十一話 王の行方
「魔封石? いや……でも澄んだ青色をしてやがるな」
先ほどナディから受け取った石と、エメが持っていた石を手のひらに並べてみる。
大きさは大差ない。色が違うってだけで他に気に掛かることは無い。
「それは……悪いけどまだ解明されてない、ここ最近見るようになった新種の石なの。其々の勇者だけに配布されてるって話で、輸送中に奪取するよう、エメちゃんを雇って命じたのはあちし。それがまさか、一番危惧してた豪運の勇者の持ち物だったなんてね……」
「エメも豪運の勇者の持ち物だって知ってたら手を出してないよーだ。他の勇者だったら多分、あの場所もバレなかっただろうし」
深刻な面持ちを浮かべるナディの一方、エメは無邪気に言う。その石ころを取られて豪運の勇者は大量の違法魔族達を発見したって事か。運が良いんだか悪いんだか……。
「そんなに危険を冒してまで手に入れたかったのか? こんなビー玉みてえな石ころをよ」
「ビー玉ってなーに?」
「……こっちの話さ」
そうボヤキながら、俺はエメとナディに石を返す。知らないやつから見れば、只の歪な形をしたガラス玉にか見えない。魔族の動きを制限できる魔封石と比べ、この青色の石ころはまるで価値があるとは思えなかった。
「これは何に使うんだよ?」
「そこを私の顔が利く魔道具店に解析してもらって調査するのよ。其々の勇者へ意味深にこの石が配布されているって何か裏がありそうじゃない? 噂じゃとんでもない事を王様が企んでるって話でね」
「そうかい。骨折り損じゃねーことを祈るぜ。俺は俺の決めた事をやるまでさ」
この国の有様は大体分かった。俺は決して知恵が回る方じゃねえが、ナルグ王をぶん殴る。そう決めた。あいつと分かった以上、俺の決意は更に硬いものになった。
間違った旧友をぶっ飛ばすのも、また友の役目ってもんだ。
「これから王城に乗り込む。邪魔するんじゃねえぞ」
広い客間の端、壁際に掛けられた俺の上着を取り、煙草と葉巻を確認する。
こいつさえあれば、俺は千人の軍勢にも負けやしねえ。
「無駄よ。王は城には居ない。後、上着だけど勝手に補正しといたわ。感謝してよね」
俺が上着を羽織った瞬間だった。落ち着いた様子でナディは俺を制止させる。
何となく出鼻をくじかれたような気持になり、俺はナディを怪訝に睨みつけた。
「……ッケ。王が城に居なくて何処にいるんだよ」
「それが分らないの。けれど、此処五年で表に出てくることは無くなった。死んだとも噂されているけど、今のダルグ王子に政権交代していない辺り、まだ何処かで幅を利かせているとあちしは読んでいるわ。決して表に出れない理由があると見てね」
「陰湿な野郎だぜ」
王が雲隠れしていて、貴族の耳にさえ居場所が分からないとなると……。
「なら、勇者のガキ共なら知ってるかもな」
そういう結論に至った。王直属の騎士となれば、居場所くらいは知っているだろう。
「だからっ! もう! 無敵ちゃん話聞いてたのかしら!? 王の居場所なら割り出してあげるから、しばらくは此処で大人しくしなさいよ!」
鼻息荒く、ナディが地団駄を踏む。
ハンサム貴族の成りしてオカマ口調とその態度は、見てて異様なもんだった。
「あー耳が遠くて良く聞こえねえ。ちょっくら街に出かけて来るぜ」
この間見たいに街をほっつき歩いてりゃ、あのいけすかねえ勇者に出くわすだろう。
そう思い、俺は客間の出口を目指して歩き出した。
「あ! エメも行く!」
数歩先を歩く俺の背中に衝撃が走る。どうやらエメがまた飛びついて来たらしい。
「急に飛び掛かるの止めろよ、犬じゃあるまいし。腰の骨折れるぜ全く……」
「年寄り頑固じじいに何言っても無駄ね。どうせ生い先短いんだし好きになさいな。一応恩人で有る訳だしお金はエメちゃんに持たせてあるから、若い子でも金出してたーっぷり遊んできなさいな。スケベジジイ」
皮肉たっぷりにナディは嘆息し、そんなオカマに俺は言い返す。
「腐れオカマめ」
「うわぁ~! ちょー捻くれフェイス!」
すると、エメが俺の顔のシワを伸ばしながら笑っていた。
違うとわかっていても、とても懐かしい笑顔だった。
「鉄は熱い内に打たねえと気が済まねえんだよ。晩飯までにゃ帰る」
「散歩中にぽっくり死なない事ね」
「介護はエメに任せてよ!」
「……誰が死ぬかよ。年寄り扱いしやがって」
そうさ。こんな世の中をほっぽり出したまま死ぬんじゃ、天国のイディアに顔向けできねえ。だからこれはチャンスだ。ひょっとすると、イディアが願った事かも知れねえ。
ありがとな、イディア。もう一度気合入れるぜ俺は。
「……何エメちゃんに寄り掛かられたままニヤニヤしてるのよ無敵ちゃん。これだから男はいつまでたってもスケベなのよ!」
「そういう事じゃねえっての」
「無敵ちスケベなの?」
「うるせえ。歩き辛いから退きやがれ」
歳を取るとダメだな。
どうも信仰深くなって、有る事無い事を関連付けちまう。




