25話 限界のその先
ティナのナイフが男の頬をかすめた。
ティナも見切っていたかのように攻撃を避けた。
「早い…。さっきまでの動きではない。」
男は態勢を立て直しすぐさま攻撃をしなければいけないと思ったその時だった。
ティナは既に男の方に向かっていた。
「なんだと?!なんという機動力だ…!」
男はガードするのに精一杯の状況だった。
「早いだけではない…重いぞ。こいつナイフにオーラを無意識に込めているのか?」
「どうしたの?攻撃が止まっているよ…。このままだとあんた死ぬよ?」
男はキレた。
「このクソガキが!粋がってんじゃねーぞ!」
男はティナのナイフを弾き飛ばした。
「武器なしでは何も出来まい。死ねや!」
ティナは男の手を掴んだ。
(また折る気か…。ふっ。そう来ると思って隠し玉を用意していたんだよ。)
ティナの腹を蹴り飛ばした。
「これでもくらえや!」
男は手榴弾のピンを抜きティナに投げた。
「ティナ逃げろ!」
だがティナは微動だにしなかった。
そして爆発した。
「爆死したか。強がりやがって。こんなの耐えられる人間がいる訳…」
「あ?」
男は後ろに気配を感じた。
ゆっくり振り返るとそこには確かに手榴弾をモロに受けボロボロになったティナが立っていた。
だが表情はまだ全然戦える。そんなもので私を倒せるなよと言わんばかりに男を見ていた。
男は直観で察した。こいつはただの人間ではないと。
「お前は既に限界を迎えているはず…。そんな状態でもう動けるわけが…。」
ティナは男の腹を何度も殴った。
「ぐっ!こいつ…。まだこんな力が…!」
ティナは隠し持っていたナイフで男の腹部を刺した。
「くっそ。痛ってぇ…。」
「こんなもので止めをさせると思っていたのか?…ってこのナイフは…!」
「そう。あんたが武器として使っていた男のナイフだ。毒が塗ってあるんでしょ?」
「いつの間に死体から回収しやがった…。」
「あんたが手榴弾を使った時。私はただ爆発を受けたわけではない。この機会を狙って回収した。いくらあんたが強くても毒には勝てないと思ってね。」
「そうだな…。いくら俺でもこの毒をくらったのでは時間の問題だ。だがなこうなることはこっちも予測して戦っているんだよ。これが解毒剤だ。これがあればすぐ治せる。」
「それを今すぐよこせ。」
「力ずくで俺から奪えばいいだろ?まぁ出来たらの話だがな。まだ毒が効くまで時間がある。それまでに終わらせてやる。」
男は大きいサバイバルナイフを2本取り出した。
「俺も銃はあまり好きではなくてね。こういった近接を得意としている。特別に国の本気っていうのを見せてやろう。」
男はオーラを纏った。
「全力で来いよ。」
「ティナこれを使え!」
レンがナイフを投げた。
「私もお前も時間がない。これで本当に終わらせる。どっちが上か試させてもらう。」
「ああ。そうだな。試してみろ。知る前に死ぬがな。」
ティナが踏み込んだ。
男は腕をクロスさせティナの攻撃を防いだ。そして男も攻撃を繰り出した。
激しい攻防が続いた。
「すごい戦いだ…。これが国の本気…。」
「そんなことよりミナ大丈夫か…?」
「うん…。安静にしていれば大丈夫。私なんかよりティナの方が心配…。あれはかなりのオーラを使って戦っている。痛みを完全に殺して戦っている。限界は既に超えてるはずなのに。」
「ああ。あれだけのダメージを受けて立っているんだ。俺たちは何も出来ないのか…。」
ティナも男も傷だらけになっていた。
「はぁ…はぁ…。」
「どうした…もう終わりか?オーラが弱まってきているぞ…?」
「そうね…。だけどあんたを倒すぐらいはまだ残っている。」
「強がるなよ。クソガキが。」
男は2本のナイフを投げた。
一本は避けたが二本目は肩に当たった。
「負けてたまるか…。」
オーラがナイフに集中した。
ティナは急接近し、ナイフで何度も切り刻んだ。
それでも男は倒れず持ちこたえた。
そして横に大きくナイフを振った。ティナはギリギリの体力で避けた。
男は膝を落とし吐血した。
その姿をティナは見下ろしていた。
「確かにお前強いな…。だがお前も立っているだけできついはずだ。」
「…あんたを倒したら今すぐにでも倒れたい。だけどここで倒れる訳にはいかないんだ。」
(俺の力もまだ完全には覚醒してないってことか…。ちっ。ここが潮時か。)
「そうか。お前はもう限界か。」
「なに?!」
すると地下のゲートが開いた。
その先には飛行機と銃を構えた兵士が待ち構えていた。
「今回はこのぐらいにしといてやる…。」
「何だって…?逃げるのか?!」
「逃げるのではない。生きてお前を倒してこそ勝利だ。俺はどっちみち毒でこのままでは長くは持たない。お前とこれ以上戦うのは賢くないと考えただけだ。それに俺が本気になれるほどお前はまだまだということだ。」
「ふざけるな!」
「今からここを爆破する。」
男はティナに再度、手榴弾を投げつけた。
(避けないと…駄目だ…!体が動かない…!)
「ティナ!」
レンが影でティナを引き戻した。
男は飛行機の元へ歩き出した。
「私はまだ…。まだやれる…。」
「無茶だ。お前気づいてないかもしれないがもうオーラがほとんどでていないぞ!」
「え…?本当だ。まったくオーラが宿らない…。」
「ここまでだ。ティナ逃げるぞ。今がチャンスだ。」
私は何も言い返すことが出来なかった。本当に限界だったからだ。
男の声が響いて来た。
「ここまで俺とやりあったんだ俺の名ぐらい教えてやる。」
「五十嵐だ。」
「五十嵐…。」
「俺は根っからの戦いが好きなのもある。お前ともう一度戦いたいというのが本音だ。だからまだ生かしといてやる。だが次はない。東京に無事着けたらの話だがな。まぁこんなとこで死ぬぐらいなら所詮その程度だっただけの話だ。次はその力を極めて俺の前に現れろ。」
「い、五十嵐!今ここで殺してやる!逃げるな!」
「ティナよせ。そんな体ではもう戦えない。それにミナだってあぶないんだ。逃げるぞ。」
「そうだ…ミナの解毒剤を奪えなかった…。どうしよ…。」
「…ヒマリならなんとかできるはずだ。とりあえず今はここから出るぞ。」
飛行機は飛び立った。
「よしすべて爆破しろ。」
「了解。」
基地内が次々と爆発した。
ヒナがミナを担ぎ、レンがティナを担いだ。
「急いで逃げるぞ。なんとしても2人を救うんだ。絶対死なせるわけにはいかない。」
この爆破は地上で戦っている者にも伝わっていた。
「地面が揺れている…!」
「なんでこんな時に地震が。」
戦っていた組織の部隊が一言、言い漏らした。
「まさか幹部が地下基地を捨てただと…?」
ハヤトが胸ぐらを掴んだ。
「地下基地ってどういうことだ?」
「本部の地下に基地があるんだ。やばくなった時のために爆破することになっていた。それは国側の証拠隠滅に近い…。」
「それってここを捨てるってことか?」
「あ、ああ。そこまでしなくてはいけない戦いが行われていたということだろう…。」
「ティナたちががまだそこにいるんだぞ!」
ジュリから通信が入った。
「どうした?!戦いが止まっているようだが。」
トオルが説明した。
「なに…?!愛知にも地下基地が…?」
「ああ。ティナたちがそこに行ったんだ。爆破する事態が起きたということは幹部を追い詰めたに違いない。」
「やはりあるとは思っていたがまさか国はこれほど簡単に大都市の1つを捨てるとは…。」
すると本部から1機の飛行機が飛び出してきた。
(何だあれは…?まさか幹部があの中に?)
ジュリはその飛行機に向かって攻撃を仕掛けようとした。
「何だ?速度が落ちていく…エンジンには問題ないはずだが…。」
ジュリの戦闘機がどんどん速度を落としていった。幹部を乗せた飛行機から距離が離れていく。
五十嵐はその様子を見ていた。
「『フェニックス』か。ついて来られないところを見るとあの男が生きていたか。お前の能力がここにきて生きるとはな。」
(これは仲間だから助け合っているのではない。国に忠誠を尽くすものとして幹部を生かすのは当然の事。そのためなら命は捨てる覚悟で戦わなくてはいけない。どれだけ上手く立ち回れるかがこの戦いの勝敗を決めるんだ。)
(しかし俺の悪い癖だ。国のために戦っているのに個人的な感情がでちまった。もっと戦っていたいと思ってしまっている。だが今はこれでいい。あいつの戦闘能力を知ることが出来たんだ。それだけでも都市の1つを犠牲にするぐらいの価値はあった。)
(それに俺もお前も能力はまだ未完成。これが完成したときこそが本当の戦いだ。こんなところで死ぬなよ。お前の息の根を止めるのはこの俺だ。次会った時は最大限の力で殺す。)
男は解毒剤を飲み不敵な笑みを浮かべていた。
ダイキは『フェニックス』と飛行機が立ち去っていくのを地上から見ていた。
(『フェニックス』の動きがおかしい。それにあの飛行機は一体…。まさか?!)
「ハヤト、ミオすまん。ここは任せる。俺はちょっと確認しときたいことがある。」
「おい!ダイキ!俺たちを守れって!」
「お前たちなら大丈夫だ。なんとか持ちこたえてくれ。」
一方、ある男が上空に向けて手をかざしていた。
今にも息絶えそうな状況の男は最後の力を振り絞っていた。
「幹部をなんとしても守る…。これが俺の役目。いや…もう最後の役目だな。生きてるんだろ…?お前は俺よりはマシなはずだ。」
その男はセイジの娘ヒナを人質にし、セイジの攻撃により死んだと思われていた男だった。
この男はセイジの攻撃後、命からがら吹き飛ばされた後、『tears』の前から逃げていた。
そしてもう1人の男も追うように後をついてきていた。
「お前とは2人っきりで戦う必要がある。そうだろ?セイジ。」
「俺の名前を知っていたということはやはり…娘を殺したと電話で言っていたのはお前だったんだな。」
セイジは肩を押さえ血まみれになりながらもギリギリで立っていた。
「ああ。そうだ。俺は幹部ほど簡単に人は殺さん。それは利用できるからだ。お前が『tears』と手を組みここまでたどり着いた時、俺はお前の娘を使いお前を利用することを試みたがお前の忠誠心もなかなかのものだった。俺が知っている元組織の人間で国に歯向かったのはお前と『フェニックス』のリーダーぐらいなものだ。」
「ティナが言っていた言葉を思い出したんだ。」
「あ?」
「片方救えても、もう片方を救えないことだってある。だがあいつは両方救うことを前向きに考える。国の部隊に入っていた時の俺は誰かを殺す事で誰かが得することばかりしていた。今の国がやってるようにな。ティナの妹…ミナを救ったときあいつは敵だった俺を受け入れ涙まで流した。幹部…いや今の国にそれができるか?どっちが正しいのか人間らしいのか一目瞭然だ。」
「…。お前の言いたいことはわかった。だがなそんな感情、俺は遠の昔に捨てている。国に忠誠を誓った日から俺は涙を流すことさえ辞めた。お前たちを倒すこと今の国が完成することだけが俺の望みだ。」
「どうしても分かり合えないようだな。」
「そういうことだ。セイジ。戦争とはそういうもの。だがお前の考え方、やり方は尊重してやる。だからこそ俺も国のためにここでお前を倒し『tears』を東京にはなんとしても行かせん。」
「いいだろう。俺もお前の覚悟に立ち向かおう。」
「俺は幹部直属の部下 『神島』だ。セイジ本気で来い。」
セイジと神島が構えた。
「神島…。覚えておこう。俺も早く『tears』と合流しなければならない。『tears』の目的達成に俺も立ち合いたいからな。」
神島がオーラを最大限に纏った。
セイジも体からオーラが溢れ出た。
「いくぞ!」
拳と拳がぶつかり合った。
神島の足からナイフが飛び出した。
(こいつ元軍人か…。)
頬をかすめた。
セイジはオーラを拳にこめ殴った。すると大きな爆発を起こした。
「これは俺もダメージを受ける…。だが奴は更に受ける。」
神島は血だらけだった。
「そうだ。いいぞセイジ。お前の能力見切った。」
「なに?」
セイジは体が鈍く感じるのを覚えた。
「何だ…体が上手く動かない…。」
「ここからは俺の時間だ。その動きで俺の攻撃を避けられるか?」
(まずいな。これがあいつの能力か。メデューサーに睨まれている気分だ。)
「おらぁ!」
セイジの腹を何発も殴りつけ顔を殴り飛ばした。
「卑怯かもしれんが、これが俺の戦い方。結果がすべてだ。」
「お前の言うとおりだ。だけどなそれに抗うことだって出来るんだ。本気で誰かのために戦ってる人間にはな。」
「なんだと?」
「どうした?かかってこいよ。まだ終わっていないぞ。」
「手も足も出せずようやく覚悟を決めたか。それなら俺もお前の覚悟に答えてやろう。死ねセイジ!」
神島は身動きが取れないセイジにナイフで止めをさそうとした。
「忘れたのか?俺に触れると終わりだぞ?」
「しまった…。こいつは…」
(この距離なら最大で爆発させればこいつは倒せるだろうが俺もまた終わる。いやここが正念場。俺もさっきの戦いでは死んでいたはず。もう一度死にそうになるぐらいどうってことはない。『tears』を前に進ませる。それが俺の任務だ!ここで命尽きようとも!)
そして…
「やはり生きてたか…間に合ってよかった。セイジ!受け取れ。」
「お前は…ダイキ…!」
「これならフルパワーでいけるな。いくぞ神島!」
『メテオブレイク!』
セイジは拳を大きく握り振りかぶった。
その瞬間大爆発が起こった。
セイジはオーラによって爆風から守られた。
神島はかなりの距離に飛ばされた。
「ダイキ…お前ってやつは…。」
「2人の死体がなかったからお前はきっと生きていると思っていた。こんな所で簡単に死ぬ奴ではないとな。」
「死を覚悟したのは本当だ。それよりあいつは…。」
セイジは神島にゆっくりと近づいた。
かろうじて息をしていた。
「俺の勝ちだ。神島。」
「そうか…。仲間の能力でお前は守られたのか…。なるほどな。お前が言うように仲間というのは大事だな。」
「そうだ。仲間がいるからこそ乗り越え強敵にも立ち向かえる。俺は『tears』に忠誠を誓ってから気づかされたことだ。だが決してお前は弱くなかった。何か戦う理由があったに違いない。」
「理由か…。あるにはあるがお前に話す事でもない。」
「わかった。理由は聞かないでおこう。」
(最後に…会いたかったぜ。)
「何か言ったか?」
「いいや…。国に勝てよ…。」
神島は息を引き取った。
(神島…。もしお前がこっち側だったらいい友人になれただろう。)
「セイジ。そいつは死んだか?」
「ああ。国のために最後まで戦って死んだ。こいつの忠誠心は本物だ。」
「そうか。ところで何かそいつ持ってるぞ。」
「なんだこれは…写真か。」
そこには笑う神島と制服を着た子供に嫁。後ろには入学式と書かれていた。
「家族がいたのか。それに子供。こいつが戦う理由はこれだったのか。」
「俺の戦う理由も最初は娘の仇と政府を倒すためだった。こいつはこの幸せだったときに戻れたらとずっと願っていたのかもしれない。だが国はこの幸せまでも奪った。俺の娘を殺さなかったのも俺と同じ心境だったからに違いない。国に従えばこの時と同じ幸せに戻れると信じ戦っていたんだ。」
「だがこいつは気づいていたのかもしれないな。そんな幸せなんて戻らないってことを。もう戦うしかないって状況にまで追い込まれていた。」
「そういうことだ。だが俺たちにできることは政府を倒し塗り替えることだ。」
「前に進まねぇとな。」
「ああ。『tears』のとこへ戻ろう。ティナたちが心配だ。」
ダイキは男の懐に瓶があるのを見つけた。
「なんだこれは?自決用の毒薬か…?いやちがう。これは治療薬か…?」
「ダイキいくぞ。」
「ああ。今行く。」
ダイキはその瓶をポケットに入れた。
こうして神島を倒したセイジは急いで本部がある場所へと向かった。
その頃ティナたちは爆発の中、本部から脱出しようとしていた。
「ティナ、ミナもうすぐだからな。もうすぐみんながいるところにつく。絶対死ぬなよ!」
ティナは衰弱しミナは毒による高熱で意識が薄れてきていた。
レンとヒナは出口へと走った。




