崩れ去っていく日常
あの事件から一週間が経った。
家の中では毎日のように両親の怒鳴り声が響いていた。
原因は俺だ。
そう思うたびに胸が苦しくなり、俺は部屋から出られなくなっていた。
「夏、ご飯ここに置いておくね。お母さんは夏のこと信じてるから」
ドア越しに聞こえる母さんの優しい声。
足音が少しずつ遠ざかっていく。
俺はドアを少しだけ開け、お盆を部屋へ引き入れた。
温かいはずのご飯を口に運ぶ。
けれど――
「味も感じない。何でだろ」
気付けば頬を涙が伝っていた。
それでも食欲は湧かず、ご飯をほとんど残したまま眠りにつく。
――嘘つき。
――嘘つき。
――嘘つき、嘘つき、嘘つき。
――許さない。
冷たい声が頭の中に響く。
「はあっ……!」
俺は飛び起きた。
全身に冷や汗が流れ、呼吸は乱れている。
「夢か……」
そう呟いても胸の苦しさは消えない。
「また、あの時の……」
俺はベッドに横になったまま、じっとドアを見つめ続けた。
誰かが来てくれるんじゃないか。
この生き地獄を終わらせてくれる誰かが。
そんなことを考えながら。
朝になると、また両親の怒鳴り声が聞こえてくる。
俺は耳を塞ぎ、ただ時間が過ぎるのを待った。
それから数日後。
コトン、と小さな音が聞こえた。
ドアの前を見ると、お盆だけが置かれている。
「もうそんな時間か……」
俺はお盆を部屋へ持ち込み、無言でご飯を口に運ぶ。
だが、やはり味はしなかった。
「やっぱり味がしない。何でだろうな……」
食べ切れずに残し、お盆を返そうと立ち上がる。
その時だった。
「げほっ……!」
突然激しく咳き込む。
口元を押さえた手が赤く染まった。
「な……」
言葉が出ない。
吐き出した血と一緒に、さっき食べたものまで床へこぼれ落ちる。
視界が揺れる。
身体から力が抜けていく。
「なん……で……」
そのまま床へ倒れ込んだ。
薄れていく意識。
ぼやける視界。
そして最後に見えたのは――
父親の姿だった。
第八話 終




