命傷には至らないようだ。そこがその能力の弱点ってとこだな。」
「なんだと!」
「僕のように致命傷を与えられる能力ではないと話にならないと言っているんだ。」
カズヨシはメスを投げた。
「もうそれはくらわない。俺だってとっておきの技がある。」
イオリの周りに旋風が起こった。
メスを跳ね返しそれがカズヨシの体に突き刺さった。
「ぐっ…。」
カズヨシは膝を落とした。
「まだ終わらない。父さん。戦争っていうのは生きるか死ぬかだよな。だったらとどめはしっかりささせてもらうぜ。」
(イオリ…。その通り。感情に流されてる限りは前には進めない。私はもう一切手を出さない。あんたの強さを見届けさせてもらう。)
イオリが風を使い自分自身を吹き飛ばした。
「なんだあの行動は?!」
「なるほどな。体を無理に動かすと傷口から出血するから風圧を使って移動しているんだ。」
吹き飛んだ先はカズヨシの方向だった。
「父さん決着をつけるぞ。」
「舐めるな!」
ナイフとナイフがぶつかり合った。
「ほぉまだこんなに力が残っていたとはな。これならどうだ?」
もう一本反対の手からナイフを取り出しきりかかった。
すると風圧がナイフを寸前で止めた。
「父さんここまでだ。」
「くっ…。風で僕の攻撃を防ぐか。」
カズヨシは風圧に逆らうようにナイフにすべての力を込めイオリの喉元へと持っていった。
「俺は父さんを超える。そして『tears』と共に政府を倒すんだ!」
(イオリ見せてみろ。お前の全力を。)
イオリの風が体に戻った。
「風が止んだ?能力の限界を迎えたか?」
「その逆だ。父さん。」
その瞬間、イオリの手から風が一気に放出されカズヨシを飲み込み吹き飛ばした。
「限界を超えたオーラを放出する。」
『デステンペスト!』
「こ、この力は…。これほどまでに能力を引き出せたのか。これはまずい…!」
「うおおおおおお!!!」
カズヨシはオーラで身を纏ったが何度も壁に叩きつけられた。
そして行き止まりの壁に激突し風は静かにやんだ。
ティナたちはその光景を瞬き1つせず見届けた。
「父さん…。俺の勝ちだ。」
カズヨシの体からオーラが消えた。
「そうだな…。これほどまでに強くなっていたとは。」
「…。能力がなければ勝てなかった。」
「それもあるが、お前自身も強かった。成長したな。」
「父さん。能力の研究とは一体何なのか教えてくれ。俺たちは能力について知りたいんだ。」
カズヨシは持っていた。武器を捨て、深く座り込んだ。
「もう隠しても仕方ないな。能力には最終段階というものがある。国はそれを求め続け今まで長き研究を続けてきた。だがそれがどんなものでどんな能力なのか、80年たった今でもわかっていない。何故なら能力を使うということは長く生きることが出来ないからだ。その境地に辿り着く前に能力によって自滅する。」
「なるほどそういうことだったのか。これほどまでに体に負担をかけているんだ。当然代償も大きいだからな。」
「セイジそうなのか?」
「以前のティナとミナを見てわかっただろ。あれほど強い能力を使っていたら身体的に無事ではすまない。能力とは即ち諸刃の剣のようなものだ。」
「…。」
「能力の最終段階…。国が計画を実行したということはそれに関する何らかの答えが導き出された。」
「ああ。そのとおりだ。君はやはり感が鋭いな。」
「それで父さん、研究っていうのはこの病院の地下研究所で行われていると言ってたな?それを俺たちにも見せてもらいたい。能力の秘密を教えてくれ。」
「遅かれ早かれか。いいだろう。教えてやる。ついてこい。」
カズヨシはボロボロの体で立ち上がり、下を目指して歩いた。 イオリはセイジの肩を借り私たちはその後をついて行った。
そしてそこはあの医者がいた部屋だった。
「おい、ここなのか?」
「ああ。」
何もない壁だった。
カズヨシが手をかざすと扉が開いた。
「こんなところに隠し扉…。」
「ここは組織の研究員にしか開けることが出来ない厳重な場所だ。」
「病院側はこの場所を知っているのか?」
「ああ。病院も国と繋がっている。 病院と言うのは常に誰かが運ばれてくる。能力の研究にはうってつけな場所ってわけだ。」
「やってることは人体実験だな。」
「そうだな。そう捉えてもらって構わない。」
「そしてこの先にあるのが研究所だ。」
「なんだ、この施設は…。」
そこには見たことがない医療器具などが置かれていた。
「ここがいわゆる実験室だ。」
「この空間で数えきれないほどの人間が実験され能力を持った人間が生み出されたというわけか。」
「能力に関しては開花せず死んでいった人の方が多かった。そうよね?」
「そうだ。能力を引き出すということは苦痛に耐え、自身の力をコントロールできるほどの精神力が必要となる。大抵はその苦痛に耐えられず死ぬ。」
「国がこうなった瞬間みんなが一斉に能力を持ちだしたことについては何か理由があるのか?」
「言われてみればそうだ。俺もそこが気になっていた。今までは使えなかった。何故、計画が実行されたタイミングで能力が使えるようになったんだ?」
「…。それは国のトップによるものだ。」
「なんだと?トップの能力ということなのか?」
「能力を開放させたのは能力によるものではない。」
「どういうことだ?さっぱり理解が出来ん。」
「絶対に開けてはいけないパンドラの箱を開けたと言った方が正しいな。この能力にはもう1つ隠された秘密がある。それは…」
カズヨシは苦しそうに膝をつき吐血した。
「父さんどうした?!」
「僕はもうそれほど長くはない…。イオリと戦う前に僕は毒薬を飲んだ。どの道死ぬつもりでいた。君たちがここに来た時には既に僕は国から必要とされなくなっていたからな。」
「だからあのとき仲間であった組織のメンバーを撃ったのか。じゃあまさかその持っていたナイフには毒など塗っていなかったのか?」
「ああ。だがイオリを殺すつもりで戦ったのは本当だ。僕に勝てないようではこの先、生き残れないからな。」
「父さん…。」
ティナがカズヨシの前に近づいた。
「さっきの話の続きを聞かせて。私はどうしても能力の秘密を知りたい。」
「あ、ああ。そうだったな。君たちには知る権利がある。いやこれから国と本気で戦うのなら知っていなくてはならないことだ。」
「もう1つの秘密と言うのは能力は本来は使えない、使ってはいけないという決まりがあった。」
「使ってはいけないというのはどういうことだ?」
「能力が完全なものとなったとき、国1つ破壊するほどの力になる。それを避けるために能力を使うことを封じ込めた。完全なものとするためには多くの能力を持った人間が1つの力に注ぎ込むことによって発動する。」
「それが選別の目的だったということか。」
「強いものだけが生き残り弱いものは死ぬ。言い方を変えれば能力を持たない人間には人権すらも与えられないということか。」
「国のトップは能力を持ったものだけを集めて自分の能力を完全なものにし世界を牛耳ろうと考えている。」
「それが新しい国のやり方か。組織にいた俺でさえそんな最終目的があったとは知らなかった。」
「幹部にしか伝えられていない情報だからだろう。能力の封印を解き放ったのが誰なのかは僕にもわからない。」
「その封印はどういう原理で解き放ったの?」
「呪いの石と呼ばれているのが封印を解くものらしい。逆に封印するためにもこの石が必要になる。僕はこの目でその石を一度も見たことがない。」
「呪いの石…?」
「僕が話せるのはここまでだ。もっと詳しく知りたいならこいつを持っていけ。」
カズヨシは近くにあった金庫から手帳と大量のレポートのようなものを取り出した。
「ここに君たちが知りたいことが載っている。能力の始まりから今に至るまでの研究データだ。国に関することもだ。僕はどの道もう組織にはいらない存在。だったら最後に国の人間としてではなく君たちの方について死にたい。」
「父さん…。あんたはいい父さんだった。国の人間だったことは許せねぇけどあんたの息子でよかったって思ってる。」
「そうか。僕もお前が息子でよかった。本当に強くなったな。」
「…。」
カズヨシは倒れた。
「父さん!」
「イオリ。仲間を大切にな。力を合わせれば本当に成し遂げられるかもしれない。父さんは国に歯向かうことさえ出来なかったが君たちならできる…。胸を張れ。そしてこの国を『tears』で塗り替えろ。父さんは上で見守っている…からな。」
カズヨシはイオリの手を強く最後に握りしめ涙を流し静かに息絶えた。
イオリも歯を食いしばり魂が抜けた父親の腕を強く握りしめた。
「組織の人間としてではなく立派な父親として最後を遂げたな。」
「ああ。最後は俺がよく知っているいつもの優しい父さんの顔だった。国に利用されていただけなんだきっと。」
「そうだな。国はどこまで人の人生を狂わせたら気が済むんだ。」
「ティナいこう。こんなとこにいつまでいても仕方ない。」
「うん。じゃあ拠点に戻ってこのレポートをみんなにも見せよう。」
「それからセイジ頼みがある。」
「ん?なんだ?」
「この研究所を破壊したい。最後に俺が父さんにできることは父さんを国から完全に開放することだ。こんな研究所が存在している限り父さんは縛られたままだ。」
「…わかった。協力しよう。」
イオリとセイジは研究所を破壊した。
「これで父さんは開放されたはずだ。」
「そうだな。」
「拠点に戻ろう。」
その後ティナたちは簡易的にカズヨシ含め、勇敢に戦った人たちを病院近くに埋葬し、病院を後にした。
心配して駆けつけたのか、ミオたちが近くまで来ていた。
「ティナ!戻りが遅かったから心配したよ。」
「うん。ちょっといろいろあってね。」
「イオリのお父さん見つかった?」
みんなは無言になった。
「…。そっか駄目だったんだね。」
「いいや、父さんは生きていた。だけど俺は父さんと戦ったんだ。」
「え?!どういうこと?仲間なんだよね?なんで戦う必要があるの?」
するとティナが口を開いた。
「それは拠点に帰ってから。今はとりあえず帰ろう。」
「え? わ、わかった。あれ?そういえばティナ犬連れてるじゃん。」
「うん。この子、生きていたんだ。」
「そっか。無事でよかった。じゃあ戻ろう。」
ティナたちは会話もなく拠点へと帰還した。
ヒマリに治療されイオリの傷はなんとか回復した。
そして民兵たちが物資などを運び終えていた。
「戻ったか。どうだった?病院の方は。」
「言っていた通りの状況だった。でも収穫はあった。」
「そうか。それならよかった。飯の支度が出来ている。ゆっくり話を聞かせてくれ。」
「うん。」
私たちは拠点の中に入った。入るとすぐに大き目の空間が広がっていた。
そこには子供たち、負傷した人たち、ここまで逃げ続けてきた人たちなどいろんな人たちがここに集まっていた。
「すまない。拠点に一般の人を入れてしまった。外にいさせるのは危険と判断したんだ。しばらくの間、避難所として使わせてくれないか?」
「何の問題もない。これからもこういった人たちは受け入れて。」
「…感謝する。我々は生きるだけで精一杯だ。国に対抗できるものもほとんどいなくなってきた。君たちが来てくれて本当に助かった。」
「生きるのに精一杯か。普通はそうだよな。能力を持たない人たちには人権がない。国はこの人たちを人だとすら思ってねぇってことか。」
「そうだね。腹立たしいけどこういう時こそ冷静に対処しなければならない。私たちと同じ考えの人はなんとしても助けたい。大事な仲間だから。」
「ああ。そのとおりだ。」
「食事の前にみんなに話しておきたいことがある。」
『tears』のメンバーたちはティナの周りに集まった。
リクが口を開いた。
「俺は『tears』ではないから席をはずしたほうがいいよな?」
「ううん。『フェニックス』にも知っておいてもらいたい内容なんだ。だからリクもいてほしい。」
「了解。」
ティナは病院であったことをみんなに話した。
「嘘…イオリのお父さんが組織の幹部…?それにあの病院の地下に研究所があってそこで人体実験をしていた?しかも能力の研究を…?」
ヒマリは衝撃を受けた。
「それでイオリがお父さんと戦って亡くなったってことだよね…?」
「ああ。でも最後は国の人間としてではなくいつもの優しかった父さんとして死んでいった。」
「理解がまったく追い付かない…。」
「それは俺が一番感じている。だがそんなこと言ってる場合ではない。今は後ろを振り返らず前に進むだけだ。」
「う、うん。そうだったね。いつ何が起きても常に冷静でいなくてはいけないよね。ごめん。」
「そうだ。だからこれからのことだけを考えよう。ティナ続けてくれ。」
ティナはうなずいた。
「とりあえずここまでが病院であったこと。そして集まってもらったのはこのレポートをみんなに聞いてほしいの。」
「ティナなんだそれは。」
「イオリのお父さんが最後、私たちに手渡してくれたもの。ここには能力のこと、国がずっと研究していたデータが記載されている。」
「能力の秘密…。それに国の秘密か。」
「それは政府を倒す上でかなり役立ちそうだな。」
「うん。これでずっと知りたかったことがわかる。ちょっと長いけど読むね。」
【ようやく能力の謎と国の秘密が明らかになろうとしていた。みんなは腰を下ろしティナの話を聞き入った。】




